機動戦士ガンダムEXVS InSert Credit(旧:掌のレバーと指先のボタンで、広がる世界。)   作:kaneda_02

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●エクストリームバーサス
 全国のゲームセンターにて稼働中の大人気対戦ゲーム。
 機動戦士ガンダムシリーズに搭乗するモビルスーツを操作し繰り広げる2on2の対人戦が魅力。
 大型アップデートや新作発売を続けて、十年以上続いてるすんごいタイトル。
 ソーシャルゲームや家庭用ゲーム機が普及・充実する昨今、その煽りを受けるゲームセンター業界において、根強い人気を誇る人気タイトルです。
 執筆開始時(2023年4月)では、シリーズ6作目に当たるクロスブーストが稼働中。

●制作のノリ
 本作は、執筆開始時(2023年4月)にアーケードにて稼働中の「機動戦士ガンダムエクストリームバーサス2 クロスブースト」をモデルに一部機体に「これがついてたら面白くなるんじゃないの?」と作者の妄想を追加されたものとなります。広い懐で受け入れていただけると嬉しいです。



.3-7 帰路

 

 外に出た。空は、夕暮れの様相を呈している。左右の建物が、通りに影を落としていた。

 いくらか暑さが和らいでいた。ドリンクの空容器は、ゲームセンター内のゴミ箱に捨てていた。

「ちょっと、止まらないでよ!」

 背後の苺が、ゲームセンター入口で立ち止まった叶の背中を押した。首を背後に回すと、苺はパーカーのフードを目深に被っていた。叶の背に隠れるようにしている。

「バレたくないなら来なきゃいいのにな」

 うるさいと小さい声で非難を上げた苺を、呆れ半分面白半分で笑う。

「お前、家は?」

「百道」

「じゃあ空港線だな」

 叶は、苺を伴って歩き始める。西鉄天神駅から地下街に入り、地下鉄空港線の天神駅へ向かう。

 ゲームセンターから離れたところで苺が横に並んだ。フードは取っていた。

「叶は?」

「え?」

「どこ住んでるの?」

 西鉄天神駅を擁する商業施設のエスカレーターを降る。スーパーマーケットとパン屋がある階をさらに一つ降り、エスカレーターから降りた。

「渡辺通」

「え、近いじゃない! 良いなぁ」

 飲食店が並ぶ地下二階を歩き、地下街へ出た。そのまま北上する。

「百道だって地下鉄で市内まですぐだろ? ドームもあるし、良い所じゃないか」

「アタシ、野球わかんないのよね」

 しばらくすると、大きな四つ角に出る。左折すると、目の前に天神駅の改札があった。

「今日はありがとうね。なんやかんやあったけど、アタシ、始めての相方が叶で良かった」

 改札を背に振り返った苺は、そう言った。叶は、妙な照れくささを覚えた。

「お前、そういうこと普通に言えるのすごいと思うわ」

「美徳、でしょ?」

 コロコロと笑う苺に、叶もつられて笑う。

「また今度ね」

 別れの挨拶を告げて、苺が改札を通る。

「苺」

 叶は、その背中を呼び止めていた。思わず、だった。

「なに?」

 振り返った苺が、首を傾げている。

 言葉に迷う。何となく呼び止めた、とは言えなかった。

「俺も楽しんでみるよ」

 絞り出した。言って、自分の中で何かが腑に落ちた。

「そ。頑張り給えよ、叶少年」

 今度こそ、苺はエスカレーターに乗ってホームに消えた。度々振り返り手を振る苺を見送るため、叶は苺が階下に消えるまで改札前から動けなかった。

 楽しんでみる。

 自分の言葉を反芻する。

 思えば、ゲームに深く向き合いすぎている気がした。ゲームの価値だの付き合い方だの。暇潰しの手段や娯楽としてのゲームに対し、深く考えすぎている気がした。

 そういった複雑なことは取っ払って、純粋に楽しめば良いのだと思えた。修が本気なのだとして、自分自身がそれに負い目を感じる必要はないのだと、そう思えた。

「叶? 何やってるの?」

 物思いに耽っていると、改札から出てきた少女が目の前にいた。

「優花……?」

「あれ、私帰りの時間連絡してたっけ……」

 学校指定のジャージにスポーツバッグを肩に背負った優花が、SNSのトーク履歴を遡っていた。

「してないや。誰か待ってるの?」

 スマホから顔を上げた優花が、叶の隣に並ぶ。目線を合わせるために背伸びをし、天神駅の改札内を伺っていた。セミロングが、僅かに湿っている。塩素のにおいがした。

「修と待ち合わせしてた。ここには何となく来たんだ」

 一人でいたと装った。先程まで女の子といたことは、口が裂けても言えなかった。

 そうだったんだ、と納得した優花が、慌てて距離を取る。

「……臭いよね?」

 塩素のにおいを言っているのだろう。叶は、首を左右に振った。

「全然。優花が頑張った証だろ?」

 優花が、安堵の笑みを浮かべる。

 優花は、水泳部に所属していた。小学校ではスクールに通い、中高は部活で水泳を続けていた。大会に応援に行ったこともある。塩素のにおいは、競泳水着姿の優花と強く結びついていた。

