機動戦士ガンダムEXVS InSert Credit(旧:掌のレバーと指先のボタンで、広がる世界。) 作:kaneda_02
全国のゲームセンターにて稼働中の大人気対戦ゲーム。
機動戦士ガンダムシリーズに搭乗するモビルスーツを操作し繰り広げる2on2の対人戦が魅力。
大型アップデートや新作発売を続けて、十年以上続いてるすんごいタイトル。
ソーシャルゲームや家庭用ゲーム機が普及・充実する昨今、その煽りを受けるゲームセンター業界において、根強い人気を誇る人気タイトルです。
執筆開始時(2023年4月)では、シリーズ6作目に当たるクロスブーストが稼働中。
●制作のノリ
本作は、執筆開始時(2023年4月)にアーケードにて稼働中の「機動戦士ガンダムエクストリームバーサス2 クロスブースト」をモデルに一部機体に「これがついてたら面白くなるんじゃないの?」と作者の妄想を追加されたものとなります。広い懐で受け入れていただけると嬉しいです。
「はぁ……」
叶は溜息をついて脱力した。
モニターには、リザルト画面が表示されている。そこには勝利ポーズをとるダイバーエースとフェネクスがいた。
「やったわね!」
モニターを見ていた叶の肩が叩かれる。振り返ると、満面の笑みを浮かべたイチゴがいた。叶は、肩に加えられた軽やかな衝撃を思い出し、イチゴが女の子であることを再認識した。
イチゴは、両手を叶に向けてくる。ハイタッチの構えだった。
それに対し、叶は思わず苦笑した。無邪気に喜ぶ姿に、緊張が抜けた。
しかし、イチゴは、叶の苦笑を別の意味で受け取ったようだ。掲げられた手が、おずおずと下がっていく。気まずそうに顔をそらしたかと思えば、イチゴはそのまま席に座った。
「……なによ、苦い顔しちゃってさ」
脱力した叶に、か細い非難の声が向けられる。イチゴは、バツが悪そうに背中を丸めた。
叶は、イチゴの態度の意味がわからず首を傾げた。彼女が拗ねる理由があっただろうかと思い、試合を振り返る。しばらく考えに耽けると、思いたる節があった。
前半の立ち回りである。
チーム出撃であることを考慮せず、自分本意な立ち回りを行った前半のことを責められている、とイチゴは考えているのだろう。
叶は、イチゴの背中から筐体へ視線を移した。イチゴが座る筐体、フェネクスの勝利ポーズとスコアを見る。与ダメージを表すアタックボーナスの値は、ダイバーエースのそれとほぼ同じだった。
――お前も後半必死だったんだな。
「…………」
叶は、イチゴに聞こえないように小さく息を吐いた。辛くももぎ取った勝利ではあったが、この勝利は自分一人で得た勝利ではない。チームとして一緒に戦ったイチゴの奮闘があればこそだと、叶は思った。
でなければ、試合に勝つことはできなかったと叶は思った。
「お前のミスは俺のミスさ。チームって、そういうもんだろ? 持ちつ持たれつなんだってことがわかれば、それで十分だ」
叶は、イチゴの肩に手を置いた。
試合の余韻が熱として残っていた。
「ほら、次の試合が始まる。まだゲームは続いてるんだから、レバー握れよ」
イチゴが振り返る。
目があった。
バツが悪そうな、けれども許しを得た子供のような、そんな表情だった。
「……良いの? アタシ、またやらかしちゃうかもよ?」
「百円いれちまったんだから、今更引くに引けないだろ。それに、お前が始めたんだからな。お前が先に折れるなよ」
あと、と叶は口を開く。
次の言葉を待つイチゴの瞳を見て、ふと幼馴染の顔が脳裏をよぎった。真摯にゲームに向き合う瞳だ。
何故、よぎったのか。
既視感に疑問を得ながらも叶は、続けた。
行きずりの関係ではあるが、上を目指すものに対して、持っている者が与えられるものは何か。
「誰でもミスはするだろ? それを踏まえて次のプレイに活かせばいい。曰く、傾向、分析、対策、なんだとよ」
ここ四ヶ月の時間が、叶にそう言わせた。
叶の言をイチゴが口の中で反芻した。
噛み締めているようだった。
その様子に、叶は既視感の意味を悟る。
――お前も、本気なんだな。
肩に触れる手が、熱を感じている。
女の子らしい細い肩だ。女の子らしい肉付きの肩だ。しかし、試合の熱に浮かされた体だ。今、イチゴは全身に熱を残している。
本気が、まだ体に残っている。
筐体のモニターが、マッチング画面へ移行する。
マッチング画面のBGMに、イチゴが顔を上げた。その瞳は、モニターに見入っていた。
叶は、イチゴの集中を掻き乱さないようにそっと肩から手を離した。
レバーとボタンに手を添える。
モニターを見た。
モニターに並ぶダイバーエースとフェネクスを見詰めた。
