機動戦士ガンダムEXVS InSert Credit(旧:掌のレバーと指先のボタンで、広がる世界。) 作:kaneda_02
全国のゲームセンターにて稼働中の大人気アクションゲーム。
機動戦士ガンダムシリーズに搭乗するモビルスーツを操作し繰り広げる2on2の対人戦が魅力。
大型アップデートや新作発売を続けて、十年以上続いてるすんごいタイトル。
ソーシャルゲームや家庭ゲーム機が普及・充実する昨今、その煽りを受けるゲームセンター業界において、根強い人気を誇る人気タイトルです。
執筆開始時(2023年4月)では、シリーズ6作目に当たるクロスブーストが稼働中。
●制作のノリ
本作は、執筆開始時(2023年4月)にアーケードにて稼働中の「機動戦士ガンダムエクストリームバーサス2 クロスブースト」をモデルに一部機体に「これがついてたら面白くなるんじゃないの?」と作者の妄想を追加されたものとなります。広い懐で受け入れていただけると嬉しいです。
「やったぁぁぁぁ」
張り詰めた緊張の空気は、トンボの一声により破られた。
鼓膜を震わせた高い声に修は顔を上げる。モニターを確認すると、中央には片膝をつくストライクフリーダムがいた。敗北時のリザルトポーズだった。
――負けたんだな。
リザルト画面を確認することでゆっくりと敗北を実感した。
敗北の味は春先の雰囲気を思い出させた。実力差に圧倒されたあの日の試合を。
最近は、ノリのアドバイスのお陰で段々と勝ちが増えてきている気がしている。アドバイスの内容は単純で、ゲームへの知識と立ち回り、バースト運用についてが中心だった。習えば習う程、視野が広がりできることが増えていく感覚があった。それを嬉しく思う反面、学べば学ぶ程上には上がいるということも知った。
ゲームの知識が深く、理解度も高い。場面場面で考え判断し理由付けされた立ち回りを選択する。バーストは徹底的に運用し腐らせない。
ゲームの環境に合わせ自身をアップデートし、勝ち続けるプレイヤーがいるのだと知った。
世間一般ではそういったプレイヤーを猛者と呼ぶのだと修は知っている。
ハルヒは、間違いなく猛者だと思う。
試合を通して被弾を抑え、盤面を支配し続けたプレイヤーを称する言葉を修はそれ以外に持ち合わせていなかった。
ガンダムは好きだ。
カッコいいから好きだ。
そのガンダムを動かせるゲームで最前線を走るプレイヤー。その一挙手一投足を間近に体感することができ、修は嬉しかった。
もちろん悔しさはある。
しかし、初心者である自分を思えば、負けることは恥ずかしいことではない。この悔しさをバネにもっと強くなれるはずだと修は感じている。
あの日、あの試合から始まった関係が、今の悔しさを与えている。これはここ二ヶ月の成果であり、そしてこれからの成長の糧になるのだと信じているからだ。
「お疲れ様」
ハルヒが修の肩に手を置いた。
熱く火照った掌の感触にハルヒを見やれば、そこには柔和な笑顔があった。烈火の如く燃え上がっていた熱意は、その残滓を手中に残すのみだった。
「お疲れ様です」
ハルヒに声を返す。
固く握っていた拳から自然と力が抜けた。
「トンボもお疲れ様」
ハルヒの肩越しに両手を突き上げて無邪気な笑顔を浮かべるトンボを見た。前髪の幾房が、汗で額に張り付いていた。
「こ、こちらこそ! 皆さんありがとうございました!」
修の声に慌てて居住まいを直したトンボが、忙しなく頭を下げる。大げさな所作とそれに合わせて揺れ動くビックサイズのカットソーが、慌ただしい印象を抱かせた。
「ありがとうトンボ君。君達の瑞々しいプレイを肌で感じることができて私は嬉しく思うよ」
修とその背後の叶、トンボへハルヒが告げた。
屈託のない笑みが、それが彼の本心であると感じさせた。
その笑顔に修は問いかける。
「あの」
コントロールパネルの上に自然と上体が乗り出した。
「質問いいですか?」
ハルヒの瞳が、目尻に皺を作りそれに応えた。待っていたと言わんばかりの様子だった。
「もちろん」
