愛多憎生
意味:人から受ける愛や恩も度を越すと、そのためにかえって人の憎しみやねたみを買うことになるということ。


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愛多憎生

 

 

 

 

「あら、おはようフラン」

「話しかけないで。早く食事、すませてよ」

 

私の名前はレミリア・スカーレット。

この館の"元"主。今は首より下が無くなって生首の状態。こんな無様な状態でこの館の主を語れる訳もなく、今では私の妹、フランドール・スカーレットがこの館の正式な主。

初めの頃は色々不便だったけど、今はこの状態にも慣れて、そこまで苦でもないわ。

 

元々吸血鬼に弱点は数多く存在する。

銀、杭、ニンニク、太陽、流水。多く存在する弱点と、それを補うほどの力と生命力。

まさかその生命力が生首の状態でも生きられるなんて、私自身想像もしてなかったわ。

 

そして私は生首の状態で、元々地下に作られたフランの部屋を私の部屋ふうに改装して、今は私がこの地下室で暮らしているわ。

 

約495年間、フランを閉じ込め続けたように、今度は私が閉じ込められる番。

フランもこんな無様な姉の面倒を見るのもさぞ苦痛でしょう。

元々、吸血鬼としても、姉妹としても、フランにとって、同じ種族、同じ血が流れていると言うだけでも相当嫌だったでしょうに。

 

「ねぇ、最近宴会に行ったそうね。楽しかった?」

「···············どっかのお姉様が495年間も外に出してくれなかったおかげで、私の知らない外の事、色々教えて貰って楽しかったわ」

「そう、良かった」

 

フランが歯ぎしりを立てる。

きっと、この私の声、私の喜ぶ顔を見るのが、癪に障るのね。

 

「いいから、黙って食え!」

「むぐっ」

 

そう言って半場強引に私の口に朝食のサンドイッチを突っ込んだ。

そしてからになった食器を持って、扉を強く占め、フランは部屋を出ていってしまった。

 

「····················フラン、私はこうなって幸せよ」

 

生首で、無様な姿。

いつか妹をここに閉じ込め続けたバチが当たると、覚悟していた。

いつか妹のフランに殺される。もしかしたらもっと酷い目にあう。

そうずっと思っていた。

 

だけど、私の能力で、どれだけ先を見ても、そんな結末は見えなかった。

だって当然でしょ?私はフランになら、たとえ殺されても、手足をもがれ、首輪をつけられ、芋虫のように地べたに這いつくばって生きていくことになっても、それがフランの望むことなら、私には幸福に違いないんだから。

 

きっとフランは外で沢山友達を作って、いつか私のことを忘れて、私はこの部屋で忘れ去られるんでしょうね。

きっとそれがフランの望むことだから。

私の存在を忘れる事が、フランにとって一番の幸福なのだから。

 

「····················でもその時は、最後くらい外で散歩··········したいわね」

 

きっともう叶わない夢だけど。

そうして、私は閉ざされた扉を見つめながら、瞼を閉じた。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

生首の生活が始まって早数年。

外はどうなってるのかしら?

久しぶりに霊夢の顔が見たいわね。

咲夜は一昨日かしら?私の所に来て色々教えてくれたわ。

今のフランがどう生活してるとか、紅魔館はどうなってるだとか、幻想郷にまた新しい異変が起きて、霊夢とフランが一緒に解決したとか。

姉としては誇らしい限りね。

 

でも、咲夜は私と話す時、いつもどこか無理をした笑みを浮かべている。

そしていつも「私の使える主君は、レミリアお嬢様だけです」て、悲しそうな顔で言うから「貴女が今使えるべき主は、フランよ」そう言うと、本当に泣きそうな顔になるのだから、困るわ。

何時もはどんなお願いも何気ない顔で頷くくせに、こういう時ばっかり言う事聞かないんだから。

 

「ねぇお姉様。悔しい?実の妹に、生首にされて、ずっとここで閉じ込められて、私が憎い?」

「ふふっ」

「何がおかしいッ!」

 

突然私の部屋に来たと思ったら、そんなことを言うから、私は思わず笑ってしまった。

そん事、ある訳ないのに。私がフランを恨んだり、憎んだりすることなんて、たとえ1000年ここに閉じ込められたとしても、ある訳ないのに。

まるで確認するように聞くんだから、つい笑ってしまったわ。

 

「私はフランの顔が見れるだけで、幸せよ」

「───ッ、とっととくたばれッ!」

「ッ」

 

そう言ってフランは私の顔の肉を爪で深く抉った。

フランの手には私の目玉と、肉片と血がこびりついていた。

フランはまるで汚物を触ったかのように「気持ち悪い」と言ってべちゃりと床に投げたわ。

 

レミリアの顔からはドクドクと血が溢れて、真っ赤な私の血でベットのシーツを汚す。

しかし、その程度で死ぬことはない。

たとえ生首になってもその治癒力は健在で、すぐに血が止まると、徐々に傷が癒えていく。

 

「本当に気持ち悪い。そんなになっても生きて、早く死ねばいいのに」

「···············そう」

「何か言ったらどうなの?」

「ねぇフラン」

「····················なに」

「殺すなら、あなたと一緒に外に出て、お散歩した後に太陽の光で死にたい───」

 

