ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」 作:ぼ喜多スキー
今回はぼっちと喜多ちゃんがお互いに着せるメイド服をどうしようかとアレコレ考えてるだけのお話。
今年も文化祭の季節がやってきた。
去年の文化祭では結束バンドでライブに出たけど、今年はどうしようかと頭をひねる。
自分に自信がないひとりちゃんを何とか元気づけたい……と言うか、ひとりちゃんのカッコいいところをみんなに見て欲しくて申し込んだのが去年のこと。
なら今年はどうかってことよね。
正直なところ、「可愛くてカッコいい私の恋人を見せつけたい」って気持ちと、「そんなの勿体ない」って気持ちが半々なのよね。
ひとりちゃんが可愛くて奇麗でスタイル抜群で人のことを良く見ていて優しくてギターの腕前がプロ級でピンチのときは助けてくれる頼りがいがあってカッコよくてモデルとしての人気も凄くてちょっと前に発売した写真集は既にミリオンセラーで恥ずかしがり屋なのにキスが大好きでハグすると柔らかくて温かくて気持ち良くて私と将来を誓い合った最高の恋人なのは変えようがない確定的事実なんだから別に文化祭でライブしなくても良いんじゃない?って思っちゃうワケですよ。
ひとりちゃんがライブしたいって言うなら別だけどね。
でもひとりちゃんは優しいから、受験勉強で忙しくしてる伊知地先輩を駆り立ててまで文化祭ライブに出たい!なんては言わないんじゃないかしら。
そんなことをぼーっとしながらLHRの時間、つまり文化祭の出し物を決めるクラス会の最中に考える。いつもの私だったら、どんな出し物になるかしら!ってワクワクしてただろうけど、今年はもう決まりきってるからね。
『メイド喫茶』
黒板にデカデカと、たった1つだけ書かれた候補。1つだから候補もなにもあったもんじゃないわね。
まぁ、つまり、合法的に生火鳥を鑑賞出来る機会が欲しい!ってリクエストが押し寄せてきたのよ。
『生火鳥』って、もうちょっと他に言いようはなかったのかしらね……
「そう言うワケで、後藤さん、宜しくお願い致します!」
「あ、はい」
クラスメイトのほぼ全員から深々と頭を下げられては、流石のひとりちゃんも観念するしかなかったの。
去年のひとりちゃんだったら絶対「むむむむむ!」ってヘドバンして断ってただろうけど、写真集を出したことでモデルとして一皮剥けたのかしらね。
ちなみに具体的になにをするかって言うと、メイド服は着るけど接客も客寄せもナシ。ただ教室でギター弾いたり私とまったりしてるだけで良いんだって。下手にファンサとかすると大騒ぎになるから。
まぁね、火鳥と握手会とかサイン会とかツーショ撮るとかになると事務所の許可が必要になったりして大変だからね。しょうがないね。
見せ物みたいに……って言うかまんま見せ物にされるひとりちゃんには悪いけど、これも青春の1ページってことで。
☆ ★ ☆
バイトが終わってウチに帰ると、何故か美智代さんとお母さんがリビングでお茶してた。ワケ分かんない。
「話は聞かせてもらったわ」
「むしろこっちが聞かせて欲しいんだけど。どうしてここにいるのか」
「文化祭でメイド喫茶するんですって?」
「その情報をどこから仕入れてきたのかも是非聞きたいわ」
「佐々木さんとこの奥さん」
「あぁ、なるほど」
さっつー経由か。
ご近所だもんね。
「でもそれがどうしてウチに来ることになるの?」
「メイド服作るんでしょ?手伝おうと思って」
持ってきたらしいミシンをポンポンと叩いてみせるお母さん。言われてみれば、ウチってミシンは置いてなかったわ。
と言うか、ミシンなんて小学校時代に家庭科で習ったっきりよ。
昭和の時代ならともかく、現代でミシン使って服を作るなんてことするのは趣味でコスプレする人くらいなんじゃない?
だから文化祭でメイド喫茶をするって言っても、既製品のメイド服を買ってくるって方針なのよ。ピンキリだけど、拘らなければそんな高くもないし。
「へぇ?そんな安物を恋人に着せて満足しちゃうの?」
「へ?」
「ひとりさんに自分好みのメイド服を着せられる絶好の機会だって言うのに、そんな簡単に放り出しちゃうとはね。どうやら私は自分の娘を買い被っていたみたいだわ」
なん……だと……?
「まぁまぁ、郁ちゃん先輩、最近の子は裁縫なんてしませんから仕方ないですよ〜」
「やれやれ、娘の教育を疎かにしてしまったからしらね……」
ひとりちゃんを、私好みに?
な、なんてことだ!
