ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」 作:ぼ喜多スキー
今回もまたストックがないので書いたら推敲なしで上げるスタイル。
毎日投稿してる人ってどれだけストックあるの?
マジで尊敬します。
今回はギターヒーローバレからグルーミーグッドバイの作詞作曲の流れ。
未確認ライオットを想定してない状態なので、曲を作る動機が違います。
喜多ちゃんはまだ家出中。
郁美さんは拗らせMAX状態。
親父さんは懐の深いイケメン。
後藤家にお世話になってから、はや数週間。まだお母さんのビョーキは治ってない。
お父さんの話では、これを撤去するくらいなら離婚する!とまで言ってるらしくて埒があかないんだって。何考えてんだろ。
『すまない、あんなに抵抗されるとは思ってなかった』
『そりゃそうだよ』
『なにか不便なことはないか?』
『着替えとか教科書とかは持ってきてるから大丈夫。問題なのは交通費と生活費かな。気にすることないって言われてるけど、食費くらい入れたい』
『分かった。お前の口座に振り込んで置く。……本当ならそちらに直接行って頭を下げるべきなんだが』
『やめてね、お母さんに後藤家の位置が知られたら大変だから』
『そうだな。……こちらはもうしばらく交渉してみる。なんとかお互いの妥協点を探ろう』
『無理じゃないかなぁ』
『そう言うな。あれでも職場ではきっちりしてるんだ』
『お父さんは、大丈夫なの?』
『あいつがそういう気質なのは知ってたよ』
『え、そうだったの?』
『あぁ。分かってて結婚したんだ。凄いだろう?』
『あはは……確かに凄いね?』
『……そろそろ切るよ。身体に気を付けて』
『うん。ありがとう。お父さんも』
マジか。いや、娘の私がひとりちゃんに恋しちゃってるワケだから、もしかしてとは思ってたけど。
お母さんもそうだったのね。うわぁ、なんか複雑。
まぁ、だからと言って娘の恋人に横恋慕するのは、どうかと思うけど。
☆ ★ ☆
クリスマスライブも終わって、冬休み本番。今日はバイトもなくて完全オフ。ひとりちゃんのモデルの仕事も入ってない。美智代さんからも今日は勉強もお休みして良いって許してもらえたし、1日中イチャイチャしてられる貴重な時間なのだ!
さてそうなると、ひとりちゃんを映えスポットに誘ってデート!なんていつもの私だったら燃え上がってたところだろうけど。
ふふふ、今の私は違うのよ。自分だけの欲求を押し付けたりしないの。だって――
「ギター、ギターが弾ける!くふふふふっ、なに弾こうかなぁ、迷っちゃうなぁ、取り敢えずアレは外せないよね、映画の挿入歌になったし、いいねが捗るに違いない!それから――」
うん。分かってるの。最近、ひとりちゃんは思う存分ギターに没頭する時間が取れてなかったんだもの。ストレスの溜まり具合は半端なくて、たまに意識が飛んでたくらい。こんな状態のひとりちゃんを外に連れ出すなんて出来るワケない。
私はひとりちゃんと一緒に楽しみたいのであって、無理させたいんじゃないの。それに、ひとりちゃんがギター弾いてるとこを見るの、好きだしね。
「あ、そうだ。郁ちゃんに大事な話があったんでした」
ウキウキしながらギターの準備をしていたひとりちゃんが唐突にスマホを差し出してきた。動画アプリに映ってるのは弾いてみた系のチャンネルで、名前は。
「guitar hero?」
「それ、私です」
登録者数、17万。SIDEROSの大槻さん風に言うなら、東京ドーム3個分。私のトゥイッターとイソスタのフォロワー数を足しても全然届かない、圧倒的な数字。
試しに目に付いた動画を再生してみると、そこには結束バンドではない、私と2人きりの時だけに見せるのとも違う、たった1人でギターを弾くひとりちゃんがいた。
【プロフィールで陰キャの告白してからのギターヒーローは一味違うな】
【一味と言うか、一皮剥けた】
【表現力ハンパない】
【聞いてて泣けてきたんですが?】
【これホントに陰キャ?】
【明らかに超高校級のテクを持ったギタリストが陰キャと言われてもな?】
【恋人がいないからなんだ!お前にはギターがあるだろうが!】
【スタイルが良いのはガチ。きっと顔も可愛い】
【世の中には後ろ美人って言葉があってだな】
【顔なんかどうでも良いんだよ。ギターヒーローはギターヒーロー。それ以上でも以下でもない】
動画に付いてるコメントは、大体が好意的で、みんなギターヒーローの演奏技術に惚れ込んでいるのが分かる。
確かに、凄い。
そして、とてつもなく、遠い。
ひとりちゃんって、こんなに凄い人だったんだ。
ギターを弾けばプロ級で、動画サイトでは沢山のファンがいて、読モをやれば超絶美少女で、広報SNSのフォロワー数は東京ドーム2個分にもなる。
こんなの、今すぐアイドル事務所が勧誘に来てもおかしくないじゃない。
「今まで、なんか言うタイミングが分からなくて、でも、郁ちゃんに黙ったままでいるのはイヤだったので」
「あぁ、うん」
そうなんだ。
へー。
「えと、虹夏ちゃんは、元からギターヒーローの視聴者だったせいか、台風ライブの時にバレちゃったんですけど」
「……」
伊地知先輩は知ってるんだー。
ふーん?
