・リハビリ半分、ウマ娘の妄想消化半分の短編です
・一話完結型、トレーナー視点です
・解釈違いの可能性があります

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大人なゴールドシップを想定しています


ゴールドシップと

「なぁ〜、トレぴっぴ〜」

「あん?今仕事中なんだけど」

 

 手元の書類からは目を離さず、適当に返事だけをする事で忙しいことを暗に伝えようとするが、そんなこちらを意に介する様子はない。

 

「そんなの見りゃわかるってばよ。別にそのまんまでいいから聞いてくれよォ〜」

「手短に、さくっと終わらせてくれ」

「トレぴっぴって、彼女とかいねーの?モテるだろ?」

 

 藪から棒どころか藪から鯨くらいの突拍子もない問いに一瞬手が止まるが、コイツの突拍子のなさはよく考えたらいつも通りだ。そう思い至り作業を再開する。

 

「なんで唐突に聞くんだよそんなこと」

「目元腫れてんぞ、トレーナー」

「……勘のいいウマ娘は嫌いだよ。よく見てるなお前」

「あたぼうよ、何年トレぴっぴの秘書やってると思ってんだい!」

「お前を秘書にした覚えはない。勝手にここに入り浸ってるだけだろうが」

 

 URAファイナルを制した後、数人のウマ娘を理事長から押し付けられた俺はこの問題児との契約を他のトレーナーに引き継いだ。はずだったのだが、その数日後には何故か俺の部屋(トレーナー室)で茶を啜っていた。声も出ない俺に向けてきた第一声が『遅せぇぞ!早くマグロの一本釣りに行くんだから乗れ!!!』だったので我に返ったが。

 

「でもよ、理事長からもこうして許可証貰ってるし、あたしは実質トレぴっぴの秘書なんだよ」

「いや、そもそもトレーナーに秘書ってなんだよ、訳が分からんわ」

 

 なんで理事長は許可出してんだ。たづなさんに怒られてしまえ。

 

「理事長に『ここで働かせてください!!』って言ったら爆速で資格試験受けさせてくれたぞ。たづなさんも試験が満点だったのを見て許してくれたしな」

「実力で周りを黙らせてるんじゃねぇよ。なんで無駄に優秀なんだお前は」

 

 何度聴いても訳の分からない話にため息が漏れるし頭痛がする。こんな奇行が目立つとんでもない女だが、うちのチームのウマ娘たちには評判がいいから、なおタチが悪い。下手をすれば俺より懐かれている。

 

「で、なんで目元も頬も腫れてんのよ、トレぴっぴ」

「チッ、ごまかせたと思ったのに」

「どうせアレだろ?『貴方といてもウマ娘とレースの話ばっかり、もう耐えられない!!そんなにウマ娘が好きなら私なんかよりウマ娘と付き合ったら!!!』って引っぱたかれたんだろ?んで、それからその女とは音信不通だと」

「おい待て、なんでお前が昨日の出来事を全部知っている!」

「そりゃ、見てたからな」

 

 アンタを無人島まで拉致ろうとして待機してたんだよ、と満面の笑みを浮かべる顔に今度こそ声を失った。勿論、自身が何処か知らぬ土地に連れていかれそうだったことに対してでは無い。

 

「これで何人目よ、この女泣かせ!」

「ほっとけ、泣きたいのはこっちの方だよ。仕事の話が聞きたいって言われるから話してただけだってのに」

「そんなの他にアンタの趣味が無いから相手が気を使ってたに決まってんだろ」

「ぐう」

「おっ、まだぐうの音は出るのかトレぴっぴ」

「うっせ」

 

 舌打ちと共にタブレット菓子を適当に口に放り込む。幾らか心が落ち着いたので、ゴールドシップの顔を見ないよう再び作業を再開する。

 

「なぁ、トレーナー」

「……」

 

 反応しようものならまた仕事を妨害されるかもしれない。今度は絶対に釣られてやるものか。

 

「このゴルシ様と付き合うってのはダメなのか?」

「……は?」

 

 無理だった。顔を上げると対面にはいつも通りゴールドシップの無駄に整った顔。そしてその表情もいつも通り自信に満ちており『引っかかったな』と言わんばかりの笑顔だ。だがよく見ればその頬は僅かに赤く、耳は忙しなく動いている。

 

「はっ、本気(マジ)か?」

「おうよ、マジもマジ、超大マジだぜ」

「そこだけ切り取ると致命的に頭が悪いな」

「ほっとけ。ンな事より、さっさと返事しろよ。幾らウマ娘の話をしても許されるし、顔もいいし、優良物件だぞ!」

「自己PRに自分の容姿を上げてくるのなんてお前くらいだろうさ」

「いいからほら、さっさと返事しろよトレーナー。ゴルシちゃんは待ってるぜ?」

 

 そういって伸ばされた手を、果たして俺は取っていいのだろうか。はっきり言って、ゴールドシップをこれまでそのような目で見たことは無かった。

 

「俺は、お前が好きだが、それが恋愛かは分からねぇぞ」

「そん時は、アタシのことが好きになるまで洗脳してやんよ」

「俺は、お前を最優先にはできない、仕事が先に立つことになる」

「当たり前だ、トレーナーなんだからな。他人の人生と向き合うことの難しさは身近で見てきたアタシも知ってる」

「お前のことも、泣かせるかもしれねぇぞ」

「おう、そん時は顔面に蹴り叩き込んでやる」

「お前は、本当に俺でいいのか?」

 

 その言葉に、少し拗ねたように横を向くゴールドシップ。

 

「トレーナー『が』いいから、こんなこと言ってるんだろうが。乙女にここまで言わせんな、にぶちん!」

 

 その言葉に、遂に思わず声を出して笑ってしまった。横を向きながら器用にこちらを睨んでくるゴールドシップが差し出した手をそっと握る。それだけでこちらの意図を汲み取ったのか、ゴールドシップの顔全体に赤みが指す。

 

「お前も、もう乙女って歳でもないだろうに」

「は?」

 

 握られた手が痛む。咄嗟に振り解こうとしても人間とウマ娘の筋力差はひっくり返せそうにない。

 

「トレぴっぴ、覚えとけ?女ってのは死ぬまで乙女だ。寛容なアタシでもいくらなんでもその言葉は聞き捨てならねぇな」

「おい待て、どこに連れて行くつもりだ?」

「このゴルシ様が本気の乙女ってもんをその魂に叩き込んでやる。まずは成田国際空港だっ!!!!」

「やめろ!!俺にはまだ仕事が残ってるんだぞ?!」

「そんなもん、あとに決まってんだろ!」

「待て、ゴールドシップ。話せばわかる、話し合おう」

「問答無用!初デート行くぞおらぁぁぁぁぁあ!!!」

「なんでデートで空港に行くんだおまえェェェェェ!!!」

 

 その後、トレセン学園では、満面の笑みでトレーナーを引き摺っていくゴールドシップが話題になったとかならないとか。

 


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