ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」 作:ぼ喜多スキー
ストックなし推敲なし投稿は続行。
ここのふたりはお姉ちゃん大好きっ子。
年が明けた。
相変わらず私は後藤家にご厄介になってる。
実家?あんな魔窟に帰るワケない。
最近はもうこのままで良いんじゃない?って思わないでもないけど、幾ら将来を誓いあってるとは言え、私たちはまだ高校生。本来ならまだまだ親の庇護にあるべき年齢なのよね。
お世話になるばかりだと気が引けるから、家事手伝いとかは積極的にやってる。なんか花嫁修行みたい。後藤家の味付けとかも色々覚えたし、ふたりちゃんとの仲も、大分持ち直した。
……そう、最初はふたりちゃんに目の敵にされたのよね。主にひとりちゃんとのお風呂の関係で。どっちが一緒に入るかで5歳児と睨み合う16歳。シュールだわ。
キスマーク事件のことは美智代さんに怒られて懲りたようで、あれ以降は付けられてない。モデルの体に跡を付けるのは、いくら幼い妹の仕業とは言っても許されることじゃなかったってこと。撮影に支障しちゃうかもだからね。
とは言え、ふたりちゃんを蔑ろにするなんて、優しいひとりちゃんが出来るはずもなくて、今は不公平にならないように月水金が私、火木土がふたりちゃん、日曜は3人で仲良く入ってる。
ところが、この平穏な日々がポッキリと折られることになった。
「ひとりちゃんには一人暮らし……じゃないわね、二人暮らししてもらいます」
唐突に、美智代さんがのたまった。
最初、なにを言ってるのか分からなかった。でも理由を聞けば納得するしかない。火鳥の人気がどんどん上がってきて、モデルの仕事が増えてきている。この状況で通学に往復4時間かかるのは、幾らなんでもひとりちゃんの負担が大き過ぎるから、下北にマンションを用意することになったらしい。
とは言え、家事スキルが壊滅的なひとりちゃんだけで一人暮らしは不可能なので、私がハウスキーパーとして同居する。
なるほど?
確かに最近のひとりちゃんはギターを弾く時間が取れなくて衰弱してたから、学校と撮影スタジオとSTARRYが近い下北に拠点を移すのは得策だと思う。
でも、だからって、解決策が二人暮らしっていうのは乱暴な気がするなぁ。
ちらりとふたりちゃんに視線を投げると、最初はきょとんとしてたのが、段々と事情が分かるにつれて涙目になってきている。これはマジでギャン泣き5秒前だ。
「やぁーだぁーっ!!」
うわぁ、すっごい声。
いつもはひとりちゃんを舐め腐ってるふたりちゃんが、怒涛の勢いで泣き出した。
世界よ、これがシスコンだ!と言わんばかりのシスコンぶり。
お姉ちゃんがいぃー!お姉ちゃんと一緒がいぃのー!と力の限り絶叫する。喉を痛めて咳き込んで、呼吸困難からチアノーゼになっても止まらない。
お義父さんが抱っこして宥めてるけど、海老反りになって反抗するふたりちゃんに効果は見られない。身体全体でひとりちゃんラブを訴えるふたりちゃんを見てると、なんかこっちまで泣けてきそう。
「引っ越しは冬休み中ね。もう部屋の準備は終わってるから、持って行くものは宅急便を使ってちょうだい」
「うん、分かった」
対して美智代さんは冷静で、ひとりちゃんは青ざめてはいるけど、粛々としてる。逆らっても無駄って顔に書いてあるわ。同感。
結局、ふたりちゃんの絶叫は泣き疲れて寝ちゃうまで続いた。これは明日も荒れるわね。
☆ ★ ☆
翌朝もふたりちゃんは泣いていた。昨日みたいに気が狂うんじゃないかって泣き方じゃないけど、身体中の水分が全部涙になって流れ出してるようで、満足に起き上がることさえ出来てない。
やっぱりこの姉妹を引き離すのは酷なんじゃないかと思うけど、相手は美智代さんだし、私が口を出して良い問題でもない。
なんとか元気付けてあげたいけど、ひとりちゃんと一緒に行く私が何か言っても嫌味になっちゃうよね。どうすれば良いんだろ。
ひとりちゃんと同棲出来るのは嬉しいけど、その陰でふたりちゃんが泣いてると思うと、素直に喜べない。
「ふたり」
「――おね、ちゃ」
「遊びにおいで。待ってるから」
「いっちゃ、や」
「お姉ちゃんも、たまにはこっちに帰ってくるから」
ひとりちゃんも、お姉ちゃんなんだね。
あんまり見てるのも悪いし、ここは2人きりにしとこう。
☆ ★ ☆
ひとりちゃんの説得が上手く行ったのか、それとも別の何かがあったのかは分からないけど、ふたりちゃんは段々と落ち着きを取り戻していった。
私も引っ越しするまではお風呂の権利をふたりちゃんに譲ってあげた。私にはこれくらいしから出来ないしね。
そして引っ越し当日。
ここに来て、ようやく思い出したんだけど。そもそも読モの仕事って、あと3ヶ月で終わりじゃなかったっけ?
