機動戦士ガンダムEXVS InSert Credit(旧:掌のレバーと指先のボタンで、広がる世界。)   作:kaneda_02

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●エクストリームバーサス
 全国のゲームセンターにて稼働中の大人気対戦ゲーム。
 機動戦士ガンダムシリーズに搭乗するモビルスーツを操作し繰り広げる2on2の対人戦が魅力。
 大型アップデートや新作発売を続けて、十年以上続いてるすんごいタイトル。
 ソーシャルゲームや家庭用ゲーム機が普及・充実する昨今、その煽りを受けるゲームセンター業界において、根強い人気を誇る人気タイトルです。
 執筆開始時(2023年4月)では、シリーズ6作目に当たるクロスブーストが稼働中。

●制作のノリ
 本作は、執筆開始時(2023年4月)にアーケードにて稼働中の「機動戦士ガンダムエクストリームバーサス2 クロスブースト」をモデルに一部機体に「これがついてたら面白くなるんじゃないの?」と作者の妄想を追加されたものとなります。広い懐で受け入れていただけると嬉しいです。



.3-3 自己中心

 

 筐体が吐き出す音と客の話し声に混じって、隣から鼻歌が聞こえる。

 軽やかにモード選択を終えたイチゴが、気乗りしない叶の鈍い指先の動きを見て口を開いた。

「はーやーく! チームモードの選び方わからないの?」

 遠慮を知らない口調に、叶は頭痛を抑えるようにこめかみに指をあてがった。強引な即席の相方に見えるように大袈裟にそうした。

「知ってる。お前こそ、やったことないくせによく知ってたな」

 無思慮に皮肉を込めて言ってやった。短いやり取りの中で、この女に取り繕うだけ無駄だと叶は思い始めていた。

 慣れた手付きでチームモードを選択する。味方選択画面に表示された『イチゴ』のネームプレートにカーソルを合わせる。

 先に味方選択画面に到達していたイチゴが、同じ様に表示されたカナタのネームプレートを選択した。嫌味ばかりの相方に一切の不満がないらしい。ここまで清々しいと、嫌味や皮肉を込めて対応をするこちらが大人気なく思えてきた。

「それ!」

 長いまつ毛とその真下の無邪気な瞳に己の態度を省み始めた叶を置いて、イチゴが叶の筐体のボタンを押した。カーソルが合わされていたイチゴのネームプレートが選択される。

「……まったく」

 呆れか、はたまた諦めか。逆立つ神経が収まる。百円玉はこれが最後であることを思い出した。崩せば百円玉はできるが、そこまで付き合う義理はない。今回限りだと自分を納得させ、叶は筐体へ向き直った。

 ダイバーエースを選択する。バーストはいつも通りC。

 ステージ選択を終えて隣を確認すると、宣告通りイチゴはユニコーンガンダム三号機フェネクスを選んでいた。バーストはM。ダイバーエースと同じ二千五百コストの機体だった。

 叶は、バースト選択を意外だと感じた。後衛を務めてばかりだったから、同じ二千五百コストがC以外のバーストを選ぶことが信じられなかった。

 マッチング中、進行を始めるトライアドモードのブリーフィング画面に選択された二機のガンダムを見る。いつもなら、ダイバーエースの僚機はストライクフリーダムだった。

 三千コストの後衛を務めていると、再出撃時は常にコストオーバーのリスクが付きまとう。コストオーバーを起こした機体は、体力マックスで復帰ができない。三千コストと二千五百コストの組み合わせの場合、後落ち側の機体は比較的ダメージの小さい射撃コンボをくらっただけで撃墜されてしまう体力で復帰する。そのため、バーストゲージが半分溜まっているだけでバースト抜けが可能なCバーストは、コストオーバーのリスクを低減させる貴重な方法として重宝されていた。

 そのセオリーの中で、叶はゲームをプレイしていた。

 セオリーは飽くまでセオリーであり、実際はプレイスタイルや機体によりけりなのかもしれない。叶はそう結論づけた。

 筐体からマッチング完了音が鳴り響いた。

 ブリーフィング画面用のBGMが鳴り始めると同時、黒い背景の中央にRANK MATCHの赤い文字が表示される。文字から生じるように赤いスリットが画面全体へ広がった。

 スリットが幅を深め限界に達すると、中央から幕が取り払われるように新たな画面が表示される。選択されたステージを背景に、マッチングした四人のランクが表示される。全員同じランク帯だった。

