機動戦士ガンダムEXVS InSert Credit(旧:掌のレバーと指先のボタンで、広がる世界。)   作:kaneda_02

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●お知らせ(2023/6/6追記)
 タイトルを変更しました。
 旧タイトルに馴染みのある方を考慮し、旧タイトルは見える形で残しています。
 アーケードゲーム感をより強くしたく変更しました。
 突然の変更申し訳ないです。

●エクストリームバーサス
 全国のゲームセンターにて稼働中の大人気対戦ゲーム。
 機動戦士ガンダムシリーズに搭乗するモビルスーツを操作し繰り広げる2on2の対人戦が魅力。
 大型アップデートや新作発売を続けて、十年以上続いてるすんごいタイトル。
 ソーシャルゲームや家庭用ゲーム機が普及・充実する昨今、その煽りを受けるゲームセンター業界において、根強い人気を誇る人気タイトルです。
 執筆開始時(2023年4月)では、シリーズ6作目に当たるクロスブーストが稼働中。

●制作のノリ
 本作は、執筆開始時(2023年4月)にアーケードにて稼働中の「機動戦士ガンダムエクストリームバーサス2 クロスブースト」をモデルに一部機体に「これがついてたら面白くなるんじゃないの?」と作者の妄想を追加されたものとなります。広い懐で受け入れていただけると嬉しいです。



.5-1 遭遇が始めたもの

 

「お疲れ様でしたー」

 修は、カウンターの中にいたスタッフに挨拶をしてエレベーターに乗った。無地のインナーの上に羽織った学生服のボタンを第二ボタンまで閉じた。急いでいたから、ワイシャツは着なかった。

 一階に到着したエレベーターが扉を開けると、秋の夜風が修を迎えた。開放された制服の襟元を風が撫でる。肌寒さを感じ、第一ボタンを閉じた。本腰を据えて衣替えを終えなければならないと修は思った。

 母の部屋のクローゼットを思い出す。母の冬用のスーツをどこにしまっただろうかと記憶を探った。

「修くん」

 エレベーターから降りると、修から向かって左側、バイト先のネットカフェの左脇にあるコンビニエンスストアの軒下に薫がいた。タイトなジーンズは、修の中で薫の代名詞となっていた。

「すいません! シフトの相談で店長と話し込んじゃいまして……」

 修は、薫に駆け寄った。平日、帰宅の途につく往来を眺めるように二人は隣り合った。

「大丈夫! 文化祭は三週間後だよね?」

 薫が、右のもみあげを耳にかける。背後のコンビニエンスストアの窓から漏れる照明が、薫の横顔を照らした。透き通るような肌に見入る。

「そうです。準備期間中から文化祭が終わるまでは、バイトの時間少なくしたくて」

 行きましょう。修は、遠景の西鉄天神駅を指さした。

 ネットカフェの向かい側、通りを一本挟んだところにいつものゲームセンターがある。文化祭が終わるまでは、通う頻度が減るかもしれない。

 修と薫は、往来に紛れて歩いた。秋になると日の入りが早くなる。街頭と通りを囲む店舗の照明の中で、隣を歩く薫のカーディガンの白色が映えている。

「修くんのクラスは何をするの?」

「喫茶店です」

 薫のスピードに合わせて歩いた。

 バイトの終了時間が被った際は、西鉄天神駅まで薫を見送っていた。二学期に入ってしばらくしてから始まった習慣だった。

「楽しみだね。私も行って良い?」

「もちろんです! 奢りますよ」

 弧を描く切れ長の目が、西鉄天神駅の改札のむこうに小さくなる。修は、薫が乗った電車がホームから滑り始めるまで見送った。

 徐々に加速を始める電車を尻目に帰路につく。

 文化祭を控え慌ただしくなる三週間を思い、人知れず気合を入れた。

 

 

 

 校内はにわかに活気づいていた。

 ジャージに着替えた生徒が、忙しなく校内を行き交っている。

 修もその一人だった。

「えーっと、具材と紙コップに紙皿に……、最後のお菓子は差し入れ強制されてる?」

 クラスのグループチャットで共有された買い出しリストを確認する。練習用に使っていた具材が切れかかっているため、具材と今後のことを見据えた必要な道具の補充に修は向かっていた。