「ごめんなさい。お母さんに丸め込まれました」
「やっぱり……!」
期間限定の割に仕事が多いような気はしてたのよね。どっちがメインで企んでたのか知らないけど、やっぱり大人ってズルい。
こっちにもしっかりメリットを用意してるあたり、これはかなり練られた作戦なんだと思う。もしかして読モを始めた頃から仕組まれてたのかもしれない。
『お姉ちゃん、元気?』
「元気だよ」
『喜多ちゃんはー?』
「私も元気よ!」
『良かったー』
私とひとりちゃんしかいないはずのマンションにふたりちゃんの声がする。リビングには、テレビを見るのとは別のモニタが置いてあって、これは後藤家と24時間繋がってるweb中継だ。お互いの様子を確かめ合うことが出来るようになってる。ペットカメラの人間verって言えば分かりやすいかな。
最初はびっくりしたけど、ふたりちゃんが大人しくなったのはコレがあるからなんだって納得した。
これは、ふたりちゃんの精神安定のためだけじゃなくて、ひとりちゃんと私が自堕落になってないか監視するためでもある。微妙に信用されてない。いや、心配されてるのか。映るのはリビングだけで、個室にまでカメラはないから、プライバシーは保たれてるし、これはこれで良いのかもしれない。
家族と気軽に話せるから、寂しくもならないしね。
☆ ★ ☆
さてさて、新居の探検といきましょうか。
立地はSTARRYから程近い5階建てマンションの最上階。所謂オーナーズルームと言うもので、普通のマンション物件とはまるで違う。元々3LDKだったのを2LDKにリフォームして、お風呂とかリビングとか広くしたんですって。
……いや、おかしいでしょ。おかしいよね?いくら人気が出てきた読モのためとは言っても、限度ってものがあるでしょ!?
「このマンション、母方の祖父の持ち物で、この部屋は生前贈与ってことらしいです」
「まさかのお金持ちムーブ」
「でもほら、ここは郁ちゃんの家でもあるんですよ?」
「あ、そうでした」
お金目当てのつもりなんて全然ないんだけど。まぁ、良いか。
リフォームしたてと言うことで、全体的に綺麗でオシャレ。お風呂は特に力を入れてリフォームしたらしくて、広い湯船に感動した。これなら存分にイチャつける。
部屋割りは2LDKだけど、ベッドは片方にしかない。わーい、ダブルベッドだー。美智代さん、ありがとう!
もう片方の部屋は空っぽ。好きにしなさいってことかな。取り敢えず収納に使いましょう。
家具や家電は最初から勢揃い。自分たちで揃える楽しみはないけど、高校生の収入でどうにかなることじゃないし、今は我慢ね。
☆ ★ ☆
冬休みも終わって、3学期。
予想通り発症した、ひとりちゃんの学校に行きたくない病を宥めすかして登校する。決め手は「私と学校に行くのは嫌?」の上目遣い。
私も大分ひとりちゃんの扱いに慣れて来たわね!