「では二つ。一つ目はどうしてストライクフリーダムのフルバーストをガードできたのか。二つ目はホットスクランブルの後サブ射撃を絡めたセットプレイと前特殊射撃の避け方について。教えて下さい」
それ等は、先の試合中に感じた疑問と自分達が避けられなかった攻撃への対処方法だった。もっと上手くなるために超えなければならない課題だと思えた。
修の問にハルヒはそうだねと相槌を打ってから答える。
「まず一つ目なんだけど、結論から言えば知っていたからガードできた、になるかな」
「知っていた?」
その答えに修は首を傾げた。不可解だと修は感じた。
ガードする直前、ホットスクランブルはダイバーエースをターゲットしていた。ターゲットを変えた時、既にストライクフリーダムは攻撃モーションを構えていたので、照射までの間は極僅かだったはずだ。その僅かな間にストライクフリーダムのモーションを認め攻撃を知った……。
自身の考察に違和感を覚える。
僅かな間にストライクフリーダムの攻撃を認めたのなら、それによってもたらされた行動の理由は、知ったからではなく反応できたからになるのではないか。
修の思考を表情に読んだのか、ハルヒが苦笑を浮かべる。
「カナタ君がやったことと同じことをしたまでさ」
「叶が……?」
突如呼ばれた幼馴染の名前に、修は背後に振り返った。
背後には、呆けたようにコントロールパネルに手を乗せた叶がいた。その瞳は、筐体のデモプレイを無感情に眺めていた。
「叶……?」
修の呼びかけに叶がハッと顔を上げる。こちらに素早く焦点を合わせた後、修と同じ様に様子を伺っていたハルヒとトンボを順に見渡していた。
考え事に周囲への感心を忘れていたようだった。
「どうした?」
取り繕うように表情を崩した叶を修は見詰めた。真っ直ぐ、その真意を瞳の奥に読み取ろうと見詰めた。
すると叶が視線をそらした。耐えかねたとでもいうような所作に、修は一抹の寂しさを感じた。
――お前……。
幼馴染の拒絶に、修は言葉を詰まらせた。
「さっき、カナタ君がバーストを使って私のホットスクランブルに前格闘を当てた時、君は何を思って前格闘を振ったのかな?」
叶は、一度ハルヒを見た。質問を受けた叶は、目線を下げ、自然な動作で顎に手を当てて思案を始めた。
一連の動作に違和感は感じない。何かを思い出す、または考える時の自然な流れに見えた。今日初めて会った間柄の人にとっては特にそう見えたはずだ。
ここに優花がいたならば、と修は思った。優花も自身と同じ様に、叶の行動に感じるものがあったのだろうか。
きっとそうだろうと結論する。
三人の間に横たわる関係は、強く複雑なものだと修は信じていた。
しばらくすると、叶は顎から手を離した。
「横特殊射撃を抜けるためには前格闘しかないと思いました。直前で修のストライクフリーダムが横特殊射撃に迎撃されるのを見たので、同じ状況、懐に敵が飛び込んできたら同じ様に横特殊射撃を使うんじゃないのかと」
淀みない叶の説明を受け、ハルヒが頷いた。
「つまり、ホットスクランブルの横特殊射撃を読んだわけだ」
修は、叶を見詰めた。修の視線に気が付いた叶が、こちらに微笑んだ。バツの悪さを感じさせる笑みだった。
「私は、経験や知識として機体の武装を把握している。事前に相手のことを知っていれば、場面場面で相手がどの武装を使いたいのかある程度見当がつく。相手の行動に見当をつけ行動を読むことで、反応が難しい場面にも対処をすることができるようになる」
ハルヒの声に振り向くと、その奥に説明に聞き入るトンボの顔が見えた。こくこくと時折頷くトンボは、今ゲームに熱中しているように思えた。
「例えばストライクフリーダム。射撃CSやドラグーン停滞中の特殊射撃が主なダメージソースになると思うけど、ダメージソースになるということは、裏を返せばそれが相手が一番当てたい武装になるとも言える。であれば、自分の中で事前に対処方法を用意しておくのさ。引き出しを用意するのは時間がかかるけど、予め引き出しを用意しておけば、対処は簡単になるからね」
