短いのはその為です…
思わず動画を止めてしまった。
画面には【アイドル】とタイトルが浮かび上がっている。
「お兄ちゃん!!キタ!?キタ!?」
目を輝かせて俺の肩を揺らしながらそう問うルビー。うるさいし、脳が揺れる、それに何が言いたいのか要領を得ない。
「五月蝿い、揺らすな。何がどうした。」
「YOASOBIの新曲だよ!!玄関まで聞こえてたよ!」
「…ったく、お前は耳がいいんだか、悪いんだか…良いから揺らすな、脳が震える!」
そしてしばらくしてルビーが揺らすのをやめると俺はため息を吐きながら、スマホの画面を見せる。
「…【アイドル】?」
「ああ、お前の好きなYOASOBIの新作だよ。」
「アイドル売りには…もう遅いんじゃ?」
「俺も同じ事思ったんだけど、どっちかっていうとラップみたいな…まぁ、そっち側の知識はあんまり無いが…
俺もまだ見初めて14秒しか経ってない。お前も見るか?」
「うわっ、私タイミング凄っ。」
ルビーが驚きながらも隣の椅子に座る。
「だけど、少し心して掛かった方が良いかも知れない。」
「なんで?」
「まぁ、見始めればすぐ分かる。」
そう言うと10秒スキップを使い最初からに戻る。どうやらルビーと話している間にプレミア配信は終わったらしい。
「じゃ、いくぞ。」
そう言って俺は動画を再生し始めた。
いや、まぁ、どうなるかなんて理解していた。
「……え、あ、ま、ママ…?」
困惑を込めてそう呟くルビー。少しして俺に問い詰めてきた。
「これ、ミヤコさんに許可とってるの?」
「わからない。けど最近少し機嫌が良かったのって。*1」
「あー…そうかも。」
そう言いながらも画面に釘付けなあたりやはりルビーはアイの大ファンなんだろうなと分かる。
「うわっ、バックコーラス壮大。」
そんな細かい事を呟きながら動画を見始める。
変装したアイが踊りながら口元を人差し指で隠す。正しく歌詞の通り内緒なポーズだった。
「…うわぁ、やっぱりママ美人!」
「どこで見つかったんだ。こんな映像。」
この服装は良くアイが街中を歩く時にしていた変装だ。この服装でテレビに出ようなんてするはずもなくもないような…
「分からないもんだな。」
「何が?」
「正直、どんな仕事受けたとかなんでも知ってるつもりだったんだ。アイの事に関しては…
こんな事もしてたんだな…」
「うわ、ママえっちぃ…」
「話聞いてないな。まあ、いいけど。」
俺は未だ「うわ、」「うわ、」と驚くルビーを流し見ながら画面に視線を戻す。
『誰かを好きになることなんて私わからなくてさ。』
二人のアイが大きなハートを前に見上げている。
ああ、そうか…そうだったな…
俺は一人納得しつつ、この曲の聴き方をやっと理解した。
この曲は【アイドル】と言う偶像自体を謳っているんじゃない。この曲は『星野アイ』を歌っている。アイドルの『アイ』も全部ひっくるめて歌っているんだ。
『誰もが目を奪われてく、君は完璧で究極のアイドル!』
知っている。実際そうだった。
B小町のアイは完璧で究極のアイドルだったと当時を知るものは皆そう語るだろう。
「ねぇ、アクア…」
「なんだ?」
「流石におかしいよこの曲……ママの解像度高すぎる。」
流石に此処まで来ると流石にルビーも違和感を持ったのか、そう俺に言う。
「ただのファンがここまでママの事知ってるとは思えない。ママの事を個人として知っているのなら、こう言うの全部隠すと思うの…」
そこまで言うとルビーは風が吹けば消えそうな声で呟く。
「なんか…怖いよ。この曲。」
『その瞳が、その言葉が、嘘でもそれは完全なアイ。』
瞬間だった。曲調が変わる。
画面の雰囲気も変わる。
『はいはい、あの子は特別です。
我々はハナからおまけです。
お星様の引き立て役Bです。
全てがあの子のお陰な訳…ない
洒落臭い。
妬み嫉妬なんてない…
わけがない。
これはネタじゃないからこそ許せない。
完璧じゃない。
君じゃ許せない。
自分を許せない。
誰よりも強い君以外認めない!』
それは呪いだった。
妬み嫉妬だけなら単純だ。しかし、この言葉にはアイがアイでなくてはならないと言う絶対感…全能感が皮の下をのたうち回っているそんな不快感を感じる。狂信者と言っても過言じゃ無い。
この歌詞は当時のB小町の事を言っているのだろう。
やはり…
「ママが誰よりも輝いてたから…」
「ああ、日向はより影を色濃く残す。
むしろ、良くもまぁあそこまで影を隠せたもんだと前社長には拍手を送りたくなるね。まぁ、B小町の面々にはたまったモンじゃないと思うけど。
その点に比べて今のお前たちは上手くやってると思うよ。」
「アクアがすっごい饒舌に喋ってる。」
「優しい兄からの総評だぞ。ありがたく思っておけ。」
ツンデレはもはや時代遅れなのだ。
因みに掲示板も同時進行で製作中です。少々お待ちを…