ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」   作:ぼ喜多スキー

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ぼ喜多が高校二年七月のエピソード。



(19)君のための涙

 桜ノ宮芸能事務所からプロモーションムービーの制作依頼が来た。

 今度は七夕をイメージしてくれ、だって。

 実はもう1号さんと2号さんには絵コンテの依頼が行ってて、完成してるんだとか。これ断れないヤツだ。

 いや、ぼっちちゃんのお仕事に関わることだからさ、最初から断るなんて選択肢はないんだけどね?

 こっちの動きを完全に把握した上で時間が取れるのを見越してやってるところが、なんかこう、モヤるなぁ!

 

「あの、ごめんなさい、うちのお姉ちゃんが……」

「いや、ぼっちちゃんが謝ることじゃないよ。確かに結束バンドは長期的なスケジュール組んで計画的に動いてるワケじゃないしね」

 

 バイトのシフトはともかく、バンド活動の方は結構行き当たりばったりなんだよね。

 ライブの予定も特にないし、まだ梅雨明けしてないから路上ライブの予定もない。オンラインライブの撮影はちょうど終わったところ。絵コンテは出来上がってるから、撮影にかかるのは2、3日ってとこだから、期末テストに向けた勉強にも、そんなに影響しない。『暇でしょ?』なんて声が聞こえて来そう。

 それに、PMを作ればバンド活動予算も一気に潤うし、知名度も上がる。こっちの得になることばっかりなんだよ。

 

「一応みんなの意見も聞くけどさ、どうよ?」

「やる。ちょうど欲しいアンプがある」

「このお話だと、私は依頼する側なので」

「喜多ちゃんは?」

「絵コンテ見せてください」

 

 あれ、てっきりすぐに賛成するかと思ったんだけどな。

 でも、どんなムービーなのかはあらかじめ確認しときたいよね。

 なので預かってた絵コンテをみんなで見てみる。

 

「なるほど、現代風にアレンジしてるんだね」

「所々中華風の衣装を着て、過去と現代を切り替えて見せるんだ」

「……」

「郁ちゃん?」

「やっぱり彦星役がいるんじゃないですか!七夕って聞いて嫌な予感してたんですよ!私は絶対反対ですっ!」

 

 あー、うん。なるほど納得。

 絵コンテにはしっかり織姫と彦星が抱き合ってるシーンが入ってる。流石にキスシーンとかはないけど、恋人がそんな演技してるとこは見たくないよね。

 

「あの、郁ちゃん」

「なによ!」

 

 これでぼっちちゃんのお仕事が舞台俳優だって言うなら、男の人とハグするのだって仕事のうちだーってなるんだろうけど。ぼっちちゃんはモデルであって、役者じゃないしね。

 うーん。喜多ちゃんがこの調子だと、残念ながら――

 

「実は彦星役を郁ちゃんにお願いしたくてですね……」

「賛成!やりましょう!大事なお仕事ですから!」

 

 ――この子の手首は電動ドリルにでもなってるのかな?

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 喜多ちゃんの華麗な手のひら返しで、PM制作の依頼を受けることになった。ホント、この子は自分の欲望に正直だよね。羨ましいくらいに。

 メールで送られてきた契約書に電子印を捺して、ペンタブでサインを入れたのを返信したら契約成立。便利な世の中だ。

 

「恋人でバンドメンバーの子が両親の仕事の都合で転校することになって離れ離れになる。でも夏休みみたいな長期休暇を利用して会いにくる。これを七夕に見立ててるんだね」

「高校を卒業したら同じ大学に入ってルームシェアしようとか、ちょっと無理ない?」

「いいじゃないですか、ロマンチックで!」

「高校生なのに現在進行形で同棲してる子がなんか言ってるね」

「あ、うちはちょっと事情があるので」

「ぼっちちゃんの収入が高校生離れしてるからね……」

 

 現実的に考えると、大学生の一人暮らしなんて親の仕送りなしで出来ることじゃないもんなぁ。

 ぼっちちゃんたちの場合だって、ギターヒーローの広告収入と火鳥の給料の2つがなかったら無理だったんだし。

 ま、フィクションなんだし、良いか。

 

