機動戦士ガンダムEXVS InSert Credit(旧:掌のレバーと指先のボタンで、広がる世界。)   作:kaneda_02

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●エクストリームバーサス
 全国のゲームセンターにて稼働中の大人気対戦ゲーム。
 機動戦士ガンダムシリーズに搭乗するモビルスーツを操作し繰り広げる2on2の対人戦が魅力。
 大型アップデートや新作発売を続けて、十年以上続いてるすんごいタイトル。
 ソーシャルゲームや家庭用ゲーム機が普及・充実する昨今、その煽りを受けるゲームセンター業界において、根強い人気を誇る人気タイトルです。
 執筆開始時(2023年4月)では、シリーズ6作目に当たるクロスブーストが稼働中。

●制作のノリ
 本作は、執筆開始時(2023年4月)にアーケードにて稼働中の「機動戦士ガンダムエクストリームバーサス2 クロスブースト」をモデルに一部機体に「これがついてたら面白くなるんじゃないの?」と作者の妄想を追加されたものとなります。広い懐で受け入れていただけると嬉しいです。



.3-2 手持ち無沙汰にイタズラに

 

 二層式の自動ドアを潜り店内へ入る。

 雑多な音の壁が叶を迎え入れた。

 左手の財布を潰さない程度に握る。緊張感があった。偶然とはいえ、気乗りのしない訪問が原因だった。

 叶は、店舗中央の吹き抜け部分に向かった。吹き抜けからは店内が一望でき、階下を確認することができたからだ。

 一階を見渡し、次いで地下一階を見る。

 二つ結びのロングヘアが、両替機の前にいた。

 少女は慌てた様子で学生鞄の中を探っていた。

 叶は、安堵の溜息をついた。もしかしてと追いかけたが、持ち主でなければどうしようと一抹の不安があったからだ。

 エスカレーターを使って階を降りる。そのまま少女の背中に声をかけた。

「財布落としましたよ」

 叶の声に少女が振り返った。目を奪われる程に可憐な少女だった。

「……ありがとうございます」

 安堵、次いで警戒が表情から伺えた。

 鋭さを増す視線に叶は我に返る。

 ナンパだと思われているような、そんな気がした。

「じゃ……これで」

 歯切れの悪い立ち去り方だった。

 背中に刺さる視線に、叶は理不尽に対する苛立ちと親近感からくる納得を感じていた。

 お前は顔が良いからと良く言われる。

 世間一般では叶の容姿はそう評されていた。高校に入学してから既に何度か告白を受けている。

 そういった自分を思えば、顔が良い女が男を警戒する気持ちもわかる気がした。

 男が異性に向ける好意と女が異性に向ける好意は、その本質が必ずしもイコールではないとわかっていた。

 しかし、どうする。

 その場から逃げるように少女から離れた叶の足は、自然とエクストリームバーサスのコーナーへ向かっていた。目の前にはデモプレイを流す筐体がある。ゲームセンターの地下一階に設置されているゲームは、エクストリームバーサス以外に知らなかった。

 筐体と自分の間に十分な距離を取る。喉が乾いた。ドリンクのストローを口元に運ぶ。

 修にメッセージを送る途中だったことを思い出す。スマホの画面を見れば、入力したメッセージの末尾で入力位置を示すバーが点滅していた。

 時刻を見る。修のバイトが終わるまで二時間を切っていた。

 帰ろうかと思う。しかし、背後には先程の少女がいる可能性があり、エクストリームバーサスのコーナーまで行った男がすぐさま引き返したら何と思われるだろうか考えた。

 少なくとも己なら不審に思う。ストレートにナンパをした方が、彼女にとってはわかりやすかったはずだ。

 段々と思考が言い訳めいてきていることに気が付いた。そんな自分への苛立ちが、先程の理不尽と合わさって胸の内で膨れ上がる。

 スマホから視線を上げると筐体が見えた。

 ゲーム筐体だ。

 百円は消費するが、時間が潰せて且つ鬱憤が晴らせるかもしれない。対面の撃墜が、少女から被った理不尽を忘れさせてくれるかもしれない。

 ゲームは、元来遊ぶための物だと思う。手元に何も残らないが、一時の暇や苛立ちを忘れることはできる。

 これが本来の付き合い方だと叶は感じた。であるならば、今一人で付き合う分には変なしがらみは存在しないと思った。

 引いた椅子に座る。

 修へメッセージを送った。

 適当に時間を潰しておく、と。

 ゲームセンターにいるとは送らなかった。積極的にゲームをやっていると思われたくなかった。

 これは、修に理不尽を愚痴るため。

 そう自分に言い聞かせながら、百円を筐体のスリットに落とした。

 そういえば、と叶は機体選択をしながら思い出す。

 先程の少女、去り際に見えた校章は、ここから程近いところにある中高一貫の女子校のものだったと。今日日女子校に通う女は、全員清楚でお淑やかで大和撫子だとクラスメイトの話を聞いたことがある。確かに、叶にもそんな偏見めいたイメージがある。

