ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」   作:ぼ喜多スキー

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新宿FOLTでのクリスマスライブとその後のクリパの話。
ぽいずんフラグが折れたままなので未確認ライオットの話題が出ません。





(7)新宿FOLTでクリスマスライブ

 流石に、そろそろ限界だと感じていた。

 読モの仕事、中学からやり直している勉強、片道2時間の通学路。それらに取られて、ギターを弾く時間がない。

 それはまるで、陸に上げられた魚にでもなったかのような感覚。

 ギターを弾きたい。心の底から、思う存分かき鳴らしたい。結束バンドのスタ練だけじゃ足りない。

 あぁ、息が、うまく、出来ない――。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

「来週はついに新宿FOLTにお呼ばれしたクリスマスライブだよ!」

「どうしてわざわざクリスマスにライブなんてするのか心底謎」

「えー、いいじゃないですか、きっとカップルでライブに来るお客さんとか沢山いますよ!」

 

 前から聞いてはいたけど、SICK HACKのワンマンライブにゲスト出演することになってる。

 普通に考えたら結束バンドが出られるような舞台じゃないんだけど、元々前座で出る予定だったバンドが出られなくなって、穴埋めとして呼ばれたんだって。

 廣井お姉さんは、『これも経験になるだろうからさ、私からのクリスマスプレゼント!』って嘯いてた。優しい。普段はアレだけど。

 

「私たちはSTARRY以外のハコでライブやるのは初めてだからね。前もって色々注意点を挙げて本番に備えておこう」

「なるほど、場所は新宿ですし、初めてのハコとなると緊張します」

「アウェーだってことも頭に入れておく必要がある。STARRYでのライブみたいに常連が気を使ってくれることもない。絶対盛り下がるぞ……」

「普段の無駄に高い自信はどうした!?」

 

 新宿かぁ。確かに前の私だったら、辿り着く前に力尽きてたね。間違いない。ドロドロに溶けたりしてみんなに迷惑かけて……凄いリアルな想像出来る。

 でも、今の私なら大丈夫。少なくとも新宿を歩いてるだけでダメージを受けたりしない。

 人の視線にも、大分慣れたしね。うん。

 9万以上の発行部数がある雑誌に写真が載るのと比べれば大したことないよ、きっと。

 大丈夫、いける。頑張れ私。負けるな私。

 ふれー!ふれー!ひ・と・り!

 ほら、イマジナリー郁ちゃんも応援してくれてる!

 あ、そのチア姿、可愛いですね?

 

「ひとりちゃん、大丈夫?」

「うぇっ!?あぁ、はい。大丈夫です。クリスマスライブなんて私にかかればちょちょいのちょいの楽勝ですよ~」

「うーん、でもぼっちちゃんだからなー。いくら読モやって成長したとは言え、ちょっと心配。予行演習がてら新宿行ってみる?」

「ぼっちが大丈夫って言ってるんだから、そこは信用しとこう。いざとなったら喜多に丸投げする」

「おい!」

「大丈夫ですよ、ひとりちゃんのお世話は私に全部任せてください!恋人の!私に!」

「任せた。それじゃセトリ決めようか」

 

 なんか微妙に信用されてないよね。仕方ないけど。

 

「考えたんだけど、やっぱりアウェーってのは大きい。そこでぼっちに頼みがあるんだ」

「え、頼み、ですか?」

「うん。台風ライブの時みたいに、まずぼっちのソロで観客の度肝を抜いて欲しいんだ」

「おーっ!なるほど、あれならアウェーでも緊張を吹き飛ばしてくれそうだよね!」

「でも代わりに、ぼっちの負担が大きい。ぼっちだって初めてのハコで緊張するだろうし。当日になってやっぱり無理ってなっても、仕方ない」

「そっか、それもそうだね……」

「ひとりちゃん、どう?出来そう?」

 

 初めてのハコ。STARRYよりもずっと大きいハコ。アウェーで、私たち結束バンドのことなんて知らない人ばかり。

 多分、台風ライブのときみたいに、退屈そうな目で私たちを見てくるに違いない。

 それを、私の開幕ソロで、吹き飛ばす。

 私のソロで、みんなのエンジンに火を点ける。

 ゾクゾクする!