言い終わる前に、私の顔の左半分が吹き飛んだ。

ベチャッと先程治癒したばかりの左目と、肉片。その他に血や脳汁などが飛び散った。

 

「もう、黙れ」

 

相当気に触ってしまったらしく、フランからは今まで感じたことの無い殺気と憎悪が溢れていた。

きっとフランにとってはそれが想像するだけで耐え難いみたいね。

 

当然と言えば、当然ね。

 

そしてフランは部屋を出ていった。

 

「お嬢様」

「あら、咲夜。何度も言うけど、私はもう紅魔館の主じゃないからお嬢様はやめて」

「ですが···············」

「せめて友として、パチェみたいにレミィと呼んで」

「できません」

「残念」

 

そう言って咲夜はレミリアをまるで割れ物を扱うように、丁寧に、丁重に持つと、次の瞬間レミリアの肉片で汚れていたシーツが綺麗に取り替えられ、部屋に飛び散った血や肉片掃除されていた。

 

「お嬢様。今日はお嬢様の為にワインをお持ちしました」

「あら、ありがとう。いつも咲夜は気が利くわね。それじゃぁ私はこんなんだし、飲ませてもらってもいいかしら?」

「はい、すぐに」

 

そう言うと咲夜は再び時間を止めたのか、先程までなかったはずの椅子を用意し、椅子に座ると、レミリアを優しく持って膝に乗せ、グラスにワインを注ぎ、それを咲夜が口に運ぶ。

そして少しだけ口に含むと、そのままレミリアを自分の目線まで持っていき、そっとレミリアの唇に自分の唇を当てた。

 

「ん··········ちゅ、れぇ·····ちゅぱっ。··········ごくっ」

「ぷはっ···············どうでしょうお嬢様」

「とても美味しいわ」

「それはとても、良かったです」

 

そう言って微笑むと、再び咲夜は口にワイングラスを運び、ワインを口に含み、そのまま私に口渡しする。

最初は恥ずかしかったけど、今はもう慣れたわ。

まさか私のファーストキスがこんな形で終わるなんて、想像してなかったけど。

 

(···············あぁ、頭がクラクラする)

 

咲夜は柔らかいレミリアの唇と、火傷しそうな程熱い舌。

 

きっと私の心臓の鼓動がこんなにも速く、心のどこかでこの状況に喜んでしまっている私は、お嬢様のメイドとして恥ずべきなのだろう。

 

せめてこの感情が、お嬢様にだけはバレないように···············。

 

(·························心臓の音、すごいわね)

 

しかし、吸血鬼であるレミリアにとって、心臓の鼓動の音は、胸に耳を当てることも無く、当然のように聞こえてしまう。

しかもそれが普段より大きく、早く脈打っていれば、尚更だ。

 

「ありがとう、咲夜」

 

せめてバレていることは黙っておこう。

 

そして、自分もこの状況に少しだけ満たされてしまっていることも、昨夜には内緒にしておこうと、レミリアは心の奥底にその感情をしまった。

 

 

 

「·························」

 

だからだろうか。

無意識に浮かれてしまっていたのだろう。

扉の奥で、ぐちゃぐちゃの手作りのケーキを持った宝石の羽を持つ吸血鬼の姿に気づかなかったのは。

 

 

 

 

§

 

 

 

「···············そう言えば昨日って私の誕生日だったわね」

 

すっかり忘れていた。

レミリアは昨夜のワインの味と、咲夜の熱を未だ舌に残しながらふと思い出す。

恐らくあのワインはとても高価なものだったのだろう。

レミリアも酒はたしなむ程度に飲んでいる。ワインにそこまでこだわりがある訳では無いが、そんな素人でも分かるほど美味なワインの味に、これがどれほど高価なものかわかってしまう。

 

「誕生日おめでとう··········くらい言って欲しいわね」

「ふーん、まだそんなこと言える余裕があるんだ。お姉様」

「あら、フラン。おはよう」

 

そう微笑むと、ベチャッと顔面に何か投げられる。

甘い香りとホイップの柔らかい感触。

 

どうやらケーキだろう。

しかもこの味。ずっと昔に食べた事のある、フランの手作りのケーキ。

 

「それ、失敗作。ゴミ箱が汚れちゃうから、お姉様がそれ処分しといてよ」

 

そう言ってそそくさと部屋を出ていこうとするフランに、レミリアはポツリと言葉をこぼした。

 

「ありがとう、フラン。とっても美味しいわ」

「······························黙れ」

 

そう言ってバタンッ!と強く扉を閉めた。

そしてそれと同時に咲夜が現れる。

 

「お嬢様、今お顔を拭きます」

「勿体ないからやめてちょうだい。せめて食べさせてくれないかしら?」

「しかし、ほとんど床などに散乱してしまい···············」

「構わないわ」

「ですが!床に落ちたものなど、お嬢様に食べさせる訳には!」

「咲夜」

「··················································かしこまり、ました」

 