 通学路で見かける女子生徒は、皆スカートを折り畳むことなく正しく着用しているし、制服の乱れを見かけたことさえない。髪は肩につくのであれば必ず二つ結びにしなければならないらしく、先程の少女は校則に則った服装と髪型をしていた。

 叶は、そんな学校の生徒が何故ここにいるのか疑問に感じた。

 わからないが、一つ得心がいったことがある。先程、少女は店先で周囲の様子を伺っていた。ゲームセンターへ入る姿を知人に見られたくないからだと思えた。詳細な校則はわからないが、制服姿でゲームセンターに入ることを良しとする学校ではないのだろう。

 それを追ってきた男。

 学校に通報でもされるのかと思い、警戒されたのではないか。

 得られた答えに苦笑する。

 理不尽でも何でもなかったのだと思いながら、モニターを見た。

 ブリーフィング画面が、対戦へと移行する。

 

 

 

 淀みなくボタンを押下する。

 入力されたコマンドが機体に動きとして表現され、敵機を薙ぎ払った。

 横方向に弾き飛ばされた敵機を尻目にミニマップとアラートへ意識を向ける。けたたましく警戒色を光らせるアラートとこちらに矢尻を向けるミニマップ内の赤い三角に、叶は迷うことなくダイバーエースへ次なる行動を入力した。

 二本を束ねたGNビームサーベルを振り抜いた姿勢で宙に浮かぶダイバーエースが、横方向に虹色の影を纏いながらスライド。虹ステの残滓が尾を引く間に弾き飛ばした敵機へ向けて特殊射撃を押し、間断なくメイン射撃を押す。

 ダイバーエースの真横にジムⅢビームマスターが召喚され突撃を敢行する。作中に登場した味方機を武装として呼び出すアシスト攻撃だった。

 アシスト召喚時に生じた硬直をメイン射撃でキャンセルする。すると、ダイバーエースがメイン射撃を撃ちながら落下を始めた。足の止まる武装の硬直を足の止まらない武装の硬直で上書き――キャンセルすることで、即座の落下を可能とする落下テクニックだった。

 落下を始めたダイバーエースの頭上をビームが数本通過する。虹ステ時に誘導を切られたそれ等は、ダイバーエースの装甲に傷を付けることができなかった。

 ターゲットを切り替える。

 モニターが中央に捉えたもう一方の敵機は、空中からダイバーエースを見下ろしていた。モニターに映し出された機体から焦りを()()()。格闘コンボカットのためにブーストゲージを使い前進をした結果、カットに失敗。さらに、敵は先に着地を成功させてブーストゲージを回復させている。消費したブーストゲージと回復したブーストゲージ。攻守が逆転したことに対する焦りを感じた。

 叶は、己の直感に従った。叶と僚機に狙われ着地所を賢明に探し始めた敵に弾を送る。

 ――……遅い。

 判断が遅く、甘い。

 もしもを想定していないから攻守がひっくり返った時に対応ができない。判断は素早く、そしてイレギュラーを想定し保険を用意しておくべきだ。特にあと一撃でゲームオーバーとなってしまうような時は。

 ダイバーエースのサブ射撃がクリーンヒットする。スーパーGNソードⅡから放たれた高出力のビームが機体を貫いた瞬間、勝敗が決した。

 こちらの完勝だった。

 叶は、緊張を解きほぐすように息を吐いた。コントロールパネルの上のドリンクを取り、ストローから中身を吸い出す。筐体の熱がそうしたのか、氷はすっかり溶けてしまっていたが、液体はまだ冷たかった。

 プレイモードはソロを選択していた。いつもプレイするチームモードとは違い、行きずりのその場限りのプレイヤー三人とマッチングし、対戦を行うモードだった。

 コントロールパネルに容器を置きながらスコアを見る。与えたダメージを示すアタックボーナスは、一万を超えている。消極的な立ち回りをしていた味方を思えば、上等なスコアだった。

 上手くなった、というのが素直なところだった。

 ゲームセンターへ行く時は常に修と一緒だった。そして修がこちらを誘う時は、決まってゲームセンターに誰かがいた。自然、修の隣でプレイしているとアドバイスが飛んできた。

