ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」   作:ぼ喜多スキー

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(14)2年生になったら

 音楽と勉強に明け暮れた春休みも終わって、晴れて私たちは2年生に進級する。

 昨夜はひとりちゃんが氷風呂を用意しようとするのを止めたり、滝行の代わりだと言って冷水シャワーを浴びようとするのを止めたりで騒がしかったけど、なんとか新学年初日を無事に迎えることが出来た。

 ほんと、なにやってんのかしらね。

 先に学校に行ってて欲しいと言う最後の抵抗も潰して、一緒に登校する。

 ……余裕あるように見えるかもだけど、そんなことはない。だって、進級するということは、クラス替えがあるってことだもの。

 つまり、ひとりちゃんと、一緒のクラスになれるかもしれない!

 水垢離や滝行で望みが叶うなら私だってやるわよ!でもそんなので結果が変わるワケないじゃない?だから大人しく運を天に任せることにしたの。きっと祈りは通じると思う。

 

「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前!」

 

 まぁ、ひとりちゃんほど強烈な念の込め方はしてないけど。なんか両手で色んな組み方をしてたけど、それどんな意味があるの?

 

「Eloim Essaim, Eloim Essaim――」

「ひとりちゃん、そろそろ帰ってきて?」

「……あ、郁ちゃん?あれ、ここは?」

「通学路。学校に行く途中よ?」

「いつの間に!?」

 

 うん、半分意識なかったよね。

 遅刻したくないから無理矢理メイクと身支度して引っ張ってきたわ。

 

「あ、そうでしたか。朝も早くからご迷惑を」

「そんなの気にする仲じゃないでしょ!それにしても、こんなネガティブになるの久しぶりね?」

「……郁ちゃんと同じクラスになれるか、不安で」

「もう、そんなの悩んだって仕方ないじゃない。別のクラスになったって、昼休みには私のところに拉致っちゃうんだからね?」

 

 ふふっ、ひとりちゃんも同じ気持ち?

 そりゃそうよね、恋人なんだし!

 

「あれ、三つ編みしてない?え、伊達眼鏡もない?え?え?」

「あ、そう言えばしてなかったわ」

 

 ひとりちゃん、外に出る用事がない時は三つ編みも伊達眼鏡もしてないから、うっかりしてたわ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください?うぁ、メイクもしてある!?」

 

 うん。ひとりちゃんがぼーっとしてるから、つい。

 

「郁ちゃん?このまま学校に行くと、ちょっと、かなり、とてつもなく、マズい、かも?」

「一応、伊達眼鏡はカバンの中に入ってるから、それだけでもしておく?」

「は、はぃ……」

 

 そう言えば、そうだった。

 普段のアレは一応変装してるんだったわ。

 なんか無性にロングストレートと制服姿の組み合わせが見たくなって放置しちゃってたわ。

 

「そこの公園で今からでも髪の毛やっちゃいましょ。学校に着いてからするよりマシなはずよ」

「そ、そうですよね!」

 

 近くの公園にあった四阿で、ささっとひとりちゃんの髪を編み込む。

 ふむ。ひとりちゃんが無抵抗だったお陰で、まだ始業まで時間あるし、ちょっと凝った髪型にしよう。いつもはパパッと出来る三つ編みだけど、ここはシニョンにしちゃおう。可愛いし。

 滑らかな髪をくるくると巻いてお団子にする。この髪型だと色っぽいうなじが見えるところがポイント高い。

 お風呂の時にやってくれるんだけど、これだと髪ブラが出来ないからげふんげふんっ!

 まぁ、つまり、私の好み。文句は受け付けない。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 神はいたのか、奇跡が起きたのか、日頃の行いの賜物か、私たちは同じクラスになれた。

 思わず抱きしめあってキスまでしちゃったけど後悔はしていない。

 新入生の目?