 

「やります」

 

 やってやろうじゃないか、後藤ひとり、ギターヒーロー。

 無名のバンドなんて、どうせ大したことないだろうって高を括ってるヤツらに、私たちのロックを叩きつけてやろう。

 

「良く言った、ぼっち。前座だからなんて遠慮する必要はない、真打を食い破るくらいの意気込みで行こう」

「なんだよ、リョウだってやる気満々じゃん!」

「やるからには全力で行く。そして物販でぼっちとツーショットのブロマイドを売りまくる。ウハウハだ!」

「私の感動を返せ!」

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 伊知地先輩にネック・ハンギング・ツリーされてるリョウ先輩はおいといて。

 私もクリスマスライブについて考えてみよう。本番に備えて話し合いなんて考えてなかったけど、私も私で案を出したい。

 伊知地先輩は当日の注意点を懸念してくれた。リョウ先輩は当日に予想される失敗を回避する案を考えてくれた。ひとりちゃんは全てを吹き飛ばすソロをやると宣言してくれた。

 なら、私は?

 私だってみんなの役に立ちたい!

 

「うーん……」

 

 クリスマスライブ。クリスマスライブねぇ。当たり前だけど、クリスマスにライブをして過ごすなんて初めてだ。

 いつもだったら友達とクリパして過ごすんだけど、今年からはライブをすることになるんだよね。きっと、来年もそうだ。

 だとすると、クリスマスの特別感が欲しいよね。

 ひとりちゃんと2人きりで、おしゃれなレストランで乾杯とか……いや、ライブの話だから。

 うーん、クリスマスの特別感かぁ。あ、そうだ。

 

「せっかくのクリスマスなんだから、みんなでサンタコスしてライブとか?」

「お、良いね!」

「いやそれは私のキャラじゃない絶対ヤだ」

「全力で拒否るじゃん」

「衣装はどこから調達しましょうか」

「だから嫌だって」

 

 リョウ先輩の分からず屋め。

 

「郁ちゃんはクリスマスらしい恰好でライブしたいってことですよね?」

「うん。せっかくのクリスマスだし、普通のライブとは違ったことしたいなって」

「サンタコスはリョウさんが嫌がるので、赤いジャケットかコートを羽織りましょうか」

「おー」

「あからさまなサンタコスじゃないなら、まぁ、良いよ」

「郁ちゃんも、サンタコスよりオシャレな方が良いんじゃないですか?」

「うん」

 

 はふぁ……ひとりちゃん、イケメン……

 やだもぅ、これ以上私を惚れさせてどうしようって言うの?

 

 結局、ひとりちゃんの伝手で貸衣装屋さんを紹介してもらうことになった。

 リョウ先輩は舞台衣装みたいな赤のジャケット。下は黒のスラックスで、ユニセックスな魅力がふんだんに活かされてる。

 伊知地先輩もジャケット。丈が短くて、あんまりキラキラしてない大人しめなデザイン。どうせ後ろにいて目立たないからって。いやそんなことありませんよ?

 私は赤のトレンチコート。ちょっと大人っぽいデザインで攻めてみた。ギターを弾くのに邪魔にならないように、袖はまくっておく。

 ひとりちゃんはリョウ先輩と同じく赤のジャケット。ただし、下はデニムスカートで、リョウ先輩との差別化を図ってる。本当はひとりちゃんとお揃いにしたかったんだけど、フロントマンだけコートにすることで目立たせたいって言われたら引き下がるしかなかった。

 でもねー。その後、ひとりちゃんったら、こっそり言ってくれたのよ。ライブの後の打ち上げパーティーでは2人でお揃いのサンタコスしましょうねって。もう、大好きっ!

