4月20日の練習終わりだった。
「明後日の夜、それと次の日の昼まで何か予定はあるかな…?もちろん、個人的に用事があるなら断ってくれても構わないんだけど…」
「明後日と次の日…しいて言うなら練習しかないわね」
「じゃあ、連れて行きたい場所があるんだ」
驚いた。まさかトレーナーが夜中に私を連れて行きたいだなんて。しかも次の日まで…。
「場所ってどこよ…?練習よりも大事な場所?」
「うん…星を見に…ね」
慰安旅行のつもりなのか、それとも何かいかがわしい事でもするのではないかと不安に思ったけど、そんなことをする人じゃないし、断る理由も無かった。
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4月22日、この日は授業が終わったら出かける準備をして、トレーナーの車に乗り込んだ。トレーナーは少し時間がかかるから寝ていいと言ったから、他にすることもないから寝た。
起きたら旅館についていた。どうやら富津という場所らしい。チェックインを済ませて、お夕飯を食べた。海が近い場所らしく、海の幸が美味しかった。お風呂も済ませて、11時ぐらいまではゆっくりしていた。それから、またトレーナーの車に乗って出かけた。
いくら田舎とはいえ山奥よりは明るい場所なので、一体どこで星を見るつもりなのか不思議に思っていた。住宅街の合間を抜けた信号の看板には、富津岬の文字があった。さらに先を進み、行き止まりの駐車場で車は止まった。
「ついたよ」
そこには闇に浮かび上がった巨大な建造物があった。展望台とはわかったけれど、それは森のようで、要塞のようで、子供のアスレチックのような、それでいて恐ろしさを感じさせるものだった。
「まずは登ろうか」
足元が暗くて危ないと感じたけれど、トレーナーがライトで照らして登った。展望台はコンクリートと鉄の柵でできていて、高さはそれなりにあるようなので、校舎の屋上に来た気分になった。
「ほら、見てよ。いい景色でしょ?」
辺りを見回すと、水平線に沿ってオレンジや白、赤といった人工物の灯りが煌めいていた。等間隔だったり、無秩序だったり、時々強く光る場所もあれば、常にちらついて見えるような光だった。これもまた綺麗だと思った。見上げると良く澄んだ空の中で沢山の星が瞬いていた。人の灯りがこんなにも近いのにも関わらず、不思議なほどにはっきりと、6等星までも感じられた。
「ええ……そうね……」
「いつもの山で見る星より見やすい…ってわけしゃないけど、俺はこの景色が好きなんだ。だから、アヤベさんをここに連れて来たんだ」
「………」
ただそれだけで連れてきた…?ここに来るためだけにこんな用意をしたのは不思議ね……。
「東は…こっちか…だとしたら…あれが…」
星を見に行こうと誘ってくれたのは嬉しいけど、星を見るだけなら、近くの山でいい、わざわざこんな場所じゃなくったって。それに今日は新月じゃないし…。
「よし。今日はね、君に決意を伝えるためにここに来たんだ」
「決意…?」
トレーナーは東の空を指差して叫び始めた。
「俺はアヤベさんが強いウマ娘だと知っているッ!アヤベさんなら勝てると信じているッ!そしてッ!俺はッ!アヤベさんをッ!日本ダービーでッ!一番星にしてみせるッ!この真上で輝く星にッ!何よりも輝くあの星にッ!ベガに誓ってッ!」
…っ!
「これは…アヤベさんへのエールだ、俺の決意だ。あと一か月と少しの間、より力を注いで、気合いを入れて君と向き合うっていうね。だから…だから君も……一緒に頑張ろう…!」
「………ふふっ…」
「な、なにかおかしかったかな…?やっぱりちょっとクサかったかな……」
「いえ…そんなことないわ。ただ………いえ、なんでもない。あなたの気持ちは十分に伝わった」
やっぱり……やっぱりトレーナーは……よくわからない人。まっすぐで……一生懸命で……。それで私に勝手についてくる……。
「私も、誓うわ。必ず一番星になる」
「ああ、約束だ……!」
妹の分まで走る。ただそれだけだったけど、それに加えて、トレーナーのためにも走るのもいいかもしれない……。なんでね。
「それとね、わざわざ今日のこの時間に来たのはこれだけのためじゃないんだよ」
まだ何かあるのかしら……?
「うーん……。そろそろだと思うんだけど……」
そう言いながらトレーナーは東の空を見上げる。何を待ってるのか不思議に思って私も空を見上げた。すると……
「おっ!来たっ!」
はっきりと流れ星が見えた…!まさか、この一瞬が来ることを予測していたの?
「今日はこと座流星群なんだ。ピークの時間に合わせてここに来たってわけ」
「そうね……!それはいいわね……!」
忘れていた……!毎年この時期は流星群が見られることを……!
「せっかくだから一緒に見たいなって思って、気合いを入れ直すのにもちょうどいいかなって」
「いいわね。ゆっくり流れ星を見ましょうか」
「それと、俺、星のことあんまり詳しくないから教えてくれないかなーって」
その夜は、煌めきと、瞬きと、幾筋もの光が夜空を彩っていた。