ダイバーエースの隣に並ぶ機体とそのプレイヤー達。隣に並ぶプレイヤー達は、例外なくゲームに本気だった。
何故本気になれるのだろうか。
疑問が鎌首をもたげていた。
「負けちゃったぁー」
イチゴが、頭を抱えた。肩から流れたロングヘアが、ダラリと垂れる。
連勝は四回で止まった。五回目の対戦は、接戦だった。どちらが悪いということはない。僅差の敗北だった。
「……お疲れ」
試合中や試合間のインターバルに立ち回りやスキル面で意見を求めてきたイチゴに対して、叶は労いの言葉をかけた。
イチゴの中で自身がどういった立ち位置なのか、叶にはわからない。しかし、頼られているということはわかった。
自分の損な一面を自覚しつつ、コントロールパネルの上に置いたドリンクの容器を取る。ストローに口をつけるが中を何も通ってこない。飲み切っていたことを思い出した。
空の容器をコントロールパネルの上に戻し、代わりにスマホを手にする。時刻は、十六時半に迫っていた。通知欄には、メッセージ通知が表示されていた。修と優花、彼女からのメッセージだった。
内容に目を通す。
修からは、合流場所の確認連絡。優花からは、部活が終わって帰宅中との連絡。彼女からは……、返信がないことを咎める連絡だった。
順番に返信していく。
修には、合流場所として西鉄天神駅の改札へ繋がる階段前を。優花には、労いを。彼女には、謝罪の連絡を。
返信を終えスマホをポケットにしまおうとする。直前、手の中でスマホが震えた。画面を見ると、彼女からのメッセージが表示されていた。
『叶君、私に本気じゃないでしょ?』
図星だった。
しかし、罪悪感はなかった。
無視してポケットにスマホをしまう。ポケットの中でスマホが震えていた。無視をした。
「ねぇねぇ! アタシ、上手くなった?」
イチゴが、コントロールパネルに肘をついている。その表情は、叶のスマホの中で繰り広げられる
誰かと話をする時は他のことをするなと親に躾けられた。スマホの中の面倒から目をそらす良い口実だった。
「今々すぐ上手くなれるわけないだろ。今日のことを踏まえて練習するんだな」
「そこは冗談でも上手くなったって言うべきじゃないの?」
膨れるイチゴにユーモアが無くて悪いなと返す。出会いから短いやり取りの中で、イチゴとの関わり方を心得た。イチゴの言に適当な相槌を返す。気楽な関係だった。
そうだ、気楽な関係だ。
イチゴとはこの一回で終わり。今後、擦れ違うことやゲームセンターで顔を合わせて誘われることはあるかもしれないが、その時は適当な理由をつけて断ればいい。
そうすれば、再び疑問を得ることはないように思えた。
そう考えて、ふと思った。
疑問をここで解消することはできないかと。
自身と同じ高校生。
幼馴染と同じ瞳でモニターに見入る存在。
共通の存在に確かめることで、間接的に重要な答えが得られる気がした。
「……なぁ」
幼馴染の、修の姿勢が。
「お前は、本気なのか?」
それは、四月から常に抱えていた疑問だった。
イチゴが、パチクリと瞬きをした。腕に支えられていた頭が浮く。
不思議そうに首を傾げるイチゴの視線に、叶は恥ずかしさを覚えた。
「悪い、今のナシ。忘れてくれ」
手をイチゴに向けた。イチゴの言動を前もって制するためだった。
「わかんない」
二人の視線を遮る手の向こう。イチゴが、答えた。
「なに? アンタ、ゲームプレイするのに本気かどうか考えてたの?」
指の間からイチゴを見る。
「アタシは、本気かどうかわからないけど、楽しんでるわよ」
イチゴは、はっきりとそう告げた。手慰みに筐体のボタンを叩く音がする。
「ゲームは何も手元に残らない。プリクラとかクレーンゲームならともかく、対戦ゲームなんて特にそう」
ドキリとした。叶は、自分の思考が向けた掌から読み取られたような気がした。咄嗟に手を下ろす。
しかし、イチゴは、再びコントロールパネルに肘をつき筐体へ顔を向けていた。杞憂であったことに安堵すると同時、語られる言葉は、イチゴの純粋な考えなのだと理解した。
「おまけに、ゲームセンターは雰囲気が暗くて不良の溜まり場だと思う層もいる。アタシのクラスメイトも学校自体もそう。実際はそんなことないとアタシは思うんだけどね」
憂鬱な横顔だった。自分の姿を偽ってゲーム筐体に向き合うイチゴが、ひどく哀れに思えた。
「でも、楽しいんだから仕方ないじゃない」
イチゴが、こちらを見る。コントロールパネルから肘を離し、両手で髪を二つにわけた。
「だから、アタシは自分を使い分けてる。髪を二つに結んでお行儀よく振る舞う学生としての私と、髪を解いて学校とのつながりを希薄にしてゲームを楽しむアタシを」
イチゴが破顔する。先程見せた憂鬱な表情は、そのナリを潜めていた。
