機動戦士ガンダムEXVS InSert Credit(旧:掌のレバーと指先のボタンで、広がる世界。) 作:kaneda_02
●お知らせ
タイトルを変更しました。
旧タイトルに馴染みのある方を考慮し、旧タイトルは見える形で残しています。
アーケードゲーム感をより強くしたく変更しました。
突然の変更申し訳ないです。
●エクストリームバーサス
全国のゲームセンターにて稼働中の大人気対戦ゲーム。
機動戦士ガンダムシリーズに搭乗するモビルスーツを操作し繰り広げる2on2の対人戦が魅力。
大型アップデートや新作発売を続けて、十年以上続いてるすんごいタイトル。
ソーシャルゲームや家庭用ゲーム機が普及・充実する昨今、その煽りを受けるゲームセンター業界において、根強い人気を誇る人気タイトルです。
執筆開始時(2023年4月)では、シリーズ6作目に当たるクロスブーストが稼働中。
●制作のノリ
本作は、執筆開始時(2023年4月)にアーケードにて稼働中の「機動戦士ガンダムエクストリームバーサス2 クロスブースト」をモデルに一部機体に「これがついてたら面白くなるんじゃないの?」と作者の妄想を追加されたものとなります。広い懐で受け入れていただけると嬉しいです。
自動ドアを潜ると、冷たい空気がジャージ姿の三人を迎え入れた。
修は、日除け用に頭に被せていたタオルを取り、首にかけた。
「戦うにしても、あと一人はどうするんだ? 俺を含めても三人しかいないぞ」
背後の叶からの問に答えたのは、さらにその後ろに並ぶ巧だった。
「いらねぇよ。俺と生田だけでケリつける」
エスカレーターから降り、フロアの奥へ。地下一階の一角を占めるエクストリームバーサスのコーナーへ三人は向かった。
「うん。叶にはついてきてもらって悪いけど、俺も最初からそのつもりだった」
眼前にある筐体に、修と巧は向かい合う。肩から下げていた学生鞄を筐体の下へ置き、椅子に座る。財布から、カードと百円を取り出した。
「タイマンだ。叩きのめしてやるよ」
隣の筐体に座った巧が、人差し指をこちらに向けてきた。ピンと張り詰めた指は、真っ直ぐこちらを指していた。
「上等。やれるもんならやってみなよ」
不敵に微笑んでみせる。ふと、巧の腕前が気になった。が、不意に湧いた疑問は、クレジットの挿入と共に腹の中に飲み込んだ。
どんな相手であろうと、負けるつもりはない。
勝つ気で臨まなければ、勝利は掴めない。
そんなことを巧の横顔に感じながら、修はカードをかざしスタートボタンを弾いた。
その横顔は、あまりに薫に似ていた。チクリ、と痛みが胸に走る。手を伸ばせば届く距離にある横顔に、薫が重なる。
修は、関係ないと割り切ったはずのこの試合に薫への恋心が介在していることに気が付いた。
重大な何かを無意識に賭けてしまっているような、自分の言葉や意志とは矛盾した感情に、修は僅かに負い目を感じた。
エクストリームバーサスは、基本2on2の対人戦ゲームだ。そのため、プレイ中は敵味方の連携を常に意識しなければならない。しかし、修達がこれから行おうとしているタイマンは、2on2とは大きく前提が異なる。
一対一のゲーム。
持てる全てのリソースを、対面一機体にだけ費やす。僚機による援護が無い分、勝敗は己の実力で決まる。
それがタイマンだ。
今、選択されたステージ『ミンスリー』の自然豊かな大地に、たった二機のモビルスーツが降り立った。
機動戦士ガンダムAGEより採用されたステージ『ミンスリー』は、浅い谷のような構造になっている。中央に流れる川が、ステージを左右に分断している。川から左右に目を向けると異なる表情が読み取れた。
右側には、草原が広がっている。草原の中に、ポツリポツリと家屋が存在した。モビルスーツ一機分の高さを持つ家屋だ。
左側には、丘陵の山肌に森が広がっている。モビルスーツの足首程度の高さを持つ木々は、一方の草原よりやや角度が急な丘に生え揃えられている。
