ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」   作:ぼ喜多スキー

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ぼっちと喜多ちゃんは高2
虹夏とリョウは高3
それぞれが夏に思うこと

高3の夏って言うと、卒業に向けてナーバスになったりしますよね。



高2の夏と高3の夏

 期末テストを乗り越えると、待ち望んでいた夏休みがやってくる。

 テストと言えば去年は大変だったひとりちゃんだけど、中学からやり直した勉強が功を奏して成績は大分持ち直した。なんと赤点の心配をする必要がなくなったの。後藤家両親の喜びようときたら狂喜乱舞じゃ足りないくらいで、ひとりちゃんが引いちゃうほどだったと言えばその一端くらいは察せると思う。

 結束バンドの活動はと言うと、梅雨は明けたけど、今度は猛暑や熱帯夜が邪魔になって、路上ライブはあんまり出来てない。オンラインライブはやってるけど、やっぱり路上ライブみたいにお客さんが間近にいる環境で演奏するのは舞台度胸を付けるには持ってこいだから、何回かはやってるけどね。

 

「郁ちゃん、お話があります」

 

 ひとりちゃんが神妙な顔で切り出してきたのは、8月に入って間もない頃だった。

 ちなみに私は昼食のソーメンを啜ってるところで、出来ればもうちょっとタイミング考えて欲しかったな、なんてぼんやり愚痴った。

 

「どうしたの?」

 

 ソーメンを飲み込んでから、こてんと首を傾げる。

 

「写真集を出すことになりました」

「……へ?」

 

 写真集とは、写真ばっかり載ってる本のこと。いや改めて言うことじゃないわね。

 問題はそこじゃなくて、ひとりちゃんが写真集を出すってことよ。

 今まで「私は読モ」と言い張ってたひとりちゃんも、さすがに年貢の納め時ってことで観念するときがきたのね。

 どこの世界に写真集を出す読モがいるってのよ。これもう本職のモデルでしょ。

 

「なんかリクエストが凄いらしくて、断り切れませんでした……」

 

 しょぼんとしてるひとりちゃんも可愛い。

 ん?でも変ね?

 ひとりちゃんってばモデルの仕事は疲れるし大変だけど、嫌がってはいなかったんだけど。雑誌に載ると写真集じゃ違うのかしら?

 

「写真集作るのって大変なの?」

「写真を撮るのはいつものことなんですけど、今回は量が多いと言うか、日本中あちこちを回って撮影旅行だそうで」

「へー、すごーい」

 

 海外は全力で断りました、とひとりちゃん。

 そうね、ひとりちゃんも英語の成績は上がってきてるけど、ネイティブと会話できるかって言うと話は別。私だって自信ないし。

 

「長々とやるより夏休みの間に撮影を終わらせた方がバンド活動への影響が少なくて済むだろうってことで、北海道から沖縄まで、ほんっとにあちこち連れ回されるみたいです」

「え、それじゃ夏休み中は?」

「ライブとかスタ練とか、時間が取れそうにないんです。ごめんなさい……」

「そこまで!?」

 

 沖縄から始まって、日本各地の観光名所で撮影しながら北上するんだって。

 ん、沖縄?

 

「ひとりちゃん、もしかして、水着もあるのかしら?」

「あ、はい」

「私も行く!」

 

 絶対付いてくから!

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 ぼっちちゃんが写真集のための撮影旅行に出かけて、喜多ちゃんはそれに付いていった。

 私たちも一緒にどうかって声をかけてもらったけど、残念ながらSTARRYのバイトと受験勉強があるので断った。バイトと言えば喜多ちゃんもなんだけど、あの子の場合はぼっちちゃんのお世話って名目があるからね。お姉ちゃんがOK出したんだよ。リョウはそもそもアウトドアを楽しむタイプじゃないから断ってたけど、お土産のお強請りだけはしっかりしてたね。ぼっちちゃんは苦笑いしながら宅急便で送るって約束してくれた。

 

「今頃は沖縄で水着撮影かな?」

「ぼっちがモデルじゃなかったら絶対my new gravureしてたのに。もったいない」

「またそんなこと言って。でも、ぼっちちゃんの水着かぁ……あ、喜多ちゃんからロインだ」

 

 どれどれ、ぼっちちゃんの写真かな?