 ややあってランクを示すプレートが画面端へ消えると、入れ替わりに両サイドからお互いの機体が躍り出た。

 こちらはダイバーエースとフェネクス。対面はガンダムバルバトスルプスとファントムガンダム。全機体のコストは、二千五百だった。

 ステージと機体確認、そしてバースト選択のために設けられた時間を、叶は手の収まりを確かめる時間に当てた。

 レバーとボタンの感触を感じる。意識せずともどの指がどのボタンに触れているか、どの組み合わせがどのコマンドを出力するかわかる。

 手に取るようにわかってしまった。

「緊張してる……」

 背筋を登り始めた冷たさを遮ったのは、か細い声だった。声の主へ視線を向ける。

「アタシ、緊張してる」

 それは、イチゴの口元から溢れる声だった。

「でもワクワクしてる」

 震える声のままに、イチゴが叶を振り仰ぐ。目線が絡む。形の良い唇が、好戦的に歪む。

「頼むわよ、カナタ」

 その一言に記憶がフラッシュバックした。

 緊張と挑戦が同居した表情は、これから飛び込む三分半に不安と期待を感じている証拠だった。

 いつも隣から見ているあの表情だった。

 ――お前も本気、なんだな……?

 行きずりの即席相方。無理やりのチーム。

 理不尽を働いてまで体験したかったワンプレイ。

 叶は、自分にだけ聞こえる溜息をついた。

 誰かの本気に頼られてばかりな自分と、誰かの本気を断れない自分への呪詛だった。

「……付き合うぜ」

 今回限りだ、と自分に言い聞かせる。

 こんな思いは、幼馴染の面倒で十分だった。

 

 

 

 ダイバーエースは、近接寄り万能機である。

 中距離でも機能する武装と差し込みに向いた近接択を持つダイバーエースは、近接寄り万能機に分類される。ある程度の射撃戦を卒なくこなすことが可能でありながら、近距離で輝く武装を持っているからだ。

 一方のフェネクスは、世に砲撃機と定義されている。

 砲撃機は、ダイバーエースのような万能機とは異なる毛色を持っていた。

 まずメイン射撃。

 一般的に、メイン射撃はダイバーエースの持つビームライフルが多い。特徴として、リロードが軽く足を止めない。

 対する砲撃機のメインは、リロードが重く足を止める。

 リロードが軽ければ軽い程、一試合に撒ける弾の量が増え、その分ダメージの期待値が上がる。足を止めなければ、その分攻撃の際のリスクが少なくなる。相手との射撃の応酬が中距離戦の花形であるからだ。

 そう考えると、砲撃機のメイン射撃の重いリロードや足を止める性質はデメリットのように思える。が、実際はそれを補って余りある性能が、砲撃機のメイン射撃には備わっていた。

 ユニコーン形態のフェネクスの懐に飛び込んだルプスが吹き飛ばされた。

 フェネクスの右手から放たれた光の帯が、物理的な力となってルプスを迎撃していた。リロードが重く足を止める分、銃口や誘導が強力に調整されたメイン射撃、サイコフレームの光が、安易な飛び込みを咎めていた。

 対面のファントムの射撃を抑えながら、叶は吹き飛ばしたルプスから距離を取るフェネクスを見た。安全圏まで距離を取り、一方的に強力な射撃を送り始めるフェネクスを思えば、ルプスの飛び込みたくなる気持ちが理解できた。

 砲撃機は、強力なメインを筆頭に他の機体より長めに調整された赤ロックをもって後方から前線へ弾を流し続ける機体だ。

 ダラダラと中距離戦を展開してしまえば、砲撃機の思う壺である。強力な射撃を流し続けられ、試合を支配されてしまうこととなる。

 それを嫌った動きが、ルプスの挙動に現れていた。

 ――こいつ……。

 ファントムが召喚したアシストのデスフィズの突撃を、ステップと続くアシストメインキャンセルで躱しながら、叶は評価する。

 ――しっかりゲームやってる動きだ。

 画面の端にチラチラ映り込むフェネクスの動きには、淀みがない。劇中のような高速戦闘をしかけるルプスに対して、淡々と処理を行っている。

 上下左右に大きく動きながら、合間合間に射撃を行うことで攻めの起点とするルプスは、叶の苦手な機体だった。ルプスだけではない。ルプスを代表とする荒らし機体全般が苦手だった。

 荒らし機体。

 対面のセオリーを崩すことをセオリーとした機体だ。

 体力調整や落ち順は、組み合わせの時点である程度決まっている。ある種定形とも呼べる流れをセオリーとし、プレイヤー達は試合をデザインする。

 しかし、荒らし機体は、その定形を崩すことを是としている。流れを挫けば、それが自分達の有利へと繋がるからだ。そしてそれを為せるだけの機体性能を備えているからだ。

 どの組み合わせでも定形を崩すことを狙っていないわけではない。ただ、荒らし機体は、定形を崩す力が強いというだけだ。

 ルプスが目まぐるしくステージを駆け回る。

 特殊格闘に格納された特殊移動は、レバーを入れた方向へ膨らむ挙動を取りながら相手へ突進を行った。後格闘に格納された格闘、素早く上に飛び上がり落下を行うその跳ねるような特徴的挙動からピョン格と呼ばれる格闘を使い、強引に回避と接近を両立させる。