「私が、自分から、ギターヒーローだって教えるのは、郁ちゃんが初めてです」
「……」
もう。
しょ〜がないなぁ〜っ!
うーわ、私、ちょっろっ!
いやでも嬉しいんだからしょうがないじゃない?
でも、そっかー、私が初めてかー。
ならしょうがないわね。黙ってたことは許してあげましょう!
あー、でも、確認はしとかないとね?
「ひとりちゃん?」
「はぃっ、なんでしょうかっ!?」
「他に、ひみつにしてること、ないよね?」
「ありませんっ!」
「ならよろしい」
そのあと、ひとりちゃんと一緒にギターの練習して、ギターヒーローのチャンネルには私とのセッション動画を上げて、プロフィールは『恋人ができました』って更新させた。
うん、満足!
☆ ★ ☆
リョウ先輩がスランプらしい。
物思いに耽ってどことも知れない空中をぼーっと眺めたり、お金に困ってるワケでもないのに草をもしゃもしゃしたり、ひとりちゃんとはまた違った感じの奇行に走ってる。
これはバンドメンバー総出で話を聞いた方が良いんじゃないかと伊地知先輩が言い出したところ。
「ぼっち、やって欲しいことがある」
キリリと真面目な顔でひとりちゃんに掴み寄った。うーん?なんだろ。
「えっと、ブロマイドの種類を増やそうとか?」
「それは魅力的だけど違う」
「ブロマイドにサインを入れて売価を上げようとか?」
「サイン入れるの面倒」
「MVは1号さんと2号さんに絵コンテを切ってもらってるところですし……」
「そういうのじゃなくて、曲の相談」
あぁ、そういうこと。
リョウ先輩とひとりちゃんって、創作組だから妙に分かり合ってるところがあるんだった。曲の相談ってのは、ありえる話よね。
「私でよければなんでも。何をすれば良いんですか?」
「ありがとう。取り敢えず……全力で弾いてるぼっちが見たい」
「は?」
リョウ先輩は知らないでしょうけど、ひとりちゃんの全力って、ちょっとヤバいレベルですよ?
ソロの時間が長過ぎたのと、バンド演奏の経験が浅いから、結束バンドとしての実力はそんなでもないですけど。
でも今の感じだと新曲にひとりちゃんの全力を盛り込みたいってことなんですよね?
それはちょっと……
「薄々感じてはいたけど、クリスマスライブでのソロで確信した。ぼっちの実力はとんでもなく高い。それを持て余してるのはもったいない」
「リョウの言いたいことは分かるよ。でも、私たちの実力じゃ、ぼっちちゃんには――」
「分かってる。ギター経験半年の喜多はもちろん、虹夏や私だって付いていけない。だからこれは、目指すべき目標を明確にするためでもあるんだ」
つまりリョウ先輩は、実力差があることを盛り込んだ上で新曲を作るってことかしら?
でもそれって、チグハグになっちゃうんじゃ?
「今度の新曲はぼっちの全力に近いスキルを出した上で、私たちもギリギリ限界までスキルアップすることを前提としたものにする。正直言って、実際に演奏出来るかどうかは分からない。でも実現出来たら、私たちは大きく成長出来る」
「……なるほど」
つまり、課題曲なんだ。
これくらい出来ないと上にはいけないって言う。
「わかりました、やります」
静かに、ギターを構えて。
瑠璃色の瞳に青い焔をちらつかせて。
ひとりちゃんは弾き始めた。
嵐のように暴力的に、幾万もの雷鳴を束ねたような轟音を撒き散らして、ブレーキなんて最初から存在していないような暴走を見せ付ける。
なのに運指は精密機械のように正確で、美しさすら感じる。
1日6時間の練習を3年間積み重ねてきた努力の成果を土台にした天才が放つ全力の演奏。
果たして、同じだけの時間、同じだけの練習をしたとして、この境地に辿り着くことは出来るだろうか?
いや、不可能。
断言出来る。
これは後藤ひとりだけが到達することを許された神々の領域。天上の調べ。
「天才だったか……」
リョウ先輩から、呟きが漏れる。
確かに、ひとりちゃんは天才だと思う。
でも、いまの段階まで辿り着くには、それはもう大変な努力と苦労があったんです。ギター以外の全てを擲って、ギターだけに中学時代を捧げてきたからこそ、今があるんです。
天才の一言だけで済ませて良いことじゃ、ありませんよ。
私も、ひとりちゃんに怒られちゃいましたからね。
……拗ねたひとりちゃんも可愛かったなぁ。
「どうでしょう?」
演奏が終わって、打って変わったようにひとりちゃんが帰ってくる。おかえりなさい。
「あぁ、ありがとう、ぼっち。参考になったよ」
「やっぱ、ぼっちちゃんは凄いねぇ」
「うん、流石はギターヒーロー。おみそれいたした」
「え?」
「え?」
「え?」
バレてる!
