ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」 作:ぼ喜多スキー
もちろん行き先は後藤家。
好きあってる2人が一緒にいて何も起こらないワケがない。
取り敢えず、ありのまま起こったことを話すとしよう。
帰宅してリビングに入ったら等身大の火鳥ポスターが飾られてた。
ドアを閉めて自室に篭った。
「えーと?なんだっけ?まずは自分が何者なのかを再確認しましょう」
私の名前は喜多郁代。高校1年生の16歳。結束バンドのギターボーカルで、この冬から後藤ひとりちゃんと言うめちゃくちゃ可愛い恋人が出来た超絶リア充。
うん。ここまでは良いわね。
お母さんもお父さんも公務員でお堅い性格。多少のワガママは聞いてもらえるけど、締めるところはキッチリ締められる。
うん。ここまでも良いわね。
今日はみんなでアー写を撮って、その後ブロマイド用の写真も撮って、ひとりちゃんと思う存分イチャイチャしてから自宅に帰って来た。
うん。これも良し。今日もひとりちゃんは可愛いかった。ヘロヘロになってぐったりしてるのは心配にもなったけど、ちょっとだけドキドキした。
浅く繰り返される呼吸で忙しなく上下する胸。しっとり湿った、淡い桜色のリップで飾った唇。疲れ切って弱々しい、とろんとした微笑みを浮かべて私を見つめながら『喜多さん……』って呼ばれると、なんかもう辛抱たまらんって違う違う、そうじゃない。
うん、現実逃避は良くないわね。認めましょう。
うちのお母さんが。
等身大火鳥ポスターの前で。
女の子座りして。
うっとりした目をしてた!
「いやぁーっ!ないっ!ないわっ!」
娘の恋人のポスター、しかも市販されてない等身大サイズを恋する乙女みたいな目で見てる母親?
そんなのと一緒にいられるか!
☆ ★ ☆
時刻は夜8時過ぎ。
あの後、錯乱した私は急遽ひとりちゃんに連絡を取って、お泊まりさせてもらうことにした。
いやだって、しょうがないじゃない!?
アレはヤバいもの!
ポスターに罪はないけど、アラフォーの既婚子持ち女性がやったら犯罪臭しかしない!
まさか自宅であんな恐怖体験するとは思ってもみなかったわよ。
近寄りたくなかったから、書き置きはリビングの廊下に置いてきた。
『しばらく恋人の家にご厄介になります。
探さないでください。
電話にもロインにも必ず反応します。
本当に探さないで。
ちょっと頭を冷やしてください。
絶対に探さないで。』
ひとりちゃんの家を特定されると危険なのでスマホのGPSは切った。
いやね?家出した上に位置情報アプリを無効化なんてしたら、お父さんにも心配かけるって分かってるけどね?
ひとりちゃんの家がバレたらストーカーになりそうで怖いんだもの!
かと言って今の私に、実家以外で頼りになるところなんて、ひとりちゃんしかいない。これは苦肉の策であって、決してひとりちゃんとお泊まりしてイチャイチャしたいなんて下心はないの!
いや、流れでそうなっちゃったりする分には仕方ないって言うか?
恋人なワケですし?
ゴニョゴニョ。
「……と言うことがありまして。身内の恥を晒すようで本当にアレなんですけど、しばらくご厄介になりたい所存です」
今まで共感は出来なかったけど立派な母親だと思ってたのになぁ。
全部台無しじゃない。
「喜多さん」
「ひとりちゃん」
羞恥に震えてると、ひとりちゃんが優しく抱きしめてくれた。あったかい。ふわふわする。私の居場所はここなんだなって実感する。
「取り敢えず、お父さんには連絡しときましょう?」
「あ、はい」
☆ ★ ☆
喜多さんが家出してきた。
すわ何事か!?と思ったら、なんか喜多さんのお母さんが変になったらしい。
私の等身大サイズのポスターって、そんなのラインナップになかったはずなんだけど。一体どうやって手に入れたんだろ?
世の中は不思議に満ちている。
それはさておき、可愛い恋人に『今日は帰りたくないの』なんて言われたら、一旦帰ってますよね?なんてツッコミを入れられるワケもなくて、お母さんに相談してお泊まりの許可をもらった。
今日はまだ喜多さんと一緒にいられると思うとドキドキする。えへへ。
どうしよっかな。せっかく喜多さんがいるんだし、一緒にギターでも――
「ひとりちゃ〜ん、今日のノルマは終わったの〜?」
「今からやりますっ」
うぐぐぐっ!
これまでのサボりがぁっ!
でもやらなきゃ喜多さんと一緒の大学に行けなくなるし。これも将来のためなんだ。とほほ。
えっと、今日の問題集は因数分解?
んー、中学の時にとったノートは……お、あったあった。ノートはとってるけど内容がサッパリだったんだよね。
えーっと?
……なるほど分からん。
そうだよねぇ、ノート読んで分かるくらいなら当時の私も今の私も苦労してないんだよ。仕方ない、教科書と参考書とネット情報で――
「ひとりちゃんひとりちゃんひとりちゃん!」
「はい?」
視線を上げると、喜多さんが綺麗な琥珀色の瞳をキラッキラに輝かせてた。
うぁっ、眩しっ!
