ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」   作:ぼ喜多スキー

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ぼっちがモデルの仕事でヘロヘロになったり、結束バンドのアー写を撮ったりする話。


(5)アー写をもう一度

 アー写とは、アーティスト写真の略。

 SNSのプロフィールに載せたり、ライブのフライヤーに使ったりと、宣伝のためにバンドメンバーの顔を見せる写真だと思えば、大体合ってる。

 今のアー写は下北の街を彷徨いて見付けたいい感じの壁を背景に、全員がジャンプしたものを使ってる。そう言えば1枚目にはぼっちちゃんのパンチラが写ってたんだよね。ちゃんと消したけど。

 さて、今日集まったのはアー写を新しく撮り直そうってことなんだけど、肝心のカメラの手配を担当してるぼっちちゃんがまだ来てない。

 STARRY前に10:00だから、まだ時間があるけど、ぼっちちゃんって遠くから電車で来る都合もあってか、大体待ち合わせより大分前に来てることが多いんだよね。ちょっと心配。

 

「喜多ちゃん、ぼっちちゃんから連絡来てる?」

「ちょっと渋滞に巻き込まれたみたいですね。5分か10分くらい遅れるかもって、今ロインが来たところです」

「へー。って、渋滞?車で来るの?電車じゃなくて?」

 

 金沢八景からだよね?

 

「荷物が重いらしいです」

「……なに持って来てるんだか」

 

 そう言えばぼっちちゃんって、謎の行動力があるのを忘れてたよ。読モ始めてから少しはマシになったと思うんだけど、油断は出来ないなぁ。

 

「重いのって撮影機材のことですから、先輩が心配してるようなことではないですよ?」

「撮影機材?カメラだけじゃないの?」

 

 前に話した時、ぼっちちゃんがちゃんとした写真を撮りたいって言って延期したんだけど。スマホじゃなくて、本格的なカメラで撮影するってことだった。なるほど、流石は読モをしてるだけのことはある。

 いくら最近のスマホのカメラが高性能になってきたとは言っても、それで読モが満足する写真を撮れるか?って言えば、そりゃー無理に決まってる。なので、そのカメラに伝手があるって言うぼっちちゃんに任せたんだよね。

 でもなぁ、今更思うワケだけどさ。そんなカメラを普通の女子高生が使えるもんなの?詳しいことはわからないけど、スマホのカメラみたいにシャッターボタンを押すだけじゃないんでしょ?

 あ、でもアレだ。これからも写真を撮る機会が出てくるだろうし、バンドの予算で一台くらい持っておいた方が良いのかも。カメラだけじゃなくて、ビデオカメラもあった方が良いよね。MVとか作るんだし。

 ちょっとググってみる。

 えーっと?Nik◯nとかCan◯nとか?本格的なものって限定するとして……うん、やめよう。とてもじゃないけど女子高生が思い付きで買うもんじゃないや。大人しくスマホで我慢しとこう。

 今回はぼっちちゃんの厚意に甘えるとしても、次からは身の丈にあったカメラを使うようにしよう。

 それから待つことしばし、待ち合わせ時間からちょっと過ぎたあたりで、STARRYの前にハイエ◯スワゴンが止まった。

 

「お待たせしてすみません!」

 

 慌ただしく降りてきて、ペコペコするぼっちちゃん。うーん、こういうところは前と変わってないんだよね。なんか安心する。

 路駐したままだと邪魔になるってことで、結束バンド一堂でワゴン車に乗り込んだ。当然のように隣同士で座る喜多ちゃんとぼっちちゃん。

 ワゴン車にはぼっちちゃんのご両親と、ふたりちゃんもいた。後藤家総出だ。なんでも最初はお母さんだけのはずだったところ、ふたりちゃんが駄々を捏ねて付いてきたらしい。まぁ、5歳だもんね。大好きなお姉ちゃんと一緒にお出掛けしたいよね。お父さん?休日に1人だけ置いてけぼりとか、そんな非道なことは出来なかったらしい。ヒエラルキー……

 

「ところでぼっちちゃん、どこに向かってるの?」

「あ、説明してませんでしたね、すみません。スタジオです」

「ひとりちゃんが普段お世話になってるところらしいです。私もはじめてお邪魔します!」

「へー」

 

 マジか。

 ちゃんとした撮影って、ガチの撮影なの!?

 モデルが撮影するような撮影スタジオで!?

 

「それ、大丈夫なの?」

「えっと、ちゃんと説明して、分かってもらいましたから、大丈夫です」

 

 どんな説明したんだ。

 

「私のお仕事のあと、少しレンタル時間を延長しただけなので、虹夏ちゃんが心配するようなことはないと思います」

「そっかー……って、え?それじゃ、ぼっちちゃん、今日モデルの仕事入ってるの?」

 

 ほほぉ、それはそれは。

 ひっじょ〜に興味がそそられますな?