 そんなことを繰り返している内に、気が付けば辿々しかった操作は滑らかになり、プレイ中の視野が広がった。

 アカウント登録を完了させたカードをかざすことで選択可能になるランクマッチでは、正直物足りなさを感じる程だった。

 アカウント作成直後であったため、ランクは下から数えたほうが早い。初心者がいるようなランク帯で無難な勝ちを獲得できるということは、既に自分は初心者ではないところにきてしまったということだろうか。

 それを肯定するようなシーンに覚えがある。

 状況をアラートとミニマップを見て判断したシーン。

 操作や立ち回りに意識を向けていると、画面の端に表示されるアラートや右上のミニマップへの注意が薄くなる。緊張や焦りの中で敢えて画面の端や右上に意識を向けることは、それだけでスキルと呼べる程に難しいことなのだといつか誰かのアドバイスで聞いた。

 また、機体越しに相手の焦りを感じたシーン。

 叶はニュータイプではない。ガンダム作品で搭乗するニュータイプのように相手の心を感じる力はない。ならば、感じた焦りの発現元は、叶自身の心となる。()()()()()()()()()()()と状況を置き換え相手に感情移入したのだ。

 そんなことは経験のないプレイヤーにはできない。

 瞬間的に移ろう状況の中で選択しつつ、その材料として相手がどうしたいのかを考えられたのは、積んできた経験の成果とそれによってもたらされた余裕があったからだ。

 四ヶ月前を思い出す。

 ゲームを始めて間もない頃、機体を動かすのに四苦八苦していた自分が、今では信じられない程スムーズに機体を動かしている。

『傾向、分析、対策』

 記憶の中の声が耳朶を打つ。知らず知らずできるようになったことが、必ずしも望まれたものではないのだと叶は知った。

 叶は、そこまで考えて頭を振った。そうすることで沈み始めた思考を断ち切る。

 筐体が、マッチング画面用のBGMを吐き出していた。

 これから始まる三分半に不要な思考だと判断した。

 レバーを握る手に無意識に力が籠もる。試合開始の合図と共にレバーとボタンを弾いた。

 

 

 

 負けてしまった。

 僅差の敗北だった。

 突破力はあるが、瞬発力がない。ダイバーエースの弱点が現れた試合だった。

 対面は、体力を余らせたダイバーエースではなく体力の少ない味方を狙った。

 ダイバーエースは、追従性能に優れた格闘を射撃CSの派生でしか出せない。差し込みに使える武装は、離脱用としての側面も持っており、どちらかを選択すればもう一方が選べなくなる。

 無視できないそれ等の弱点が、味方へ向かう凶弾を止められなかった。

 モニターがゲームオーバー画面に切り替わる。

 終わりを告げる画面に対し、残念だと思う。悔しいとも思った。

 しかし、それは百円が失われたことに対してであり、負けたことに対してではなかった。

 残念だと思わない百円の失い方がある。それは十連勝をすることだ。

 勝てばゲームは続くが、上限がある。その上限が十連勝であるならば、十連勝を終える、または九連勝を達成して十回目の戦闘を迎える。そのどちらかが百円の価値を最大まで高める方法だと叶は思っていた。

 負けて悔しいのではなく、最大まで価値を高められなくて悔しい。

 対戦ゲームで百円の価値に重きを置くのは間違っているのだろうか。

 叶は溜息をついた。詮無い考えに思えたからだ。

 スマホの画面を確認する。

 時刻は、ようやく十六時を過ぎたばかりだった。

 あと一時間の過ごし方を考える。財布にはまだ百円が残っている。昼のファストフード店で崩した千円札が、お釣りとして財布の中に僅かに残っていた。

 ドリンクの容器を持ち上げた。中身は空だった。

 とりあえず飲み物を買うために席を立った。コントロールパネルの上に置いていたスマホと財布をポケットに入れ、書店の袋と容器を手に取る。

 後ろを振り返り歩き出そうとすると、それを遮るように正面に誰かが立っていた。

 正面を見る。

 整った顔立ちには見覚えがあった。

「お前……」

 先程の少女が、腕を組み目の前に立っていた。

 学校指定のブラウスの上に来ていた同じく学校指定のニットベストを脱ぎ、代わりに薄手のパーカーを羽織っていた。二つに結んだ髪の毛はそのままだった。

 校章を隠した彼女は、人目も憚らず堂々とした様子で立っていた。スレンダーな体のラインに相応しい胸の膨らみが、少女の腕の中に僅かに感じられた。

「アンタ、このゲームやりに来たのね」

 後ろの筐体を顎で示し、少女は断定した。

「え? あ、あぁ」

 勢いに押される形で思わず頷く。しかし嘘はついていないと思い、再度頷いた。

 時間を潰しているのは確かだ。

「アタシ、アンタが制服を見た上で声をかけてきたんだと思ったの。お財布を届けてくれたのは嬉しかったけど、同い年くらいの男がアタシの学校のこと知らないわけないだろうし。だとしたら厄介だったんだけど……ガンダムが目的だったんだ」