「だから知っていた、なんですね?」
修の確認にハルヒが頷く。
相手が使いたい武装に対し、相手が使いたい場面を読んで対処の引き出しを用意しておく。
ハルヒの言を反芻していると、修はあることを思い出した。以前、ノリとジンと戦った時、騎士ガンダムの前特殊射撃を予測し修は予め距離を取った。あれと似たようなことを、ハルヒはやってみせたのだと気が付いた。
補足をするように説明が続いた。
「そう考えると、二つ目の問に対する答えも見えてくる。ホットスクランブルの後サブ射撃は、ファンネルの位置が正確に把握できない上にホットスクランブル本体も警戒しなくてはならないから対処が難しい。かといってホットスクランブル本体にビビってその場に留まるような小さい動きを行うと、ファンネルから照射されたビームに戻るか素直に被弾してしまう」
であれば、と一呼吸を置く。
「大きく動くしかない。ファンネルを振り払うように動き照射をやり過ごした後にホットスクランブルと見合う。そうすることで、ファンネル六基とホットスクランブル一機ではなく、ファンネル六基の後にホットスクランブルとテンポを持って対処をすることができる。そのためには、事前にブーストを用意しておく必要があるから、相手の思考を読んで、後サブ射撃が入力される前に着地を済ませておかなければならない」
サラサラと告げられた対処方法は、その調子も相俟ってやけに呆気なく感じられた。そんなことで、と思う反面ハルヒが言うのだからと納得する部分もある。
「もちろん、ケースバイケースではある。ホットスクランブル側が周到に状況を整え、事前にブーストゲージを回復することができずに後ろサブ射撃が入力される場面もあるから、最終的には小手先の読み合いになることがある」
修は自身の理解を確かめるように返答した。
「段階をもって対処に当たれってことですね?」
「そうなるね。前特殊射撃も引き出しがあれば対処は簡単さ」
そう言うと、ハルヒは筐体に向き直った。
試合に勝利した場合、ゲームは継続する。そのため、ハルヒ達の筐体は、対CPUモードであるトライアドモードに進んでいた。他のプレイヤーとマッチングするまでの間、プレイヤーを退屈させないための措置だった。
モニターの中央にはホットスクランブルが屹立している。堂々たる不動の構えが、ハルヒの入力をもって動き出した。
ブーストダッシュによりターゲット中のCPU――ザクに接近したホットスクランブルは、間もなく前進の勢いそのままに右腕を構えた。するとファンネルが上下、左右と順にライフルに接続される。形成されたバスタービームライフルの銃口に収束光が瞬いた直後、大出力のビームが前方に照射された。
低難易度の面が選択されていたためか、攻撃や回避をすることもなく歩行を行っていたザクをビームが貫く。ターゲットマーカーが強制ダウンを示す黄色に変わったタイミングで、ホットスクランブルが下方向に一回転をした。それに合わせて前方から下方にビームがしなる。
正面から上下三百六十度を薙ぎ払ったホットスクランブルが回転を止めると同時、機体の移動が止まった。
一連の攻撃を見た修は、その圧巻の迫力に生唾を飲み込んだ。先程、偶然とはいえ回避ができたと実感が持てなかった。
相手と距離を取るためには、後ろ方向への移動が最も簡単だと修は思う。こちらを追ってくる敵に対し、後ろ方向以外の移動は、相手と距離を開けにくいからだ。
しかしホットスクランブルの前特殊射撃は、その後ろ方向への移動を射抜くに適している。長大なビームは、相手の背中に向けて伸びるからだ。
その前特殊射撃の対処方法。
修はハルヒの言葉を待った。
「前特殊射撃は、発生まで僅かだが時間がかかる上に大げさな収束光のせいで攻撃を察知されやすい。であれば、対処は単純」
モニターの中で強制ダウンから復帰したザクが、ザクバズーカを撃った。段々と迫ってくるバズーカに対し、ハルヒはレバーを素早く二度倒した。