 要所要所で引き出されるメイン射撃の腕部二百ミリ砲を始めとした射撃と特徴的な軌道をもって、荒らし機体であるルプスは息着く間を与えまいと読み合いを仕掛け続けていた。

 それをイチゴが駆るフェネクスは、淡々と捌いていた。先程の横暴さは、その軌道から一切感じられない。同じ人物だとは思えなかった。

 迎撃の弾は最小限に。逃げるスペースを確保するため、ステージの四隅を避けるように円を描く軌道。後ろに下がったかと思えば、ダイバーエースの背後に付きその庇護を要求する立ち回り。

 間違いない。

 ――しっかりゲームやってるな!!

 自身が扱う機体の長所と弱点を理解した動き。一朝一夕で身に付くことのない動きが、フェネクスから読み取れた。

 

 

 

 対面は、ジリジリと削られる状況を良しとしなかった。

 ルプスが、ダイバーエースへターゲットを切り替える。それと同時にファントムが一歩を前に出た。

 それは、徹底的なダブルロックの開始のサインだった。

 二機の射撃がダイバーエースを襲う。

 ――こいつら!

 迫る脅威に対し、叶は堪らず特殊格闘を入力した。背部のダイバーエースユニットが展開し、機動力を飛躍的に上昇させる。

 ダイバーエースを後退させる。後退先は、フェネクスがいる方向だった。

「ちょっと! こっちこないでよ!」

 冗談じゃない。

 大人げないと省みた先の自分を否定する。

 叶は、イチゴの発言に強く応えた。

「ソロやってばっかりの奴に連携は難しかったか!?」

 皮肉を込めた。容赦をする必要を感じなかった。

 自分は庇護を求めたくせに、味方は駄目なのか。

 冗談ではなかった。

 叶の皮肉に苛立ちを隠そうともしない声音でイチゴが返す。

「アンタだって偉そうにしてばっかで、フェネクスのことなーーーーんにもわかってないんだ!?」

「何だと!?」

 知っているとも。

 説明されるまでもなく知っている。夏休みの暇を潰すために何となく見た攻略wikiの中に、フェネクスのページが含まれていた。

 つい最近のことであったから、内容は覚えている。

「良い!? フェネクスはお尻上がりなの!」

 そう、そうだ。

 フェネクスも対面のファントム同様テンポを持っている。

 後退するダイバーエースと入れ替わるようにフェネクスが前進をした。ダイバーエースを守るためではなく、別の目的のために。

「調子を上げた方が強いに決まってるんだから、調子が悪い時はステージ端で静かに過ごしていたいの!」

 対面のファントムが、その身に紫の炎を纏った。

 ファントムライト。

 全身から噴出した光の翼と、それを制御するためのIフィールドの嵐を全身に纏った姿だ。

 機動力の上昇とコマンドの追加、一部格闘の刷新、全身を覆う炎で射撃を打ち消すことで射撃に対して強力な耐性を得た時限強化だった。

「調子が上がるまでは体力を余らせる! これ時限強化機体の基本!」

 対面の猛攻に反抗するかの如く、フェネクスが飛翔する。

 それは、フェネクス側の準備完了を示していた。

「行くわよ!」

 イチゴの声に呼応して、フェネクスの装甲にヒビが走る。

 全身の装甲が()()()()()

 金色の装甲の間から、青色に発行するサイコフレームが覗く。装甲が展開されることにより、機体の全高が高くなった。

 顔面装甲が上にスライド。装甲の下からガンダムフェイスが露出される。対の目に光が灯ると同時、額の特徴的な角が左右に割れた。

 NT-D。

 ニュータイプデストロイヤーを起動させたフェネクスが、その全容をガンダムへ変身させた。

「ここからが本番よ!」

 イチゴの言を証明するため、フェネクスが対面へと向かい合った。その力強い背中が壁となり、対面二機への抑止力となっていた。

「……だったらそう言え!」

 悔し紛れに応える。

 時限強化機とチームを組むのは始めてだった。

 いつもとは異なるセオリー。

 新しいセオリーに戸惑いを感じる。しかし、今は試合中だ。加えて、先程セオリーは状況によりけりなのだと自ら結論付けた。それを理由に無理やり自分を順応させる。

 前を行くフェネクスに続いて、叶もダイバーエースを前進させた。

 悔し紛れの言葉。

 集中しているからこそ発言したその意味を置き去りに、叶は戦場を突き進む。

 

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