「問題はバックで流す曲だね。今回も星座の曲にしちゃう?星繋がりだし」

「それじゃ芸がないよ」

「でも離れ離れになった恋人たちのイメージに合う曲なんて結束バンドにある?」

「そもそも私達はラブソングなんてやってない」

「……グルーミーグッドバイはどうでしょう?」

「合ってるような、合ってるないような?」

「陰鬱なパートを恋人との別れや会えない時間って考えればワンチャン?」

「希望が見えて来たパートは恋人との再会なのね!」

「えと、ピンポイントで七夕を狙った曲も、他に合いそうなのもありませんし……」

「ふっ、思ってたより派手なお披露目になりそうだ」

「望むところだよ!なら、バックミュージックはグルーミーグッドバイで良い?」

「賛成です!」

「異議なし」

「あ、はい」

 

 こうして、どうお披露目しようか迷ってたグルーミーグッドバイが表舞台に出ることになった。

 火鳥の人気に便乗するのは卑怯っぽい気もするけど、これは万単位の人たちに私達のロックを見せ付けるチャンスでもある。見逃す手はない!

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 グルーミーグッドバイはギター組の2人による掛け合いと、それに伴うボーカルの切り替えとハモリ、更にリズム隊がコーラスに参加すると言う、豪華な曲だ。

 最初はそんな予定はなかったんだけど、ぼっちちゃんが喜多ちゃんと一緒にボイトレしてるって話を聞き付けたリョウがねじ込んで来たんだよね。

 案の定、ぼっちちゃんは必死に抵抗して、リョウと私も歌に加わるならって交換条件を出して来た。

 リョウは元々コーラスに入ってるけど、私まで巻き込むとは……ぼっちちゃん、どれだけ嫌だったのさ。

 そこまで嫌なら止めておこうかって言おうとしたら、リョウが勝手にOKしちゃうし、喜多ちゃんは大喜びするしで、結局は流されちゃったんだよね。

 そんなワケで、喜多ちゃんたちが使ってるボイトレアプリを私も入れて練習するハメになったんだけど、やってみたら楽しくて、これはこれで良かったよ。うん。結束バンド全員で歌に参加するってのも、結束力ある感じで気に入った。

 ただ、まぁ、ステージ上でやると、まるでギター組がいちゃついてるようにしか見えないと言うのがちょっと、ね。

 リョウのヤツ、これも狙ってたに違いない。

 

 さて、今回のPMは前と違ってエキストラを呼ぶ必要がなかったから、そんなに時間を掛けずに済んだ。

 初めて聞くグルーミーグッドバイに1号さんと2号さんが感激してくれたのは、やっぱり嬉しかったね。なんだかんだ言って第三者がいる状況で演奏するのは初めてだったし。

 ぼっちちゃんが心配してた初ボーカルも好評だったよ。2号さんが失神しかけるくらい。

 

「ひとりちゃんの初ボーカルが聴けるなんて……!」

「しっかりして2号〜!」

 

 あと、相変わらず別人みたいに役を演じるぼっちちゃんには度肝を抜かれてた。特にドンピシャのタイミングで涙を流せるのは本職の役者さんでも難しいことらしい。

 喜多ちゃんの話だと、相当無理してやってるそうなんだけどね。モデルの仕事ってそこまでしてやらなきゃダメなの?

 

 ストーリーパートのラストは、私とリョウが待ってるステージに向かって、舞台袖から2人が手を繋ぎながら歩いていくシーンで〆。

 引っ越しで活動停止していたバンドの復活を思わせるところで終わる。

 2人にとってバンドメンバーは第2の家族で、光り輝くステージこそが帰る場所なんだって感じだね。良いんじゃない?