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 大槻ヨヨコは機嫌が悪かった。SICK HACKの前座に全くと言って良いほど無名なバンドを指名してきたからだ。

 そんなのに時間を割くくらいなら自分たちSIDEROSだけでやった方が良いに決まってる。

 せっかくのワンマンライブに水を差すことなど、到底許されることではない。

 どんなヤツらなのかと調べようとしたけれど――

 

「結束バンドなんて名前じゃロクな情報出てこないじゃない!」

 

 当たり前のことだけど、「結束バンド」でググっても、そのものズバリ、商品の結束バンドしかヒットしない。

 なにを考えてこんな名前にしたのか、まったく理解できない。ググっても出てこないのではバンドの宣伝をするにも不便だろうに。

 更に言えば、廣井の話に頻繁に登場するギタリスト、後藤ひとりが気に入らない。

 高校生とは思えない高い技術とカリスマがあって、一般人とは到底思えないアイドル並みの美少女?そんなのいるワケないじゃない!

 

「うそ……」

 

 いた。

 あっれー?なにあの美少女。

 周りの空気が光って見えるんですけど?寝不足で目がどうにかなっちゃった?

 本人も可愛いけど、その腕にまとわりついてる赤い髪の方も相当な美少女だ。なにあれ、ビジュアル系なの?

 え、読モやってるの?セ〇ンティーンの表紙?

 それだと広報SNSのフォロワーはどれくらい……あ、東京ドーム2個分ですか、そうですか。

 いやいや、騙されちゃいけない!

 ライブは顔でするものじゃない。大事なのはギターの腕だ!

 

「上手い……」

 

 リハーサル。開幕一番で掻き鳴らされる、いくつもの雷鳴を束ねたような轟音。超絶技巧を惜しみなく注ぎ込んだギターソロで意識が持って行かれた。そこに淀みなく入るドラム、ベース、リズムギター。そしてボーカル。

 粗がないワケではない。しかし、最初のギターソロで圧倒された後では、それも負け犬の遠吠えと成り果てる。

 まだ経験の浅いバンドだ。特にボーカルの声に力がない。けれどそれは、適切なボイトレをすることで克服できるだろう。他の粗も似たようなもので、場数を踏み、経験を積み重ねていけば自然と解消されるだろう。つまり、彼女らはこれからのし上がってくるのだ。いずれ自分たちに牙を剥くライバルになる。

 

「確かに上手い。でもまだ、私たちSIDEROSの方が上よ。見てなさい、私たちの本気」

 

 その日、新宿FOLTのクリスマスライブは大盛況のうちに幕を閉じた。

 前座を務めた結束バンドとSIDEROSの出来栄えは想像以上で、特に無名だった結束バンドへの評価が事前情報を裏切る嬉しい誤算になったのは言うまでもない。

 

 そして、物販。

 結束バンドの物販が飛ぶように売れた。

 いや、それは言い過ぎか。売れたのはブロマイドだけだったので。

 1枚300円でA5サイズ(148mm×210mm)のブロマイドは、全て後藤ひとりとのペアで撮られている。

 カラー印刷したものをラミネート加工しただけのものではあるが、各300枚用意したそれは、物販開始から1時間もせずに完売した。

 世界のYAMADAが歓喜の雄たけびを上げた。

 

「リョウ、その売り上げ、ぼっちちゃんと折半だからね?」

「そんな殺生な!でも半額でも45000か。ふふふふふ……」

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 新宿FOLTでのライブが明けて、STARRYでのクリパ兼ライブ打ち上げ会件店長さんの誕生日会。

 約束通り、ひとりちゃんとお揃いのサンタコス!

 かーわーいーいーっ!

 

「郁ちゃん可愛いですっ!大好きっ!」

「ひとりちゃんこそ可愛いっ!大好きっ!」

 

 珍しくひとりちゃんが興奮してる。

 ふふ、そんなに可愛い?

 そっかー、私可愛いかー。

 ふふふふふ。いやぁーねー、普段からひとりちゃんは可愛いって褒めてくれるんだけど、こんなふうに勢いよく言われたのって初めてなのよ。

 もう、ひとりちゃんったら、はしゃいじゃって。そういうところも可愛いっ!

