ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」   作:ぼ喜多スキー

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ギリギリ今日中に間に合った。
書けたら推敲なしで投稿です。



(12)シングルCDを作ろう

 桜ノ宮芸能事務所にリテイクしたMVを提出して、お給料をもらう。懐がポカポカになった。う、これがあれば路上ライブ用の機材が……いやノルマに当ててライブが……SEを雇ってCD作るのも……

 ヤバい、大金があると心が暗黒面に引き寄せられる!

 なるほど、リョウやぼっちちゃんがmy new gearに走る気持ちが分かっちゃったよ。欲しいのを我慢してた自制心が緩む!

 だがしかし、この30万はバンド予算だ。使い道はみんなで決めないとね。

 ……個人の分は、なんか好きなもの買おう。それくらいは許されるはず。うん。

 

「ってワケで、今回のバンドミーティングはMV報酬の30万の使い道についてだよ。取り敢えず案出してねー」

 

 3月。

 いつものSTARRYでの風景が戻って来た。

 ぼっちちゃんは期末試験に向けて何故か理科の問題集を、喜多ちゃんはホワイトデーこそは自分がプレゼントしたいと情報誌を、リョウは降って湧いた臨時収入に早くもmy new gearしようと音楽雑誌を睨みつけてる。

 お前ら、ほんっと結束力ないな!

 

「光……光がみえる……」

「ぼっちちゃーん、帰っといでー」

「はっ」

 

 なんで中学の問題集やってるのか知らないけど、目が虚ろになってたよ?

 

「えっと、高校の授業についていけてないので、中学まで戻って勉強のやり直しをしてるところです……」

「なるほど?」

「こ、これでも数学と英語は、取り戻せたんですよ?なんか、分かることが増えるたびに、自己肯定感がビンビンに刺激されるんです!あ、いま私、成長してるって!えへへ、いまは光の反射がですね!」

「あー、うん、分かった分かった、でも今はバンドミーティングの時間だからさ、ちゃんと参加してくれると嬉しいな?」

「あ、はい、すみません……」

 

 ぐっ、勉強頑張ってるぼっちちゃんに注意するって、辛い!

 やめて、全身でしょんぼりされると罪悪感で死にそう!

 

「ぼ、ぼっちちゃーん、ミーティング終わったらさ、いまどんなところ勉強してるのか教えてくれるかな?」

「……はいっ!」

 

 ぱぁっ!と花ひらく天使の微笑み。

 なんだこれヤバいぞ、危ない扉が開いちゃいそう。

 

「ダメですよ、伊地知先輩。ひとりちゃんは私のですから……」

「うぉっ!?」

 

 地獄の底から響いてくるような低音ヴォイスで囁くのやめてよ!

 鳥肌立ってんじゃん!

 

「虹夏」

「今度はなんだ!?」

「カレーが良い」

「……今は、バンドミーティングだって、言ってんだろーがー!」

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 伊地知先輩のシャイニング・ウィザードでリョウ先輩が吹っ飛ばされるのを横目で見ながら、ひとりちゃんにこっそり聞いてみる。

 

「えっと、MV報酬の使い道だっけ?」

「ですね。リョウ先輩、音楽雑誌で隠してましたけど、キャンプ特集見てました。春休みにキャンプ旅行行って、カレー食べたいんですかね?」

「え、そうなの?」

 

 いやいや、まっさかー。

 リョウ先輩と言ったら、ひとりちゃんに次ぐインドア派でしょうに。

 って、ホントにキャンプ特集見てた。

 

「ひとりちゃん、キャンプ行く?」

「虫刺されと日焼けは御法度なので、無理です!」

「引き篭もりが最強の手札を手に入れてしまったわね」

 

 確かに、モデルがアウトドアで肌にダメージ受けるのはダメでしょうねぇ。

 でもそうなると、海も――いや、ひとりちゃんの水着姿なんて一般人の前に晒したら猥褻物陳列罪で捕まっちゃう。

 

「しょうがないわね。もしもキャンプに行くことになったらムグっ」

「郁ちゃんは、私のこと、置いていったり、しませんよね?」

 

 ひとりちゃん、分かったから。

 私だってお留守番させる気なんてないから!

