ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」 作:ぼ喜多スキー
喜多ちゃんママの初恋相手が美智代さん概念は多分ここだけだと思います。
【復習】
郁美と美智代を足して2で割ると郁代になる。
前回のあらすじ。
後藤家に帰ったら喜多ちゃんのママがいた。
☆ ★ ☆
き、気まずい!
えっと、今日は実家で郁ちゃんの誕生日会をやるってことで帰ってきたんだけど、どうして郁ちゃんのご両親がいらっしゃるのでしょうか?
ワケ分かんないんだけど?
せっかく楽しいパーティーだったはずなのに重苦しい空気になっちゃって、不貞腐れたふたりはテレビでみによんずをつまらなそうに見てる。
うん、分かるよ、ふたり。
なんかごめんね?
「それで、どうして、ここにいるの?」
これまで聞いたこともないようなドス黒い声で郁ちゃんが戦端を切った。
うわぁ、こんな郁ちゃん見たことないよ。
「決まってるでしょう?娘の誕生日を祝いにきたのよ?」
とてもそんな雰囲気には見えませんけど!?
なんか今にも戦争が始まりそうな雰囲気がひしひしと伝わってくる。
「そう、ありがとうございます」
深々〜と頭を下げる郁ちゃん。
ねぇ、親子なんだよね?
なんでこんなふうになってるの?
「お父さん?事情を説明してもらえるのよね?」
「もちろんだよ。まぁ、事の発端はコイツが火鳥さんのポスターを見て変態行動してたことなんだが」
「誰が変態よ!」
変態行動……
もしかして私、避難した方が良いの?
「火鳥さんを通して別の人物を妄想してたんだ」
「妄想じゃない!」
別の人?
私じゃない?
「大丈夫よ、ひとりちゃん。郁ちゃん先輩のお目当ては、多分お母さんだから」
……はぃ?
「郁ちゃん先輩って、こう、昔っからムッツリだったのよね」
むっつり……
思わず郁ちゃんに視線を向けると、私を見て、にーっこりと笑ってる。
「ひとりちゃん?そこでどうして私を見るのかしら?」
「いえっ、大丈夫ですっ!!」
「なにが!?」
な、なるほどぉ〜?
まぁ?
別に?
郁ちゃんがムッツリさんだったとしても、別に私は構いませんけどね?
「私、どんな郁ちゃんでも愛せる自信があります!」
「ひとりちゃん?話し合いましょう?ちゃんと話せば、きっと私たち分かり合えると思うの!」
あ、でもネ◯リはちょっと。ネットリだったら大歓迎なんだけど。
ほら、郁ちゃんっていつも色んなとこに指を這わせたりキスしたりして、ゆっくりじっくり始めるからね?
お風呂だとボディタオル使わないで洗ってくれたりするし?
なんて言うか、ねちっこい感じ?
私がどれだけダメって言っても、ダメじゃないでしょう?って聞いてくれないんだよね。
うん。間違いない。
郁ちゃんはムッツリさんだ。
「分かってます。大丈夫ですよ、郁ちゃん」
「絶対分かってない!」
☆ ★ ☆
なんだかひとりちゃんの中で私の評価に深刻な風評被害を受ける由々しき事態が発生していて全く不本意な状況なので事が終わり次第全力で挽回するべく私は健全なのだとアピールすると共に今後の関係悪化を未然に阻止して明るい家族計画を提案しなければならない。
すぐにでも暴走しているひとりちゃんの桃色妄想を止めたいところだけど、残念ながら今は目の前にいる諸悪の根源に対処しなければならないのが歯痒いところ。
全く、人生はこんなはずじゃなかったことばっかりだ。
「……話の途中でごめんなさい。それで、お父さん、結局どう言うことなの?」
「あぁ、簡単に言うと郁美の初恋相手が美智代さんで、火鳥さんは美智代さんの若い頃に瓜二つなんだ」
「は?」
美智代さんとひとりちゃんが瓜二つ?
