ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」   作:ぼ喜多スキー

18 / 22
誤字報告ありがとうございます。

時間かかったけど、書けたので更新です。


(18)あなたの色に染まってた

 6月と言えば梅雨。

 天候が不安定で、天気予報もなかなかアテにならなくなる。

 最近はゲリラ豪雨なんて厄介なものもある。

 するとどうなるか?

 路上ライブがやり難くなるんです。

 屋根があるようなところは激戦区だし、急に降り出した雨で楽器を痛めるのは避けたいしで良いことなし。

 なので割り切って、オンラインライブを試してみることになったの。

 初めて聞いた時は、なんか凄そう!って思ったけど、蓋を開けてみればなんてことない。ひとりちゃんがやってるギターヒーローと同じで、録画した演奏をオーチューブに登録するだけだった。

 残念ながら結束バンドのオリジナル曲だけだと知名度が全然足りないから、弾いてみた系動画としてメジャーな曲も演奏しようと言う話になった。

 ドラマとか映画とかアニメの主題歌をやると再生数の伸びが良いらしいの。

 こういう媚びを売るようなのはリョウ先輩が嫌いなんじゃないの?って思ったけど、そんなことはなくて、むしろ全力で乗り気だった。

 

「メジャーな曲の隙間に結束バンドのオリジナル曲を挟む。するとどうだ?聞くつもりはなかった視聴者も自然と私たちの曲を流すことになるって寸法だ!」

「悪知恵だけは良く働くなぁ」

「なんとでも言って。聞いてもらえなきゃ勝負にもならないんだ」

「まぁ、そうだけどさ」

 

 なんと言うか。流石リョウ先輩。

 こと音楽にかけては真摯と言うか、本気と言うか、手段を選ばないと言うか……えっと……

 

「郁ちゃん、無理に上げようとしなくても良いと思います」

「あ、はい」

 

 ひとりちゃんの浮気センサーが怖い。

 えっと、浮気じゃないのよ?

 ただ、その、うーん……意欲的?違うな……そうだ、貪欲って言いたかったのよ!

 

「なるほど、確かにそうですね。あれくらいアグレッシブじゃないと売れないのかもしれません」

 

 流石は作詞担当。あっさり出てくるのね。

 それはともかく、オンラインライブに向けて練習が始まった。

 結束バンドのオリジナル曲以外を弾くのは初めてだから、ちょっと新鮮ね。

 ――私は、初めてなの。OK?

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 自分たちの曲を聞かせるための餌としてメジャーな曲を弾くことになったけど、リョウ先輩がそのままでいることをヨシするワケがない。

 当たり前みたいにアレンジを入れてきた。

 最初はこんなのもありだなって思える程度に、そのうちどんどん変えていって、ほとんど原曲の面影がなくなるほどに。

 そうやって聞いている側の違和感を操作して、いつの間にか聞いてるのは結束バンドの曲でした!って意識を誘導する作戦なんだって。

 いいのかな、そんなことして。ちょっと心配。

 まぁ、私は編曲とか出来ないし、曲に関してはリョウ先輩を信じるしかないんだけど。

 それに今はライブに向けて練習しないとね。

 

「ひとりちゃん、取り敢えず合わせてみよ?」

「そうですね」

 

 ギターヒーローの宅録部屋で、ひとりちゃんとセッションしてみる。

 うん。そんな難しい曲でもないわね。

 ……いや、難易度はそこそこあるはずなんだけど、普通に弾けるって言うか?

 あれ、私ってここまで弾けたっけ。

 

「郁ちゃん、凄く上手になってますね」

「そうなのかな?」

 

 なんか実感が湧かない。

 だってひとりちゃんの背中はまだまだ遠い。

 確かに技術は身に付いて来てるけど、ひとりちゃんみたいな凄みってものが私にはない。

 なんて言えば良いのかしら?

 うーん……そうね、軽いのよ。私の音って。

 

「郁ちゃん。郁ちゃんの音は軽いんじゃなくて、“軽やか”なんですよ」

「軽やか?やっぱり軽いんじゃない」

「すみません、言い方が悪かったですね。“軽快”って言えば伝わります?元気よく飛び跳ねるような感じです。性格が現れてるんですね」

「なるほど?」

 

 軽快かぁ。

 アップテンポの曲に向いてるのかしら?