 私たちは部活もしてないから、上級生や下級生と関わることってないのよ。なので気にしなくても平気。

 

「よ、また一緒になっちまったな」

「あ、さっつー、またなの?」

「5年連続とかマジ腐れ縁な。後藤もよろしく。初めて同じクラスになるけど、なんかそんな気しねーな」

「お昼休みにずっと一緒だったものね」

「あ、よろしくお願いします」

 

 ふむ。ひとりちゃんのことを知ってるさっつーが同じクラスにいてくれるのは心強い。

 去年のクラスではひとりちゃんが読モしてるってバレてるんだけど、今年はどうしましょうか。

 また行き当たりばったり?

 

「それはそうと、喜多さぁ」

「なに?」

「その、さも当然みたいに後藤をハグしてるのはどうなん?」

「学校の教室でひとりちゃんと一緒にいるのよ?」

「そうだな。そう割り振られたからな」

「一緒の教室にいるからよ?」

「もう言い訳することすら放棄しやがったか」

 

 変なさっつー。

 ね、ひとりちゃん?

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 さて。ここで問題です。

 ひとりちゃんには、緊張すると明後日の方向に暴走する悪癖があります。

 そんな彼女が自己紹介で暴走しないはずもないワケです。

 ……言い訳させてらもらえるなら、一応、ひとりちゃんが使いそうなモノボケ用の兜とか没収しといたのよ。泣いて縋られたけど容赦はしなかったし、ひとりちゃんのギャグセンスが壊滅状態でピクリとも笑えないことを小一時間ほど正座させて懇切丁寧に説明しといた。

 ひとりちゃんが「こうやったらウケる!」って考えてることは十割で滑るからね。仕方ないわ。

 でも今回の暴走はそんな方向じゃなかったのよね。

 

「後藤ひとりです。神奈川県出身です。通学に片道2時間ほどかかって大変だったんですけど、それだと仕事が大変になったので、去年の冬から下北のマンションに住んでます。い……喜多さんと一緒にす……バンドをやってます。良かったら聞きにきてもらえると嬉しいです。以上です」

 

 ん?

 んん?

 

「はい、ありがとう。座っていいぞ」

「佐々木次子で〜す――」

 

 はっ、意識が飛んでた。

 まっずいなぁ、自己紹介聞いてないから顔と名前が一致してない子が何人かいる。後でさっつーに聞いておこう。

 じゃなくて、それより今は――ちらり、と不自然にならないようにと祈るような心持ちで周囲に視線を巡らせる。

 アウト?セーフ?

 

「……!」

 

 ぐっ!と何人かのクラスメイトがサムズアップする。

 セーフ……!

 

 あれは去年も同じクラスだった子たちだ。

 どうやら私と同じくひとりちゃんの自己紹介がヤバい内容を含んでいると気付いて、他の子たちの様子を窺ってくれてたらしい。心強いなぁ。

 

「喜多ちゃんっ!今年は同じクラスだね、よろしく~」

「聞いたよー、彼女出来たんだって?紹介してよーっ!」

「喜多ちゃん、最近付き合い悪いっ!今日こそカラオケ付き合ってよね!」

 

 安心したのも束の間、面識のある子たちが集まってきた。ひとりちゃんをハグして落ち着きたいところだけど、これも陽キャの定め。笑顔を張り付けて対応してく。いや、悪い子たちじゃないのよ?単に私の事情を知らないだけで。

 

「彼女さんって、去年の文化祭ライブで一緒してた後藤さんなんでしょ?って、後ろにいるじゃん!よろしく~」

「あ、は、はいっ、後藤ですっ、宜しくお願いしますっ!!」

「あはは、固い固い、そんなかしこまらないでよー」

「え、喜多ちゃんの彼女なの?人生勝ち組じゃん。んー、地味?……いやこれ地味じゃなくない?」

「あれ、よく見たら……ちょ、これヤバっ、可愛いっ!」

「ねぇ、お願い、その眼鏡取ってみせてっ!」

「うーん、一見地味だけど、なんか妙に肌艶良いね?スキンケアなに使ってんの?」

「うっわ、なにこのお胸様。え、ちょっと待って、トップも凄いけどアンダーがエグい!」

「それより髪よなんでお団子にしてんの艶々ヘアが悲鳴上げてる信じらんない素材の良さを100パー使いきるならストレート一択でしょ解いて今すぐ解いてその奇跡みたいなキューティクル見たい早くお願い!あ、このヘアフレグランス絶対お高いヤツ!」

「あ、えと、その……」

 

 おぉ、ひとりちゃんが圧倒されながらも持ち堪えてる。以前のひとりちゃんだったら既に溶けるが爆発してるところだけど、その兆しすらない。人って成長する生き物なんだわっ!