 だからその、おっきな胸で私の口を塞ぐのはやめましょ?ね?

 

「もごもごっ」

「や、くすぐったいっ」

「おーい、そこのバカップルー。いい加減帰っといでー」

「はーい」

 

 ふぅ。

 危うく昇天するところだったわ。

 

「じゃ、仕切り直しね。30万の使い道だけど、私からはこんな感じ」

 

 伊地知先輩が案をノートにまとめていく。

 

①ライブ費用

②路上ライブの機材購入費

③CD制作費

④バンド用のクルマの購入費

 

「CD作るのって、どうやるんです?」

「SE……サウンドエンジニアにお願いしてレコーディングするんだよ。レコーディングスタジオのレンタル代とエンジニア代がかかるから、結構お金かかっちゃう。レコーディングに手間取れば、それだけ費用が嵩張ると言う……」

「うわっ」

「初めてのレコーディングとなったらプレッシャーとかもあるだろうし、予算は多めに見ときたい。となると、財布に余裕がある今がチャンスかもね」

「なるほど」

「ちなみに相場は5時間で5万前後。ぐずぐずしてると破産する」

「ひぇっ」

 

 バンドマンはお金がかかるって言うけど、思ったよりハードルが高い!

 

「虹夏、CDを作るならグルーミーグッドバイを入れるべき。でもまだモノになってない」

「そうだねぇCDは作りたいけど、今は保留かな」

 

 どうせ作るなら最高のものにしたいものね。

 確かにまだ実力不足なところはあるだろうけど、せめてあの曲がちゃんと演奏出来るようになってからにしたい。

 

「あれ、どうしてです?」

 

 ところが、ひとりちゃんはきょとんとして首を傾げた。

 

「2曲くらいを入れたシングルCDでもよくないですか?」

「あ」

「そうか、シングルか。アルバムのことしか頭になかった」

「そうだよね、普通はシングルを何枚か出してから、それをまとめたものでアルバムを出すんだよ」

「うん。その方が儲かる」

 

 シングル、って、なに?

 

「喜多ちゃん、分かってない顔してるね」

「音楽とかは配信サイトで聞く派でして」

「なるほど、今は現物を買うって意識が薄いし、そっちの方が安上がりだからね。仕方ない」

「シングルってのは、簡単に言うと小さなCDに4曲分のデータを入れて売り出す形式だよ。メインとサブの2曲、そしてカラオケ用にボーカルなしバージョンを入れて4曲。大体千円くらいかな」

「え、実質2曲で千円?高くないですか?」

「まぁ、配信サイト知ってると、そうなるよね」

 

 くぃっと、ひとりちゃんが私の袖を引っ張って、配信サイトを見せてくれる。

 そこには確かに2曲しか入ってないメニューがあって、なるほど、これがシングルに該当するものらしい。

 今まであんまり意識してなかったわ。

 何故かって?欲しい曲しか買わないからよ。

 

「シングルの説明はこんなところとして。なるほど、シングルって考えればレコーディング代も安く済ませられる。将来アルバムを出す時のための勉強として、今のうちにシングルを作るのもありだ」

「やってみる?」

「やりましょう!」

「私も、やってみたいです」

「サブスクに登録するかどうかは別として、経験しとくに越したことはない。やろう」

 

 わ、なんか急にミュージシャンぽくなってきた!

 ドキドキするけど、悪い感じはしない。

 よーし、頑張ろう!