 予想が当たったことを理解したと同時、叶はその呼び方に引っかかりを覚える。

 ゲームでもなく、エクストリームバーサスでもなく、ガンダム。

 ノリを含めた知り合い達は、エクストリームバーサスを正式名称であまり呼ばない。基本はガンダムと読んでいた。

 ローカルの呼び方かもしれないと思っていたが、もしかするとコミュニティレベルの呼び方なのかもしれない。そう思いながら、問いかけた。

「お前もなのか?」

 叶の問に少女がキッと顔を向ける。

 据えた瞳のまま一歩距離を詰めてくる。

 今更ではあるが、今の少女から、制服と二つ結びの後ろ姿から抱いた清楚でお淑やかで大和撫子な雰囲気は微塵も感じられなかった。

 触れられる距離まで近付いてきた少女が叶を見上げる。背は優花より少し高いくらいで、叶の肩に目線があった。

「イチゴ」

「え?」

 意味が分からずに訊き返す。追いつけない叶を余所に、少女は筐体に座った。先程まで叶がプレイをしていた隣の筐体だった。

「アタシの名前。これから一緒に戦う相方の名前がわからないなんて、意思疎通以前の問題でしょ?」

 イチゴと名乗った少女は、イタズラな笑みを浮かべた。柔らかそうな唇が弧を作る。その手にはカードが握られていた。

「一緒に戦うって……勝手に話を進めるな」

 叶は、頭痛を抑えるように手を頭に添えた。少女の強引な立ち振る舞いに、若干の理不尽を感じていた。

「良いじゃない。アタシ、ずっとソロばっかりだったからさ、チームで戦ってみたかったんだー」

 ダメ? と小首を傾げるイチゴ。上目遣いと小首を傾げる仕草が妙に板についていた。持ち前の容姿の最適な活かし方に思えた。

「出会ったばかりで実力のわからない相手と組めるか」

「大丈夫だって。後ろから見てたけど、多分アンタならアタシの相方が務まるって」

 無責任な物言いに呆れていると、筐体からコインのインサートを認識した音が響いた。ハッと顔を向けると、イチゴが百円を投下していた。

「お前! まだやるとは言ってないだろ!?」

「まだ、なんだね?」

 何気ない一言に揚げ足を取られた。言葉を詰まらせていると、イチゴがクスリと笑う。

「ほら、座って。何を使うの?」

 隣の座席を叩くイチゴの無邪気な笑みに、叶は毒気が抜かれた気がした。聞こえるように敢えて溜息をついて筐体に向かう。

「一戦だけだぞ。……俺はダイバーエースで行く」

 財布から百円とカードを取り出す。千円札の残りは、その百円が最後だった。

「メイン機体なんだ。二千五百で前も後も張れる機体なら大丈夫かな」

 叶の返答にイチゴが独白する。自身が使う機体の相性と二機のコスト相性を考えているようだった。

「ところでアンタの名前は?」

 イチゴに名前を尋ねられ、叶はまだ自分が名乗っていなかったのだと気が付いた。

 以前、ノリから同じ質問を受けた修が、生田修ですと本名を明かし、それが今でも笑いの種になっていることを思い出した。

 この場合、訊かれているのは本名ではなく、プレイヤーネームだ。

 だからカードを筐体にかざして答える。

「カナタ。お前は何を使うんだ?」

 聞いた名前とモニターに表示されたプレイヤーネームを照合したイチゴが、同じ様にカードリーダーにカードを読み込ませる。

「アタシはフェネクスで行くわ」

 プレイヤーネーム『イチゴ』。

 モニターの中央には、ユーザーが登録したメイン機体が表示されている。金色に輝く神々しい機体、フェネクスが表示されていた。

 イチゴが、髪を結んでいたゴムを外す。

 頭を振ってロングヘアを下ろす。

 人差し指に引っ掛けたヘアゴムを数回回し、最後に握った。

 器用な奴だと叶は思った。

 コントロールパネルの上に置かれた容器が汗をかき始めていた。

 

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