 

「喜多、これもうバレるの時間の問題だろ。言っちゃったほうが良くね?」

「そうだよ喜多ちゃん、こっちに巻き込んじゃったほうがいーよー」

「なんかヤバい子もまじってるしね?」

「あ、うん」

 

 ひとりちゃんが本当は凄く可愛いってことがバレちゃったなら仕方ない。

 ここは更に大きな爆弾を投下して沈静化しよう。

 さっつーに妙案があるみたいなのでお任せする。

 

「えぇい、者ども沈まれぇいっ!この動画が目に入らぬかっ!」

 

 いつの間にか入っていたクラス用グループチャットに、桜ノ宮芸能事務所公式PVの直リンが送られた。

 ピロン♪と着信音がなって、ほぼ反射でみんなが動画を見始める。

 

「え、なにこれ」

「あれ喜多ちゃんじゃん」

「ん、でもこれモデルのPVっしょ?」

「喜多ちゃんモデルなん?」

「いやこれ喜多ちゃんの方がゲストだわ」

「これ演奏してるの喜多ちゃんのバンドじゃない?」

「喜多ちゃん、歌うまー。やっぱカラオケいこーよー」

「ん?んん?」

「うわっ、うわっ」

「ちょ……」

「か、かわ……」

 

 動画を再生してから4分30秒。

 夜の学校の屋上。満天の星空の下で、切なげに星空を見上げて、静かに涙を零す火鳥。

 繋いだ絆を信じたいのに信じ切れない、どうしようもなく臆病な自分だけれど、それでも絆を信じたいんだと、手を伸ばす仕草すら見せずに訴える。

 これまでのストーリーパートでは終始自信のない姿を。前半の演奏シーンでは視線が合いそうになるたびに俯く姿を。後半の演奏シーンでは、アイコンタクトするたびに微笑み合う、息の合った演奏を見せつける。ラストでは、それでも自分に自信が持てないでいる火鳥の姿が、これまで彼女がどれだけ孤独の中で過ごしていたかを想像させる。

 演奏が終わり、静寂に満ちた夜。

 屋上へと続く階段を誰かが駆け上がっていき、重い扉を勢いにまかせて乱暴に開く。

 驚いて視線を向ける火鳥。そして――涙に濡れた、満面の笑顔。

 

「これ、まさか」

「火鳥のプロモ?」

「そんなのあるんだ」

「え、でも火鳥って読モでしょ?」

「いや、問題はそこじゃない」

「は?」

「これ、後藤さんだわ」

「は?」

「この髪、スタイル、まんま後藤さん」

「……マジ?」

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 しんと静まったあとに、絶叫が響いた。

 今回は男子も巻き込んでるけど、反応はそんなに違わない。と言うかひとりちゃんを見る男子の目が、なんか気に入らない。

 この子は私のだからね?

 絶対渡さないんだから!

 これ見よがしにひとりちゃんを抱きしめて、半分パニックになってる彼女の首筋にキスをする。もちろん、痕を付けるようなヘマはしない。こなした回数が違うのよ!

 

「きゃーっ!」

「□□□□□□っ!!」

 

 とたんに沸き上がる黄色い悲鳴と、言葉にするのはちょっと遠慮したい声色の悲鳴。

 胸の内に沸き上がる優越感と高揚感。どうだ、見たか!とドヤ顔してしまう。

 あはっ、気持ちいっ。クセになっちゃうかも。

 

「喜多さぁ、ちょっとは自制しとけよ」

「これは牽制なの。今のうちにひとりちゃんは私のだってアピールしとかないと絶対ダメなの。唇にしなかっただけでも十分理性的だったと胸を張って言えるわ!」

「いや、場所の問題じゃなくて。っつーか首スジも十分エロ……まぁ、良いか」

「喜多ちゃん大胆っ!」

「私たちには出来ないことを平然とやってのける!」

「そもそも私たちには相手がいないものね……」

「それを言ったら戦争になっちゃうでしょ!?」

 