 

「見たい!」

「私も!ひとりちゃんのカッコいいところ見たい!」

「後学のために見学したい」

「え、えっと……」

 

 ふふふ、分かるよぼっちちゃん。

 なんだかんだ言って頼まれると断れないんだよね?

 

「う〜……わ、わかりました。お願いしてみます。ふたりも、見学するよね?」

「いいの!?」

「もうあんなことしちゃダメだからね?結構痛かったんだから」

「ごめんなさい」

 

 分かってくれたなら良いよ、とふたりちゃんを軽くなでて、ぼっちちゃんはふにゃっと微笑んだ。うん、なんだかんだ言って、お姉ちゃんだなぁ。

 ……痛かったって、なんだろ?

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 ぼっちちゃんが撮影準備のために控室に行ってる間、ちょっと気になってたことを聞いてみる。正直言って不思議だったんだよね。

 

「ね、喜多ちゃん」

「はい?」

「喜多ちゃんは読モやろうとか思わなかったの?」

「あー……確かに、考えたことはありますね。ひとりちゃんと一緒にモデルやったら楽しいのかなって」

 

 そうだよね。喜多ちゃんって写真写り良いし、なんならぼっちちゃんより向いてると思うんだ。これまでだったら機会がなかったとか、読モやるよりイソスタ映えスポットを回るのが楽しいとか、やらない理由の方が大きかっただろうけど。

 でも今は、恋人のぼっちちゃんが読モやってるんだから、“楽しいを共有したい”よりも“ぼっちちゃんと一緒にいたい”を優先するんじゃないかと思ってた。

 

「一言で言うなら、趣味と仕事は別ってとこですかね」

 

 バンドと一緒です、と喜多ちゃん。なるほど。趣味で楽器を弾くだけなのと、チケットを買ってもらってライブで演奏するのとでは、当然違う。言い方が合ってるか分かんないけど、本気度の違い、なのかな。

 

「ひとりちゃんから話を聞いて思ったんですよ。私、楽しく写真を撮るのは好きですけど、色んな人の期待を背負って写真を撮られるのは荷が重いなって。私はもう結束バンドのフロントマンを背負っていて、これ以上はキャパオーバーなんです」

「そ、そうなんだ」

「はいっ」

 

 にっこりと笑う喜多ちゃんの笑顔は、なんか今までと違って見えた。ただ無邪気に、楽しそうと言うんじゃなくて、少し重く感じる。

 

「それとなんですけどね。ひとりちゃんの、読モのアー写、見ます?」

「そんなのあるんだ、見る見る!」

「読モのアー写と言うと、雑誌社にぼっちを売り込む時に使う写真?」

「そうですね。力の入れようが凄いんですよ」

 

 一般には出回らないものらしいからデータは渡せませんけどって断りながら、喜多ちゃんがスマホを見せてくれる。

 それはマーメイドラインのウェディングドレスだった。しかもボディラインを全く隠してない。本来ならぼっちちゃんみたいなバストが大きい人には向かないタイプのドレスなんだけど……

 

「これはまた、すっごいね」

「ぼっちのスタイルの良さをこれでもかとアピールしてる。まさにアーティスト写真だね」

 

 どんなデザインでも着こなせると言わんばかりの強気な選択、そして説得力。揶揄うような笑顔は、まるで「どう?似合う?」でも言ってるかのようだった。

 

「これ見て思っちゃったんですよね。仕事でこんな表情作るのは無理だなーって」

「……あー、そうか。ぼっちちゃん、普通はこんな顔しないもんね」

「プライベートでどんなことがあったとしても、撮影する瞬間には役になりきる。そんなの、出来る気がしません」

「なるほど。顔やスタイルだけで出来る仕事じゃないってことか」

「リョウも顔は良いんだけどね。顔はね」

「写真を撮られるだけの簡単な仕事かと思ってた……」

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 その後、ぼっちちゃんがスタジオに戻って来て撮影になった。どうもあちこちの私立高校の制服を扱った特集に使うらしくて、ぼっちちゃんは何回も着替えては撮影、着替えては撮影を繰り返してた。

 ちなみにカメラマンはぼっちちゃんのお母さんだ。ポーズの指定は頭の天辺から足のつま先まで事細かで、髪を3本だけ前に垂らしてとか、指の角度を5度左にとか、視線はあそこのペットボトルのところとか……果ては泣いて笑って怒って汗をかいてと、そこまでやるの!?って感じだ。

 撮影が終わったぼっちちゃんは極度の緊張から解放された反動なのか、どう見てもボロボロで、パイプ椅子に座ってるのすら辛そうだった。直前まで新しい学校で始まる新生活に胸を弾ませるような表情をしてたのが嘘みたい。

 

「ひとりちゃん、お水飲む?」

「ぁぃがと、ござぃま……」

 

 モデルの仕事って大変なんだなぁ。しみじみと思う。写真を見るだけだと華やかなのに、現場はとんでもなく殺気だってた。

 

「きょ、今日はリテイクが、少なくて、割と早く、終わり、ました……はぁ……これでアー写、撮れますね」

「いやいや、もうちょっと、ちゃんと休憩しよ?」

 

 息絶え絶えじゃん。ふたりちゃんなんか涙ぐんで抱きついてるよ。

 

「私、ポーズ、考えるのとか、表情作るの、下手、なので、他の、モデルさんより、時間、かかっちゃう、です」

 

 いやホント呼吸キツそう。

 無理に話そうとしなくて良いんだよ?