「自分の気持ちなんてさ、適当に誤魔化して付き合っていけばいいんだって。まずは自分が楽しむことが優先でしょ?」
イチゴは、手で二つに束ねた髪を勢いよく解いた。顔前に飛び出た髪のカーテンのむこうには、はにかむイチゴがいた。
自由奔放で天真爛漫な立ち居振る舞いのイチゴが校則に厳しい女子校の生徒だと思えなかった理由がわかった。
場面場面に適した自分を演じていたのだ。楽しむために、自分のために。
不思議な考えだと思った。コロコロと自分を変えながら、芯となる自分を大切にしているのだと感じた。
髪のカーテンが落ちる。
今、目の前で笑っているイチゴが、本当のイチゴなのだと思えた。
「カナタはどうなの? 本気?」
返しの質問をイチゴが紡ぐ。
今度は叶が筐体に向き合った。デモプレイを流している筐体に照明が反射している。しかし、自分の表情は、モニターの光量に圧倒されて見えなかった。
「…………参考になった」
叶はそう返した。
「なにその答えになってない答え」
批判の声に叶は振り向かない。振り向けなかった。
「トイレ?」
叶は立ち上がる。横目でイチゴを見る。イチゴは、次の百円を手にカードを筐体にかざしていた。当たり前のように次の試合の準備を奨めていたイチゴを尻目に、コントロールパネルの上の荷物を手に取っていく。
「今日は終わり。友達との待ち合わせ場所に行くんだ」
「えーそんなぁ。……ちなみに待ち合わせ場所と時間は?」
心底名残惜しそうにイチゴが言う。
「西鉄天神駅の階段下。皆が待ち合わせ場所に使ってるとこあんだろ? あそこに十七時五分に集合」
バイトの終了時間を考慮して時間をややずらす。着替えや退勤処理を踏まえた。
「ならあと一回できるじゃない! お願い!」
イチゴが両手を合わせる。拝むようなポーズだ。
そんなイチゴに対し、叶は事前に用意していた台詞を喋る。
「一戦だけ、って言ったろ? 今ので百円が切れた。この後晩飯食うだろうから、それ用にお金残しておきたい」
事実、財布の中に百円玉は無かった。千円札が数枚入っているため、夕食分のお金を残してプレイを続けることは可能だったが、この場から一度離れたかった。
そして、今は疲れていた。夕食を終えた後、恐らく修にゲームを誘われるだろうが、疲労を理由に断るつもりだった。
そっか、と渋々納得したイチゴ。その背中に去り際の言葉をかけようとした。
「じゃあ連絡先! 交換しましょ!」
しかし、叶の言動は遮られた。叶の了承も無しに、イチゴはスマホを取り出し操作を進める。果物の苺のステッカーが、スマホの背面と透明なカバーの間に挟まっていた。
ステッカーに意識がとらわれること少々、イチゴの言を思い出し叶は慌てた。
「おい! 勝手に話を進めるな!」
今回限りと割り切った関係が、長引こうとしている。イチゴのことは嫌いではない。かといって好きでもない。自分を振り回す知り合ったばかりの女の子とは、金輪際関わる気がなかった。
「はい! これ、アタシの連絡先」
だが、そんな叶の眼前にスマホの画面が掲げられる。画面には、連絡先交換用のQRコードが表示されていた。
当事者の叶を置いてトントン拍子に進む展開とそれを操るイチゴ。有無を言わせぬ強引さと無邪気な表情が、叶の逃げ道を塞いでいるように思えた。
「……期待するなよ」
盛大な溜息と断りを入れる。
叶は、重い指先で取り出したスマホを操作してQRコードを読み込んだ。
苺。
アイコンには、画面中央でしっかり制服を着ている苺と彼女の友人達を納めた集合写真が設定されていた。集合写真の下には、彼女の名前が表示されていた。苺のステッカーを思い出す。自分のことが好きすぎだろ、とひとりごちた。
「叶……アンタ、自分の名前設定してたのね。気取った名前つけてるなぁと思ってたけど、本名だったんだ」
叶のプロフィールを確認した苺がそう言った。その内容にムッとして、叶が言い返そうとした。
「アタシと同じじゃん」
言葉を失った。
笑顔があまりに眩しかった。
「それに、これで学校にアタシをチクったりしないでしょ?」
「……は?」
「友達でしょ? 友達が不幸になることをしないわよね?」
してやったりとはにかむ苺。
叶は、あのなと前置きをした。
「友達が非行に走ってたら、それを正してやるのも友達だろ?」
冗談めかして返す。
いじわると泣き真似を始めた苺は、一方で器用にスマホを操作した。
直後、手の中のスマホが震える。
トーク画面を見る。
チャット開通確認用に送信されたスタンプが、表示されていた。果物の苺から直接手足が生えたキャラクターが、親指を上げている。イイネ! とコミカルなフォントで台詞が添えてあった。