機動戦士ガンダムEXVS InSert Credit(旧:掌のレバーと指先のボタンで、広がる世界。) 作:kaneda_02
全国のゲームセンターにて稼働中の大人気アクションゲーム。
機動戦士ガンダムシリーズに搭乗するモビルスーツを操作し繰り広げる2on2の対人戦が魅力。
大型アップデートや新作発売を続けて、十年以上続いてるすんごいタイトル。
ソーシャルゲームや家庭ゲーム機が普及・充実する昨今、その煽りを受けるゲームセンター業界において、根強い人気を誇る人気タイトルです。
執筆開始時(2023年4月)では、シリーズ6作目に当たるクロスブーストが稼働中。
●制作のノリ
本作は、執筆開始時(2023年4月)にアーケードにて稼働中の「機動戦士ガンダムエクストリームバーサス2 クロスブースト」をモデルに一部機体に「これがついてたら面白くなるんじゃないの?」と作者の妄想を追加されたものとなります。広い懐で受け入れてくれたら嬉しいです。
「で、その人達にゲームを教わってるんだ?」
ベッドの縁に腰を下ろした優花が、マグカップの縁を親指でなぞりながら言った。優花の背後の窓は開け放たれており、そこから入り込んだ風が彼女の毛先をふんわりと撫でた。
「そ、週一くらいの頻度で教えてもらってる。すごい強い人達だから、毎回ためになることばかりだよ」
フォークで掬ったチーズケーキを口に運びながら優花の疑問に応える。クリーミーで濃厚な味が、口内に広がった。
「ふーん。叶も教わってるの?」
優花が、風に拐われた毛先を指で耳にかける。熱を帯びた風が、初夏を感じさせた。
「ついでにな。お金のことがあるから、その人達のプレイを見てることの方が多いけど」
叶がローテーブルの上の勉強道具を片付ける。ノートと教科書を畳んで乱雑に重ねた修と優花に対し、一度テーブルの上に立てて端を揃える姿は彼の性格を思わせた。
「そっか。ゲーセンのゲームはお金使うもんね。修は? お金使いすぎちゃ駄目なんじゃないの?」
優花が、空になったマグカップをテーブルの上に置いて、代わりにチョコケーキが乗った皿を手に取る。試験勉強の労をねぎらうために、優花の母が出してくれたものだった。優花の両親はケーキ屋を営んでいるということもあって、昔から家にお邪魔するとその都度ケーキをご馳走してくれていた。
「問題はそこなんだよね。お小遣いの範囲でやってるんだけど、流石に物足りないからバイトでも始めようかなって」
最後の一切れを運んだフォークを皿の上に置き、修は床に身を投げ出した。手の届く範囲にあったハロのぬいぐるみを取り両手で持ち上げる。
「まさかバイトをしてまでエクバにハマるとは思ってもなかったな」
卓上のモンブランにフォークを差し込みながら叶が言う。ハロのぬいぐるみに左右から力を入れて、叶の口の動きを再現する。
「やってみたら楽しかったんだからしょうがないって。それに家の生活費に手をつけるより遥かに健全でしょ?」
なーハロ、とぬいぐるみに賛同を求める。当然、ぬいぐるみで作られたハロは、劇中のそれとは違い言葉を返さない。
ぬいぐるみを弄んでいると、横合いから伸びてきた手がハロを奪った。上体を起こすと、奪い取ったハロを眼前に掲げた優花が、数段高いトーンで声を出した。
「シュウ、バイト、ナニスルノ?」
機械的な声に思わず苦笑を漏らす。
「まだ考え中。母さんにまだ相談もしてないし。母さんに相談する時は、ハロも手伝ってくれるよね?」
壊れたラジオの様にドウシヨウと繰り返す優花が可笑しくて、修は声を出して、叶はくつくつと笑った。部屋の隅で首を回転させながら駆動する扇風機が、釣られて笑い出した優花の声も風に乗せて部屋の中を循環する。
「ま、バイトは良いとして、とりあえず中間テスト終えないとな」
ひとしきり笑い終えた後、空になった食器類を片付けながら場を取り仕切るように叶が口にする。
「だね。ノリさんにもテスト期間中はゲーセンくるな、って釘を差されたし」
「私も気持ちよく部活再開できるように頑張らないと」
三人はローテーブルに座り直し、ノートと教科書を広げた。
一学期の中間テストは、週明けに控えていた。
テストを終えた週末、修と叶は天神地下街を歩いていた。南北を貫く大通りの真下にある地下街は、日に日に暑さを増してくる陽光とは無縁の場所であるため、ひんやりとした空気に満たされていた。
南口から地下街に降りた二人は、休日の雑多な人混みに紛れて北上していた。
「今日はノリさんの知り合いがゲーセンにくるらしいよ」
修は、スマホをポケットにしまいながら隣の叶に伝える。先程、ノリから受け取ったメッセージの内容だった。
「その人も強いのか?」
Tシャツとニットベスト、チノパンといった出で立ちの叶が、Tシャツの裾を仰いでいる。真似をすると、陽光に湿った肌を外気が撫でて気持ちが良かった。