最近モデルの仕事で可愛い服を着るのに抵抗がなくなって、仕事に使った衣装を持ち帰るようになったから感覚がマヒしてたけど、そもそもひとりちゃんは自分で服を買いに行かない。一緒にショッピングに行っても、もっぱら私のことばっかりで、自分のことには無頓着なのよ。
『ひとりちゃん、これ似合うんじゃないかしら!』
『わ、私は撮影に使ったのがあるので……それより郁ちゃん、これ郁ちゃんに似合いそうです!ほら!』
『わ、ホント!可愛いっ!』
……私、めっちゃ簡単にはぐらかされてる!?
可愛いのに弱過ぎでしょ私。
いやむしろこれは私の好みを完全に理解してるひとりちゃんだからこそと言うべきかしら?
どうもひとりちゃんって、私を着せ替え人形にするのが大好きっぽいのよね。自分が仕事でやらされてるから、その反動なのかも。私も可愛い服を着るのは好きだから、今までは流されてたんだけど。
でも確かにお母さんの言う通りで、今回の文化祭はひとりちゃんを思う存分、私好みに着飾って楽しむ絶好の機会だってことよ!
ひとりちゃんだったらどんなメイド服でも絶対似合うわよね〜!なんて腑抜けたこと考えてる場合じゃない!
「ごめんなさい、お母さん。私が間違ってたわ。私が考える最っ高に可愛いメイド服をひとりちゃんにプレゼントする!」
「ふっ、それでこそ我が娘よ……」
「私も手伝いしますよ、ひとりちゃんのためですからね!」
待ってなさい、ひとりちゃん。
究極に可愛い至高のメイド服をプレゼントしてあげる!
☆ ★ ☆
高校で2度目の文化祭で、まさかの2年連続でメイド喫茶をやるハメになるとは思わなかった。しかも今年は私――火鳥が目玉だと言うから二度ビックリ。まぁ、これでも売れっ子モデルですからね?……いや自分でこんなこと考えられるようになるとは、私も成長したもんだ。
一応モデルの時と学校とではお化粧とかカラコンとかノンホールピアスとかでギャップを付けてるけど、やっぱり雑誌とかで露出が多いから分かる人にはすぐバレるみたいで、よく顔をあわせてるクラスメイトとかには知られちゃってる。今回のメイド喫茶は、その流れらしい。
なにその「生火鳥鑑賞会」って。接客しなくて済むらしいから、そこは助かるけど。郁ちゃんとのんびりしてれば良いとか、ホントよく分かんないけど。
まぁ、そこは良い。写真撮られて雑誌で何万人もの目に晒されることを考えれば、たかだか数日、数時間ずつ拘束されるくらい、どうと言うことはない。それに耐えられるくらいの耐性はついた。
問題はメイド喫茶だってこと。
そう、去年はドタバタしてて満足に見ることが出来なかった郁ちゃんのメイド姿が、今年は思う存分拝めると言うことだ!
なら私がやるべきことはもう決まっている。
「お姉ちゃん、お願いがあります」
「ひとりが頼み事するなんて珍しいわね。良いわよ、言ってみなさい」
最早ギターの次にライフワークとなった郁ちゃん鑑賞を全力で楽しむ!
My New Kitaためならばおカネに糸目は付けない!
ちょっとモデルの仕事が増えるくらい頑張れるのだ!
「郁ちゃんに着せるメイド服を調達したいんだけど、どうすれば良いかな?」
「……まずは経緯から聞きましょうか?」
おっといけない、先走っちゃった。
こう言う言葉が足りないところはまだまだ変われてないな私。
「今度、学校の文化祭でメイド喫茶やることになったんだけどね?メイド服はそれぞれ用意しようって話になって」
「なるほど、恋人の可愛いメイド服姿を見たいってことね?」
「うんっ!」
流石はお姉ちゃん、話が早い!
お姉ちゃんはほんのちょっと考え込んだ後、スマホをたたたっと素早くタップして画面を見せてくれた。
「一言にメイド服と言っても、その種類は様々よ。まずは方針から決めましょうか」
どれどれ?思ったより本格的。
由緒正しいヴィクトリアンスタイル、イメージしやすい古き良きクラシカル、大正時代にあったかもしれない和風メイドに、日本が世界に誇るアキバ文化が産んだミニスカメイド。あとはオマケにアニメの中にしか存在しないような独創的なメイド服が色々あって、私が事前に考えてたのより種類は全然多い。主にアニメちっくなのが。なんだ水着メイドって。
「メイド喫茶をするなら接客で動き回る都合があるから、ミニスカートは理にかなってるわね。程度にもよるけど、膝丈くらいなら許容範囲内かもしれないわ」
「なるほど、ヴィクトリアンスタイルだとスカートが長過ぎて邪魔になりそうだもんね」
「そう言うこと」
ミニスカとか、アキバ文化はちょっとえっちじゃない?って思ったけど、そう言う理由も含まれてるなら納得だ。
それはともかく。郁ちゃんに着せるならどのタイプが良いだろう?