のどかなコロニーに屹立した二機のモビルスーツは、間もなく告げられた試合開始の合図と共にゲームを開始した。
修は、たった二機のモビルスーツに与えられたにしては広すぎるミンスリーをストライクフリーダムの肩越しに見渡した。ストライクフリーダムがいる対角に、巧――プレイヤーネーム『タクミ』の駆るガンダムがいる。
閃光のハサウェイから参戦した巨大な機体は、右手にビームライフルを、左手にシールドを構えている。
ステージの外縁をなぞるように移動するΞは、ミサイルランチャーからおもむろに六つの点を宙に射出した。射出されたそれ等は、暫く宙に留まったかと思うと、虚空を蹴り上げストライクフリーダムへ殺到してくる。
ファンネルミサイルだ。
ストライクフリーダムに取り付いたファンネルミサイルは、一拍の間を置いた後に突撃を敢行する。軽やかなブーストダッシュでファンネルミサイルを避けると、行き場を失ったファンネルミサイルは、一部が虚空に消え、残りが地面に当たり爆ぜた。
ファンネルミサイルを避けた修は、ストライクフリーダムに射撃による攻撃を命じながら、ミンスリーの空を駆けるΞを見る。
ライフルから撃ち出される高出力のビームは太い。また、ビームに伴ってΞの膝に位置するミサイルランチャーから二発ミサイルが飛び出している。ミサイルの誘導は強く、ビームを避けたストライクフリーダムの装甲を度々ミサイルが掠めていた。
ビームとミサイルを回避しつつ、ブースト回復のために着地を挟もうとすると、着地に合わせてΞが両肩を前に突き出した。肩部に搭載された二門のメガ粒子砲が、圧倒的な火力をストライクフリーダムに向けて撃ち出す。
左腕に備えられたビームシールドを展開し、辛くもガードする。メガ粒子砲による照射に伴い、Ξ本体からミサイルが発射されていた。緩やかに誘導するミサイルを、照射を受けきったストライクフリーダムはブーストダッシュで避ける。
再び中距離で始まったライフルとミサイルの応酬の中、Ξは突然真横に巨躯を召喚した。マフティーのモビルスーツ、メッサーだ。アシスト攻撃として呼び出されたメッサーは、肩のスパイクを構えストライクフリーダムに突撃を行う。
ドラグーンをΞ目がけて射出した後、修はストライクフリーダムに後格闘を入力した。後方への宙返りで誘導弾を無力化し、再びの着地を行う。
戦場に爆ぜるミサイルと高火力のビーム、随所で繰り出されるアシスト攻撃。
修は、巧の操るΞガンダムの圧倒的弾幕に、まるで壁のような厚さを感じずにはいられなかった。
――巧、……なかなかじゃないの……!
対戦しているからこそ、巧の実力を肌で感じる。
楽に勝てる相手ではない、そう感じる。
――堅実じゃねぇか。
巧は、素直に舌を巻いていた。
生田の駆るストライクフリーダムは、いまだ健在である。絶え間なく送り続ける弾幕を、ストライクフリーダム
は避け続けていた。
Ξ本体から撃ち出したビームやミサイル、多角的に突撃するファンネルミサイル、自身も突撃または射撃攻撃を行いながらメイン射撃へのキャンセルルートを持っているため、Ξ本体の落下の補助として機能する格闘CSのメッサー召喚。
それ等をストライクフリーダムは避け続けていた。
巧は、知っている。
ストライクフリーダムという機体は、エクストリームバーサスに於いて並外れた機動力を有している機体だと。
Ξもストライクフリーダムと同様の三千コストである。武装のパワーや機動力を含めた機体性能は、最高コストに恥じない水準であった。
しかし、それでもなおストライクフリーダムに肉薄はできない。
エクストリームバーサスに参戦している機体は、ある程度原作に忠実に再現されている。
ストライクフリーダムは、劇中に於いて一度も被弾をしなかった。機体性能はさることながら、パイロットを務めたキラ・ヤマトの技量がもたらした結果だった。
それをゲームとして再現した結果、同じ最高コストであっても容易に接近ができない高速の機体となった。
しかし、しかしだ。
巧には勝算があった。