「期待されてるんだろ」

 叶も荷物持ちとしてついてきていた。

 修は、横目にその表情を伺う。その目は、教室に空きスペースが無かったからか廊下に道具を広げて作業を行う生徒を見ていた。一見して穏やかな表情には、どこか虚ろな気配を感じた。

 巧とタイマンをしたあの日から、叶はふとした瞬間にその気配を漂わせるようになっていた。

「おい修」

 その気配にかける言葉を考えていた修を、呼び止める声があった。

「巧」

 ダンボールを手に持った巧だった。

「お前も買い出しか?」

「買い出し。随分な荷物だけど……」

 修は、巧が手に持つダンボールの枚数を数えた。両手で持つのがやっとのように思えた。

「お化け屋敷で使うんだと。暗幕に仮装に工作用の道具にと準備するものが多すぎるんだよ」

 口では悪態をついている巧だが、修は巧が浮ついているように感じた。口や態度が悪い巧だが、イベント事に夢中になる所は自分と同じだった。巧との付き合いの中で、修は彼の人となりを理解し始めていた。

「いて!」

 巧の背中にぶつかった生徒が、その腕に抱えていたダンボールを床に落とした。

 衝撃に振り向く巧の肩口から、その背後を伺う。小柄な男子生徒が、散らばったダンボールの中心で尻もちをついていた。

 修は、その顔に見覚えがあった。

「……トンボ?」

 慌てて床に散らばったダンボールを掻き集め始めたトンボの手が止まる。恐る恐るといった体で修を見上げた男子生徒は、間違いなくトンボだった。

「え、え、シュ、シュウさん!?」

 長い前髪とつっかえながら喋る癖は、一学期の中間テストを終えた直後にゲームセンターで見聞きしたものだった。

「やっぱりトンボだ! 同じ学校だったんだ!」

 修は、トンボに駆け寄り再会を喜んだ。

「お前ら知り合いなのかよ」

 腰を落としてダンボールを拾い始めた修に続き、巧がそれを手伝う。自身が持っていたダンボールは壁に立てかけていた。

「ゲームセンターで知り合ったんだ。同い年だとは思ってたけど、まさか同じ学校だったなんて」

「てことはお前もガンダムやってんのかよ。どうりでトンボなわけだわ。じゃあ、今度高藤も入れてガンダムしようぜ」

 高藤、と呼ばれたトンボは、テキパキとダンボールをまとめる修達に囲まれて汗を流し始めていた。あがり症は、相変わらずのようだ。

 ややあってダンボールに手を伸ばしたトンボは、遅れて腰を屈めた叶に目をやる。久しぶり、と口にした叶に、トンボも同じく挨拶を返していた。

「トンボも隣のクラスだったんだ。今まで気が付かなかったのが奇跡みたいだ。改めてよろしく。えーと……」

 拾い上げたダンボールを小柄な体躯でどうにか抱えるトンボを、修はどう呼ぶか迷った。ゲームセンターならともかく、校内でプレイヤーネーム呼びは不適切だと思えたからだ。

 修の迷いを読み取ったトンボが、ダンボールから半身をのぞかせて言った。

「た、高藤秋久(たかふじ あきひさ)です……」

「じゃあよろしく、秋久」

 巧と秋久に別れを告げ学校を出た。

 放課後の空は薄暗い。季節の移ろいと機嫌の悪い空模様が原因だった。予報では、週末は雨が降るそうだ。

「ドンキで良いんだっけか?」

 叶の質問に頷き歩く。校門から右手に向かえば、天神西通りに出た。雑踏の中を南下していく。

 西通りから枝分かれした一本の路地の入り口にあるコンビニエンスストアを通過した時、自動ドアが空いた。

「修と……叶」

 人集りを縦になって歩いていた二人を呼び止めたのは、優花だった。まず修、そして人混みの中に叶を見つけた優花は、背後に吉田を伴っていた。

「買い出し?」

「私のね。急ぎだから私は戻らなきゃなんだけど、優花はまだ行かなきゃいけないところがあるの」

 レジ袋片手に吉田が、修達が来た方向へ早足で向かっていく。肌寒くなり屋外プールが使えなくなった水泳部は、放課後体力作り中心の活動を行っているため、身のこなしは軽やかだった。

