馬鹿な…仕事で塗れてあっという間だった…
本当にすみません。
因みに前回言っていた事だいぶ崩します。
「異世界通信にようこそ。星野愛久愛海様と星野瑠美衣様ですね。
私は映像ディレクターのミッシェルです。気楽にジョジョとお呼びください。」
そう言いながら男は「私はハリーではありません」と書かれた名刺を俺に手渡した。どう言うギャグなのだろうか。
あれから1週間が経ち今日からMV撮影が始まる。
集合場所である撮影スタジオは我が家から案外近く通える距離にあった。どうもだいぶ昔からあったらしいのだが、こんな大きなスタジオがこんな近くにあった覚えは俺にはない。
まるでこのMVを撮るためだけに急造された様だ。
「本日は宜しくお願いします。星野アクアです。」
「宜しくお願いします。星野ルビーです。」
そんな風に兄妹揃って社会人宜しく頭を下げる。
挨拶を交わしながらも直ぐに目の前の男に視線を移す。正直、異世界通信に関わる様な人間なぞどんな癖が強い奴か見当がつかないと思っていた手前出てきたのが中肉中背、スーツ姿に個性がまるで無い量産型日本人の様な容姿に少し安心した。
多分、次回街のどこかですれ違っても気付かない。それ程に影の薄い男だ。まぁ、内面はどうかは知らないが。
「では、早速中へ入りましょう。」
玄関を抜け、スタジオまでの長い廊下を歩いていると廊下の端にテーブルや棚など様々な家具を見ることが出来る。どうやら撮影に使った小道具らしく、見れば何処ぞの生徒会室で見たソファーやら机やらが並んでいる。あれ実写化したのだろうかなどと思いながら見ていると…
「…………え。」
そんな中に見逃せない物が目に入り立ち止まった。
それはドアである。
木の枠に中央が曇りガラスを入れられている。
だが、そのガラスの中央にはまるで引きずられたかの様に赤いナニかが塗りたくられていた。
俺たち兄妹はこのドアを知っている。
「………これ………って……。」
俺たちが前に……アイと一緒に住んでいた家の扉。そして、アイの最期に背にしていた物でもある。それが確かにあのときの記憶と一寸の狂いも無く煽情的にアイの血を吸ったそのままにそこに佇んでいる。まるであの事件の後、ドアだけ時間を止めて持ってきたかのようだ。
「………ルビー……」
「………。」
ルビーに視線を向ける。あの事件がトラウマになっているのは僕だけじゃない。
ルビーはゆっくりと扉に近づくと、屈んだ。
見れば下の方の硝子に赤い手形が付いている。たしか、あれは最期にアイが付けた手形だった。
「…………ルビー…」
「昔はあんなに大きかったのにね…。
もう……ほら、ピッタリ。」
そう言いながら手形に自分の手を重ねる。実際、その手形はルビーの手とピッタリ同じ大きさだった。
「大丈夫だよ。アクア。行こう。」
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最初の撮影のセットを覗く。
ああ、やはりと思う。
僕たちがアイと過ごした部屋のリビングそのものとしか言いようがない空間がそこにはあった。
「…では星野愛久愛海様。じき撮影が始まります。こちらの方でごゆるりと…
星野瑠美衣様の控え室は別になります。付いてきてくださいませ。」
端に避けていたミッシェルさんがそう俺に言うと少ししてルビーを連れて部屋を出ていく。
嗚呼、つまりここはセットではなく控え室という事なのだろうか。にしては趣味が悪いとしか言いようが無い。
「……ッチ。」
ある一点を見つめて舌打ちをする。
こんな所まで再現してるのか…
棚の一番端に飾っている星の砂が入った瓶。あれはアイを殺したストーカーにプレゼントされた物だ。
やはり、奴ら人の心とやらが無いらしい。俺を料理の材料かなんかとしか思っていないのかもしれない。ここに来てから少しずつ心が荒んでいくのを感じていた。
「…はぁ……撮影前からこんな調子でどうする。あくまでもこれは仕事だぞ。」
自分に言い聞かせるように呟けば自然とソファーに足を向ける。ソファーもあの頃のまま。デザインなんか忘れてしまっていたがこんなのだったかと少し納得した。
ストンッとソファーに体重をかければ知らない感触に襲われる。なんか違う。そうか…それもその筈、あの頃と体格も体重も違っているのだから感触もかわるかと少し寂しくなる。
あの頃は体の全てを包み込んでもあまりあったのに今では包み込むことすら出来ない。
少し感傷に浸る。
ふと、後悔や罪悪感が湧いてきた。
なぜ、僕はあの時ストーカーの存在を知っていた癖に放置していたのか。
何故、アイの子供を取り上げる筈だった僕がアイの子供として産まれたことをのうのうと受け入れてしまったのか。
今となってはどうこうできない後悔だけが僕に残っている。それは生涯僕自身が永遠に抱え続けるものだろう。
「………アイ……ごめん。
君の大切な子供をこんなつまらない大人にしてしまって………」
これは
彼女の子供を自分自身として認識する前の……
出来れば彼女の子供にこんな深い後悔なんてして欲しくなかった。
こんな憎しみも何もかも…知らないままでいてほしかった。
復讐なんて馬鹿げてるって言えれば良かった。
幸せになってほしかった。
彼女の子供を産ませると言った時、確かにそんな願いを持っていた癖に全部自分で台無しにした。
彼女の子供を復讐鬼にして…あまつさえ、全てが終われば死のうともしていた。
なんて邪悪。
なんて悪霊だ。
お前は復讐しろと嘯くのではなく、ただ子供の幸せだけを願っていれば良かったんだ。
星野アクアにとってお前は最大の癌になってしまった。
最近になって漸く気付いた。
幸せになってはいけないという考えに囚われていた。
だけど、雨宮吾郎だけならともかくアイの息子である星野アクアを巻き込むのは間違ってる。
逆だった……逆なんだ。僕が星野アクアの人生を幸せな物にしなきゃいけない。
それが君を産ませようとした僕の責任の取り方だったんだ。
ふと、カラカラと音が鳴り始める。何の音だろうかと周りを見渡し始めたら急に部屋の電気が消えた。
気付けば目の前には3人の
背後を見れば古い映写機が回っていた。
「……これは………アイと俺たちか…?」
回ってはいるがどうやら絵は動かない。
3人の家族が星を眺めている絵。
嗚呼、なんだか思い出した。
あの時だ。何げ無く家のベランダからみんなで1番星を探したあの時。
アイが先に見つけて少しはしゃいでいた。そして、流れ星でもないのにお願いをしようって事になって……
あの時、アイは何て言ったんだっけ…
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