まったく、可愛いんだからもっと自信を持ったら良いのに。あ、でもそうなったら悪い虫が寄ってきそうだから、当分はこのままの方が良いのかも?難しいところだわ。
今日は始業式だけだから午後には帰れる。私はSTARRYでバイト、ひとりちゃんはモデルの仕事が入ってるから――
うん、あれ?
なんだろう、心臓がバクバクいってる。
目の前がチカチカする。
息が、苦しい、ような?
「おい喜多、どうした?」
「あ、さっつー、あけおめ」
「おう、あけおめ。じゃなくて、めっちゃ体調悪そうじゃん。どした?」
「あー、うん。私も良くわかんない。なんか動悸と眩暈と息切れが」
「思ったよりヤベーじゃんよ。……誰か後藤連れてきてー」
「はいよー」
うーん。なんだろ、この体調不良。ついさっきまで平気だったのにな?
「郁ちゃん!」
「ひとりちゃん!」
「秒で回復して草なんだが」
うるさいよ。
あー、そっか、久しぶりすぎて忘れてた。
これひとりちゃん不足だ!
最近はずっとひとりちゃんと一緒にいたから、学校が終わってから夜になるまでひとりちゃんと会えない事実に耐えられなかったのね。あらかじめ心の準備をしておけば大丈夫なんだけど、今回はついうっかりしちゃったわ。
取り敢えず今は即急にヒトリウムを補給しないと。
「ひとりちゃん、ちゅう」
「ここでですか!?」
「ダメ?」
「……郁ちゃんは小悪魔ですね」
はむ。
ちゅう。
「ん、ありがと」
「……生殺し」
よし、元気100倍!
これでお昼まではもつわね。
「今日はお昼からお仕事だったわよね?」
「えぇ、まぁ。そろそろ初夏の特集用ですかね」
「相変わらず季節感バグるわねー」
「そう言う業界ですので。それじゃ、教室戻りますね」
「うん、また後でね!」
流石はひとりちゃんのキス。
動悸も眩暈も息切れも一瞬で解決しちゃったわ。救◯もびっくりね。
「お前ら、いつもあんなことしてんの?」
「あんなこと?」
「いやさ、あの後藤が場所のことしか気にしてなかったから」
「あぁ、なるほど。冬休み中に色々あったからじゃない?」
「そっか、色々か」
流石にさっつーにも家出してることとか、同棲してることまでは話せてないからね。ここは話を濁しておかないと。
「ね、ね、喜多ちゃん喜多ちゃん!」
「後藤さんとはどこまでいったの?」
「今のキス、凄いスマートだったよね〜」
「キスなんて当たり前、みたいな!」
「メガネ外す仕草がさぁ、もうね、セクシーなの、色っぽいの!」
「絶対もっと先までいってるよね!?」
「やーん、あんな可愛くてカッコいい恋人、羨ましい〜!」
「さっすが喜多ちゃんだよねー」
うわぁ、びっくりした。
あ、そっか。ひとりちゃんってば、キスするのに邪魔だから伊達眼鏡外しちゃったんだわ。
あの顔見られたら、この反応になるのも仕方ないかな?
「あはは、ひとりちゃん、あんまり騒がれるのは好きじゃないから、しーっ、ね?」
人差し指を唇の前で立てて、ウィンク。
読モなんて人気商売だからね。人に詰め寄られたひとりちゃんがドロドロに溶けちゃったりしたら大変だもの。
「任せてよ!後藤さんが本当は凄く可愛いってことはナイショ!」
誰かが言って、みんなが同調してくれた。
うん、これで一安心。
質問の答えは、まぁ、ご想像にお任せね。
☆ ★ ☆
3学期になってからしばらくして、ひとりちゃんの詞が完成した。
タイトルは『グルーミーグッドバイ』。陰鬱なこれまでに別れを告げて、希望と共に未来へ進もうと言う、結束バンドの飛翔を願った歌詞。
ひとりちゃんは陰キャな自分が結束バンドと出会って前向きになっていく姿をイメージしたって言ってるけど、これって私にも重なるところがあるのよね。平凡な自分に嫌気がさしてた私も、ひとりちゃんやみんなと出会って、特別な何かになれそう!ってワクワクしてるんだもの。
リョウ先輩も、伊地知先輩も、まるで自分のことを歌詞にしたみたいだって感じたそう。リョウ先輩はインスピレーションが湧いてきた!って言って脇目も振らずに帰って行った。
きっと沢山の人の心に響く素晴らしい曲になるわね!今から楽しみ!