「優花はどこ行くの?」

「ドンキ。衣装に使う小道具や材料が足りなくて」

「じゃあ同じだ」

 行き先が同じだったため、修達は誰ともなく歩き出した。南下するにつれ、僅かだが人通りが減少する。西鉄天神駅を目指す人々は、西通りを東方向に進むからだ。人通りが減少したため、三人は横に並んで歩いた。

 修達は、お互いのクラスで実施する企画や準備中の出来事を話した。お互いのエピソードに笑い、時には驚く。

 その中で、修は叶と優花の一挙手一投足を追った。その所作に、違和感はないように思えた。

 それに対し、修は安堵半分、不安半分といった心境だった。

 体育祭から、修は二人の間柄に暗い感情を抱いていた。体育祭を終えたその日の夜、優花のストレスに付き合った時から、薄暗い何かが修の中で渦巻いていた。

 それが不安なのか苛立ちなのか、修本人にもわからなかった。そして、何故今さらそう思うのかもわからなかった。

 自分の薫へのストレートな好意が、煮え切らない二人の関係に苛立ちを感じさせているのだろうか。

 はたまた、時折見せる叶の虚ろな表情が、修に不安を感じさせているのだろうか。

 一方で、自分に問題があるのではないかとも思った。二人は、いつも通り変わりがなく、自分が変わってしまったのではないのかと。

 考えれどもわからなかった。

 西通りの終端が近付く。T字の交差点を渡れば、ペンギンのマスコットが象徴的なディスカウントストアはもうすぐだ。

「あ」

「え」

 その時だった。

 修にとって、また叶にとって、そして優花にとって予想外の遭遇があった。

 学校指定のジャージのファスナーを首元まで引き上げ、ストレートのロングヘアを二つに結んだ少女が、こちらを認めて足を止めた。思わず、といった具合で漏らした声と不意の停止が、彼女の容姿と相俟って周囲の感心を引く。当然、修達も彼女を見た。

 反射的に、隣を歩く叶が声を漏らしていた。

「苺」

 雑踏の中、ほとんど口の中で発せられた叶の声を、修は聞き逃さなかった。叶の顔を見た時、叶を挟んで向かい側にいた優花が視界に映り込んだ。優花もその声を聞き逃さなかったようだ。

 その目が、大きく見開かれている。

「どうしたの?」

 苺、と叶が呼んだ少女の背後から、同じジャージを身にまとった女子高生が二人出てきた。全員、その手にディスカウントストアの黄色いレジ袋を持っていた。

 文化祭を直前に控えた高校は、修達の通う高校だけではなかった。

 動きを止めた修達の中で、誰よりも早く苺が動いた。友人と思われる女子の声にハッとした後、素早く動いた。

「お前――」

 開きかけた叶の口を、彼女は開いた手で乱暴に塞いでいた。

 流れるように叶の耳元へ口を寄せる。

 二人の距離に、修は親密さを感じずにはいられなかった。修は、二人の関係や事情を知らなかったから、そう感じずにはいられなかった。

 

 

 

「下手に喋らないでッ!」

 耳打ちをした苺の声には、緊張が走っていた。口を塞がれた叶は、二つに結ばれた苺の髪と整えられた服装、同じジャージを着た彼女の友人を見て、同じ緊張を得た。今は、喋らないことが苺にとって何より有利に働くのだと思った。

 苺の友人が、黄色い歓声を上げた。化粧っ気を感じない素朴な表情とどこか品を感じさせる所作は、正しく夢見る乙女だった。興奮に頬を上気させてしまえば、より一層そう感じられた。

「その人は誰なの苺?」

 その質問に対し、叶は咄嗟に優花の様子を伺った。顔の下半分を覆う柔らかい手の感触や鼻腔をくすぐるシャンプーの香り、叶に耳打ちをしたためにこちらによりかかる苺の体の感触を忘れ、一心に優花の様子を伺おうとした。