「じゃないかな。何にせよ、誰かのプレイが見れるのは嬉しいよ」
閉じていたカーディガンのボタンを外す。身体が暑いのは、気温だけが原因ではないように感じられた。
地下街を北上すること少々。左手側に見えた商業施設の中に入り、エスカレーターを昇る。西鉄天神駅と一体化した商業施設の一階に出た。そのまま外に出て、ゲームセンターに歩を向ける。駅周辺は混雑しており、その間を縫うように二人は歩いた。
テスト明け一発目の週末と久しぶりのエクストリームバーサスに、修は胸を踊らせていた。
ゲームセンターの地下一階。エクストリームバーサスのコーナーに到着すると、エクストリームバーサスをプレイする面々の中に、特徴的な一団が目についた。
恰幅の良い男と高身長の男の組み合わせは、遠目に見てもそれだけで目立っていた。
「ノリさーん!」
声をかけながら近づくと、恰幅の良い男、ノリが連れとの会話を中断しこちらに顔を向けた。人懐っこさを感じさせる表情が、こちらを捉えて破顔する。丸みを帯びたシルエットと相俟って、柔和な印象を抱いた。
その手には、食べかけの鯛焼きが握られていた。包み紙には、新天町入口にある鯛焼き屋の店名が刻印されていた。
「久しぶり! 二人共テストはどうだった?」
開口一番の問いかけに修は胸を張る。
「ヤマが当たりました! 多分バッチリです!」
「それ、胸を張って言うことじゃないんじゃないかな……」
ポリポリと頬を掻くノリが、次いで叶を見る。
「俺は問題ないです。しっかり解けました」
「それは良かった。学生の本分は勉強だからね。本分を疎かにしているようだったら、おじさん心配になっちゃうよ」
叶の返答に安堵の表情を浮かべたノリは、先程まで会話をしていた人物が修達に見えるよう半身を引いた。
「勉強を頑張った二人に彼等を紹介するよ」
ノリと退屈そうにスマホをイジるジンの奥には、二人の男がいた。
「初めまして、シュウ君とカナタ君だったかな?」
細身の男が笑みを浮かべている。肘の先まで捲ったシャツから露出した真っ白な腕は細く、胴体も薄い。線の細さは、華奢な印象を感じさせた。
「はい、そうです」
男の問に首肯する。
「君達の話はノリから聞いていたよ。ガンダム始めたばかりなんだってね?」
静かなトーンでゆっくりとした口調の声だった。
「三月末に始めたので、始めて二ヶ月くらいですね」
「そうか。ゲームは始めたばかりが一番楽しい。わからないことだらけだからこそ、日々多くの学びが得られるのは始めた時だけだからね」
細身の男は、隣で腕を組んでいた筋肉質な男の肩を持った。
「私はハルヒ。そしてこっちが――」
「シオだ。よろしく」
シオは、歯が見える程口角をあげた。照明を反射する歯は、驚く程真っ白で、ポロシャツの裾や胸元から露出した浅黒く日焼けした肌と相俟ってより際立った。
ハルヒとシオ。
華奢な男と筋肉質な男。
横に並んで立つ二人の外見は、あまりに対照的で修は暫く二人を見比べた。
「二人共、始めて二ヶ月とは思えない」
シュウとカナタのプレイを観た第一印象がそれだった。
どこか辿々しさの残る操作とはいえ、攻防の押し引きやバースト運用は、初心者ということを考慮に入れれば上出来と言えた。
シュウは、知識と判断力が凄まじい。マッチング画面で確認した対面の機体の強味と弱味を簡潔にカナタに伝え、端的に作戦を決める。作戦や知識に突っ込みどころがないわけではないが、始めて二ヶ月というバックボーンを思えば、大したものだった。
一方のカナタは、徹底した体力調整に目を向けずにはいられない。後方に下がりすぎて前線に弾が送れていない場面があるが、ラインの押し引きを感じ取り、後退を選択できるセンスは素晴らしい。
「でしょ? 立ち回りとバーストは、僕がひたすら叩き込んだんだから」
春日陽介、プレイヤーネーム『ハルヒ』の独白を聞いたノリが、そう自慢気に言った。
「粗がないわけじゃない。でもそんなものはこれから経験して培っていけばいい。とりあえずベタな部分じゃん」
シオが、試合を終えたシュウとカナタの間に腰を下ろし、先程のプレイについてアドバイスを送る。
陽介は、シオの説明に知ってか知らずか真剣に聴き入るシュウとカナタを見て、思わず笑みを浮かべた。
「なるほど、君が私達に彼等を紹介した理由がわかったよ。これからが楽しみな少年達だ」
「強くなると思うんだよね、二人共。それに僕だけの視点じゃアドバイスに限界があるだろうし」
頬をポリポリと掻くノリは、苦笑を浮かべる。陽介は、離れた筐体で一人黙々とレバーを動かしているジンを見やった。
「彼は?」
「ジンはこういうのむいてないよ。あいつはガンダムにそういうのは求めてなさそうだし」