 そうよねー、ひとりちゃん、今日は頑張ったもの。

 リョウ先輩の企み通り、ひとりちゃんが開幕ソロでばーんとやってくれたお陰で緊張は吹き飛んで、アウェーなのにお客さんのハートをガッツリ掴めた。お陰で大盛況だったのよ。物販も凄かったしね。

 

「ひとりちゃん、頑張ったわね、良い子良い子」

「えへへへへ……」

 

 ひとりちゃんをハグしてなでなでする。

 ライブ明けでシャワーも浴びてないから、汗のにおいがする。ひとりちゃんのにおい。良いわー。

 

「私、頑張りました」

「うん、偉い偉い。良い子良い子」

「頑張りました」

「うん」

「ご褒美、は?」

「え?」

「ご褒美、欲しい、な?」

「――っ!」

 

 緊急事態発生、緊急事態発生。

 ひとりちゃんが目を閉じてます。

 喜多博士、これは一体なにを意味しているのでしょうか?

 はい、これはいわゆるキス待ち顔です。これにどう対応するかで今後の関係が大きく左右される重大な分岐点です。慎重に判断したいところですね。

 なるほど、確かにこれは緊急事態だ。郁代選手、ここはどう動くのか?ギャラリーも固唾を飲んで見守っている!

 おーっとぉ?喜多選手、覚悟を決めたか最初からためらいもないのか、ゆっくりと顔を近づけていくぅっ!

 あと5センチ!3センチ!もう後がないっ!ファン待望の瞬間が訪れようとしているっ!

 

「公衆の面前でなにやっとるか、この色惚けコンビが!」

「「あぅっ!?」」

 

 惜しぃっ!

 この続きはまた今度になりそうです。なお残念ながら中継はここまでとなっており――

 

「そういうのはパーティーが終わって2人きりになってやってよね。目の毒だからさ」

「はーい」

「……」

 

 あら、ひとりちゃんが顔真っ赤にしてしゃがみこんじゃった。

 無意識だったのね。

 

「この2人、一緒のテーブルにしとくと延々と永遠にイチャつきそう。テーブル別けるか」

「そんな、酷いですっ!」

「虹夏、今日は2人とも頑張ったんだし、ご褒美はあげるべき。甘々すぎて回りの被害が心配なら、いっそ2人だけのテーブルを用意すればいいんだし」

「あ~、うん、まぁ、それもそうだね。もう最初にお姉ちゃんにプレゼント渡しちゃって、あとは好きにさせとこうか」

「リョウ先輩ありがとうございますっ」

「リョウさん……!」

 

 なんて言うことでしょう、いつもなら絶対面白がって放置して笑ってるだろうリョウ先輩が助け舟を出してくれるなんて!

 これにはひとりちゃんも感動よ!

 

「今日はぼっちに稼がせてもらった。私は恩には恩で返す主義」

「あ、はい」

 

 まぁ、そうですよね。でも助かりました!

 関係ないけど、クリスマスの夜はナントカの6時間って言うそうですから、今晩は金沢八景の家に帰らないでホテルを取ってるんですよね。

 終わったら速攻です!

 

「じゃー、さっそくですけど、店長への誕生日プレゼントお渡しタイムでーす!」

「別にそこまでしなくてもいいんだぞ?」

 

 なんか急になっちゃったけど、普段からお世話になってる店長にはお礼したいからね。

 みんなが順にプレゼントを渡していって、最後はひとりちゃんの番。

 

「えっと、私、なにをプレゼントすれば良いのか分からなくて。虹夏ちゃんに相談したら、これでって言われたので……」

 

 そう言って渡したのは、A1サイズ(594mm×841mm)の火鳥ポスター。サイン入り。

 自分のポスターをプレゼントするとか、絶対イキッてると思われる!って嫌がってたけど、これが一番喜ばれるからって説得した。

 ちなみに火鳥のサイン入りポスターはこれが初なので、プレミアも凄いと思う。

 店長さんは最初、なにこれ?って目で見てたんだけど、だんだんと火鳥がひとりちゃんだって分かってきたらしくて、口をパクパクとさせて――

 

「はひゅぁ……」

 

 ぱたん、と倒れた。

 

「お姉ちゃーん!?」

「まずい、刺激が強すぎたんだ!」

「刺激が強いポスターってなによ!?」

 

 セ〇ンティーンの表紙に使われた、めっちゃ可愛い春の妖精バージョンのポスターです。

 実家のアレを思い出してちょっとモヤったけど、まぁ、これは通常サイズですし。許容範囲内かな。

 

 






リョウの守銭奴ネタが便利すぎる。
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