 

 ちなみに喜多ちゃんは顔が映らないようにアングルを調整してるけど、見る人が見たら一発でバレるよね、コレ。

 まぁ、2人が恋人だってのは公然の秘密だしね。今更かな。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 撮影が終わったら、後は1号さんと2号さんに全部丸投げになる。

 私達で何か出来るようなこともないから、一本の動画になってくるのを待つだけだ。

 ちなみに今回はバックミュージックをレコーディングスタジオで録させてもらった。経費で落ちるのって良いよね……

 音源データは好きにして良いって許可をもらったから、これでシングルCDも出せちゃう。物販が潤うね!

 

「そんなこんなで完成したのがこちらです!」

「おー」

「なんかドキドキしますね!」

 

 ぼっちちゃんは緊張してのか目を閉じてるけど、他のみんなは興味深々だ。

 ……なるほど、ぼっちちゃんが気にしてるのはPMの出来じゃないんだね。なら、確かめてみると良いよ。

 再生ボタンをクリックして動画をスタートする。

 軽快なリズムと重厚なリードが戯れ合うように絡み合う。慣れないながらも精一杯に張り上げたボーカルには、確かな感情が乗っていた。

 大丈夫だよ、ぼっちちゃん。グルーミーグッドバイは良い曲だ。結束バンドが誇る最高傑作だ。

 私達はこれから幾つもの曲を作っていくだろうけど、この曲は忘れられない一曲になるって確信がある。

 

「とっても素敵ね!――って、どうしたの!?」

「あはは、なんでもないですよ」

「なんでもないのに泣かないでしょ!」

 

 ようやく気付いたね、喜多ちゃん。

 ダメだよ、ちゃんと見ててあげないと。

 幾ら前より前向きになったとしても、根っこの部分はそんな簡単に変わらないんだからさ。

 それに――

 

「これは、ただ、嬉しいだけなので」

「嬉し涙?」

「……はいっ」

 

 そうだよ。

 その涙は喜多ちゃん、君のための涙だよ。

 だって、どれだけの人が信じるだろう?これだけ高い技量を持つギターボーカルが、ギター歴1年ちょっとだなんてさ。

 そりゃ、ずっと育てて来た師匠としては感無量でしょ。

 動画をリピートして、改めて曲を聞いてみる。

 うん。これは凄い。喜多ちゃんの力量は中3時代のギターヒーローに並んでる。

 ギターヒーローのガチファンが言うんだから間違いないよ?

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 嬉しそうに泣くひとりちゃんを見て、自分がパニックになるのが分かった。

 なにコレどういうこと?

 ひとりちゃんはたまに変なことをするけど、それには彼女なりのロジックがある。大抵は自虐で、それ以外はウケを狙った大滑り。

 でもこれは違う。

 ひとりちゃんは喜んでる。

 何に?

 分からない。

 悔しい。

 

「ひとりちゃ――!?」

 

 分からないなりに、どうしたのか聞こうとして、キスされた。抱きしめられた。

 あぁ、これは私のことだなって、ようやく分かる。

 情熱的な、ひとりちゃんとしては珍しい荒々しいキス。目の裏でパチパチと火花が散る。舌が入って来て、口の中が蹂躙される。舌と舌が擦れ合うたびにゾクゾクして、頭の中が真っ白になった。

 

「――っ!」

 

 欲しい。ひとりちゃんが、もっと欲しい。深く差し込まれた舌は、まるで頭の中を優しく撫でているようで、身体の芯まで熱くなる。

 

「ふぁ……」

 

 酸欠になる寸前で解放されたけど、そんなことはどうでも良くて、霞んだ視界の中にいるひとりちゃんをもっと良く見たくて、今度は私の方から――

 

「いい加減にしなさいっ!」

 

 伊地知先輩に止められた。

 なんですかもう。

 恋人との甘い触れ合いを邪魔すると馬に蹴られますよ?

 

「そう言うことは2人っきりのときにしなさい!」

「あ、はい」

「そうですね。すみません。と言うワケで帰ります!」

「帰るなー!」

 

 ダメですっ!

 こんな積極的になってるひとりちゃんはレアもレア!

 SSRを超えてLRなんですよ!?

 今しか出来ないことがきっとあるんです!