喜多さんのこういうところも大分慣れたって言うか可愛くて大好きで愛してるんだけど、不意打ちを喰らうと未だに目を焼かれそうな幻覚に囚われちゃう。こんなんじゃダメだ。大好きな恋人の笑顔をちゃんと見れないなんて、そんなの悲しすぎる!
「えっと、大丈夫?」
「……大丈夫です」
「良かった、私もここで勉強していい?」
「はい、それはもう、なにをしても大丈夫です。自分の部屋だと思って寛いでください」
「自分の部屋かぁ〜♪うん、分かった!そうよね、将来的にはそうなるんだもの!」
にこぉ〜っと心底嬉しそうに笑って、喜多さんは荷物から勉強道具を取り出して、せっせと問題集に取り掛かった。
おっと、喜多さんを見てばかりじゃいけない。私も頑張らないと。
しばらくして、違和感に気付いた。なんだろう、いつもより頭がクリアだ。喜多さんが一緒の部屋にいて、そわそわしちゃうかもと心配したけど、杞憂だった。むしろ逆。まるで自分のステータスにブーストがかかってるみたいに勉強が捗る。なんてこった、喜多さんの存在がバフになってる。因数分解クリア!平方根クリア!このままなら二次方程式だっていけそうだ!
「ひとりちゃんひとりちゃん」
「へ?あ、はい。なんでしょう?」
「もう2時間よ、そろそろお風呂入って寝ましょう?」
「え、あれ、ホントだ、もう10時過ぎ……」
嘘みたい。こんなに勉強に集中出来るなんて、はじめてだ。
「かわりばんこに入ると時間かかっちゃうから、一緒に入りましょうね」
「はい……はぃ?」
☆ ★ ☆
おいおい、こんなことが許されていいのか?相手はセブ◯ティーンの表紙を飾ったこともある新進気鋭の読モ様だぞ?
いいんですっ!
何故なら私たちは女の子同士、恥ずかしがることなんてないの。更に言えば恋人同士ですからっ!これは女の子同士のスキンシップ。恋人同士の愛ある触れ合い。決して如何わしいことなんてないの。さぁ、ひとりちゃん、一緒に魅惑の園へと旅立ちましょう。きっと色々と楽しいから!
「読モやってるんだから、お風呂入らないなんてことしないわよね?」
「うぅ、それは、まぁ、ある意味それも仕事なので」
仕事かぁ、なんだかんだ言ってプロ意識あるのね。私は可愛くなりたいってだけでスキンケアしてるけど、ひとりちゃんの場合は商売道具をメンテナンスするイメージなのかしら。
「ほら、早くしないと寝るのが遅くなっちゃうわよ?寝不足はお肌の天敵なんだから」
「……わ、わかりました。そうです。女の子同士なんだから、恥ずかしがることなんてない、はず。私だって、エステ通って、磨いてもらってるんですから!」
自分の世界に入り込んで、いける、大丈夫、頑張れ私とぶつぶつ呟きなから、のろのろとルームウェアを脱ぎ始めるひとりちゃんをよそに、私も緊張してた。
いやだって、ね?
私だって、日々自分を磨いてきた自負はあるけど、それは素人レベルなワケでして。それに、スレンダーと言えば聞こえは良いけど、ぺったんこなのは自分が一番分かってる。十勝平野?石狩平野?関東平野〜!ってなに言ってんだろ私。自分ではどうにもならないレベルでの身体的特徴でコンプレックス感じてたってしょうがない。生産的じゃない。
分かってはいるけど、すぐ目の前に富士山があると、畏敬の念を持ってしまう。海のない長野県民が初めて海を見るとテンション爆上がりするように、富士山を初めて見た私も、その優美にして雄大な姿に心を鷲掴みにされてしまうの。あぁ、なんて素晴らしい山体だろう。ユネスコに登録されるのも納得の美しさ。日本が誇る世界の文化遺産。なのにこの富士山は2つもある!倍率ドン!さらに倍!
「あの、喜多さん?」
「ひゃい?」
「流石に、そこまで間近で見られると、恥ずかしい、です」
「あ、ごめんなさ……ん?」
おかしい。穢れを知らない純白の雪原に、何人たりとも犯すことを許されない聖域に、一点の、紅い斑点がある。明らかに元からあるものではなくて、近日中に付けられたソレ。
ふぅ。落ち着きなさい、喜多郁代。これは愛の試練。乗り越えるべき障害。愚かな勘違いで喧嘩してギスギスする少女漫画のお約束なんてお呼びじゃないの。
「ひとりちゃんの浮気もの〜っ!」
「うぇっ!?」
無理。む〜り〜っ!!
だってキスマークよ、キスマーク!
ひとりちゃんのカラダに初めて跡を付けるのは絶対私って決めてたのに!
ひとりちゃんの初めては一から十までまるっと全部私のものって決まってるの!
頭の天辺から足のつま先まで、髪の毛一本に至るまで、全部全部全部!ひとりちゃんは私のものなんだから!