 女の子たちには概ね好評だった。

 私のお相手がひとりちゃんだってのも、判断材料の1つなんだろうけど、逆もそう。

 ひとりちゃん、いや、火鳥の相手が女性だってことが大きいんだと思う。

 良くアイドルに恋人が出来たら、とか言うけど、女性同士となると世間は妙に優しい。なにか不思議な力に守られてるのかもしれない。

 

 対して男子側はお通夜状態だった。

 なにかぶつぶつ言ってるみたいだけど詳しく聞くつもりはないわね。

 

「あーあ、それじゃ喜多ちゃんが付き合い悪くなったのって、ホントに恋人できたからだったんだー」

「いや、それはバンドの練習を優先してたからよ?私以外のメンバーはみんな上手だから、足を引っ張らないように必死なんだから」

「でも去年の文化祭とか、喜多ちゃん凄く良かったよ?」

「あはは、ありがと。そう思ってくれてるのは嬉しいけど、心臓ドキドキだったんだから」

「後藤さんのギターが壊れちゃったときだよね!」

「あ、はいっ!あのとき郁ちゃんは凄くカッコ良くて!今でも思い出すたびに心臓がきゅーっとしちゃってっ!」

「そうなるよねー。なんてったって、自分が絶体絶命のピンチになってるときに助けてくれたんだもん。私のヒーロー!みたいな?」

「はいっ!」

 

 なんかもう、ニッコニコなひとりちゃんだ。

 面識がほとんどない相手にここまで上機嫌なひとりちゃんって、人生初なんじゃないかしら?

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 それからひとりちゃんは求められるままに私との馴れ初めから同棲してることまで話しちゃって、鼻高々だ。

 流石にえっ……なことまでは言ってないけど、それも時間の問題のような。

 え、なんで止めないのかって?

 そんなの決まってるでしょ?

 

「むぐっ!むぅ〜っ!」

 

 ひとりちゃんから離されて拘束されてるからよ!こんなことされるとは思ってもみなかったわ!

 

「まぁまぁ、喜多ちゃん、ここは大人しく彼女が全部ゲロっちゃうまで我慢しとこ?」

「後藤のヤツ、ノリノリだな」

「後藤ちゃん、いつもは全然話さないものね」

「ホントは惚気たかったんだねー」

「そらそうよ」

 

 まぁ、確かに?

 ひとりちゃんって中学までは友達がいなくて寂しい思いしてたんだし?

 結束バンドに入ってようやく友達が出来たくらいだし?

 そこから半年もしないうちに私って言う彼女まで出来たんだものね。

 ……うーん、ちょっとくらいハメを外しちゃうのも、仕方ない、のかな?

 私だって、ひとりちゃんのこと自慢してまわりたいって欲求はあるんだもの。

 こんな可愛い子が私の恋人なのよ!って。

 

「ねーねー、それでさ、正直なところ、どこまでいってるの?」

「ふふふー。それはですねー」

「むごぉーっ!!」

 

 それは言っちゃダメーっ!

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 あ、危なかった。

 間一髪、拘束を抜け出してひとりちゃんの口を塞ぐことに成功した私、偉い。

 ひとりちゃんは真っ赤になってくたくたになってるけど、尊い犠牲と言うことで。

 

「ひとりちゃん?あんまりオイタしたら、めっ!よ?」

「は、はぃ……」

「うん。いい子ね」

 

 やれやれ、危うくクラス中に性癖が暴露されるところだったわ。

 ああ言うのは2人だけの秘密にしてるから良いのであって、決して他人に漏らして良いことじゃないの。お分かり?

 

「そういうことだから、みんなもあんまりひとりちゃんを揶揄ったりしないでね?」

 

 にーっこりと笑って、みんなを見回す。

 なんか顔を真っ赤にしてる子とか、こそこそ教室から出ていく男子とかいたけど、まぁ、良いでしょ。

 

 取り敢えず今晩は……お仕置き決定かな。

 ね、ひとりちゃん?

 

 

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