機動戦士ガンダムEXVS InSert Credit(旧:掌のレバーと指先のボタンで、広がる世界。) 作:kaneda_02
全国のゲームセンターにて稼働中の大人気対戦ゲーム。
機動戦士ガンダムシリーズに搭乗するモビルスーツを操作し繰り広げる2on2の対人戦が魅力。
大型アップデートや新作発売を続けて、十年以上続いてるすんごいタイトル。
ソーシャルゲームや家庭用ゲーム機が普及・充実する昨今、その煽りを受けるゲームセンター業界において、根強い人気を誇る人気タイトルです。
執筆開始時(2023年4月)では、シリーズ6作目に当たるクロスブーストが稼働中。
●制作のノリ
本作は、執筆開始時(2023年4月)にアーケードにて稼働中の「機動戦士ガンダムエクストリームバーサス2 クロスブースト」をモデルに一部機体に「これがついてたら面白くなるんじゃないの?」と作者の妄想を追加されたものとなります。広い懐で受け入れていただけると嬉しいです。
「じゃあその幼馴染と一緒にゲームをやってるんだ?」
エレベーターを正面にエントランス直結のカウンター内で修は管理用PCから目を上げた。隣には栗色に染めたショートカットを耳にかけた女性がいた。切れ長の目が、修を見詰めていた。
「はい。息が合うっていうんですかね。味方ありきのゲームなんですけど、勝敗は別として、他の誰とやるよりそいつとやってる時の方が楽しいんですよ」
「一緒にゲームに夢中になれる幼馴染がいるのかぁ。良いなぁ」
「バイトが終わったら会う予定なんです。たまたまここら辺にいるみたいで。今何やってるんだろ」
「お前!! 俺のコンボの邪魔しやがって!」
「アンタのコンボがとろくさいんでしょうが!」
「関係あるかそれ!? カットの弾きてなかったろ!」
「きたかもしれないじゃない!?」
「ミニマップを見ろ! 距離離れすぎてて撃たれても有効打に成りえねぇよ!」
「うっさいなぁ」
「お前!」
栗色の髪の女性が、組んだ足を入れ替える。
タイトなジーンズが浮かび上がらせる脚の曲線に邪な感情を抱いてしまい、修は目線を上げた。
平日の夕方、社会人の退勤時間を控えた穏やかな時間、彼女は手に漫画を閉じた状態で持っていた。返却棚に返された漫画を読んでいたのだが、話をしている内に閉じてしまった。こちらとの会話を楽しんでいる証だと修は思うことにした。
支給された制服の胸ポケットにクリップで留められた名札には、瀬良薫と書かれていた。
「私もゲームは好きなんだけど、最近はソシャゲを片手間にプレイするくらいかな。対戦ゲームみたいなガッツリ勝ってやろう! みたいなゲームはプレイしたことはないかも。弟は対戦ゲーム好きみたいなんだけど、具体的に何やってるのかはわからないし……。だから生田君と幼馴染君みたいに熱中したり、一緒に頑張れる関係がすごく羨ましいな」
帰ったら弟に何のゲームしてるのか聞いてみようかな、と屈託のない笑顔を浮かべる薫に、修はチクリとした胸の痛みを覚えた。中間試験を終えた直後、エクストリームバーサスの筐体から遠ざかる叶の背中を思い出した。
「……でも、そいつ冷めちゃってるんですよね」
首を傾げる薫に修は胸の内を吐露した。
ゲームセンターの近くにあるネットカフェでバイトを始めて二ヶ月強。手取り足取り業務内容を教えてくれた年上の女性に、修は心を開いていた。
年下でありながら修を対等に扱う優しさが、修の恋心に火をつけていた。そんな人に自分の素直な気持ちを理解して欲しいという幼い欲求があった。
「小学校低学年の時くらいからですかね。手を抜くようになっちゃったんです。スポーツも勉強も、そしてゲームも。原因はわかりません。気が付いたらそうなっていたんです」
管理用PCのキーボードから手を下ろした。膝の上で指を組む。膝に体重を預けるように腰を屈める。絡み合った左右の指は、解き方がわかれば簡単に解けてしまうパズルのように見えた。
「本当はすごいやつなんです。昔から何をやっても敵わなかった。今もそうなんです。本気じゃないのになんでも卒なくこなしちゃうから、僕もついていくのに必死です」
一学期の期末考査を思い出した。優花の部屋で行われた勉強の労をねぎらう会。テスト期間中、夜中まで勉強机にかじりついていた修と優花が、学年上位の成績をキープできたことを喜ぶ一方で、叶は自分の成績を誇ろうともしなかった。
