貞操逆転世界の野球で『二刀流』に俺はなる!〜ガチムチ爆乳亜人メスvs一般転生ヒトオス〜 作:鎌原 や裕
打たれた直後、すぐさま駆け寄ってきてくれた茶子にさらなる罪悪感を抱く。
「大丈夫?」
無表情からかけ離れた心配そうな顔で、茶子は俺に寄り添ってくれた。
「……悪い、勝手に自滅しちまった。最後、何も考えられなかった」
「ううん。最後の雰囲気は、私でも鳥肌が立つほどだった。正面に立ってた勝ちゃんなら、もっとだと思う」
「偉いなぁ、熊掌ちゃん。打たれた投手にすぐさまケア。それありがたいねんなぁ、ホンマ」
「!」
勝負前と同じ笑みを浮かべ、バットで肩を叩きながら俺達の元へ歩み寄ってくる虎王キャプテン。
茶子はムッと顔を顰めて、俺の前に立とうとするが俺は制した。
「……完敗です」
「完敗〜? 勝負する気なかった癖に〜勝つも負けるもないやろ〜」
ニヤニヤと笑いながら告げられる言葉に、胸を締め付けられる。
図星だった。
中等部の野球を、決して舐めていた訳じゃない。
力を見せつけるとは言ったが、同級生ならまだしも、上級生に勝てるなんて微塵も考えていなかった。
俺だって小学生と中学生のレベルの違いは理解しているつもりだ。
だから俺の中で、性別関係なく一人の選手として認められること。
それが達成されれば、十分に力を見せられたと考えて良いという結論だった。
だから途中、良い感じに投球がハマりストライクが取れて、もしかしたらワンチャンあるか? とは思ったけど、三振を取りに行こうまではいかなかった。
勝ったら儲け、負けても俺は何も失わない。
見物していた上級生や同級生の反応からして、俺の特異性は認識させられたし、一人の選手として受け入れて貰えたという実感もあったから。
虎王孫春との一打席勝負を言語化するなら……ボーナス戦。
RPGで言う、レベル差はあるけど強さが気になるから戦ってみたボスキャラ。
ゲーム感覚、まさにその通りだった。
緑色の瞳が、鏡のように俺を写す。
野獣のように鋭い瞳孔が身を竦ませる。
「もう、小学生の遊びやないんやで。こっからはちゃう。これからは一打席一打席の結果が、自分の未来に繋がるようになる。ウチは、亜人生を懸けて野球をやっとる。
その緑色の瞳を俺にジッと合わせて、言い聞かせるように、刻み込むように呟いた。
「3年のウチに勝てる訳がない。打席に立ってるウチからすれば分かりやすかったで」
「……!」
「せやな、その通りや。監督も、部員も、ウチに勝つなんて思っとらん。一打席勝負言うても、軽いレクリエーション。あの男の子はどんくらい投げれんねやろ、くらいの気持ちで全員見とったやろうな。亜人の3年なんて1年と別もんやし? しかもウチやし? みんな、そんくらいのこと分かっとる」
虎王キャプテンは自分の獣耳の裏をコリコリとかきながら「でもな?」と言葉を続ける。
「それでもナニクソッて勝とうとする奴が、なんだかんだ最後まで残んねん。闘争心とか、動じない
事実、初球やいくつかの球は本当に良い球だったと絶賛してくれた。
だからこそ惜しいと。三振を奪うつもりで、打ち取るつもりで、当てるぐらいの気持ちでインコースをもっと攻めれていたら自分のアプローチも変わっていたと。
最初は【魔法】を使うつもりもなかったんだとか。
「使うつもりなかったっちゅーか、普通に反則やしな。アレ」
「え」
「試合のフィールドに結界張るんは魔法の過干渉を防ぐ為やし、バッターからピッチャーに干渉して良い訳ないや〜ん! ここ練習場で結界ないし、レクやからやっただけで!」
腰に手を置いてケラケラと笑う虎王キャプテンに、口元をひくつかせながら同じように「は、ははは」と返した。
確かに、自分の内心を見抜かれた所にプレッシャーをかけられたから焦って気付かなかったけど、前世で言う囁き戦術の悪質バージョンだよなコレ。