こんな絶世の美少女がこの世に2人も存在していると?
思わず2人を見比べて――あ、ホントだ。
「だから、火鳥さんのポスターを見て、美智代さんの若い頃を妄想してたと言うワケだね」
「妄想じゃないったら!昔を思い出して懐かしい気分に浸ってただけですっ!」
「郁美、いくら高校時代の後輩とは言ってもね、普通はあんなことしないんだよ。普通はね」
「普通普通ってうるさい!」
うーん、なるほど、話が見えてきた。
つまりお母さんと美智代さんは高校時代の先輩後輩で、結構仲が良い関係だったと。
だから火鳥のポスターを見て懐かしく――って、ないわ。うん。ないな。
いくら懐かしく思ったって、あのサイズのポスターを特注するのは普通の行動じゃない。
えっと、つまり?
「郁ちゃん先輩、昔っから私のこと大好きだったから~」
「美智代も黙っててっ!」
あ、なんか2人の関係が分かっちゃったわ。
生真面目でガードが堅いはずのお母さんが、天真爛漫な美智代さんに落されちゃったのね。
でも美智代さんの方にはそんな気はまるっきりなかったと。
哀れな。
「あの、お母さん?」
「なによ」
「初恋って実らないものらしいから!」
「初恋実らせて同棲までしてるアンタに言われたくないわよ!」
☆ ★ ☆
「つまり、お母さんがちょっと行き過ぎた女の子同士の友情を美智代さんに向けていて、でも美智代さんはノーマルで、お母さんは意外とヘタレなので一線を越える勇気なんて持ち合わせてなくて、結果的に健全な関係なまま卒業を迎えたってこと?」
「そう言うことになるね」
「お父さん、ほんっと、よくお母さんと結婚する気になったね?」
「こう見えて父さん、世話焼きでな。抜け殻みたいになってた郁美を放っておけなかったんだ」
「へー」
まぁ、それ以前に、当時は今ほど同性愛に理解がある時風じゃなかったってのもあるみたい。
今は良い時代になったものね!
「旦那と娘がいじめる……」
「郁ちゃん先輩、相変わらず打たれ弱いですね〜、よしよし」
「美智代ぉ〜……」
おいコラそこのアラフォー、人妻に抱き付いてんじゃないわよ!
「あれ、良いんですか?」
「ふっ、郁代ちゃん、あれくらいどうってことないよ」
「そうなんですか?」
「うん。これぞ正妻の余裕!」
「素敵っ!」
お義父さんは旦那さんだからちょっと違うけど、言いたいことは分かるわ!
なるほど、夫婦間の絶対的な信頼ってカッコいいのね。
「それでな、郁代。流石の郁美も反省して、ポスターを撤去するところまで話は進んだんだ」
「え、ホントに?なんか信じられないんだけど」
だってアレよ?
美智代さんの胸に顔を埋めて真っ赤になってるアラフォーよ?
「その代わり本人に会いに行くからって言い出してな」
「悪化してるじゃないっ!」
「社会復帰するには現実を見せるのが手っ取り早いかなと思って」
「ストーカーになったりしないでしょうね」
「郁代、美智代さんをみくびってはいけない。なにせ20年以上前とは言っても、2年間も郁美をあしらってきた女性だぞ?」
「あ、納得」
なるほど、美智代さんだものね。
って言うか美智代さん頼みなのね。
うちのお父さんも良い根性してるわ。
「ところでお父さん、ここをどうやって調べたの?GPSは切ったままなんだけど」
「そこは郁代を叱らないといけないな」
「へ?」
「情報源は郁代のイソスタなんだ」
「……は?」
「リテラシーがなってないぞ?個人を特定出来る内容をネットに上げちゃダメだろう?」
「ん?」
そんなのやったかしら?
念の為に後藤家にいる間はイソスタも我慢してたんだけど。
「去年の夏、ここで撮った写真をイソスタに上げてただろう?」
「……そんな前まで遡って探したの!?」
なんて執念!