「待たせてごめーん! ……あれ、穂積?」

 改札からジャージ姿の女子が飛び出してきた。スポーツバッグに財布をしまう姿から、不足した電車賃を改札内でICカードにチャージしていたのだと察する。

「吉田」

 吉田理紗から、優花同様塩素のにおいがした。中学生の頃、優花に友達として紹介された女の子だった。

「あれ、生田は?」

 吉田が、周囲を見渡す。

「あれ、いない。アンタ達ニコイチだから片方いたらもう片方も近くにいるはずなのに」

「俺と修は、常に一緒にいるわけじゃないからな?」

 吉田は、唯一と言っても過言ではない気の知れた異性の友人だった。互いに相手のことを知っているから、夢を見ないし求めたりもしない。優花が、吉田の前では叶達との関係を大ぴらにしていることから、叶にとっても嘘偽る必要のない貴重な友人だった。

「修とは待ち合わせしてるんだって」

 優花が補足を加えた。やっぱニコイチじゃん、と反応を返す吉田に対し、叶は適当に相槌をうった。吉田との付き合いは、気が楽だった。

 二人について地下街を南下していく。来た道を戻る。擦れ違う人混みに男女の組があった。もう少し遅ければ、あそこにいたのは自分と苺だったかもしれない。そうならなかったことを叶は、前を歩く優花の後ろ姿を見ながら心底安堵した。

 歪んだ関係だと思う。

 プライベートでは幼馴染として振る舞うことができるが、しかし、学校等オフィシャルな場では、優花と幼馴染として振る舞うことは許されなかった。

 中学生の時である。

 中学一年生の頃、ある日を境に校内で優花が自分を避けるようになった。無視まではいかないが、話をしても二、三言交わして逃げるようにその場を去る優花。悲しさや寂しさよりも疑問が勝った。

 放課後、帰路の途中で修に相談すると、修は、優花を裏切るようで悪いけどと枕詞を使った上、思い詰めた表情で喋り始めた。

 曰く、先輩に脅されたと。原因は、叶であると。叶に好意を抱いた先輩女子が、交友関係を調べる中で優花の存在を知ったと。目障りだから近づくな、と。

 怒りが込み上がった。

 そして寂しさがあった。

 俺を気遣って相談をしなかったのだろうか。

 優花の性格だ。叶のことを慮ったのだろう。それでこちらの心配をかっているのだから、本末転倒ではあるが、叶はそれを責められなかった。恋愛ごとに関して、優花を責める資格がなかった。

 小学六年生の長期連休。両親不在の自宅。招いた優花。広げられた宿題。修は、家事のために遅れる旨の連絡。二人だけの静かな空間で、優花が語った思い。

 それを受け止められなかった自分に、優花を責める資格などなかった。

 だから、当時の叶は考えた。優花の事情を知らないフリをしたまま、状況を打開するための方法を。修には、優花の気遣いを裏切らないよう口止めをした。

 中学生は、男女共に異性に感心を抱き始める時期だ。優花がそうであったように、叶もそうだった。しかし、優花や先輩女子程純粋な感心ではなかった。そのため、叶は残酷な方法を復讐とした。

 こちらから関係を持ち寄り付き合い始めた。付き合い始めてからは、傍若無人に振る舞った。相手の好意を笠に、自身の肉欲を発散した。そうしていると、ある日校舎裏に呼び出された。中央で涙ぐむ先輩女子とそれを守るように囲う先輩女子の友人達。そして額に青筋を立てた先輩男子。

 叶の振る舞いに傷付いたと言って泣く先輩女子と謝罪を要求する取り巻きに、叶は溜息をついて別れを告げた。発言の真意が汲み取れない面々を置いてその場を去ろうとすると、ややあって我に返った先輩男子が大声を上げて突っ込んできた。

 人に殴られたのは、それが初めてだった。

 その後は、無我夢中だった。

 憤りを拳に乗せ、先輩男子を滅多打ちにした。優花を傷付けたくせに、自分が傷付くことは許容できないのか。自分のために、俺達の関係に影を落としやがって。挙げ句、被害者振りやがって。全ての事柄に対する憤りを、目の前の男に向けた。

 その中には、優花に対して答えを出せなかった自分への憤りも含まれていた。

 思えば、あの瞬間は、間違いなく本気だった。

 バランスを崩して倒れた男に馬乗りになって拳を振り上げていると、背後からその腕を止められた。

 振り返ると、先輩女子が、こちらの腕を抱えるようにして止めていた。涙で顔がぐしゃぐしゃだった。

 肩で息をしながら男から離れた。男は、とっくに戦意を喪失していた。先輩女子が、男に駆け寄った。側に膝を付き、男を胸に抱いた。二人は、互いを確かめ合うように抱き合っていた。