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 行き当たりばったりと言え、MV報酬はレコーディングに使うことになった。

 今までも物販でCDを出してはいたんだけど、それは音源データだったのよね。

 ちゃんとレコーディングするのとは違うんだって。

 そこのところ、私は詳しくないなら、ちょっと疎外感がある。

 

「レコーディングしようってなりはしたけど、まずは素の状態で録音してみよう」

「予行演習的な?」

「それもあるけど、自分たちを俯瞰して見たとこなかったなって気付いた」

「そう言えば、そうだったね」

 

 取り敢えず、レコーディング予定の2曲を録音して聴いてみたんだけど。

 

「なんて言うか……微妙?」

「私の声って、こんなに届いてなかったんですね……」

「ライブの時はPAさんが調整してくれてるから」

「ちょっと、リョウ!」

 

 へ、凹む!

 うそ、こんなにダメなの?

 カラオケじゃ、結構点数高いのに!

 こんなんじゃレコーディング以前の問題じゃない!

 

「喜多だけじゃないよ、みんな課題は抱えてる。1人だけ足引っ張ってるとか見当違いなこと考えちゃダメ」

「……ありがとうございます」

 

 とは言え!

 これは克服しないとダメだ!

 で、こんな時は集合知に頼るに限る。

 ふむふむ、基本は腹式呼吸。それと腹筋を鍛えると。え、腹筋100回?そんなにやるんだ。あとは走り込みと音感、発声練習と。え、ボイトレ用のアプリなんてあるんだ、知らなかった。ただしイヤホンを使って練習するのはダメ。なるほど?

 うーん……まずは筋トレかな。元々スポーツは嫌いじゃなくて、バスケ部の助っ人に入ることもあったから体力はある方だけど、そんなストイックに鍛えたりはしてなかったし。

 ギター練習と一緒だ。焦らすじっくり段階を踏んで行こう!

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 意外なことに、ひとりちゃんが朝のジョギングに付き合ってくれた。

 え、マジで?

 これ幻覚じゃないの?

 

「いい加減、体力を、つけるように、お姉ちゃんから、言われてる、もので」

「そ、なんだ」

 

 ペースはゆっくりめ。

 ジョギングは体力だけじゃなくて、肺活量を鍛えるためでもある。

 そう言えばひとりちゃんって体力ないから、撮影が終わるとヘロヘロになってたっけ。確かにジョギングで鍛えるのは、モデル業にとっても大切なことかもしれない。

 うちの近所にある公園は外周が約1キロ。取り敢えずそこを2周する。

 初日から飛ばして続かないと意味ないからね。まぁ、それでもひとりちゃんは大変そうだったけど。うちに帰ったらぐったりしちゃって、シャワーで汗を流すのも私がいないと立ってられないほどだった。ご馳走様。

 

 学校から帰ってきたら、腹筋とボイトレ。

 引っ越して来たときに空っぽだった部屋は、最初物置にしようと思ったんだけど、ひとりちゃんの要望でギター練習所、兼ギターヒーローの宅録場所になってる。

 一応この物件はミュージシャン向けなんだけど、念のために防音パネルを敷き詰めてある。ここならボイトレにもピッタリって訳。

 腹筋運動を50回2セット済ませてからボイトレ開始。ネットに書いてあったアドバイスに従って腹式呼吸を心掛けながら発声練習だ。

 アプリの指示に合わせて、スピーカーから聞こえてくる声を調整する。

 他の奏者と合わせることも重要だから、ひとりちゃんのギターを伴奏にして音感を鍛えるのも取り入れた。

 生活が、ゆっくりと音楽に染まり始めていた。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 3学期の期末試験。

 ひとりちゃんが積み重ねて来た勉強の成果が試された。

 数学と英語は、なんと60点台。赤点は愚か、0点を取ることすらあった、あのひとりちゃんがだ!素晴らしい!

 あまりの感動に、泣きながら報告してきたひとりちゃんを抱きしめて、その場でキスしちゃった。

 やったよ、努力は報われるんだ!

