続きません。
俺がギーツ──浮世英寿に公認サポーターとして認められてからそれなりに時間が経ったある日。今も尚ベロバらジャマト陣営に乗っ取られているデザグラを見ながらこの時代を旅していた俺は、その瞳に一番星を宿した少女と出会った。
「アイドル…偶像を愛するなんてやっぱりぶっ飛んでるよ、この時代」
モニター一面に映る、少女たちを眺めて苦笑する。あらゆるものを望むようにデザイン出来る俺の時代において、
「そういえば、英寿とコラボしてたアイドルがいたような…」
目に付いたCDショップに入り、お目当てのアイドルグループを探す。世界的スターである英寿とコラボ出来るレベルとあって、相応に知名度があるアイドルグループだったはずだ。名前は確か──
「──B小町」
なんというか、癖のある名前をしているな、と思った。いや、この時代の人間と俺の感性は随分かけはなれているから、俺がそう思うだけなのかもしれないが。何となくCDをひっくり返すと、そこにはいくつかの曲名が並んでいた。そのうちの一曲に目が引かれた。
「STAR☆T☆RAIN… スターか」
スターと聞いて推しのことを思い出して少し笑みが毀れる。今英寿は何をしてるんだろうか。ジャマグラは気に食わないけど、ベロバが見せびらかすように配信してくれてるおかげで英寿の現状が知れるのは少しだけありがたい。
「お客様、何かお困りですか?」
「…ああ、いえ。少し考え事を」
B小町のCDを持ったまま考え込みすぎたようで、店員が話しかけてくる。未だに俺の価値観のズレを理解しきれてから、あんまりこの時代の人間と話はしたくないんだけど…。
「そのCDは…あ、B小町ですね!ご興味がおありなんですか?」
「うーん…英寿とコラボしてたから少しだけ」
「ああ!英寿様とのコラボで…でしたら、こちらのCDがオススメですよ」
「これ…」
渡されたのは、B小町のCD…ではなく、B小町のメンバーの一人がデカデカと乗っているCDだった。
「1人しか載ってないんだけど…」
「この子の名前はアイ。私の推しなんです」
「推し…」
パッケージに載っている写真から見ても、見た目は確かに整っているし、写真からアイという少女の魅力が伝わってくるようだった。B小町のLIVE映像らしきものが流れているモニターを見ても、映るのはアイが殆どで、B小町は彼女で成り立っているような様子だった。
「買ってみるよ、コレ。値段は?」
「3500円になります!」
「…キミ、商売上手って良く言われない?」
にこやかに微笑む店員に溜息をつきながらお金を払って店を出る。周りを軽く見渡して、こちらを見ている人がいないのを確認してからタブレット──の形をした未来のアイテムを取り出してCDのデータを取り込む。
「…これ、もしかしてCDじゃなくてDVD?」
随分高いと思ったけど、これはCDじゃなくてDVDだったらしい。まあ、別にどっちでもいいけど、なんか騙されたような気がしてくる。
「まあいっか。見てみよ」
なんて軽い気持ちで映像を見た俺の目に飛び込んできたのは、紛れもない一番星だった。その瞳に星を宿した彼女はまさに女神のようで──。
「涙…!?」
英寿の話を聞いて初めて流した涙…それが俺の頬を伝って落ちる。認めざるを得ない。アイという少女は間違いなく、俺に"感動"を与えたのだ。
「これがアイドルか…」
これ程心が揺れ動いたのは英寿を初めて見たあの時以来だった。…認めよう。つまりこれは、一人推しが増えたってことなのだろう。もちろん、俺の最推しは英寿で、それは永久不滅ではあるけれど、それでもアイという少女は推しになったのだ。
続きません。