「なんでわざわざこんなことを? こんなことしなくても、キャプテンならどんな球もホームランに出来たんじゃ?」
「せやなぁ……でも、ウチにホームラン打たれるんは“想定内”やろ? ウチがなんも言わずに打ってたら、自分の中で何も変わらんかったはずや。ああ、先輩に一本打たれた。凄いな〜で終わらしとったんちゃう?」
さっきから図星を突かれすぎて、涙が出てきそうになる。
まさにその通りだった。
俺の中の計画では、中学生から本格化する亜人種と対等に渡り合えるようになるなら、自分も3年生にならないとキツイと考えている。
強豪の練習で得られる努力値、経験、ステータスの向上があれば順調に上がっていければ……という、自分の中のルートが出来上がっていた。
ここで打たれたところで、俺は実力の差を受け入れるだけだったと思う。
しかし、虎王キャプテンの言葉でプレッシャーの受け取り方が俺の中で変わってしまった。
“競技者”としての自覚がない。
投手が最初から負けを前提に考えている、競技者としての否定。
今までお前がやってきたのはぬるま湯のおままごとだと言われているかのような、強打者の放つプレッシャー。
生まれて初めて強打者のプレッシャーを生身で受けた俺の結果は、さっきの通りだ。
打者としての威圧感、殺気にも似た覇気、集中力が増して内包する魔力がただ漏れ出ただけで影響を受けて……勝負をするのが怖くなり中途半端なボールを投げてしまった。
「中学に上がって強豪で野球やるような奴なんて、全員こんなもんや。プロの選手より荒々しく、下手しい相手を殺したると思いながらピッチャーもバッターもプレイしとる。そんくらい
「……ッ」
優しく微笑みかけるキャプテンの顔に、さっき打席で見せた恐ろしさの片鱗も感じられない。
なのに、胸をしめつけられる痛みは増していくばかり。
ああ。そうだ。打席に立たれて、投手として立ったから分かる。
キャプテンは、俺には
あまりに手荒い伝え方だとは思う。
でも……事前に伝えられるより。事後に伝えられるより。
なによりもあの瞬間に本気の打者として、投手の俺に勝負のプレッシャーをかけられたことが……言葉よりも重く突き刺さった。
「ええ球投げる、パワーがエグい、守備が上手い……才能のある奴なんか山程おる。ウチの先輩にも沢山おったわ。でもその中で上に残るんは、勝ちに誰よりも貪欲な人やった。勝ちたいから頑張る。上に行きたい、負けたら自分の未来が狭まる、負けたら死ぬほど悔しい、やから泣くほどバット振るねん。毎日やんねん。そんな中に中途半端な奴がおったら、自分だけやなく周りも傷つける」
無自覚に一歩下がっていた俺に、一歩詰め寄って顔を近づける虎王キャプテン。
「監督に動画を見せられてから、ずっと思ってたことがあんねん。なぁ、王谷勝平……一度でも、野球って競技で勝ちたいって思ったことあるんか?」
「……」
自分の気持ちを、考えを思い返せば。
ああ、まさに。
俺はこの世に生まれて……一度も勝ちたいと思ったことなんてなかった。
だって、それよりも楽しいことが目の前にあったから。
やればやるだけ、ステータスが上がる。
頑張れば頑張るだけ数字に現れる。
日に日に変化していく、自分の実力。
茶子が、レオナさんが驚く顔を今でも思い出せる。
言い方を選ばなければ、快楽と呼んでも良い。
勝つ? 負ける? 正直に言えばどうでもよかった。
リトルで負けることなんてしょっちゅうだったし。
俺が5回に降ろされて、次が打たれる。
何回かに一回は勝てた。俺が投げて、俺と茶子が打ったから。
勝つと気持ちは良い。でも別に負けても良い。
どちらにせよ努力値は入るし、自分の成績が特別悪くなる訳でもない。
最後のリトルの試合でさえ、負けて悔しいと思わなかった。最後のリトルという感慨はあっても、どうせ負けるからと心のどこかで考えていたから。