涼しい表情の叶に成績を確認すると、彼はいつも通りと答えた。中学から学年トップの座を不動のものとし続けた叶は、事もなげにそう告げた。まるでそれが重要なことでも何でもないかのように。
「今やってるゲームは、ガンダムが出てくるんです。あのでっかい機械のやつです。見るからに男の子が好きそうなやつ。僕はガンダムが好きだったので、いつになくのめり込んじゃったんです。でも、楽しんでるのと同じくらいあいつが本気になったらどうしようって怖くもあるんです」
エクストリームバーサスの戦績は、二人共ほとんど横並びだった。チームとして一緒にプレイすることが多いため、当然だった。
しかし、限られたお小遣いでプレイしている叶とは異なり、バイトを始めた修は一人でプレイする機会が増えた。総プレイ回数に差が開き始めたが、勝率は落ちても上がってもいなかった。
だが、最近になってようやくソロで勝ちを重ねられるようになった。それに伴って、勝率が若干だが上昇した。
だが、達成感はあまりなかった。
もっと上にいかなければ。
もし、もしも幼馴染が本気を出したならば。その本気がエクストリームバーサスに向けられたのならば。すぐにでも勝率を上げるような、そんな予感があった。
「だから必死にやってます。あいつが本気になった時に置いていかれないように」
両手を見る。目を閉じればレバーとボタンの感触が蘇る。瞼の裏に、ステージを駆け回るストライクフリーダムの姿が浮かび上がった。
自由に宙を飛び回るストライクフリーダム。イメージの中でボタンを押せば、偶像のストライクフリーダムが入力を受け付けて攻撃を出力する。
しかし、イメージの中のステージには、ストライクフリーダムだけがいた。そこにダイバーエースはいなかった。
「生田君」
イメージを取り払ったのは、膝の上の手を包んだ温もりだった。
目を開けて声の主を見ると、薫の顔が至近にあった。腰を屈める修の顔を覗き込んだからか、耳にかけていた薫の髪が、彼女の顔前に流れた。
心臓が早鐘を打つ。流れた髪を目で追った。生唾を飲み込んだ。
「いつか、その幼馴染君と一緒にゲームを楽しめたら良いね」
耳朶を打つ薫の言葉に修はハッとした。
楽しむ。
叶が心からゲームに本気になった時、修自身は叶と何をしたいのか。
「……そうですね。瀬良さんの言うとおりだと思います」
薫の言葉に笑みを返す。
初めてエクストリームバーサスを一緒にプレイした日のことを思い出した。勝ち負けに拘らず、一緒にゲームを楽しんだ日のことを。
難しく考えすぎていたように思えた。
一緒に楽しむことが一番なんじゃないのか。勝ち負けはその後に考えれば良いんじゃないのか。
そう思えた。
「ちなみに何てゲームなの?」
椅子に座り直しながら、薫に問いかけられる。離れた手の感触に酔いながら、修は答える。
「ゲームのタイトルは、エクストリームバーサスです」
そうなんだ、と薫はスマホを操作し始めた。
何かを調べているようだった。
ファントムライト中のファントムの猛攻を受けて体力がゼロになる。
機体が爆散した。
再出撃までの間、遠方から飛んでくるフェネクスの弾をファントムとルプスは悠々と避ける。対面二機から距離を取ったフェネクスが送る弾は、その距離故に着弾まで時間を要する。ダイバーエースを撃墜したことで敵の数が減った状態であれば、対面は全神経をフェネクスに向けることができる。最大の警戒を向けられてしまえば、いかに砲撃機の射撃が強力であろうと回避は容易なのだろう。
ダイバーエースが、ステージ上空から落下する形で再出撃する。エクストリームバーサス唯一と言っても過言ではないランダム要素として、再出撃位置があった。プレイヤーがどのような入力をしても揺るがすことができない要素だった。
落下地点は、ステージの端。フェネクスがいる位置と対角になる場所だった。
ダイバーエースがステージに足の裏をつけるや否や、対面二機がこちらにターゲットを向ける。アラートの忙しない明滅が、敵の猛追を告げていた。
叶は、再び始まった敵の総攻撃に迷うことなくTRANS-AMを使った。向上した機動力を用いて迎撃を行う。
――……クソ!
画面の奥、迫るファントムとルプスの奥にフェネクスが見えた。
――全くと言っていいくらい前に出てこない!
