戦闘を終えた一夏は敵機のモビルスーツを回収し、後始末はオルガに任せ格納庫へと帰還する。
「よう、一夏。お疲れ」
「ありがとう、おやっさん」
マルコシアスを格納庫に戻し、コックピットのハッチを開けるとおやっさんは一夏に飲み物を渡しお礼を言って受け取り一口飲む。
「オルガ達はまだ敵の船に?」
「ああ」
「そうですか」
一夏は飲み物を飲み終えコックピットから出て移動し下に降りると見慣れない子と一緒に居る昭弘の姿見つけた。
「昭弘」
「おお、一夏」
「……もしかしてその子が?」
「ああ、紹介する。弟の昌弘だ」
「……ど、どうも」
昌弘は遠慮がちな様子で一夏に挨拶する。
「そうか、君が昭弘の弟か。俺の名前は織斑一夏だ。よろしくな」
「昌弘・アルトランド…です」
二人は互いに握手を交わしながら挨拶をする。
「それで、何してたんだ昭弘」
「ああ、昌弘にイサリビの中を案内してたんだ」
「そうか…なら邪魔はしない方がいいな。話したい事もたくさんあるだろ?」
「すまん、恩にきる。昌弘、行くぞ」
「うん」
昭弘は昌弘を連れて格納庫から出て行った。
「よかったな…二人とも」
その様子を優しい眼差しで…何処か羨ましそうに見つめていた一夏だった。
作業を終わらせてシャワーで汗を流し服を着替えた一夏は通路を歩いていると、部屋の前に三日月が居た。
「三日月」
「…一夏」
呼びかけると三日月は振り向く。
「どうしたんだ?こんな所で」
三日月は無言で部屋に視線を移す。覗いてみると死んだ仲間の遺体の前で泣き崩れたシノが居た。それを見た一夏は察し泣き崩れているシノの背を見つめる。
「……」
「……シノ」
三日月はシノに声をかける。
「……指示を出した…俺が…ふがいねぇ、せいでよぉ…」
そう言ったシノは仲間を死なせてしまった後悔と悲しみに押し潰れそうになっていた。
「こいつら…ぐぅ!……こんな所で…こんなの…自分が死んだ方が…よっぽどマシだ!」
「駄目だ、シノ。そう言うのは、こいつらに失礼だ」
「ああ。それに、こいつらはお前が死ぬのを望んでないし、お前が死んだら他の奴らも悲しむ。何度も同じ事を言うかもしれないが…こいつらの死に生きている俺たちが意味を作らないといけない…自分が死んだ方がいいなんて言葉…簡単に言うんじゃねぇよ」
「ぐぅ!うおあぁぁぁぁっ!っぐう!」
シノは声を上げながら泣き続けた。
しばらくした後、ハンマーヘッドの応接室で今回の戦利品について話していた。
「予定通りこれからコロニーへ向かう」
「ブルワーズが所有する資産は船二隻、修理可能なモビルスーツが十機、と言う所ですね」
「あ~、揃いも揃って異常なほど装甲が分厚いモビルスーツばっかだ。ま、中には無事なのが居るがなぁ。特にあのグシオンってモビルスーツは出物だぜ」
「やっぱり…ガンダムフレーム、だったんですよね?」
「ああ」
「どうしますか?鹵獲した機体は鉄華団で維持を「いや、すべて売却する」え?」
メリビットが言い終わる前にオルガはモビルスーツを全て売ると言い出す。
「昭弘の弟を苦しめ、俺達の仲間を殺した、因縁のある組織のモビルスーツを、うちで使うわけにはいかねえ」
「……だね。昭弘は?」
「さあな。今頃、弟と話してんじゃねえのか?やっと再会できたんだから話したい事が沢山あるんだろうしな」
ユージンの言葉を聞いたみんなは笑みを浮かべる。
「……お葬式」
突然メリビットが言い出す。
「お葬式をやりませんか?」
「葬式?」
「ええ。私が生まれたコロニーでは死者はお葬式に送り出すの。魂がきちんとあるべき場所へ戻れるようにそして、無事に生まれ変われるように」
「葬式、か」
メリビットさんの話を聞いたオルガは何かを考え始める。
「良いじゃねえか。葬式ってのは昔はわりと重要なもんだったらしいぜ?葬式を挙げる事で死者の魂が生きてた頃の苦痛を忘れられるって話もある」
「苦痛?」
「でも「俺やりてえ」シノ…?」
「俺、だったらやりてえ、葬式。少しでもあいつらが痛みを忘れられるんなら」
「俺からも頼む」
突然昭弘が入って来て葬式をやるように頼み始める
「昭弘…」
「そうと決まれば俺らも手を貸すぜ!」
「みんなにも知らせないとね」
「ああ、そうだな」
「んじゃ、俺イサリビに戻るわ」
「ああ、俺も」
話が終わると葬式の準備をするためにイサリビに戻った。一夏は喉が渇き葬式の事を仲間に知らせながら食堂に向かうとそこにはクーデリアとアトラの姿があった。
「一夏…」
「一夏さん」
