貞操逆転世界の野球で『二刀流』に俺はなる!〜ガチムチ爆乳亜人メスvs一般転生ヒトオス〜 作:鎌原 や裕
監督の言葉で迅速な行動に移る先輩方につられて1年も動き、練習用グラウンド左右のファウルゾーンに全野球部員が並んで俺とキャプテンの一打席勝負を見物している。
キャッチャーは勿論、茶子。
父兄の方々に見守られることはあったけど、ここまで大勢の人に見られることなんてなかったから、なんか変に緊張するな。
「なんで茶子はいつもと変わらねぇんだろう」
あいつのメンタル、鋼か何かで出来てるんじゃないのか?
メンタル系の得能とか見たことないし、あれは茶子本来の素質なんだろう。素直に凄い。
その茶子とキャッチボールを20球ほどやって肩を作り、終わる頃には緊張も少し落ち着いていた。
茶子とは12年の付き合いだし、やっぱり一緒にやるとホームって感じで自分のペースに戻せる。
「……」
肩を回して調子を確認しながら、バッターボックスの外で鼻歌を口ずさみ俺の準備が終わるのを待つ虎王キャプテンを、視界の端で捉える。
素振りもする訳でもなく、ただそこにいる。
それだけでも滲む、威圧感。
俺が今まで見たこのある打者の中で、2番目の圧。
一番は今でも現役プロとかいう化物のレオナさんだが、この人もそれに似た雰囲気を感じる。
俺の視線に気づいたのか、キャプテンはニコっとさらに笑みを深めて「もう、ええんかな?」と声をかけてきた。
「はい! 大丈夫です。肩、出来るの早いので」
「オッケー! ほな、はじめよか〜! 一打席勝負、いくら男の後輩と言えど負けへんでぇ〜」
木製のバットを肩に担いで、右バッターボックスに立つキャプテン。
「(うわ、スゲェ雰囲気)」
正直、俺が今まで投げてきた打者の中ではダントツ。エルリンデは投手だし、茶子は1年生。
比べるのも烏滸がましい、完成された“強打者”の雰囲気。
ゴクリ、と生唾を飲み込む。
面白い。
こんな強打者相手に投げられることなんて、そうそうないぞ。
一打席だけとは言え、良い努力値が貰えるんじゃないか?
「(まずは)」
準備は整った。
キャプテンが打つ体勢になったのを見て、茶子もミットを構える。
構えられたのは、
「(うひぃ、怖いもの知らずかよ茶子)」
胸元を抉るような内角ギリギリ。
要求は力強いストレート。10年近くバッテリー組んでるから、チャコの目を見れば何を投げてほしいかなんて理解出来る。
まさか今日から世話になるチームのキャプテンに、胸元ギリギリを攻めるストレートとは。
やる気満々じゃねぇか。
「(よぉ〜し、やってやる……よッ!)」
重心移動意識、足から腰、腰から上半身に力を連動、鞭のようにしならせてぇ……投げるッ!
「っ!」
パァァアンッ! と乾いた破裂音が響いたのと同時、「ストライク!」のコール。
僅かにのけぞったキャプテンは、思ったよりも球威があるのに驚いて身を引いたんだろう。
俺のストレートを見た人達は、大体最初は驚いてくれるからな。
「……中々、ええ球放るやん(球の出所が見辛い。かなり肩周り柔らかいな。思ったよりも突然球が来よって、体感もっと速く感じるわ)」
キャプテンの言葉に続くかのように、先輩達からどよめきの声。
自分達が思っていた以上のストレートに、度肝を抜かれた筈だ。
今の俺は球速138km/h辺りがアベレージ、そこに球の出所の見辛さで体感の速さは140km/hを超えてくる。
前世で、球の出所が見えないと速く感じるって聞いたことあるから取っておいた『軟体投球』。
まさかこんなにも長年活躍してくれるとは思ってもみなかった。
これ……もしかして3年生に勝ててしまうのでは?
「(と、思った俺が間違ってました……!)」
続けて投げた内角高め、球一個分外れてボール。
意識を変えて外角低め、見逃し。ストライク。
そこから続けて高さや低さ、外角低めに内角の高低、しまいにはとっておきの『
魔法は……いいや、ダメだ。“今日は”調子が良くない。無理に投げたらメカニックが全部狂う。
──手詰まり。
何を投げても、最後のストライクが取れる気が全然しない。
これが、3年生でありキャプテンでもある虎王さんと、俺の差。
やっぱり、チュートリアルのラスボスは負けイベって訳か。
三振、アウトに取れてれば大金星だったけど、見物している先輩達の反応からして、俺の評価は上々。男の選手、ではなく一人の選手としてそれなりのレベルだと見てくれているはず。
リトルとのレベル差を俺が見せつけられる結果になったけど、まぁ、これだけの打者に投げられたってのは経験として良い努力値にな『なぁなぁ』うへッ⁉︎
「な、なんで声が……⁉︎」
『ああ、すまんすまん! これ、魔法で声を風に乗せて話しかけとんねん』
えぇ、魔法ってそんな使い方まで出来たんだ! 便利ぃ。
結界がない練習場だから出来る事だろうけど。
「えと、それで、なんですか?」
『ああ。ちょっち言いたいことあってな』
バッターボックスだけでなく、今日会ってから常にニコニコと口角を上げていた虎王さんの口元から……笑みが消える。
『自分、
ドクン。
心臓が、焦ったように鼓動しはじめる。
『なんで?って顔やな? そらもう、さっきから球が軽い軽い! そらそうや! 自分、ウチのことなんか見てないやろ? まるで“ゲームみたい”な気軽さでヒョイヒョイ投げよってからに。悲しいわウチ。バッターとの勝負で、バッター見いひんかったら意味ないやん』
悲しいと言うわりに、彼女の語気からそんなものは一ミリとして伝わってこなかった。
ただそこに感じれるのは、
『──舐めんなや。マウンドに立っとんのや、勝負って名の付くもん全部に勝つ気で来んかい。自分、投手やろ。負けて良い勝負があるんか。ウチを倒すチャンスなんやぞ、今』
ただならぬ怒気と、今まで感じたことのないバッターボックスからの圧力。
自然と、自分の口から苦しそうに息が漏れ出ていた。
まばたきの数も自然と増える。
色すら見えるほどに滲む、虎王孫春の覇気。
彼女の内包する魔力が身体の内に抑えられず周囲に溢れ出し、太陽の強い日差しのようにヒリヒリとした痛みが表皮を這う。
ゾッとした。
なんだよ、この痛み。魔力が多いとこういうことも起きるのか……⁉︎
これが、プロでもなんでもない、中3が出して良い魔力かよッ!