「――」
あれ、ひとりちゃんがなにか言ってる。
でも良く分からない。
言葉の意味が頭の中に入って来ない。
☆ ★ ☆
「――あれ」
「あ、正気に戻りました?」
えーと?
あ、うん。おぼろげだけど、記憶はある。
嫉妬に狂ってギャン泣きする私を、ひとりちゃんは落ち着かせようと必死になって、とにかくこのままじゃ風邪ひくからとお風呂に入ることになって、ぐずぐず泣いてる私を全身丸洗いしてくれて、そうしたら私もひとりちゃんを洗う〜って言い出して、2人して泡だらけのままくんずほぐれつのぐっちゃぐっちゃになって――今に至る。
「あわわわわっ」
「あ、落ち着いてください、大丈夫ですから!」
大丈夫じゃない!
しょ、初体験が、あんなぐちゃぐちゃなまま……
なんかもう、大人のキスとかしまくっちゃったし、ひとりちゃんにも私にも、あちこちにキスマーク付いてるし!
うわ、私、おっも!
あんなキスマークなんて、ふたりちゃんがイタズラで付けたってことくらい見当付いてたのに。実際、そうなのに。
「あの、ごめんなさい?私、面倒くさいよね」
「そんなことありませんよ。嬉しかったです」
「嘘」
「嘘じゃありませんよ」
ひとりちゃんに抱きしめられて、湯船に浸かって、何度も何度もキスをして。
遮るものなんて何もないくらい、ぴったりとくっつきあって。
あはは、恥ずかしいところ、全部見せちゃったものね。もう怖いことなんて、なにもないわ。
「私、喜多さんに愛されてるなって。申し訳ないですけど、泣いてる喜多さんを見て嬉しくなっちゃったんですよね。ごめんなさい」
「あ、うぅ、その、はい」
て、照れる!
そりゃ好きですよ。なんで、どこがって聞かれても分かんないけど、とにかく好きなの。
ギターとか、顔とか、後から考えたらこれかな?ってとこはあるし、きっかけはあの台風ライブだったことは否定しないけど、それだけじゃないって心の奥で何かが訴えてる。
後藤ひとりと言う存在そのものが、喜多郁代の心を掴んで離さない。多分、ひとりちゃんもそうなんだって思う。
私たちは、運命なんて言うほどロマンティックでカッコいい出会いじゃなかった。恋に落ちるなんて想像も付かないような、ヘンテコで滑稽な始まりだった。
でも、お互いがあるべくしてあった、必然ではあったと思う。
例えば、ひとりちゃんにギターがなくても、私が陽キャじゃなくても、私たちはきっと何処かで必ず出会って、恋をするんだ。私たち2人は、そう言う関係なんだって、信じる。
「ねぇ、ひとりちゃん。大好き」
「私もです。喜多さん、愛してます」
そして2人は幸せなキスをして終了――なワケない。
私たちの日常は続いていく。
「いい加減、その『喜多さん』は卒業しない?」
「えっと、それなら、喜多ちゃん?」
「もう一声!」
「えー……」
ふふ、分かってるくせに。
確かに下の名前で呼ばれるのは好きじゃないけど、恋人にだったら許せるわよ?
☆ ★ ☆
睡眠不足による肌への影響は侮れない。良く知られるのは目の下の隈。血流が滞って、薄い皮膚を通して青黒い血液が透けて見える状態のこと。
読モを始める前のひとりちゃんは隈がデフォルトでついてて、顔色が良い時なんて全然なかった。作詞で徹夜した日なんかはもうヤバいくらい酷くて、ちゃんと寝て!って怒って無理矢理眠らせたりしたっけ。ひとりちゃんは私が膝枕するとアッサリ寝てくれるから、なんか可愛くてキュンキュンしてた。
まぁ、ギター練習で夜遅くまで起きてる上に、通学で時間が掛かっちゃうから、寝不足になるのは当然なんだけど。
ひとりちゃんの話によると、今は最低でも日付けが変わる前には寝てるらしい。それでも学校がある日は6時に起きないと間に合わないから、電車で座れる日は眠っていられてラッキーなんですよ、だって。
無防備だなぁ。チカンとか心配だよ。前はピンクジャージで擬態してたから大丈夫だったのかもだけど、今のひとりちゃんは誰が見ても可愛いって分かっちゃうんだから。
これは私がしっかりとボディーガードしないと!
そのためには私が寝不足でふらふらしてるワケにはいかない。ちゃんと眠らなくちゃ。ひとりちゃんと一緒の部屋で寝るからって、ドキドキしてる場合じゃないの!
「おやすみ、ひとりちゃん」
「おやすみなさい、郁ちゃん」
おやすみのキスをして、眠りに……付けるワケない!
散々ゴネてたくせに、今になって呼ぶの!?
このっ、このっ、女ったらしがっ!!
「1人じゃ寂しいから、一緒のお布団で寝ましょうね!」
「うぇっ!?」
ふん、これくらいの仕返しはしとかないとね!
私だけドキドキしてるなんて、なんかズルいもの!
ストックがないので、書けたら推敲もしないで上げるスタイル。