☆ ★ ☆
ぼっちが歌詞を完成させてから、いや、私が作曲を始めてから1週間たった。
その間、没になった曲は5つ。別に悪い出来じゃない。でも、納得出来ない。
もっと出来るはずだという思考と、ここまでが限界だという思考がぶつかる。
ぼっちの、ギターヒーローの技術は凄まじい。あれを存分に活かした曲を作りたい。
でも、私たちには演奏出来ない。技術が足りない。経験が足りない。例え無理に演奏しようとしても、酷く不恰好なものになってしまう。それじゃ意味がない。
ギリギリを見極めるんだ、山田リョウ。私なら出来るはずだ。
「ぼっち……」
去年、作曲の参考にしたいからと全力で弾いてもらったのは、台風ライブでぼっちが鮮烈な輝きを魅せてくれた曲だ。本当はもっと出来るんだと訴えるような演奏だった。
録音しておいた音源を聴く。バンドメンバーの力量を考えて抑えていた部分が、全て吹き飛ばされていた。この曲のポテンシャルはもっと高いところにあったんだと思い知らされる。
あの時は最高の出来だったと今でも自負する演奏が、ギターヒーローの手にかかれば霞んでしまう。
正真正銘の天才。化け物。
でも、だからなんだ。
ギターの天才だって、弾く曲がなければ始まらないだろう。
私が、天才に、曲を提供するんだ!
「ははっ、そうだよ。ぼっちがギターの天才なら、私は作曲の天才になってやる。待ってろぼっち、最高の曲をプレゼントしてやる」
☆ ★ ☆
2月初旬、リョウが曲を完成させた。
凄くカッコいい曲だ。
聴くだけならな!
「リョウ、幾らなんでも、これはない!無理!」
「うん。正直言って反省してる」
「ひとりちゃん、弾けそう?」
「えぇ、まぁ。ただこれ、かなりレベル高いですよ」
そりゃね、ぼっちちゃんなら弾けるんだろうけどさぁ。
私だって冬休みの間、遊んでたワケじゃない。スキルアップのために練習に勤しんでたよ。我ながら前よりは上手くなったと思ってる。
でも、これは、無理!
「喜多ちゃんはどう?」
「そうですね、ちょっと試しに弾いてみないと、なんとも」
喜多ちゃんの成長速度ヤバいからなー。
しかも今はぼっちちゃんと同棲してて、暇を見つけてはマンツーマンで練習してるらしい。
え、もしかしてバンド内で一番足引っ張ってるの、私?
「案ずるより産むが易し。取り敢えずやってみよう。どうしても無理なところは調整する」
「へーい」
それから何回か通してみて、テンポや変調頻度、フレーズの難易度を抑えた調整をして、ある程度のカタチになった。
それでもまぁ、妥協出来ないところは多くて、要練習ってことになった。
ぼっちちゃんはふらふらになってる喜多ちゃんを介抱してて、リョウは真剣な目でノーパソを睨みつけてる。
私はもたついちゃうところを反復練習だ。
うーん、独学で頑張ってここまで来たけど、やっぱり熟練者からの指導が欲しい。
ぼっちちゃんも前に、お姉ちゃんからのアドバイスをもらったらどうかって言ってたし、頃合いかもしれない。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?どした?」
「ドラムの技術指導してくれる人に心当たりとかない?」
レッスン料とか、払えるかな私。
ここの虹夏ちゃんは、相談出来る子。
自分でやってみてダメならお姉ちゃんにアドバイスもらうことも許容範囲内。