ノリの言葉に嘆息しつつ、得心を得る。確かに、普段のジンを知っていれば、誰かのプレイにアドバイスを送る姿は想像できなかった。
「では、やがて対戦者として、ジンは彼等と向き合うことになるのかな」
始まった次の試合に没入するシュウとカナタを見る。前途洋々な二人の若者の横顔に、陽介は己の中に昂るものを感じた。
「その前に、…………私が彼等の前に立ち塞がろう」
「そう言って、戦いたいだけじゃないの?」
ノリのからかうような物言いに、陽介は笑みを浮かべた。
ゲームオーバーの文字を見届けて席を立とうとした。
「待ちたまえ」
呼び止める声は、修と叶、そして最後のプレイに対してアドバイス中のシオの動きを止めた。
「二人共、百円はあるかな?」
声の主は、ハルヒだった。静かなトーンには、どこか熱が籠もっている。
「…………あります」
質問の意図が読めず顔を見合わした修と叶。恐る恐ると言った具合で叶が返した。
「では、私と対戦しよう」
思わぬ提案に、二人は息を呑んだ。正面に立つ細身の男は、言い知れぬ気迫を纏っており、華奢な印象は消えていた。
「…………お願いします」
気迫に圧倒されそうになりながら、修は応答した。
「修…………」
叶の顔を見る。揺れる瞳が、修に意志を問うていた。
実力の分からない相手。初めて対戦する相手。使う機体もプレイスタイルもわからない相手。
しかし、ハルヒは、度し難いプレッシャーを放っており、その気配から並のプレイヤーではないことが感じられた。
負けるかもしれない。そんな予感がある。だが、対戦ゲームとは本来そういうものではないのか。自分が強くなれば強くなる程、上手いプレイヤーと戦う機会が増えていくのだ。いつかぶつかる相手であるならば、それが今でも問題ないはずだ。
「ここで戦わなかったら、俺はそのことをずっと頭の片隅に抱えたままハルヒさんと付き合っていくことになる。それは嫌なんだ。だから、頼むよ」
その瞳に頷きを返す。
叶の計り知れない胸中が、揺れる瞳の奥に渦巻いていた。視線を交えること数秒、叶は修の言葉に納得をしたようだ。一つ、小さな溜息をついて苦笑を返した。
「結構。私達は初対面だ。紹介とはいえ、初対面で実力のわからない相手に師事するというのも変な話だとは思う。そういう意味でも、この戦いには十分に価値があると私は思う」
こいつはまた、と呆れた様子でハルヒの隣に向かうシオ。修と叶に親指を立てるノリの前をシオが通る。
「しかし」
そのシオをハルヒは手で制した。
「私は手加減ができない。やるからには全力で行かせてもらう。が、初心者を嬲って楽しむ前衛的な趣味は持ち合わせていない。故に、私の相方はシオではなく、彼だ」
ハルヒは、鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべるシオをおいて、背後に立つ少年を導くようにして前に出した。
「え、え、え?」
気の弱そうな少年だった。
ただならぬ雰囲気に戸惑う少年は、修達の顔を順々に見やり、最後にハルヒを見上げた。
「え、な、なんだか話が違うんですけど」
「彼が私の相方を務める。実力的に、君達とほぼ遜色ないだろう」
少年の戸惑いなど意に介さず、ハルヒは筐体に座る。修の隣の筐体だった。
取り残される形となった少年は、状況が飲み込めていないようで、筐体に座ったハルヒに非難の目を向けていた。
一体全体少年が何者なのか、どういった経緯でここに連れてこられたのか、その一切が不明であったが、オロオロと立ち竦む姿に修は申し訳無さを感じた。
「えっと、俺はシュウで隣のこいつがカナタ。君は?」
修の問いかけに、少年はビクッと身を竦めた。挙動不審ではあるが、年は近いように思えた。
「ぼ、僕はト、トンボです。ゲームしてたらこの人に声をかけられて、一緒にやらないかって。やりますって言ったけど、き、君達と戦うとは聞いてなくて」
年の近い修と叶に安心したのか、トンボと名乗った少年は詰まりながらもそう応えた。声が震えていた。
「トンボ君、座りたまえ」
ゆったりと、しかし気迫の籠もったハルヒの声にトンボが短く悲鳴を上げた。
「なんか……ごめん。無理なら今から断ってくれても良いよ。でも戦ってくれたら俺達は嬉しい。な?」
良心の呵責に耐えきれず修はそう言った。しかし戦いたいというのも事実であったために、対戦のお願いをした。間接的に隣の叶に確認を行うと、叶も苦笑をしつつ頷いた。
「…………わ、わかりました。一回だけなら」
相変わらず声は震えていたが、トンボは筐体に座った。
それを見届けて、修と叶も座り直す。
ハルヒが、捲っていたシャツの袖を一度下ろす。シワを伸ばした後、ハルヒは再び袖を捲くり直した。
丁寧に慎重につつが無く遂行される所作は、どこか儀式めいていた。
「では、始めよう」
袖を捲り終えたハルヒの号令に、四人は百円を筐体に投入した。