ダイバーエースに敵機が追い縋る。迎撃の弾を安々と掻い潜ってくる。
「援護!! 弾くらい送れんだろ!?」
ステージを駆け巡る。フェネクスのいる位置へ。しかし、肝心のフェネクスは、近付いてくる僚機と敵から距離を取ろうとしていた。
「嫌だって! アンタが耐えればアタシのNT-Dでダメージ取れるんだから、敢えて不利になることしなくてもいいじゃない」
確かに、フェネクスがNT-Dに突入する度、相手の二機からダメージを取ることができていた。
対面二機はどちらも撃墜間近。対するこちらは再出撃して体力をマックスにしたダイバーエースと七割程度体力を余らせたフェネクス。次のNT-Dで対面のどちらかを撃墜できれば、大きく戦況が有利になるように思えても不思議でない。
しかし、叶は敗色を強く感じずにはいられなかった。
「もう不利になってんだよ!」
「はぁ!? どこが不利なのよ!?」
なるほど、確かにチームを組んだことがないわけだ。
叶は、イチゴの発言と立ち回りに歯痒さを感じた。
エクストリームバーサスには、チームとソロの二つの出撃形式がある。
叶は、普段修とチーム出撃を行っている。そしてイチゴはソロ出撃を行っている。
チーム出撃の場合、僚機を務めるプレイヤーは隣にいるため意思疎通は簡単だ。対面もチーム出撃を選択しているため、当然のように統率の取られたゲームを展開してくる。そのことから、チーム出撃はソロに比べ、より連携が重視される傾向にある。
一方、ソロ出撃の場合、僚機を務めるプレイヤーは、同じタイミングでクレジットを投入した日本のどこかのプレイヤーだ。名前も顔もプレイスタイルもわからないため、連携を取るのは難しい。
違う環境でプレイをしてきたため、こちらとイチゴでは連携に対する意識に差があるのだと叶は理解した。
「いいかよく聞けよ!」
着地して回復したブーストゲージを早速ブーストダッシュで消費する。しかし、横からの射撃にダイバーエースが貫かれた。着地後の初動は、ファントムが持つ扇形の多目的攻撃兵装クジャクから放射状に照射されたビームに撃ち抜かれていた。
減っていく体力を見る。照射ビームに撃ち抜かれ大幅に体力を減少させるダイバーエース。悪化の一途を辿る現状から抜けるため、叶はイチゴへ言った。
「このままだと俺達は負ける!」
「なんで? 次のNT-Dで対面の二機体を落としちゃって、コストオーバーした方をまたその次のNT-Dで詰めれば勝ちでしょ!?」
「それは机上の空論だろ! 目ん玉ひん剥いてよく試合を見ろ!」
照射を受けきり強制ダウンへ移行したダイバーエースを対面の二機体が取り囲む。先程から、対面は、一切フェネクスへ弾を送っていない。NT-Dが開放された間だけ前に出てきたフェネクスへ迎撃の弾を送りながら後退し、NT-Dが終了すればダイバーエースへ猛攻を行うことに終始徹していた。
モニター越しに対面のプレイヤー達の息遣いを感じる。二人が共に踏んできた場数の多さが伺えた。
――このままじゃ負けちまうんだよ、俺達は! そのことに気がつけよ馬鹿!
「フェネクスがNT-Dで与えるダメージと生時の間に俺が受けるダメージが釣り合ってないんだ! お前が百与えても俺が三百くらう状態が続いているから、このままじゃ先にこっちの体力が尽きるんだよ!」
「それは……!」
イチゴが、言葉を詰ませた。
目の前の状況を見て、言葉を詰まらせた、
「でも……それは……アンタが耐えればいいことでしょ!? アタシはいつもこの方法で勝ってきたんだから、それはアンタの問題でしょ!?」
「それはソロの話だろ!」
起き上がったダイバーエースの頭上をルプスが抑える。後格闘の跳ねる軌道で瞬く間にダイバーエースの頭上をとったルプスは、虹ステでモーションを中断し腕部二百ミリ砲とそこからキャンセルで引き出される様々な攻撃をダイバーエースへ立て続けに送り込む。
紙一重で避けていくが、ルプスの攻撃へリソースを回したダイバーエースへ側面からファントムが接近した。ファントムライトは終了しているが、リソースに乏しい状態のダイバーエースは抗う術を持ち合わせていなかった。
ダイバーエースを凶刃が引き裂く。格闘コンボを受け、体力がさらに減少する。
この間、相手二機は、こまめにステップを使用し誘導を切ることでフェネクスの弾を無効化していた。
「ソロだと相手もこっちもまともに連携が取れない! その分弾も注意も散漫になる! 散漫になってしまえば、被弾のリスクは減る! だから体力を余らせることができて、その上NT-Dでリターンが得やすい!」
立て続けの被弾で体力を半分まで減らしたダイバーエースが、強制ダウン状態で地面に横たわる。その傍らにファントムとルプスが着地する。ダイバーエースの復帰を首を長くして待っている。
「いいか? お前はソロで経験を積んできたようだが、今はチームなんだよ! お前が前線を上げないことで生じる隙を相手は見逃さないし、だからその負担が全部俺にのしかかってんだ!」
一時的な無敵状態を活かして叶は、モニターから隣のイチゴへ顔を向けた。叶の動きに反射的にイチゴが顔を向けた。
「今はチームなんだよ、俺達は!」
肩で息をしながらイチゴを見詰めた。数瞬の間、叶はイチゴと向き合った。足蹴に扱ってきた相方だったが、今だけは真摯に向き合わなければならない。
そうでなければ勝てない。
「勝ちたくないのか?」
叶は、モニターに体を向けた。ダウンからの自動復帰が迫っていた。
「…………わかったわよ」
地面から跳ね起きたダイバーエースを、ファントムとルプスが追撃する。賢明に弾を回避する叶は、イチゴの絞り出すような声を聞いた。
「わかったわよ!!」
フェネクスが前に出る。
培ったセオリーの上に異なるセオリーを築き上げるために、フェネクスが空を駆けた。
その全容が、ガンダムへ変身する。