 でも先生には怒られた。解せぬ。

 

 他の教科は、まぁ、鋭意努力中と言うことで。でも赤点はギリギリ回避出来たよ、やったねひとりちゃん!

 

 ちなみに私は普段通り。

 70点台後半から80点台後半。90点台は取ったことありませんが、なにか?

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 うちに帰ったら、早速webカメラ経由で成績を報告だ。ひとりちゃんはニッコニコ。美智代さんも珍しく涙目になって褒めていた。良いなぁ。

 うちの親はどうなんだろ。

 一応、ロインでは報告して、サボってないことは分かってもらえてる。お母さんも、火鳥が関わらなければ普通だ。

 だけど、なんか、後藤家みたいな喜ばれ方って、ないんだよね。

 言葉で褒められることはあっても、それ以上はない。

 ……いやね?

 これでも高校生ですし?

 別にいつも以上の成績取ったワケでもないし?

 良いんだけどさ。

 

「郁ちゃんは凄いですねっ!」

 

 ふいに、抱きしめられて。

 頭を撫でられた。

 え、なに?

 

「ギター練習も、ボイトレも、筋トレも、勉強も欠かしてません。家事だって、やってくれてます」

「別に、それくらい」

「それくらい、じゃありませんよ。郁ちゃんはいつも頑張ってます。それを私は一番近くで見て、知ってます。だから――」

 

 ひとりちゃんは私を一通り褒めて、頭を撫でて、抱きしめてくれて。

 もう、どうしてあなたは、私が一番欲しいことを分かってくれるのかしらね。

 

「ありがとう。ひとりちゃんが頑張ってるのも、私、知ってるよ。ひとりちゃんも偉い!大好き!」

「私も大好きです。郁ちゃん、愛してます」

「私もっ」

 

 その日は、練習も勉強もちょっとだけにして、思う存分イチャイチャした。

 たまには休息日がないとね?

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 バンド関係のイソスタを眺めていたら、未確認ライオットと言うイベント告知が目についた。

 なんでも、10代限定のロックフェスだそうで、そこからメジャーデビューするバンドもあるんだって。

 

「あぁ、それね」

「優勝賞金は気になるけど、わざわざ出るものでもない」

「郁ちゃん、それ、私たちは出ないようにってお姉ちゃんから言われてます」

「え、そうなの?」

 

 普通に考えたらビッグチャンスなんだけど?

 

「そこに出て、どっかのレーベルが声かけて来たとしてもさ、多分大体はぼっちちゃん目当てなんだよね」

「火鳥をアイドルにしたい連中は一定数いる。そんなのに引っかかるワケにはいかない」

「あ、なるほど」

 

 そっかー。

 ……え、それじゃ私たち、どうやってメジャーデビューするんですか!?

 

「そりゃ、実力でだよ。今の私たちはグルーミーグッドバイも満足に弾けてないじゃん。それでデビューって言われてもね?」

「サブスクで注目されるくらい売れれば、自ずとデビューの芽は出てくる。それにレーベル契約すると売れ線ばかり強要されて私たちの個性を蔑ろにされるかもしれない。そんなの御免だ」

「なるほど」

 

 先輩たちはちゃんと考えてるんだなぁ。

 私、まだまだ目先のことしか見えてないや。

 

「郁ちゃん、虹夏ちゃんたちは3年生になります。受験勉強に力を入れないと」

「それもあったね」

「私は大学いかない。フリーターで音楽に没頭する」

 

 受験、かぁ。

 ひとりちゃんの勉強のことで大学を意識したことはあったけど、まだまだ遠い存在だと思ってた。

 でも、そうだよね、伊地知先輩もリョウ先輩も、来月には3年で、卒業も視野に入ってくる。

 なんだろう、ちょっと胸のあたりがモヤモヤする。

 いつまでも子供のままじゃいられない。

 そんなの、当たり前のことなのに。

 

 

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