 だが、顔の真横に存在する苺の頭が邪魔で、優花は見えなかった。

「私、先に行ってるね」

 優花が走り出した。なびくセミロングは、猛烈に猛る荒波を思わせた。

「優花!」

 修が、その背中に呼びかける。悲鳴に近い声色だった。

 交差点の青信号を渡り始めた優花は、止まらなかった。

 修が、こちらに振り返る。目が合う。責めるような視線には、少なからず自虐の色が混じっているように思えた。

 ややあって、修は優花を追いかけた。点滅を始めた青信号を全速力で渡る。信号の切り替わりを控え横断歩道上の人通りが少なくなっていたとはいえ、修は器用に人混みを縫っていった。

 二人の背中を不思議そうな目で追う苺達。叶は、空中に向けられた己の手に気が付いた。何かを掴もうと伸ばした手は、虚しく虚空を掴んでいた。

 寂寥感とわけもわからず後悔が胸を襲う。

 逃げ続けたツケが回ってきた気がした。

 

 

 

 苺は、走り去った二人の背中に疑問を得た。唐突だったし、その様子が尋常ではないように思えたからだ。

 しかし、好都合でもあった。二人の後を目で追う友人達の注意が、自分達から離れている。その隙に、苺は再び叶に囁いた。

「アタシがなんとかするから、アンタは黙ってるか適当に合わせて! ゲーセンのことは、絶対伏せて!」

 何だったんだろうととりあえずの疑問を口にしながら、友人達がこちらを見る。その瞳が、まっすぐに苺と叶を捉えた。そこに先程の疑問は露ほども残っていない。全ての興味関心は、苺達に向けられていた。

「で、その人誰なの苺?」

 温室育ちのお嬢様だと苺は、自分を含めた母校の生徒を揶揄している。蝶よ花よと大切に育てられた生徒達の多くは、異性に免疫がない。そのくせ、恋愛事には強い関心を抱く。

 以前、ひょんなことから他校の男子生徒と付き合っていることが判明したクラスメイトは、そこからしばらくクラス中の感心を引いた。あの時は大変そうだと他人事に思っていたが、自分がその対象になるとは思っていなかった。

 そして、誤解をされた異性が、よりによって自分にとって都合の悪い友人になるとは思いもしなかった。

「ただの友達!」

 緊張と動揺の中で必死に言い訳を探す。悟られないように笑顔は崩さないが、自分より背の高い叶に耳打ちしたために密着させた体と叶の口を塞いだままの手に気が付いた。

 咄嗟に離れる。自分の迂闊な行為をはしたなく思う一方で、筋肉質な叶の体の感触を思い出し顔が熱を持ち始める。

 SNSに登録された家族以外の異性は、未だ叶一人だけだった。

 期待を胸に疑問を口にする友人を勝手だと思いながら、しかしこれ以上の言い訳は墓穴を掘るだけのようにも思えた。友人達の背後に周ってその背を押す。

「早く帰ろ? 質問には道中で答えるから!」

 早くこの場を離れたかった。友人の背を押している手には、まだ叶の口元の感触が残っていたし、体半分には叶の体温が残っている。恥ずかしさに耐えかねた。心臓が早鐘を打っていた。

「友達なんですか?」

 擦れ違いざま友人の一人が叶に問いかける。ふと、苺は、叶の返答を聞きたいと強く思った。

「ただの友達に決まってる。お前達が想像してるような関係じゃない」

 即答。

 冷たく言い放たれた言葉を最後に、叶が走り出した。交差点の歩行者信号が、青色に変わっていた。

 苺は、友人の背中を押すことを忘れて、走り去る背中を目で追った。通行人に危うくぶつかりそうになりながら賢明に走る背中に、理由も分からずむしゃくしゃした。

 期待していた答えが帰ってこなかったことに落胆している友人を、「言ったじゃない」と納得させる。苺は、自身の言の矛先に知らず知らず自分を含めていた。

 

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