対面の機体が、Ξを凌ぐ機動力を持っており、堅実な射撃戦を行えるプレイヤーを有していたとしても、Ξなら。
そんな勝算があった。
巧は、モニターの右下にある武装欄を確認した。ビームライフルやファンネルミサイル、メガ粒子砲の弾数を管理している武装欄の最下段に刻々とリロードを進めるゲージがある。ゲーム開始直後は〇だったゲージは、間もなく最大まで溜まりそうだった。
巧は、ストライクフリーダムを見る。
やはり堅実だ。
リスクを最小化できる距離間で立ち回り、期待値が最大となるタイミングでドラグーンと同時にカリドゥスの照射を繰り出してくる。
おかげで、こちらの攻撃は相手に通らないが、こちらは相手の攻撃を被っている状況だ。
――お前、やっぱりウザいわ。
余裕を感じさせるストライクフリーダムの動き。
そしてそれを操る生田修。
以前から名前だけは知っていた。
クラスの女子が穂積叶の話をしている時、たまに生田の名前が出てくることがあった。常に穂積と一緒にいるため、容姿等で比較されることが多く、場合によっては生田の方が好みだとのたまう女子がいる始末。
大人しく知的な穂積と比べ、明るく前向きな生田は、話を聞けば家庭的な側面もあるという。人当たりの良さが幸いし、友人が多く、教師陣からのウケもいい。
先日、巧がゲームセンターに寄った時は、ゲームセンターで知り合ったのであろう大人たちにガンダムを師事している修を見かけた。気付かれないよう物陰からそっと眺めた修の屈託のない笑顔は、巧に人懐っこさを感じさせた。
そして先日のことだ。
バイトから帰宅した薫が、やけに上機嫌だったため理由を尋ねたところ、
『バイト先にね、可愛い後輩がいるんだ。何事も真面目に取り組む男の子でね、帰りの遅い母親のために家事もやってるんだって。大変なのに変に擦れてなくて真っ直ぐなんだ。その子にいつもありがとうございますってプレゼント貰ったの』
それ、と化粧を落とす手を一瞬止めて指さしたスマホは、見慣れないケースをまとっていた。聞けば、薫お気に入りの音楽グループのスマホケースらしい。聞けば、以前バイト中に話した内容をその後輩は覚えており、サプライズでプレゼントしてくれたとのことだ。
鼻歌混じりに化粧を落とす薫の横顔は、普段見る姉の横顔ではなく、クラスで恋バナをしている女子の横顔とそっくりだった。
巧は、薫の横顔に後輩の名前を尋ねた。
『生田修君。巧と同じ学校に通ってるみたい』
巧は、巧の部屋からゲーム機とアーケードコントローラーを拝借していった薫に隠れて怒りに震えた。
学校では、明るさと前向きさが高じて好かれている。
その上、尊敬する姉の心を射止めようともしている。
騎馬の上で聞いた言葉は、不思議な説得力に満ちており、とても同い年が発言したものだとは思えなかった。
それ等全てが鼻につく。
――だからよぉ、俺はお前をぶっ潰さなきゃ気がすまねぇ。
Ξが、ダウン状態から起き上がる。被弾により、体力が減少していた。しかし、まだ絶望的な程、彼我の戦況に差は開いていない。
――確かに、俺はお前に嫉妬してるだけなのかもしれねぇ。俺は、人付き合いが苦手だから、家族以外に下の名前で呼ばれたことすらない。ずっと一緒に育った幼馴染もいやしない。お前とは違って、俺は家事が苦手だからねーちゃんを満足に支えることすらできねぇ。でもな……。
中指と薬指で、格闘ボタンとブーストボタンを同時に打鍵する。
――それでもやっぱお前はウザいんだよ!!
直後、Ξが軽やかな挙動で頭上に飛び上がった。勢いのまま宙返りをする。回転を終えたΞは、胸部と肩、背中の装甲を展開していた。
ミノフスキークラフトを発動しフライトフォームへとΞガンダムは移行した。
生成されたバリアが、大気を拡散させる。移動を行う度、進行方向に風を弾く半球が現れることで、視覚的にその様を捉えることができた。
――ここからが本領発揮だ!
巧は、ストライクフリーダムへ向けてΞを加速させた。
そして、Ξは音速の壁を超えた。