本作品は実際に活動されているVtuber「華鏡よさり」様の二次創作であり、本人が知らない悪夢を描いております。
作中で登場する華鏡よさり様のチャンネルページ
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「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり、一度生を享け、滅せぬもののあるべきか」
轟々と燃え盛る中、1人の中年男性が舞っている。
そう、恐らく日本史で一番有名な人物と言っても過言ではないその人、織田前右府信長である。一般的には織田信長として知られている他、第六天魔王を自称した事でも知られている。
余談だが、第六天魔王と名乗った理由として、武田信玄と交わした手紙のやり取りが原因であり、「比叡山、燃やしちゃった☆」という信長に対し、信玄が「何やってくれとンじゃ、こちとら天台宗代表やぞ、舐めとんじゃうぞゴルゥア!」と手紙を書き、その返書で「そっちが天台宗代表やったら俺は第六天魔王じゃ!」と、こんな感じの事があったと言われている。
「え、えぇ……」
だから思うのだ、華鏡よさりは夢を見ていると。
毎度毎度、この手の悪夢は手の抜き方に余念がないはずなのだが、今回ばかりは見た目こそそれなりに手が込んでいた。
辺り一面は火の海(なお熱気は感じられない)であるし、あの有名な敦盛を待っているのはフィクションで見かけないでもない感じの織田信長(なお両頬にひらがなで『のぶ』と書かれている)である為、いつもの悪夢よりは手が込んでいた。
襖を開ければ、そこには謀反を起こした明智軍……ではなく、表には『足軽』と書かれており、裏には『端役』と書かれたゼッケンを身に着ける黒服たちが居た。
そう、頭がエビフライの黒服たちである。
片手に松明を持ち、ぞろぞろと書割の様な部屋を大勢で走り回っている。
この悪夢、本能寺を再現した夢かと思いきや、本能寺の変の信長らしき人物とそこの部屋のみを辛うじてそれっぽく再現しただけで、それ以外はかなり低予算かつ、いい加減な演出で再現してきたのである。
流石に大量のエビフライ頭達に凝視されながら部屋の周りをぐるぐると徘徊されるのは居心地が悪く、黙って襖を閉じて部屋に戻った。
「と゛う゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛お゛‼」
どこかで聞き覚えの叫び声にも思えるが、実際の織田信長もこのぐらいの事は言っていそうなものである。と言うより、天下統一目前だった男が暢気に敦盛を舞って「是非に及ばず」などと、つまり「仕方ない」言って自害したという方がやや信じにくい。
とは言うが、頬に『のぶ』などと墨汁で落書きされている織田信長が物凄く悔しがっている光景は人間味こそ感じる物の、残念な気持ちに苛まれて仕方がない。
何しろ、この部屋はペラッペラの書割で、数十人から百人の黒服たちが松明片手に部屋の周りを駆け回っているのだから、残念で仕方がない。
「そこの女、何者だ!」
「うわあ、こっちに来るなあ!」
情緒不安定な信長が華鏡よさりに気づくと、物凄い勢いで迫ってきた。
その勢いたるや、文字通りの意味でホバー移動しているようだった。
「珍妙ななりをして……え、ウサギみたいな耳付いてるじゃん、耳4つもあるじゃん。え、なんで髪の色が青いの、なに、妖怪?」
物珍し気にジロジロ見てくる、と言うよりは、二度見、三度見、四度見と言う風に驚きのあまり見てしまったが考えこみ、さらにもう一度見て考え込み、と言う風な理解しがたい何かを見たときかのような反応を示した。
「あの、一応、付喪神やってます」
それを聞くと、この織田信長、両手でガシッと自分の頭を両サイドから抱えると、うめき声を上げながら体をこれでもかと捻り、さらに体を精一杯仰け反らせる。
しばらくして、バネ仕掛けの様に直立不動に戻り、ポツリと呟く。
「であるか~……」
それはもう目が点になっていた人の言葉だった。
なお、戦国時代は自ら第六天魔王を名乗ったり、自分は毘沙門天の生まれ変わりと言い張ったりした時代であるため、無きにしも非ず、と言った具合で受け入れられるかもしれない。
「……悪い夢だな!」
悪い夢なのはこちらだ、と華鏡よさりは心中で思う。
本能寺の変完全再現の悪夢ならまだしも、一体全体どうして、こんな燃えてる感しかない書き割り部屋での悪夢なのだろうか。
部屋の周りには黒服がうろついているし、毎度毎度この手の悪夢は低予算でやっているのではないかと思えるほどに、酷い状況だ。いや、辛うじてグレードアップしているのかもしれない。前回は何もない空間に回転ずしのレーンとテーブルと、イスしかなかったのだ。そう思えば、背景に力を入れる程度には進化した……のかもしれない。
「あぁ、うん……」
「ふん、付喪神などと驚かせおって、考えてみれば全く熱気を感じぬわ。要は張り子の虎と同じよ、襖を開ければほれこの通り―――」
書き割り式の割には何故か稼働する襖を勢いのままに開ける織田信長、らしき人。
もちろん、そこの付喪神は先ほど外を見ている訳で、どういう光景が広がっているのかもしていた。
そう、そこには黒服達が居るわけで。
「女、アレは何だ」
そこには、黒服達が居た。
ただし、綺麗に整列し、キレッキレのオタ芸を披露している、と付け加えなければならないのだが。
エビフライ頭の黒服達が一糸乱れぬ動作で見事にシンクロしたオタ芸を見せつけている様は恐怖そのものだ。
思わず華鏡よさりは襖を勢いよく閉めてしまった。
「何をするか」
そう言って織田信長は再び襖を開ける。
そしてそこにはオタ芸を披露する黒服……ではなく、胴上げをする黒服達の姿があった。
胴上げされているのは甲冑を着たマネキンだ。両面に『金柑頭』と書かれたゼッケンが付けられており、ラジカセで『ワッショイ、ワッショイ』と掛け声を上げているあたり、この黒服達には声が搭載されていないのだろう。
ちなみにだが、金柑頭とは明智光秀のあだ名だ。正確には、パワハラ上司の織田信長がそう呼んでいただけで、皆からそう呼ばれていたわけではない。
「あ、金柑」
「むんっ!」
さすがに思わず、力任せに襖を閉める。
この黒服達の挙動が一切予測できない以上、目の前にしてはいけないと本能が訴えかけてきていた。本能寺だけに、という訳ではない。
「待て待て」
そう言って、この男は三度、襖を開ける。
無論、そこには黒服達がいる訳なのだが、今度は棺桶を数人がかりで担いでいた。
「え、ちょ、なに」
そして、颯爽と織田信長を黒服達が担ぎ上げ、棺桶の中に放り込むと勢いよくふたを閉め、どこかで聞いたことのある棺桶ダンスの音楽が流れ始めた。
「……」
リズムに合わせてどこかへと去ってゆく黒服達はそれはもう、ネットミームに忠実な踊りを見せながら踊り去って行った。
襖を開け閉めするだけで状況がこうもコロコロと変わってはついていけないと、彼女は静かに襖を閉める。
そこで悪夢は終わった。襖を閉め切った時点で、張り詰めた糸が切れたかのように、意識は飛び、目覚めればそこはベッドの上で、いつもの……昼だった。朝ではない。