「二人ともここにいたんだんだな…三日月を見なかったか?」
「いえ、ここにはまだ来ていません。何かあったんですか?」
「ああ、実はさっきの話で葬式をする事になってな」
「お葬式を?」
「ああ、もし他の奴を見たら伝えてもらってもいいか?」
一夏は他の仲間に伝言を頼み水を飲んでから食堂を後にする。
「ねえ、これも入れて良い?」
「おお、良いぞ」
船の上で葬式の準備をしており、子供たちがお菓子やお金などの色々な物をカプセルに入れて行く。
「こうやってここに立つのは妙な気分だな」
ユージンは下を見ながら感想を言うとシノも同意する。そしてカプセルの蓋が閉まる。
「よし。んじゃあ、始めっかオルガ」
「はい」
名瀬の合図に全員カプセルから少し離れる。
「よし、みんな祈ってくれ。死んだ仲間の魂があるべき場所に行って。そんでもって……きっちり生まれ変われるようにな」
オルガの言葉に全員が目を閉じて死んで逝った仲間たちに祈りを捧げる。
「弔砲用意」
突然船の主砲が動きだした。
「撃て」
オルガの指示に主砲から何もない宇宙に二発撃ちだした。するとそこには、光輝く氷の華が咲いた。
「すっげえ!華咲いた!華!」
「すっごい綺麗!」
それを見た子供たちは大はしゃぎで見ていた。
「………」
一夏も目の前の華に見とれていた。
「おやっさん。これは?」
「おう。推進剤に使う水素にちっとばかし細工をしたんだよ。こいつが言い出しっぺでな」
「えへへ」
「へ~」
「ヤマギが?」
ユージンの質問におやっさんがヤマギが考えた物だと説明する。
「……消えていく」
三日月がそう言うと氷の華は徐々に光を失い、やがて消えて行った。
「えぇ~、もう終わり?」
「なんだよ~、もっとずっと咲いてりゃあ良かったのに」
子供達も華が消えた事に不満を漏らす。
「なんか、呆気ねえな」
「生きてる時はギャーギャーやっても、くだらない事で笑い合って、やり合って、消える時は一瞬だ」
「……そうだな」
「グスッ」
「泣けよ」
「え?」
「葬式ってのはな、生きてる奴らに思いっきり泣いても良い場でもある。だからよぉ、今日くらいは「嫌です」んん?」
「格好良かった仲間を見送るって時に、自分らがだせぇのは嫌です」
そう言うとシノは真っすぐ前を見る。周りを見ると他の者も涙を堪えながら真っ直ぐ前を見ていた。
「……本当、馬鹿な子達だね」
そう言うアミダは言葉とは裏腹にその目は優しかった。
―――――――――
葬式が終わった後、鉄華団はまたハンマーヘッドで話していた。
「では、グシオン以外の売買手続きは完了ですね」
「おう、お疲れ」
「ありがとうございました。その、鹵獲品の事だけじゃなく葬式の事も…」
「気にすんなよ兄弟」
名瀬さんは立ち上がりながら言う。
「じゃあな、アミダ」
「ん?んん♪」
「……っ⁉︎」
名瀬はアミダを呼ぶといきなり目の前でキスをし始め一夏は思わず視線を逸らす。
「ちょ!?何いちゃついてんですか!?」
「ん?知ってるか?人死にが多い年には出生率も上がるんだぜ?」
名瀬が鉄華団メンバーにそう説明をするも、あまりにも大人の行為の為一部は顔を赤くしていた。
「子孫を残そうって判断するんだろう。そうすっと、隣に居る女が滅茶苦茶かわいく見える。特に一夏、これ結構重要だから覚えて置けよ?」
突然名瀬は一夏に話を振る。一夏は突然の名指しに戸惑う。
「な、何で俺には名指しで言うんですか?」
「なんとなくだが、お前は別の意味で俺と似てる気がしてな…うちの女達もお前に興味示してるくらいだ。それに、火星にいた時からもモテてたんだってな?」
「え?そう…なんですか?」
「自覚なしとくるか…今後の為にも、お前は女の扱い方を少しでも多く覚えた方が良いぞ一夏」
「女の扱いって言われても…」
「なんなら、先輩である俺が教えてやっても良いぞ?」
「えっと……考えておきます」
一夏はわからず曖昧な返事をしてしまう姿をアミダはくすくすと笑っていた。
話を終えイサリビに戻った一夏は眠れず格納庫にあるマルコシアスの肩に座り込み歳星で買った一口サイズのチョコを口へ放り込む。しかし甘いはずなのに味がしなかった。
『てめぇ楽しんでんだろ?人殺しをよぉ!!』
一夏はグシオンのパイロットが言っていたことを思い出していた。
「……なんであのゴミクズが言った事が離れないんだ?」
誰に聞かせるでもなく呟く。マルコシアスの装甲に背を預け、一夏は握り締めた拳を見つめた。
この世界に来て…この手で何人殺した?