 でもそう言うのって、結束バンドの曲にはないしなー。

 

「ところで、ひとりちゃん」

「はい?」

「私って、今どのくらいのレベルなのかしら?」

「そうですね……口で言っても伝わりにくいですし……」

 

 あーでもない、こーでもないと唸りながら、ひとりちゃんは弦を鳴らした。

 考え事をしながらとは思えない超絶技巧に息を呑む。

 天井を眺めながら眉を顰めた顔と、ギターを掻き鳴らしている手は別の人のものだと言われた方が納得出来そうなギャップ。

 手慰みにペン回しでもするかのような気軽さで披露される、曲にもなっていないフレーズの数々。

 思わず見惚れてしまいそうになる美しい運指。

 カッコいいなぁ。

 

「アレコレ悩んでもしょうがないですね。弾いてみましょう」

「あぁ、うん。結局そうなるのね」

 

 弾けば分かりますよ、なんて言ってひとりちゃんが始めたのは――

 

「グルーミーグッドバイ?」

「はい!」

 

 なるほど。

 この曲をどの程度弾けるようになったのか?

 確かに分かりやすい指標だわ。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 リョウ先輩がグルーミーグッドバイを完成させてから、はやいことでもう4ヶ月も経つ。私は未だにこの曲をマスター出来てない。

 今のところ個人パートをマスター出来ているのはひとりちゃんと伊地知先輩の2人だけ。

 リョウ先輩は、多分もっと出来るはずだって完成度を高めてるだけな気がするから、実質遅れてるのは私だけってこと。

 言い訳させてもらえるなら、弾くだけは出来るのよ?

 歌いながら弾けるほどの完成度じゃないだけ。

 うん。そこが問題なんだけどね……

 だから私はがむしゃらに練習しようと意気込んでたのよね。実家は普通のマンションだから、近所迷惑にならないように段ボールで被ってボイトレしたり、音が大きくならないように気を使ってたけど、この部屋は防音室があるから思う存分ギターを弾くことが出来るもの。

 だけど、それにストップをかけたのはひとりちゃんだった。いたずらに練習量を増やしても、怪我のリスクが増えるだけだって。

 ならどうするかって言うと、指のストレッチとかマッサージとか、基礎練を延々とやらされてたのよね。

 あとはいつもの、気分転換みたいに曲を弾く程度。難しいフレーズを練習するとかは一切なし。

 正直言って、最初は焦っちゃって、フラストレーションが溜まりまくった。もっと練習しなくちゃ上手くならないのに!って。

 そんな私をひとりちゃんは根気強く宥めてくれたっけ。

 大丈夫、急ぐ必要はない、基礎を積み重ねる時間は無駄にはならないって。何度も何度もキスしながら。

 ……キスすれば言うこと聞くとか思ってないでしょうね?

 

「あれ?」

 

 弾き始めて、すぐに違和感があった。

 指が軽い。ひとりちゃんの音が良く聞こえる。

 合わせるのが、凄く、楽。

 これなら歌いながらでもいける!

 

 

☆ ★ ☆

 

 

「出来ちゃった」

 

 あんなに苦労してた曲が、あっさりと。

 え?なんで?

 特別な練習とか全然してないんだけど?

 

「もう郁ちゃんには、この曲を弾くだけの実力はあったんです。自然体で弾くコンディションさえ整っていれば、大抵のメジャー曲は弾けますよ」

「そう、なんだ」

 

 実感は、まだ沸かない。

 なにか劇的な変化があったとも思えない。

 でも、初めて弾いたときは呼吸するのも辛いほど消耗してたのに、今は軽く弾きこなせている。

 そっか、これがひとりちゃんの教育方針なのね。

 中学の頃、ひとりちゃんは1日6時間ギターを弾いていた。

 普通に考えたら、いくらギターが好きだからと言ってもそんなに練習し続けることなんて出来そうにない。

 でも、練習だと思っていなかったとしたら、どうだろう?

 ハミングでも口遊むような、テレビでドラマを見るような、スマホでSNSを眺めるような感覚でギターを弾いていたなら?