物凄く、本当に物凄く嫌な顔で、咲夜は頷いた。

昨夜との付き合いもそこそこ長いけど、咲夜のあんな嫌そうな顔、初めて見たわ。

 

「お嬢様、本当に食べるのですか?」

「えぇ、ほら早くちょうだい」

「···············はい」

「ありがとう、咲夜」

 

そう言ってレミリアが優しく微笑んだ。

床に落ちたケーキも、顔についたケーキも、どんなに高価で凄腕のパティシエが作ったケーキよりも甘くて、美味しかった。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

「ねぇ美鈴」

「なんでしょう」

「なんで私は門の前にいるの?」

「私に言われましても····················」

 

美鈴は苦笑いをする。

昨日フランの作ったケーキを食べた後、そのまま寝て、起きたら門の前で門番をしている美鈴の膝の上に乗っていた。

外は天気も良く、暖かい。

外の空気を吸うのは何時ぶりだろう。空気が新鮮に感じる。

 

美鈴がよく私が愛用していた傘を指しているおかげで私は太陽の光で消えることは無いが、この状態で少しでも陽の光を浴びれば直ぐに灰になってしまう。

 

「····················いい天気ね」

「はい、とても」

外は静かで、風でなびく木々の音は心地よく、様々な鳥が鳴く声が聞こえ、たまに混じる妖精達の笑う声。

 

「貴女が居眠りしてしまうのも無理はないわね」

「でしょう?」

「でもそれとこれとでは話が別よ。門番が居眠りするなんてダメに決まってるでしょ

「うぐっ、やっぱりだめですか····················」

「でも、今は私が代わりにあなたの"目"になってあげるわ」

「え?」

「今日は代わりに私が見張っててあげるから、居眠りしてもいいわよ」

「·························」

 

そう言うと、美鈴は少し考え込んだあと、口を開いた。

 

「いえ、今日はやめておきます」

「あら、いいの?今日は居眠りしても怒られない日よ?」

「そしたらレミリア様とお話できませんから」

「ふふっ、こんな生首の元主と話しても、何も面白くないわよ?」

「いえいえ、そんなことありません。それに、こんなふうに話すのだっていつ以来でしょう」

「そうね、まだ美鈴がメイド長をやってた頃かしら?」

「あの頃は大変でしたね」

「えぇ、あの頃は毎日のようにヴァンパイアハンターが私の首を狙って───」

 

その後、私達は昔の話でだいぶ盛り上がり、途中から乱入してきた氷の妖精が勝手に外の話を語り始めて、それが意外に面白くて、あっという間に今日が終わってしまったわ。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

いつか私はフランに殺されるのかしら?

それともこのままの姿で一生を終えるのかしら?

どちらにしても、私にとってはそれほど苦ではない。私にとって1番の不幸は───

 

フラン、あなたの不幸なの。

 

「だからフラン、そんな悲しい顔をしないで」

「うる、さい···············」

 

フランは泣きながら、レミリアを抱きしめていた。

 

(まだ、あなたはこの鳥籠の中なのね)

 

何年経っても、いくら自由になっても、フランの心は、この地下室で閉じ込められている。

もうフランは自由なのに、自ら心を閉ざして、この小さな鳥籠のようか部屋に閉じ込められ続けている。

それが私にとって、どれだけ苦痛で、悲しいことか。

 

誰よりも優しくて、泣き虫で、甘えたがりな、私の可愛い妹。

それに似合わない、それを否定するような能力。

その能力は外の世界で忌み物として扱われ、ただでさえ吸血鬼と言うだけで人間から命を狙われる立場だと言うのに、外の世界はどこまでもフランを突き放す。

 

「嫌わないで。独りにしないで。お姉様··········お姉様····················っ」

「大丈夫、私はフランを独りになんてしないわよ」

 

泣き続ける妹に、私は何もしてあげられない。

自分の力で狂ってしまった時も、自由を求めている時も、私に手を伸ばして、助けを求めているときですら、私は何もしてあげられなかった。

今も、泣いてるフランを抱きしめて、慰めてあげることすら出来ない。

 

(こんな姉で、ごめんなさい··········フラン)

 

結局、私達は姉妹なのだ。

お互いに助けを求めて、何か答えを求めて、でもその答えを返してあげることが出来ない。

お互いを傷つけて、自分がつけた相手の傷を舐め合って、そんな歪な愛しか持ち合わせていない。

もしも私がフランの姉でなかったら、きっとフランはもっと幸せになれたのかしら?

 

「お姉様、お姉様·········。お姉様はフランの事好き?」

「えぇ、大好きよ」

「····················うん」

 

涙でグズグズになってしまった顔で、そんなことを尋ねる。

フランのことを嫌いになるなんて、絶対に有り得ないのに。

例え世界を壊したって、世界中から忌み嫌われたって、生まれ変わっても、私はフランのことを愛し続けるわ。

だってフランは、フランドール・スカーレットは、私がこの世で一番愛してる、ただ一人の吸血鬼なのだから。

 

「愛してるわ、フラン」

「私もお姉様の事、愛してる」

 

そして今日も、私達はお互いで傷つけ合って、その傷を舐め合う。

吸血鬼の歪な愛。


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