 

「落ち着いて!取り敢えずそのぼっちちゃんを入れてるキャリアケースから手を離そう?って言うかそれどこから出したの!?ぼっちちゃんはなんで流れるようにキャリアケースに入ってんの!?あーもーツッコミが追いつかないっ!」

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 結局、ひとりちゃんを連れて愛の巣に帰るのは阻止されてしまった。Goddamn!

 

「落ち着いた?」

「えぇ、まぁ」

 

 落ち着いてません。

 

「それで、何するんでしたっけ?早く済ませましょう。即急に」

「PMの確認だよ!なんで私が悪いみたいになってんの!?」

「あ、内容はこれで良いと思います。喜多ちゃんの顔バレもありませんし、私からは言うことないです」

「わざわざレコーディングスタジオで録っただけあって音も良い。PMだからぼっちの露出が多めだけど、MVでも通用するね。良いんじゃない?どうせ最終判断するのは事務所なんだしさ」

「私もひとりちゃんが可愛く撮れてて大満足です!」

「……はいはい、私も見たけど、文句の付けようがなかったよ」

 

 なんかこう、もうちょっと和気藹々と盛り上がりたかったなぁ……って伊地知先輩が凹んでる。

 ごめんなさい!

 でも、色気満載なひとりちゃんを前にしたら我慢なんか出来っこないんです!

 

「虹夏、今回はタイミングが良くなかっただけ。また別に時間取って試写会やろう?」

「……うん、そうしよっか」

「虹夏ちゃん、ごめんなさい」

「あはは、いーよー、ぼっちちゃんの気持ちは察しが付くからさ」

「えへへ……」

 

 む、リョウ先輩に続いて伊地知先輩までひとりちゃんと分かりあってる!

 

「ぼっち、今日はもう良いから発情期になってる喜多を連れて帰って」

「あ、はい」

「はい、発情期です!」

「そこは否定しよ!?」

 

 いや自分でも女子高生らしくないなって思ってるんですけどね?

 なんかもう、滾ってて辛抱出来ないんです。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 帰宅してすぐさまお風呂。

 ちなみにお風呂掃除は毎日湯上り後にスプレーでやってる。お湯貼りする前に掃除するってワンクッションがいらないからオススメ。

 ひとりちゃんを後ろから抱きしめながら湯船に浸かってると、ちょっと冷静になってきた。

 ひとりちゃんはどうして泣いてたのか。

 私の何がそんなに嬉しかったのか。

 ひとりちゃんの首筋をペロペロしながら考える。

 片方だけで2キロオーバーもあるボリュームたっぷりな富士山をこねこね。

 山頂付近を敢えて外してギリギリを撫でていると、ひとりちゃんが切なげな声でリクエストして来たので、そこには触れず、日本海溝に深海調査艇を侵入させる。

 

「――っ!」

 

 丹念な地質調査が功を奏したのか、ほんの僅かな刺激で海底火山が噴火してしまった。連鎖的に起きる噴火で日本沈没するひとりちゃんを抱き締めながら、私はリクエストされていた富士山の山頂調査を開始した。

 

「っ!?」

 

 積乱雲に誤って突入した小型飛行機が嵐に翻弄されてるみたいなひとりちゃんは息も絶え絶えだけど、まだ試合は始まったばかりなので頑張って欲しい。

 今度は白くなだらかなゲレンデを指先がウェーデルンすると、ひとりちゃんはたまらず振り返ってきた。

 好都合なので、ひとりちゃんのさくらんぼを美味しくいただいた。今年も豊作でなりよりです。

 だけどここでひとりちゃんが完全にダウンしてしまった。

 大分改善してきたけど、まだまだスタミナ不足は否めません。

 今後もしっかりと鍛錬を続けなればなりませんね。

 

「郁ちゃ……」

「ご、ごめんね?ちょっと調子に乗りすぎちゃった」

 

 結局その日、へそを曲げたひとりちゃんから話を聞くことは出来ませんでした。

 何事もやり過ぎは良くありませんね。

 

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