結果が約束された努力は楽しく、SR得能が解放された日には世界が変わったとさえ錯覚するほどに。
同時に、自分の実力から乖離する違和感も増した。
でもそれは、他の得能を取れば多少緩和出来るしそのうち自分の感覚が追いつく瞬間は訪れる。
そしてそれは小学生の今じゃないと割り切って考えていた。
UR得能も解放されれば、俺はさらに飛躍出来る。
そしてUR得能の解放時期の知らせもすでに来ている。
東楼大陸一の強豪校にスカウトなんて、渡りに船。
UR得能用に大量の努力値を貯められる絶好の場所、そんな考えでここに来た。
この一打席勝負も、自分を選手として認めてもらう。
ついでに強豪キャプテンとの対戦経験も得られるボーナス付き。
そんな甘い考えで臨んだ俺の考えは見透かされ、打ち砕かれた。
今まで培ってきたステータスは虎王キャプテンのプレッシャーに容易く押し潰され、その後に残されるのは今までチートで甘やかされた一般人の俺。
唯一、ステータスに精神の項目はない。
誰かと争ったことも、何かに熱中したことも、本気で何かに費やしたこともない俺が。
野球に人生を懸ける彼女に、チートがなければ何もない丸裸の俺が抗う術も、経験も、対等に張り合える気持ちもなかった。
身近にプロの選手も居て、実際に試合を見て……知った気になった。
ひとつのことに全てを費やす、本物の選手と戦うプレッシャーがこんなにも凄まじいものだと知らなかった。
レオナさんだって、一年の半分を試合で留守にしているから、プライベートで会えば気の良い幼馴染の母親だ。
あんなプレッシャーを放つことなんてない。
それを中学3年生の大人でもない一人の選手に言葉と実力をもって諭された自分が、酷く情けなくなった。
……俺は、この世界で野球をやったことなんてなかったんだ。
俺は今までSHOHEIというゲームをやっていたに過ぎない。
神様から貰った特別に酔って、自分が特別な人間になれたんだと勘違いしたんだ。
いつから、俺はSHOHEIになれるって自惚れた。
十数年前、あれほど憧れた人間に……なんで俺はこのまま順調に行けばなれると容易く思ったんだ。
プロでもない強豪校のキャプテン。
少女でも通じる年齢の子相手で、こんなにビビった俺が。
──恥ずかしい。ただただ、恥ずかしい。
あまりにも不甲斐ない。酩酊状態からシラフに戻った気分だ。
チートを扱っていると思った自分が、チートに弄ばれていたなんて。
言葉の出ない俺に、茶子は何も言わず背中をさする。
情けない。俺から野球に誘っておいて、ずっと着いてきてもらっておいて、このザマだ。
「……まぁ、自覚してもらえたんなら、ええわ。あっけらかんと済まされたら、どないしようかと思ったし」
そう言って背を向けるキャプテンは、振り返らず「ほな戻ろか」と声を上げる。
「ウチらの話してたことは他の部員には聞こえんようにしといた。変に勘繰られたら、ええ球って褒められたとでも言っとき」
「……すいません。色々と」
「ええねんええねん。分からせとかんと、いずれ怪我するからな。試合中の亜人、ホンマに気が荒い奴多いねん。さっきのウチの比やないで。結果出してレギュラー定着せんと、強豪の高校から声かからんからな。やっぱプロ目指すなら、ええ高校に行くんが一番やし」
ケラケラと笑いながら、大きな背中を揺らすキャプテンを見ながら思う。
俺は、中等部の野球を決して舐めている訳じゃないと言った。
違った。
舐めるも何も、俺はひとつも正しい理解が出来ていなかったんだ。
SHOHEIを目指す上で、まずもって俺はプロにならなくてはならない。
負ければ終わり。そのレベルの試合で、このレベルのバッターと、自分が投手として。
キャプテンの緑色の瞳が自分を射抜き、身が竦む感覚が再び襲う。
王谷勝平、この世界に産まれて12年。
自分が今まで、どれだけ温い世界に生きていたかを分からされた。