 私だって、SNSでバズってるチャンネルをあちこち回っていると、いつの間にか時間が経ってた、なんてことはしょっちゅうある。友達とチャットしていたら朝になってた、なんてことも。

 ひとりちゃんにとって、それら全てがギターに置き換わっていたとしたら、1日6時間は、それほど非現実的な数字じゃなくなる。

 そして私は――今の私は、ひとりちゃんに合わせて、何かと言うとギターを弾いていた気がする。

 練習じゃなくて、ギターでひとりちゃんと戯れあってたのよね。

 そうやって、生活の中に自然と溶け込むほどギターを楽しんでた。ギターに寄り添っていた。

 練習しなくちゃと、義務のように、無理に弾いていたとしたら、とても辿り着けていなかった場所。

 

 それが、ギターヒーローの日常なんだ。

 

 よく考えたら練習って認識してなかっただけで、しょっちゅうギター弾いてたわ。

 ちょっと時間が空いたからギター。

 ひとりちゃんと遊ぶのもギター。

 テレビで流れたCMソングが気になったらギター。

 ギター、ギター、ギター!

 気が付いたらスマホを眺めてるよりギター弾いてる方が楽しくなっちゃってたんだもの。

 今や私も立派なギター中毒よ!

 そりゃギターを弾くのが習慣になってたら上手くもなるわ!

 

「自他認めるイソスタ中毒の私をギター中毒に染め直すとは、流石はひとりちゃんね」

「それほどでも?」

 

 まぁ、バンドマンとしては正しい姿なのかもしれないわね。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 忘れもしない、あの誕生日。それまでライフワークにしていたチャンネルを閉じたことも、ギターに専念出来るようになった原因のひとつだと思う。

 美容系チャンネルと勘違いするほど内容が明後日の方向にズレていた結束バンドのチャンネルも、今はしっかりバンドの広報チャンネルとして機能してる。

 練習内容とか、路上ライブの予定とか、ハコでのライブ予定とか、物販で売り出すグッズ類の紹介とか、ちゃんとバンド活動のことだけやってるしね。

 これはまぁ、伊地知先輩に怒られたからでもあるんだけど。

 我ながらアレはちょっと承認欲求に忠実すぎたわ。

 オンラインライブに向けた練習は順調に進んだ。ギターヒーローに染められ始めてる私が、ギターヒーローに教えてもらってるんだもの。当然よね。

 ギターヒーローのアカウントにもセッション動画を何本も上げてるけど、コメントも中々好意的。ギターヒーローのソロも上げて欲しいってコメントは、まぁ、少なくないけどね。

 そんなワケで、ギターの実力が上がってきたのを実感出来たから、ボイトレにも力が入る。

 ギターボーカルですからね。

 

「そろそろ合わせてみようか」

 

 リョウ先輩が言い出したのは、6月の中旬に入った頃。スタ練の帰りにカラオケ行こうかと話してて、ひとりちゃんとデュエットしちゃおうとか企んでる最中だった。

 

「そろそろもなにも、今日も合わせましたよね?」

「ライブの練習じゃなくて、グルーミーグッドバイだよ」

「あ、なるほど」

 

 ちゃんと歌いながら弾けるようになったって報告しましたものね。

 

「別に急ぐものじゃないけど、やっぱり合わせてみたい。その上でまだ調整が必要なのか確認したいし」

「リョウってば、喜多ちゃんが弾けるようになったって聞いてからそわそわしてたもんね?」

「あの曲は現時点で出来る最高傑作なんだよ。完成系をみたいって思うじゃん?」

「ま、気持ちは分かるよ。私だってやってみたいし!ぼっちちゃんと喜多ちゃんは同棲してるから、年がら年中セッションしてるみたいだけどさ?」

「えっと、まぁ、そんな感じです」

 

 いやだって、ねぇ?

 今更だけど、家賃とか食費とか諸々の生活費はひとりちゃんの収入で賄ってるのよ。

 私は掃除洗濯やご飯の準備なんかの家事全般をしてるんだけど、それってなんか、ひとりちゃんが旦那さんで、私が奥さんみたいよね!

 新婚さん、みたいな?

 えへへ。

 そんなワケだから、ひとりちゃんにはお仕事お疲れ様の気持ちでいっぱいなのね?