「いくらなんでも、あんなの見せられたら私だって分かるよ。昨日の動画もあるし」
「あー、そうだよ、ぼっちちゃん、喜多ちゃん。久しぶりにギターヒーローの更新来たって思ったら、恋人とセッションしてみた!なんてやるんだもん、びっくりしたよー」
「コメントが凄いことになってた」
「あはははは……」
「でもこれで、結束バンドみんなにバレちゃいましたね!」
リョウ先輩だけ仲間外れにならなくて良かった!
「それで、どうでしょう?」
「うーん。正直言って、アレに追い付くのは難しい。ぼっちには大分我慢してもらうことになると思う」
「それは、大丈夫です。私だって、みんなに合わせられるようになりたいですから」
「良く言った。作詞もよろしくね?」
「あ……はぃ……」
ひとりちゃん、作詞も必要だって忘れてたのね。
大丈夫よ、私も手伝うから!戦力になるか分からないけど!
☆ ★ ☆
作詞と言うのは、彫刻や発掘作業に似ているように思う。
自分の中にあるまっさらな部分を少しずつ顕にしていく作業は、まるで彫刻刀やノミでコツコツと無駄な部分を削り取っていくかのようだ。
何が埋まっているかなんて、私だって知らない。
「うーん」
さて、どうしようか。
今回の新曲には結束バンドの大きな飛躍がかかっている。
いつもの陰鬱なフレーズは似合わない。
いや、あっても良いんだけど、それは序盤に配置すべきだと思う。
暗くてジメジメしたところから、希望を見出すような、サビには希望を見付けた喜びを。
……なんだ、目の前にあるじゃないか。
陰鬱な自分を捨て去って、明るい未来へと足を進める。
それはまるで、今の私自身だ。
「書ける、大丈夫、いける!」
チヤホヤされたくて始めたギター。
ギターの練習に夢中になり過ぎて、友達1人出来なかった中学時代。
高校こそはと一念発起したけど、上手くいかなくて、落ち込んで。
そんな私を拾い上げてくれた虹夏ちゃん。
ありのままの自分で良いと個性を認めてくれたリョウさん。
太陽みたいに明るくて、一番星みたいに私を導いてくれる郁ちゃん。
大切な宝物、結束バンド。
奪われそうになった宝物。
取り戻そうと必死に足掻いて。
読モの仕事を頑張って。
いつのまにか私は、陰鬱なだけの人間じゃなくなっていた。
恋人が出来た。
仲間たちは祝福してくれた。
まだまだ大変なことは待ち構えているけど。
愛する人がすぐそばにいてくれて、困難に立ち向かう仲間がいる。
こんなに幸せなことって、そうそうない。
「ねぇ、郁ちゃん?」
「なぁに、ひとりちゃん」
「私、幸せです」
「ふふっ、私もっ!」
☆ ★ ☆
まるで物語の最終話みたいなことを言うから、どうしたのかと思ったら、作詞が上手くいきそうでハイになってたんだって。紛らわしいなぁ。
そんなひとりちゃんは、今は作詞ノートと睨めっこ。
方針は決まったけど、どんなフレーズで埋めるかで頭を捻ってる。
こんな時は邪魔しちゃいけないから、私は床に寝転がってじーっとひとりちゃんの背中を眺めることにした。
最近は読モの仕事をするのもあって猫背でいることもなくなってきてたけど、テーブルの前で胡座をかいてる状態だと、やっぱり猫背になっちゃうのね。
丸っこくなった背中が、ギターを掻き鳴らしてるギターヒーローと重なる。
音楽への直向きな姿勢は、作詞をしていても、ギターを弾きてても同じなのね。
なんか妬けちゃうな。
ふぃっと、ひとりちゃんに背を向ける。
うーん、このままでいるのは生産的じゃない。冬休みの課題でもやっつけちゃおうか?それともギターの練習かな?
うん、ギターだ。ひとりちゃんみたいに押し入れの中でやれば大丈夫。多分。
大量のアー写は撤去済みだし。
……最初にアレを見たときはびっくりしたなー。ひとりちゃんの奇行なんてもう平気!って油断してたのもあって、危うく気絶するところだったもの。ひとりちゃんを土下座させて説教しちゃったわよ。
押し入れに入って、ギターを構える。
ひとりちゃんは防虫剤のニオイがーとか言ってるけど、全然そんなことない。むしろ、ひとりちゃんと私のにおいが充満してる感じ。何故ってそれは、2人で入ってアレコレしてる場所ですから。
元々ギターの練習をするのに防音加工してる空間だから、色々と都合が良いの。色々と。
ちなみに、ちゃんと掃除はしてるから、不潔なんてことはない。掃除機もかけるし雑巾がけだってしてる。換気もしてるから湿っぽくもない。大切な秘密基地のメンテは万全だ。
さて、悶々としてる場合じゃない。私はギターの練習をするために来たんだから。
よし、星座の曲にしよう。
ひとりちゃんと星座になれるよう、祈りを込めて。