何機のモビルスーツを壊した?
鉄華団を守るため。
仲間を守るため。
だが、それでも。
『てめぇ楽しんでんだろ?人殺しをよぉ!!』
あの言葉だけが頭から離れない。
「……クソ…人を殺めるのは、これが初めてじゃないだろう」
気付けば一夏は立ち上がり格納庫を後にし、一夏は艦内をただ歩く。今のイサリビは乗員の殆どが部屋に戻り休んでいる者が多く今はずっと静かだった。
しばらく歩いていると宇宙を眺められる通り道に一人の少女がいた。
「クーデリア?」
「……一夏」
振り返ったクーデリアは少し驚いた顔をした。
「眠れないんですか?」
「まあな」
一夏は苦笑する。
「そっちもだろ?」
「ええ」
「…食べるか?」
一夏は手に持っていたチョコをクーデリアに差し出す。
「え…よろしのですか?それ…チョコレート…ですよね?」
クーデリアも菓子類はとても貴重が故少し躊躇いを見せていた。
「歳星で自分のお金で買ったから問題ない。んで、いるの?いらないの?」
「えっと、では…お言葉に甘え…一夏、あなた…手が震えて…」
「え?」
一夏はクーデリアに言われ初めて気付いた。自分の手が小刻みに震えている事に…
「……ああ。別に大した事はない」
そう言って一夏はチョコをクーデリアに渡して手を引っ込める。だが震えは止まらない。
「一夏」
「あの戦いの後から、なんか変なんだよな…」
クーデリアは何も言わず、一夏の顔を見つめる。その視線に耐えきれず、一夏は窓の外へ目を逸らした。
「(彼らにもあるのかもしれない…無意識のうちに押し込めてる…強い気持ちが…)」
クーデリアは一夏に歩み寄り優しくギュッと抱きしめ背中を優しくポンポンと落ち着かせるようたたく。
「…クーデリア?何して…」
「あ、あの!先程フミタンが小さな子達をこうしていて…!それでちょっと落ち着いていたので…」
一夏は突然の事に少し驚くがクーデリアの腕は思ったよりも細く、弱々しい。それなのに、不思議と振りほどこうという気持ちは湧かなかった。
温かかった。誰かにこうして触れられるのは、いつ以来だろう。守る側でいることばかり考えていた。強くいなければならないと思っていた。弱音なんて吐いてはいけないと思っていた。
けれど――
「(ああ……)」
胸の奥に押し込めていた何かが、少しずつ溶けていく。
「(束さんが……よくこうしてくれてたっけな……)」
懐かしい温もりを思い出し、気付けば一夏の手はそっとクーデリアの背に回っていた。
「っ……!?」
頬を赤くしながらクーデリアの肩が小さく震える。
「あ、あの……一夏?」
「ごめん」
「え?」
「もう少しだけ……」
一夏は小さく呟く。今にも消えてしまいそうな声だった。
「もう少しだけ、このままでいさせてくれないか……?」
クーデリアは目を見開き驚いていた。それは目の前の少年が初めて見せた弱さだったから
「……はい」
クーデリアは迷うことなく答えた。
「いくらでも」
優しくそう言いながら、一夏の背中を撫でる。まるで傷付いた子供をあやすように。