 

「うわぁ、これ成人指定されたりしないよね?」

「色白のぼっちが白のビキニ着るとシャレにならないね」

 

 SUGOI DEKAI……!

 分かっちゃいたけど、水着になると破壊力がとんでもない!

 麦わら帽子と白ビキニ。文字にすると健全なのに、写真になると不健全なことこの上ない。これでまだ16歳なんだよなぁ。

 ホントこれ大丈夫?この写真持ってるだけで児童ポルノ禁止法に引っ掛かったりしない?

 

虹夏『児ポ法注意』

喜多『大丈夫です。普通の水着写真です。これを不健全だと感じる心が不健全なんです』

 

 なんかどっかで聞いたような言い訳だね。

 まぁ、確かに?布面積がやたらと狭いなんてことはなくて、デザインそのものは普通のビキニなんだよね。飾り気がないって言うの?フリルとかリボンとかは一切なし。ただ、ボトムには両脇を紐で結んであるように見せ掛ける飾り紐があった。これはお約束みたいなものだからね。

 

喜多『撮影終わって別荘に帰ってきました』

 

 ロインの追加だ。

 写真も付いてる。

 ぼっちちゃんは相変わらず撮影の疲れでヘロヘロになってるみたいで、白ビキニのままベッドの上で青息吐息だ。

 仰向けで寝てるのに富士山の標高が高いままなのが驚異的。脂肪なんだからもうちょっと形が崩れても文句は出ないと思うよ?……じゃなくて、白かった肌が赤くなってる。日焼け止めはしてたんだろうけど、沖縄の日差しに勝てなかったのかな。

 

喜多『ひとりちゃんってすぐ赤くなっちゃう代わりに日焼けで黒くならないんですって』

 

 黒って言うか、小麦色?

 健康的な日焼けはしないタイプなんだね。

 それはそれで大変らしいけど。

 赤くなるのって、軽度の火傷だから。

 ……あれ、去年はそんな話にならなかったような?

 あぁ、そうか、長袖のジャージ着てたもんね。

 

喜多『これからひとりちゃんのスキンケアします!』

虹夏『程々にね』

 

 放置すると危ないらしいからケアは大事なんだけど。

 なんか喜多ちゃんが言うと別の意味で心配……

 

 

☆ ★ ☆

 

 

「夏を満喫してるなー。去年、江ノ島に行ったのが懐かしいよ」

「あの夏休み中ずっとハブられて落ち込んだぼっちを励ます会ね」

「言い方ぁ!」

 

 その通りだけど!

 でもなぁ、なんて言うか、ホント、懐かしいよ。

 あれからもう一年も経ったんだ。

 階段登るだけで疲れ切ってヘロヘロになったり、トンビに襲われてボロボロになってたぼっちちゃんが、今や写真集を出すための撮影旅行だよ?去年の私たちにそんなこと言ったって、冗談どころか頭の心配されるよね。

 

「それより、受験勉強の方はどう?」

「うん、まぁ、ぼちぼち。そんなレベルの高いとこ目指してるワケじゃないしね」

 

 これでも成績は良い方だ。今は過去問を延々と解いてるところ。もうちょっとしたら予備校の夏合宿にも参加する予定。ここまでやれば、まぁ、大丈夫でしょ。A判定ももらってるし。

 とは言え、これも勉強に割く時間が十分に取れてたからなんだけどね。前に喜多ちゃんが言ってた未確認ライオットにエントリーしてたら、もうちょっと大変だったろうな。

 