 

「あれで下手な方なんだ……モデルって凄いな。正直言ってモデル舐めてた。ぼっち、ごめん」

「いえ、今日はみなさんがいてくれたので、カッコいいところ、見せたかっただけなので」

「十分カッコ良かったわよ、ひとりちゃん!」

 

 そうだね。どんな仕事だって、本気でやってる人はカッコいい!

 ぼっちちゃんは一瞬、きょとんとしてから、ふにゃって笑った。

 うん、ぼっちちゃんはそう言う顔の方が似合ってるよ。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 ひとりちゃんがなんとか復活してから、アー写を撮ることになった。

 スタッフさんは撤収して、残ってるのは私たちだけ。さっきまでのピリピリした空気と熱気は綺麗サッパリ消え去って、今のスタジオは、まるで夜の学校に彷徨いこんだような寒々しさがあった。

 

「延長したのは1時間だけだから、パパっとやっちゃいましょ」

 

 ワゴン車から運んで来たライトやレフ板やらを配置して、美智代さんがニコニコして言った。こちらもさっきまでと雰囲気が全然違う。仕事とプライベートの切り替えが凄い。

 いや、こっちも一応仕事みたいなものなんだけど。

 ちなみに私たちは全員バンドパーカーを着てる。前にアー写を撮った時はバラバラの恰好で素人感丸出しだったけど、今回はちゃんとしようってことで。

 この方が結束感あって良いわよね!

 

「まずは普通に集合写真撮りましょう。はい、適当にならんで〜」

 

 背景に使おうって決めたセット――お笑い芸人が学生を演じたコントをするのに使いそうな、教室の一部を切り取ったような空間に私たち4人が並ぶと、なんだかくすぐったくなった。

 先輩たち2人は他校生だから、文化祭でもない限り一緒の教室にいることなんてない。撮影のための真似っこだけど、こうしてると同じ学校の先輩後輩みたいだ。

 

「ん〜?カメラの調子悪いかな?ちょっと調整するから、椅子に座っておしゃべりでもしててくれる?」

 

 やっぱり仕事用のカメラと違うのかな。

 まぁ、1時間あるって言うし、ひとりちゃんもまだ疲れてるだろうし、のんびり待ってれば良いわよね。

 それから私たちはおしゃべりに興じた。

 リョウ先輩が作ってる新曲は、かなり難航してるみたい。草食生活から脱出するためには売れる曲が欲しい、でもポリシーは曲げたくないって。いや、無駄遣い減らしましょうよ。もう私は貢げないので心配です。

 路上ライブは何処でやろうかって、伊地知先輩はウキウキしてる。先輩によれば、路上ライブの効果は色々あるらしい。宣伝効果はもちろん、舞台度胸を付けることにも繋がる。1号さんや2号さんみたいなファンが付いてくれる可能性は魅力的だわ。

 MVを撮ろうって話はリョウ先輩が始めた。動機はともかくアイディアは素晴らしいと思う。私とひとりちゃんの愛をテーマにした星座の曲は却下された。何故?まぁ、MVを撮るにしても私たちにはノウハウがないから、誰か相談出来る人を募集中。美智代さんにこれ以上頼るのも、なんか違う気がするし。

 ブロマイドはひとりちゃんとのツーショットを全員との組み合わせで撮ることになった。不公平はなし!

 そんな、取り留めもない話で盛り上がってると――

 

「はーい、おっけ〜!」

 

 美智代さんが満足気に笑っていた。

 カメラの調整は終わったのかな?

 

「あなたたち結束バンドのアー写第二弾はこれで〜す」

 

 そう言って、タブレットを見せてくれる。

 そこにあったのは、教室で駄弁っている女子高生4人組。なんでもない、放課後の風景。4人は無邪気に笑いながら将来を夢みていて、とても仲が良いのが伝わってくる。

 

「あなたたちの魅力は、4人が全員、とても仲が良いところだわ。個性はバラバラでも、夢に向かって頑張る時は一致団結する。それは結束力があるってこと。どうかしら?」

 

 なにコレ?

 なにコレ!

 むず痒い!

 

 でも私たちって、確かにこんな感じだ。

 肩を寄せ合うでもなく、カメラ目線でもない。他のバンドのアー写とは全然違う。

 それでもこれは、確かに私たちを、この上なく表現した一枚だった。

 結束バンドの、アーティスト写真だった。

 

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