さっきまでのキャプテンと、全てが違う。
本能的な恐怖心が、指先の震えになって現れる。
最後のアウトが取れる気がしない? バカ、今のあの人からは全ての球を打たれる気しかしないッ。
ちくしょう、こうなったら四球になっても良いからコーナーギリギリに投げて、
『逃げんな。来いや』
「ッ」
物理的な重みがあるんじゃないかと錯覚させる、深い声音が俺を縛り付ける。
構えられた迫力も、俺を見る眼光も、その“大きさ”も。
全てが変質してしまっていた。
「あ、あれ……? ミットまで、こんなに遠かったか……?」
ただそこに居るだけなのに、虎王孫春という亜人が巨大に見える。
なのに、構えられた茶子のミットは途方もないほど遠くに感じる。
俺のボールを待ち構えるバットに、俺は何を投げても打たれるビジョンしか脳裏に浮かばなかった。
「(ど、どうすればいい)」
俺が投げられる球も、コースも全部試した。
それを全て潰した上で、キャプテンは俺に逃げるなって言ってきやがる。
じゃあ、どこに何を投げろってんだよっ!
「!」
こうなったら無理矢理にでも魔法を使ってと焦っていたら、茶子の構えるミットがグッと俺の方へ強く押し出された。
──勝ちゃん。ここ。
茶子の目は、何も変わらない。
いつもと変わらない、どんな時でも俺の球を受けてくれた、いつもの茶子だった。
そうだ、茶子がいる。
ずっと、そこに居てくれてるじゃないか。俺の18m先で、俺のボールを待ってくれる女房役がいるじゃないか。
怖がるな、怖がる必要なんかない。
いつもと何も変わらない。茶子が構えた所に、俺が投げれば負ける筈ねぇんだ……ッ!
セットポジションから、投球動作へ。
ずっとやってきた重心移動の意識、身体の力を連動、力が順番に巡るのを感じながらッ、巡らせた力を最後に腕へ、鞭のようにしならして放たれるイメージで……投げッ、
──勝つ気、ないやろ。
──負けて良い勝負があるかい。
──逃げんな。
見開かれていた。虎王孫春の鋭く縦に割れた、緑色の瞳。
その瞳に睨まれた俺は、怯えてしまった。
生まれてはじめて投げることを……“躊躇って”しまった。
「あ」
重心移動も、連動も、イメージも、何もかもを中途半端にして手から離れたおざなりなボールを見て、俺は自分がボールを投げたのだと自覚した。
「ッッ⁉︎ 勝ちゃんッ」
俺が投げたボールは茶子の構えた場所から大きく外れ、ストライグゾーン真ん中より、少し高め。
子供が投げたのかと笑いたくなるほどの、棒球。
棒球《それ》を振り抜けない奴なんて、聖ロゼという最高峰のベースボールエリート達が集う場所に……存在しない。
「──ほら見い、甘いねん。全部」
バガンッッッ‼︎
強烈な打撃音が耳をつんざく。
到底、木製のバットでボールが打たれた音だとは思えないほどに甲高く。
至近距離で銃を撃たれたと言っても過言ではない、猛烈な弾き音。
虚脱感に襲われながら、俺は僅かな震えを隠すように拳を握り、ボールの行方に目をやった。
白球は青い空をグングンと進んでいき、グラウンドのネットを容易く超えて……第二練習グラウンドの中へと消えていく。
推定180m超えの特大ホームラン。魔法も何も使ってない、ただの技術と力で捩じ伏せられた純然たる力の差。
「ああ」
打たれた。大敗だ。
俺の中に産まれる圧倒的なまでの敗北感が這い寄るが、それよりも。
ただただ……俺を鼓舞し、ここに投げろと構えてくれた茶子のミットに投げられなかった罪悪感だけが、俺を
一般人が転生してチートを貰えただけで、世界のSHOHEIになれる訳ないんだよなぁ
※文章訂正
なんだよ、この痛み。魔力って、こんなことも出来るのかよッ
↓
なんだよ、この痛み。魔力が多いとこういうことも起きるのか……⁉︎
に訂正しました。修正前だと、キャプテンが故意的に魔力で主人公に痛みを与えたという印象を抱くのかなと思ったので