ホットスクランブルが、入力を受け付け横方向へステップを行う。すると、ホットスクランブルに向かってゆっくりとカーブしながら誘導をしていたバズーカが、途端に真っ直ぐ飛び始めた。
「ステップで銃口補正を切ればいい」
ホットスクランブルの脇を抜けたバズーカが、ステージに直撃して爆発する。ホットスクランブルは無傷だった。
今のは誘導を切っただけだけどね、と言ってハルヒはデバイスから手を離した。
「そ、それだけで回避できるんですか?」
トンボが感嘆の溜息を付きながら漏らすように言った。その声にハルヒが頷く。
「現にシュウ君はやってみせた」
ステップ入力。
レバーを同じ方向に二回倒すだけの単純な入力。
たったそれだけで無効化できてしまうという事実に、修は自身の体験をもって同意した。
「しかし、これ等を体得するには、やっぱり何より経験が必要だよ。ある程度の実力がつけば、初見の攻撃も対処できるようになるけど、その根っこにはやっぱり経験がある」
その言葉に教訓を得た修は、改めてハルヒの顔を見た。
「傾向、分析、対策」
指を三本立てる。ハルヒの指に自然と注目が集まった。
「被弾した攻撃と対処が難しい攻撃、逆に回避された攻撃。ただ漠然とゲームをプレイするのではなく、プレイの中に問題を見つけ、傾向を見つけ原因を分析し、対策を立てる。この細かな繰り返しが、上手くなる一番の近道さ」
「ありがとうございます。普段のプレイもなんとなくじゃなくて、経験の場として向き合わなくちゃですね」
華奢な男は、柔和な笑みを浮かべた。
「私もそうだった。私ができたのだから、君達にもきっとできる」
頷きを返した修の背中にかかる声があった。
「じゃあ次は俺とやるか!! 戦い方がわかったなら、後は実践して覚えるだけだ!」
シオが、修と叶の背後に腕を組んで立っていた。
その力強い瞳が、二人を交互に見る。
「んで、どっちが俺の相方をする?」
瞳の奥にゲーマーとしての高揚感を感じた修は、思わず苦笑を浮かべた。ほとんど会話を交わしていない仲ではあるが、その瞳には不思議と親近感を覚えた。
「修、お前がやれよ」
叶が席を立つ。振り向いた頃には、叶はフロアの奥に歩き始めていた。
有無を言わせないその行動に、修は呼び止めの言葉が咄嗟に出なかった。
歯切れ悪く返事を返すと同時、入れ替わりでシオが先程まで叶が座っていた筐体につく。
遠ざかる叶の背中は、どこか寂しそうに見えた。
自動販売機の取り出し口から炭酸飲料を取り出す。
嫌に喉が乾いていた。
ペットボトルから食道へ侵入した液体の冷たさが、喉を潤すと同時に体内の熱を奪っていった。
ペットボトルを繰り返しあおり中身を半分飲んだ。蓋を締めた後に乱暴に口元を腕で拭う。
振り返ると遠くにエクストリームバーサスの筐体とそれに向かう修の背中が見えた。自動販売機は、エクストリームバーサスのコーナーから真反対に存在していたために、その背中は小さかった。
先程までは触れられるほどに近かった背中が、今はこんなにも遠いのだとボンヤリと叶は思う。
修の背中越しに見えるモニターは、目まぐるしく変動する戦場を描画している。それに向き合う修は、今どんな感情を抱いているのか考えた。
――お前は本気なのか?
問いかけの答えは得られそうになかった。しかし、半ばわかりきった問でもあった。
幼馴染だからわかることだった。
隣を見ると、そこにはメンテナンスのために電源が落とされた筐体があった。暗いモニターには、叶の顔が反射していた。不鮮明なモニターに写る自分の表情は曖昧で、その真意を読み取ることはできなかった。
溜息一つ。
そうすることで、体から熱が逃げていくような感覚にとらわれる。それを止めることなく、叶は胸の高さでペットボトルを保持していた腕を下げた。
ペットボトルの冷たさが、叶の指先から熱をさらに奪っていく。
冷える体を自覚した叶は、再びエクストリームバーサスのコーナーへ、そこにいる修の元へと歩き出した。
たかがゲーム。
そう結論した暇潰しの材料に向き合う愚かしさを胸に抱きながら、しかしそれに真摯に向き合う幼馴染の背中を遠く感じる状況が、ひどく心苦しかった。