 本気で好き合っているように見えた。

 いたたまれなかった。

 逃げるようにその場を去った。

 自分が、最大の悪であるように思えた。

 一度、悪い噂を立てればこんなことは起きないだろう。そう思っていた。しかし、今度は先輩男子を返り討ちにしたということで、容姿以外の要素で異性の感心を引き始めた。

 断り続けることもできた。

 しかし、それでも異性から好意は向けられる。そして、その好意が、いつか優花をまた苦しめるのではないか。そう考えると、異性からの感心を安易に断ることもできなかった。

 そして、今の今まで、肉欲に従った自分本意な関係を異性との間になあなあと築いている。始まっては終わってをずっと繰り返している。

 優花の事情は、知らない体を続けていた。優花に向き合えない己が、口を出して良い事柄ではないからだ。

 気が付けば、幼馴染の恋愛ごとには触れないようになったいた。三人の中では、暗黙の了解になっていた。

「じゃあねー」

 西鉄天神駅のホームに吉田が消えていく。

 吉田は、叶達の歪な関係を知っている唯一の友人だった。知っていて触れないようにしてくれている、貴重な友人だった。

「修とはどこで待ち合わせしてるの?」

 優花が、こちらの顔を覗き込んでくる。動きに合わせて流れた毛先は、乾いていた。

 優花の笑顔に見入る。今だけは、一切の陰りもないように見えた。

「十七時五分にそこ」

 叶は、改札とは真反対にある階段下を指差した。

「すぐそこなんだ……って、もう十七時すぎてるよ!」

 スマホで時刻を確認した優花が、慌てて階段の方へ歩き出す。数歩歩き、こちらへ振り向いた。

「はやく!」

 前を行く背中を、叶は追いかける。歪な関係だが、崩れてしまうよりはよっぽどマシに思えた。

 階段下には、既に修がいた。黒のスキニーにTシャツ一枚、背中に担ったリュックには制服が入ってるのだろう。

 こちらに気が付いた修が、腕を振る。

「優花!? 叶と一緒にいたんだ。今日は部活だって聞いたけど…」

「さっき偶然会ったんだ! 二人は待ち合わせしてたんでしょ? これからまたゲームセンター行くの?」

「いや、お腹減ったから先にご飯食べたいかな……」

「悪いけど、今日はゲームセンターはパス。家に帰って、早くこれ読みたい」

 文庫本が入った袋を持ち上げる。最もらしい理由を述べた。

「そっかぁ。たまにはそのまま帰っても良いよね」

 残念そうな修。肩を落とす姿に、苺が重なった。楽しんでみる。天神駅の改札前で口にした言葉を思い出した。

「……まぁ、一、二戦ならいいけど」

「まじ? じゃあ、ご飯の後行こう!」

 修が、わかりやすくテンションを上げた。

 二人のやりとりを側で見ていた優花が、クスクスと笑う。

 穏やかな時間だった。

「私は、先に帰ってるね。もう晩ご飯作っちゃってるんだってー」

 自宅の冷蔵庫の中にある作り置きを思い出した。男子高校生の胃袋であれば、今から夕食を食べたとしても、問題なく胃袋に納められるだろう。

 地下街まで優花を送る。人混みの中を進んでいく優花の背中を、修と二人で見送った。

「行こう」

「おう」

 優花の背が見えなくなってから暫くして、歩き始めた。

 自分を使い分ける――苺の言が蘇る。

 学校とそれ以外で関係を使い分ける自分達が、重なった。どうすれば良いのか、答えは見えない。

 

 

 

 車内は混雑していた。

 苺は、学生鞄から有線式のイヤホンを取り出し、端子をスマホへ、イヤピースを両耳に差し込む。音楽アプリを操作し、お気に入りの楽曲を再生した。

 電車の出入り口脇で、座席端の仕切りに背中を預ける。車窓を見た。地下鉄の車窓からの景色は暗く、車内の明るさのため窓には自分の顔が反射していた。

 知らず、口角が上がっていた。

 スマホを持つ手とは逆の手で口角を撫でる。それでも、気を抜いてしまうと口角が上がった。

 楽しんでいたのだと、苺はゲームセンターでの時間を振り返る。

 初めてのチーム出撃。初めての相方。

 今までエクストリームバーサスを一人で黙々とプレイしていた苺にとって、隣の筐体に座る味方の存在やプレイについて意見し合える存在は、新鮮なものだった。

 これからもっと楽しいプレイができるような、そんな気がしていた。

 スマホの画面を操作し、SNSを表示する。メッセージ一覧画面の一番上に表示されたアイコンをタッチする。

 カメラに向けて振り向く男子高校生とアイコンの下に表示された『叶』という名前。誰かに不意に撮影されたように見える写真だ。写真の中の相方を見る。

 思えば、家族以外の異性と連絡先を交換したのは、叶が初めてだった。

 肩にゴツゴツとした手の感覚がまだ残っている気がした。自分の手をその感覚に重ねた。

 

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