エルフの料理人ファルダニア、まだまだ修行中   作:セパさん

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抹茶マフィン

「やあ、ファルダニアさん!この前靴に掛けてくれた滑落防止や足の保護魔法のおかげで仕事が楽になって助かるよ!そのお礼だ、好きなものを好きなだけ持って行ってくれ。」

 

「その必要はないわ。茶葉の良し悪しや、それぞれの茶に合う水温・水質について教えてくれたお礼よ。そうね、今日はどれをもらっていこうかしら。」

 

 ファルダニアは懇意にしている茶摘みからいくつかの茶葉を買い取り、雑談を交わしながら金銭を渡した。懇意にしているベテランの茶摘みに少しでも安全をと魔法を付与したのは優しさだけでなく、エルフ料理の完成に必要な優秀な人材を失いたくないから。籠を背に足元の悪い急斜面を登り降りするため、転落や滑落による負傷者や死者は後を絶たない。茶摘み労働者とは危険な仕事、それは東西大陸で共通の認識なのだが……

 

 

 

「……にもかかわらず、何故茶葉をこんなに安く提供できるのかしら、この店は」

 

 ファルダニアは菓子を注文している神官たちや猫目の魔族がよく注文している〝コウチャ〟を飲みながら、ふと湧いた疑問を口にした。エルフの村に居た頃は茶となる野草がよく自生していたため気にならなかったが、人間社会では茶というのは異様に高い。

 

 ハック茶のようにある程度自生し量が取れる品とて、中流階級の来客用に売られているし、ましてこれほど澄んで飲み心地の良い〝高品質な茶〟ともなれば上流階級しか口にできまい。

 

 にもかかわらず、ここ(異世界食堂)での値段は銅貨で二枚、料理や菓子と一緒に注文すれば銅貨一枚という破格の値だ。

 

(暴君の治める奴隷労働の国だってこんな真似できないわ。それに魔族の給仕でしかないアレッタの待遇をみるにこちらの世界でそんな真似が許されているとも思えない。そして茶葉の産地を聞いたらしっかりと店主が答えたことからも――それもインドやスリランカなる海を渡らなければいけない国らしい――その辺に自生している世界ではない。更に言うなら茶葉はどうなっているのかしら?同じ土地でも収穫の場所や季節や天候で味が変わるのが当たり前。それなのにここでは均一の常に美味しい味が楽しめる……)

 

 茶葉はエルフ料理を研究する上でも大切な品だ、一度膨れ上がった疑念を晴らすべくファルダニアは暇な時間に目をつけ店主を呼び、疑問のすべてをぶつけた。店主は若いころキッサテンなる茶の専門店で短期労働をしていたらしく、異世界での茶の歴史を知る限り――流石に産地での詳しい茶摘み方法などは知らず〝浅い知識ではありますが〟と前置きしたうえで――教えてくれた。

 

 

 西大陸においても覇を唱え始め、飲食に関わるものならば知らぬ者はいない大組織となったアルフェイド商会。その西大陸支店に、似合わぬ礼服を着て緊張した面持ちの男性が、辺りの絢爛豪華な調度品に目を回していた。

 

「本日はわざわざお時間をいただきありがとうございます。何しろファルダニアさまが茶園をもち、ティーオークションで最高落札を成し遂げたとお聞きしましたもので……。本来であればお招きした以上、祝賀会を当商会でおこないたかったのですが、ファルダニアさま自ら調理をなさってくださるとは恐悦至極にございます。」

 

「構わないわ。手っ取り早い話はあなたたち商人も望むことでしょう?まぁ難しい話の前にこちらをどうぞ。」

 

 そう言って出てきたのは、黄金色をしつつティーカップの底が透けるほど澄んだ茶、花の形をしたピンク色の焼き菓子と、ふわふわとしたパンのような緑色の焼き菓子であった。アルフェイド商会の一同と、呼ばれた茶摘み職人は祈りを捧げ、早速提供された料理を口にする。

 

 まず鼻孔をくすぐるのは芳醇な茶の良い香り、湯気を立てるふわふわの焼き菓子からは微量ながら渋みの濃い茶の風味が感じられる。その味わいは砂糖と相殺されることなく、むしろ甘さを引き締め、咀嚼すればホロホロと崩れていく。

 

 次にピンク色の焼き菓子を手に取れば、焼き立ての熱さがまだ手に伝わり、歯に触れると心地よい音を立てて割れる。さきほどの柔らかな菓子と違い、堅く焼いた生地は食べ応えを与え、ザクザクとした食感がたまらない。

 

 そして間に飲む茶は味・香り・コクのどれをとっても絶品の一言であり、無糖で乳も入れていないが、茶葉が良質なだけでなく水質もかなりこだわっていることが伺える。

 

「……相変わらず素晴らしい味でした、ファルダニア嬢。さて、あなた様のことです、手っ取り早くお聞きしたほうがいいでしょう。この料理を作るのにどれほどの金銭が必要だったでしょうか?」

 

「そうね。銀貨で数枚かしら?」

 

 アルフェイド商会の面々は既にファルダニアを一流の料理人と認めている。そのため味の良さには驚愕しなかったが、そのあまりにも常識離れした値段には絶句するほかなかった。

 

「とはいえ、そちらだってある程度推理はしているのでしょう?」

 

「ええ、〝直接買い取りによる中間料金の排除〟〝茶摘み作業以外の業務効率化〟〝茶葉のブレンドによる品質安定〟と枚挙に暇はありません。」

 

 実際アルフェイド商会はファルダニアが始めた画期的な茶園運営――中間業者の排除による産地直送や水質調査による品質と価格の均一化、茶摘み作業以外の製茶作業合理化――を模倣できれば莫大な利益が出ると目算している。しかしこの革新的で誇り高いエルフのことだ、未だ金銭面で実現できていない画期的なアイデアがあった場合、自分たちが無断で模倣すれば怒り狂い、情報は他に流れ利益を逃してしまう。

 

 そのため今回の場をセッティングしたのだが……

 

「さて、ここにいるのがわたしが運営する茶園の管理人をしてもらっている人なんだけれども、あなたたちの言う〝茶摘み作業以外の業務効率化〟は完璧じゃないわ。まず茶園までの道路整備、これにはドワーフの技術力がいるわね。そしてトロッコの転輪には魔法を付与することで……」

 

 ……その選択は正解であったとアルフェイド商会の面々は安堵した。

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