あ、いや、ここは反省しないと。
確かに去年の夏、バンドTシャツの件で後藤家に来た時に写真を撮ってイソスタに上げた記憶がある。
ひとりちゃんの可愛い服装とか、ふたりちゃんと一緒にジミヘンと遊んだとことか。決定的なのは、あの垂れ幕かもだけど。
確かに迂闊だったわ。話題になりそうとか、バズりそうとか、そんなことしか考えてなかったもの。
ひとりちゃんと恋人になってからは、厄介なファンが出てくるのを警戒して気を使ってたけど、その前は結構いい加減だったのはホントのことなので言い訳出来ない。
そうか、確かに、ホントに厄介なファンの執念っていうのを甘く見てた。反省。
これ、今のアカウントは破棄した方が良いのかしら。辛いなぁ。
でも、ひとりちゃんの安全のためだもの。ここは涙を飲んでやるべきなのよね。
これまで積み上げてきた写真の数々に思いを馳せる。初めの頃はあんまり『いいね』がこなかったっけ。流行を追いかけて、自分でも試して、フォロワーの多い人のフォロワーになって、横の繋がりを作って橋渡しをして、いつの間にか私は情報ハブのような存在になっていた。
それもまた、自分は特別じゃないってコンプレックスに拍車をかけることにもなってたのよね。所詮はリンク集に過ぎないって。
……ま、いっか。
次は私自身で、私だけの価値観でいいなと思ったものだけを発信するチャンネルにしよう。
幸せのお裾分けなんて言って誤魔化して、結局は誰かが流行らせたものに乗っかるだけなんてつまらない。
「バズってるから良い」じゃない、「良いものをバズらせる」存在になるの!周りに振り回されるのはヤメ!
☆ ★ ☆
急にやめたらフォローしてるチャンネルに迷惑かけるかもだから、1週間後に閉じる連絡と、これまでお世話になりましたと挨拶して回る。
ピロンピロンと着信音が鳴るたびに、胸が締め付けられるようだった。
……承認欲求を満たすためのものだったとは言え、これまでのライフワークとも言えたチャンネルを閉じるのは辛い。でもこのまま続けていたら、いつか後藤家に厄介ファンが押し掛けてくるかもしれない。今回はうちの家族だったからまだマシだけど……いや、マシじゃないか。
「んー……ここに住みたい……」
アレはもうダメだ。
それに、アレが最後の厄介ファンとは思えない。このまま今までと同じようなイソスタ活動を続けていれば、いつか第二、第三の厄介ファンが来ないとは限らないんだ……
「お父さん、アレどうするの?」
「どうしようかな?」
どこかにオーソゴナル・ダイアゴナライザー落ちてないかな。
「もー!オバさんどいて!お母さんはふたりのお母さんなの!」
「ぐはっ!」
うわ、ふたりちゃん強い。
これまでお客さんだからと我慢してたのが限界突破しちゃったのね。
いいぞー、もっとやってー!
「オバさんはもういいトシしたオトナなんだから、もっとちゃんとしないとダメなんだよ!」
「お、おば……」
「ねぇ、お母さん、このオバさん、くそめんどくさいね!」
「かはっ……」
無敵!
ふたりちゃん、無敵だわ!