「リョウはフリーターだっけ。STARRYでバイト続けるの?」

「うん。ここなら多少の融通が効くしね」

「融通ねぇ……」

「ちゃんと働く」

 

 いつまで親の脛を齧ってるつもりなんだか。親孝行、したいときには親はなし。さりとて――って言うでしょ。

 うちはお母さんがいなくて、お父さんは海外に単身赴任だからさ、お姉ちゃんが親代わりみたいなもんなんだけど。それでもお父さんが何もしてないってワケじゃない。たまに連絡くれるし、STARRYの開店資金を援助してくれてたり、私の生活費や大学に行く学費とか出してくれてるんだよ。親って、本当にありがたい。

 そんな私からすると、リョウがご両親から距離を取りたがってるのは、なんとも言えない気分になる。

 いつまで甘えてるつもりなんだか。

 高校卒業まで、あと半年ちょっと。子供でいられる時間は、もう残り少ない。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 私は音楽でしか生きていけない。ぼっちみたいに別の稼ぎがあるワケじゃない。

 それを自覚した時、薄ら寒い思いに駆られたのを覚えている。

 過保護に甘やかされるのを嫌がってるくせに、小遣いだけはしっかり貰ってる自分がどれだけ甘ったれたガキなのか、高校卒業が迫ってきている今になってようやく気付いた。

 このままじゃダメだと思っても、どうすれば良いのかさっぱり分からない。

 好きな音楽だけやっていたいけど、それだけで生きていけるほど世の中は甘くない。

 18歳の小娘が、たった一人で社会に放り出された時、どうすれば生きていけるのか、全く想像も付かない。

 結束バンドが有名になって、音楽だけで食っていけるようになる?

 そんな夢みたいなことが現実にありえる?

 ……いや、夢じゃない。目標だ。

 どの道、私には音楽しかないんだ。

 結束バンドに人生をかけるしかないんだ。

 なんとかして、結束バンドで売れるまでの時間を稼がないといけない。

 STARRYでのシフトを多めに入れるくらいしか思い付かないのが情けないけど、働いて金を稼いで、空いた時間を音楽に注ぎ込もう。

 ぼっちみたいに弾いてみた動画で広告収入に期待するのも、挑戦してみるか。ギターヒーローほどになれるか自信はないけど、やれるだけやってみよう。

 

「卒業か……」

 

 未来への不安が重く伸し掛かる。

 普通ではない道を選んだ代償に、胃が悲鳴を上げるのを感じた。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 先輩へのロインでは軽い口調で言っておいたけど、ひとりちゃんは全身真っ赤になってるのよね。早く気付いて良かった。

 ひとりちゃんに冷水シャワーを浴びてもらって肌の火照りが抜けるまで熱を下げた後、薬用ローション、保湿クリームの順に全身にくまなく塗りたくる。

 下手をすれば水脹れになるから、なるべく低刺激のものを選んできた。

 

「大丈夫?痛くない?」

「はい、ヒリヒリもしてないですし、まだ色が変わっただけっぽいですね」

 

 これまで海水浴とかプールとか行ったことがなかったひとりちゃんは、自分の体質にも無頓着だったらしい。

 こんなになるなんて、家族はおろか本人すら知らなかったんだって。

 

「応急処置が済んだら一応病院で診てもらいましょう。撮影旅行を続行するかどうかは、それで判断するわ」

「ごめんね、お姉ちゃん……」

「謝るのはこっちよ。ごめんなさい、せめて沖縄に来る前に確認しておくべきだったわ」

 

 日焼け止めはしっかり塗ってたんだけど、沖縄の紫外線が想像以上に強かったのか、それともひとりちゃんの体質の問題なのか、びっくりするくらい全身真っ赤になってる。心臓に悪いことこの上ない。