 だから、ひとりちゃんが大好きなギターを沢山弾かせてあげたくなる。それでいて2人ともギターを弾くのが大好きときたら、歯止めなんか効くはずもない。モデルの仕事を頑張ってるひとりちゃんに喜んでもらいたくて、求めるままにセッションしたり、2人で歌ったりしちゃう。

 イチャラブえっちも良いけど、ギターも気持ち良いからね。ちゃんと息が合った演奏が出来た時なんか、もう楽しくて嬉しくて気持ち良くて、もっともっと続けたくなるの。

 その上、動画を上げたら広告収入も入るしね。趣味と実益を兼ねた最高の時間なのよ。

 

「じゃ、やります?始めます?何時間くらいやりましょうか?」

「おぉっと、予想以上に前のめり。喜多ちゃんも大分ぼっちちゃんに染められてるね」

「うん。前は頑張ってるって感じだったけど、今は楽しくてしょうがないって感じ」

「あはは、ひとりちゃんと一緒に暮らしてると、そうなっちゃいますよ。気を付けてないと一日中ギター弾いてそうになります」

 

 そんな時は美智代さんから声がかかる。webカメラ様々だ。

 

「え、そこまで?」

「そうなんですよ。大好きなひとりちゃんと一緒にギターを弾いてるってだけでβエンドルフィンが――」

「おいおい大丈夫かね君たち!」

「なるほど、これは喜多がギターヒロインになる日も遠くないかもね」

 

 そうなれたら良いんですけどねぇ。

 ギターヒロイン、か。

 もしもそう呼ばれるようになったら、その時は、ひとりちゃんを支えられてるって、自信を持って言えるのかな。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 グルーミーグッドバイの合わせは中々上手く行った。

 私とひとりちゃんはずっと一緒にセッションしてたけど、伊地知先輩とリョウ先輩もセッションしてたんだって。

 やっぱり私を待っててくれたのね。ちょっと申し訳ない。

 でも、待った甲斐があったって言ってもらえたの。凄い嬉しい!

 

「喜多ちゃんの成長が半端ないねー」

「いやー、それほどでも?ありますかね?」

「どうしてぼっちちゃんが照れるのさ。まぁ、気持ちは分からないでもないか」

「あはは……」

 

 私が褒められてるのに、本人以上に喜んでるひとりちゃんです。

 恥ずかしいような、嬉しいような。

 でも良く考えたら、ひとりちゃんが褒められると私も嬉しくなっちゃうから、お互い様かな?

 

「この分なら次のライブではグルーミーグッドバイを出せる」

「そうですね、出来れば派手に宣伝したいところですけど」

「別に良いんじゃない?SNSでライブの告知する時に新曲あります!って言っとけば」

「はい、お任せくださいっ!」

「知名度を上げてから発表するか、それとも発表して知名度を上げるか。それが問題だ」

「サブスク上げたいねぇ」

「まだそこまでの知名度はない……仕方ないな、当面はオンラインライブで頑張ろう。路上ライブと違って場所が下北周辺に限定されない分、宣伝効果は高いはず」

「同じ理由でライバルも多いけどね」

 

 ライバルかぁ。

 そう言えば同年代のガールズバンドって、SIDEROSしか知らないな。

 どれどれ、他にはどんな子達がいるのかな?

 教えてgoogle先生!

 

「ふーん?『ケモノリア』と『なんばガールズ』ね」

 

 SIDEROSもだけど、結構話題になってるバンドみたい。私達が出なかった未確認ライオットにもエントリーしてるのね。

 試しに動画サイトに公開されてる曲をひとりちゃんと視聴してみる。

 ふむふむ……

 ふーん?

 なるほど?

 

「ねぇ、ひとりちゃん?」

「はい」

 

 確かに活躍してるって情報通り、上手い。

 去年の私だったら、とても敵わないって凹んでたかもしれない。

 でも、今は違うわ!

 

「私達、負けてないよね!」

「あはは、なに言ってるんですか、郁ちゃんったら」

 

 ひとりちゃんも。

 ライブの時に魅せてくれる、あの青い焔を宿した瞳で傲慢に笑ってくれる。

 

「余裕で勝ってますよ」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。