普通ならクダ撒いてる大人なんて怖くて近付かないだろうに、なんて堂々としてるんだろう。
流石の拗らせアラフォーも幼女の正論には勝てなかったみたい。
完全に息の根を止められちゃった。
「郁美が落ち着いたことだし、本題に入ろうか」
「落ち着いたって言うか、精神的に死にかけてるけど」
「とにかく会わせろって五月蝿くてさ。でもこれで懲りただろ」
「5歳の幼女に正論で論破されたら流石にね」
「ふたり、エラいぞ〜」
「えらい?ふたり、えらい?やったー!」
きゃっきゃとしてるお義父さんとふたりちゃんが微笑ましい。
あんな良い子に迷惑かけちゃダメよね。
うちの拗らせアラフォーにも一欠片の良心は残ってたのかしら。
「郁代」
「あ、はい」
「父さんと母さんは、君たちが結婚することを承認します」
「……え?」
「未成年が結婚する場合、保護者の承認が必要だ。だから、あらかじめ言っておくよ。手続きが必要なら、幾らでも力になる。あと、これまでと同じように当面の生活費は援助しよう。大学に行くなら学費は出すし、行かなくても文句は言わない。これが私たち夫婦からの誕生日プレゼントだ。どうかな?」
「……ありがとう」
なによ、直前までふざけてたくせに。
「ひとつだけ、良い?」
「なんだい?」
「今度、ライブのチケット送るから、来てくれる?」
「一人娘の招待だ。喜んで行かせてもらうよ」
☆ ★ ☆
ふたりちゃんのお陰でうちの拗らせアラフォーが大人しくなったので、ようやく誕生パーティーを始められた。
ふたりちゃんと一緒に考えたというプレゼントは、オルゴールだった。なるほど、オルゴールならインテリアにもなるし、音色を楽しむことも出来る。
なんでも、オルゴールというカテゴリを考えたのがふたりちゃんで、どんなオルゴールを用意するかはひとりちゃんの担当だったそうだ。
では、そのオルゴールはどんなものなのかというと――
「これ、音楽データを入れることで、どんな曲でもオルゴールになるってスグレモノなんですよ!」
最初は結束バンドの曲をオルゴールにするオーダーメイドにしようと考えていたところ、このオルゴールの情報を見てピンときたらしい。どうせなら、色々出来た方がカッコいいって。
こういうところが、ひとりちゃんなのよねぇ。
いや、確かに凄いのよ?
普通、オルゴールって言ったら、決められた曲しか入ってないんだから。
だから、データを用意する必要があるとは言っても、ほぼ無限に音を楽しめるこのオルゴールは凄いのよ。
でも、欲しいかというと、微妙?
正直言って、性能なんかよりインテリアとしてオシャレな方が嬉しかったなぁ、って思っちゃったのは失礼かしら。
「これ、星座の曲を入れてるんです。郁ちゃんへの想いをイメージしてバラード調にアレンジしました」
前言撤回。
私への愛を込めてアレンジしたあの曲が入ってるオルゴールなんて、世界中探してもこれ1つしかない、唯一無二にして最高のオルゴールじゃない!
「ありがとう、最高のプレゼントだわ!」
さっそく鳴らしてみれば、スローテンポでしっとりした雰囲気が切なさを刺激してくる。
この曲は、ひとりちゃんから私に宛てたラブレター。あの頃は想いが届くなんて考えもしなかったらしくて、喜びと悲しみが混じってるんだって。いつか来る別れの予感。出会ったことが間違いだったかのような後悔。それでも一緒にいたいという願い。ひとりちゃんの中にある、まっさらな、私への想い。
私だって同じなんだけどね?
あの歌詞を初めて読んだ時、まるで私の心境そのままだと思ったんだもの。
あなたは私にとってヒーローで、スターなの。ギターを掻き鳴らして輝く一番星なの。
繋いだ絆に縋って、いつか来るかもしれない別れに怯えているのは、私だって同じなの。
あなたは私の陽キャなところに憧れてるって言うけど、私だってあなたの特別に憧れてる。
私とあなたって、本当に正反対で、中心の部分はそっくりね。
そっくりだけど、でも、これだけは負けてないって思うことが1つあるのよ?
私の愛の方が絶対に大きくて重いって。
どうかしら?
ふふ、もしかしたら、あなたも同じことを考えてるかもね?
やっぱり私たちはそっくりさんだ。
そっと、ひとりちゃんの手を取る。
繋いだこの手は離さない。
なにがあろうとも。絶対に。