 その後、皮膚科のお医者さんに診てもらって、心配するほどじゃないって言われた。

 ひとりちゃんの肌が弱いのもあるけど、やっぱり沖縄の日中は紫外線が強いそうで、たまにこういう観光客がいるらしい。

 とにかく、跡が残らなくて一安心ね。

 

 ちなみにひとりちゃん肌は一晩寝たら回復して、写真は夜に撮ることになった。

 月明かりの下で海辺に佇むひとりちゃんは神秘的で、まるで月の精霊みたい。

 白ビキニよりヒマティオンの方が似合いそう。

 

「……冴えてるわね。手配しましょう」

 

 もちろん、次の夜に撮った。

 柔らかいドレープが出来るように色々と細工してるから、本来のヒマティオンとは違うんだろうけど……

 ごめんね、ひとりちゃん。精霊じゃなくて女神だったわ。

 やっば!

 綺麗なんてもんじゃない!

 露出は減ってるのに逆にえっちになるってどう言うことなの!?

 胸の形が出るようにって霧吹きでちょっと濡らしてみたり、生地そのものが薄いレースっぽかったりしてるせいかな、もう、凄いのよ!

 こんな女神さまがいたら入信しちゃう!

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 ひとりちゃんが日差しに弱い体質だってことが分かったから、これまでより一層日焼け対策を厳重にすることになった。

 あんな真っ赤になってるひとりちゃんなんて二度と見たくないからね。

 少なくとも沖縄にいる間は露出NG!

 夏らしい装いとか見てみたい気持ちはあるけど、ひとりちゃんの健康には代えられない。

 観光したい気持ちはあるけど、ひとりちゃんが一緒じゃないなら意味なんてないから、もっぱら部屋でゴロゴロしたり、宿題を片付けたりした。

 桜ノ宮家が持ってるプール付き別荘だから、夕方にはのんびりと泳いでる。

 すぐ近くに海があるのにプールで泳ぐって、なんか変な感じよね。真冬に暖房を効かせた部屋でアイス食べるような贅沢感があるわ。

 大きなドーナツ型の浮き輪に乗っかって、ぼんやり月夜を眺めてるひとりちゃんは、濡れた髪が白い肌に張り付いてるのも手伝って、凄いエロっぽい……じゃなくて色っぽい。

 実はおしりが抜けなくて困ってただけらしいんだけど。

 

「そう言うことは早く言いましょ?」

「あまりにも情けなさすぎて……」

 

 泳げないなら浮き輪を使えば良いじゃない!って言ったのは私だけどね?

 まさかそんなことになってるなんて知らなかったから、綺麗なひとりちゃんを堪能してたのよ。色んなアングルからパシャパシャ写真撮ってたら、涙目で助けて……なんて言ってくるらからビックリしちゃった。

 

「郁ちゃん」

「ん?」

「こうやって水の中で抱き合ってるのって、なんか不思議ですね」

「そうね」

 

 冷たい水の中で、ひとりちゃんと触れ合ってるところだけが熱い。

 真正面から抱き合ってるから、クッションの存在感が凄い。ゴム毬みたいな弾力。くっついたり離れたりしてみると、ぽよんぽよんと形を変えながら弾んでみせる。うーん、人体の神秘。今度は左右にスライドしてみると?おぉ、すりすりっとしながらもコリっとした感触が――

 

「なにしてるんですか?郁ちゃん」

「ちょっと待って。ひとりちゃんの生態詳しい喜多博士として非常に興味深い反応が……あむっ」

 

 話してる途中でキスされた。

 あれ、ちょっと目付きが変わったような?

 

「なるほど。なら私も郁ちゃんの生態に詳しい後藤博士として、しっかりと研究しないといけませんね?」

「え?あの、ひとりちゃん?」

「まずは小さいと感度が良いという都市伝説が本当なのか、確かめてみようと思います。協力してくれますよね?」

「あの、もしかして、怒ってる?」

「怒ってませんよ?」

「……」

 

 その晩、めちゃくちゃ確かめられた。

 

 

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