私と同じで接客は免除されてるから、ヴィクトリアンスタイルやクラシカルでも問題はないけど、他のも捨て難い。
落ち着け後藤ひとり。なんと言っても郁ちゃんに着せるメイド服だ。妥協は許されない。何を着せても最強に可愛い郁ちゃんだけど、文化祭で何回もお着替えしてもらうのは心苦しい。文化祭は2日間あるから、2着に絞るとして……
☆ ★ ☆
ひとりちゃんの魅力と言えば、一番目に付くのは大きなおっぱいだけど、実は細く引き締まった脚も綺麗なのよね。
地道に続けてる早朝ジョギングは体力を付けるためだったけど、無駄なお肉がスッキリと落ちて、でも肝心なところはしっかり残った理想的なスタイルになってる。ほんっと、ズルい体質よね。
それはともかく。つまり、ひとりちゃんに着せるメイド服は美脚を活かしたミニスカートに決まったってこと。
「あの美しい脚線美を披露するなら、思い切って膝上15センチ……いや、20センチかしら」
「あんまり短くすると後で自分が後悔するからね?」
「そこはアンスコかスパッツで」
「自分以外の有象無象の視線に恋人が晒されるって言ってるの」
それを我慢できるの?とお母さん。
ふむ、確かにそれは不愉快ね。ひとりちゃんの可愛い姿は全国規模で晒されてるんだけど、それは写真であって実物じゃない。
更に言えば下着がちらりと見えてしまうような写真もない。だってカメラマンは美智代さんだもの。あるはずがないの。
……そうね、ひとりちゃんの花園を知るのは私だけで良い。
「ミニスカートはやめておくわ」
「それが賢明ね」
「となると、純粋に衣装とひとりちゃんの相性を突き詰めることになるわね〜」
「うーん……」
なんだか迷走してきちゃったな。
ここは原点に帰ろう。
ひとりちゃんの魅力とは?
「ひとりさんはモデルの仕事で色んな衣装を着てるけど、どれも素晴らしく着こなしてるわよね」
「そうね〜、メイク次第で可愛いのも綺麗なのもイケるから、お仕事の幅があって便利なの〜」
可愛いのも綺麗なのも……
いや問題はそこじゃない。
衣装だけじゃダメなのよ!
「大切なのはテーマだったんだわ!」
「どうしたの、急に」
「……なにか思い付いちゃったのね?」
ひとりちゃんはどんな衣装でも着こなす幅広い柔軟性がある。懐が深いのね。おっぱい大きいから。
だから、どんな衣装が似合うか?って考えてもダメだったの。全部似合っちゃうんだから。
逆に考えるのよ。何を着せたいか、どんなひとりちゃんを見たいかで考えるべきだったんだわ!
方向性は大きく分けて3つ。可愛い系、綺麗系、カッコいい系。
私が見たいひとりちゃんはどれ?
考えろ!
カッコいいひとりちゃんは……うん、やっぱりライブよね。ギターを弾いてるひとりちゃんが一番よ。瑠璃色の瞳を傲慢にぎらつかせた猫背の虎が掻き鳴らす轟音は、聞くもの全てを魅了するの。はふぁ……
「郁代、ヨダレ」
おっといけない。
やっぱりカッコいいひとりちゃん、好き。
でもちょっとメイド服とはギャップが……いやそれもまた……うーん、捨て難いっ!
取り敢えず保留しときましょ。
次は綺麗系かな。
んー、これもなぁ。自分で言っておいてなんだけど、最近ひとりちゃんは「可愛い」から「綺麗」に変わりかけてるのよね。成長途中、みたいな。顔が変わったって言うんじゃなくて、表情が違うの。あと雰囲気。
もちろんモデルの仕事をしてる時は衣装に合わせてるけど。普段の、素の状態がね……
「……決めたわ。可愛い系で行くっ!」
「決め手は?」
「可愛いは正義なのよっ!」
多分、もうすぐひとりちゃんは「綺麗」になる。だから今のうちに「可愛い」を堪能しておかないと。
「何を言ってるのか良く分からないけど、何を言いたいのかは分かったわ」
「さすが親子ね〜」
さて、メイド服と言えば紺色のワンピースに白いロングエプロンのイメージどけど、別にそれに従う必要はないのよね。カラーリングは変えちゃっても良いんじゃない?
となると、ひとりちゃんに合う色は……髪が桜色だから、パステルグリーンかな?ちょっと濃くしてミントグリーンかティファニーブルーも良いかもしれない。
うーむ……よし、全体的にティファニーブルーのワンピース。襟やカフスは白で清楚に。ボタンはブラウンが良いかな。エプロンは白で、ボーダーを大きめのフリルで飾りましょう。
「基本的な方針はこんな感じで、細かいデザインは、残念だけどネットのフリー素材から拝借することにします」
「なるほど、良いんじゃない?」
「可愛いくなりそうだわ〜」
そうと決まればまずは生地を買いに行かなくちゃ。あと参考になる本も欲しいかな。型紙に使う用紙も必要だし……やることが沢山でワクワクしちゃう!