霧と闇が、頭の中を覆っている。
その中で閃く断片が、記憶だ。
濃い記憶、強い記憶、苦い記憶。
それらが踏み砕かれたガラスのように、魂の内側でで閃いては接続と切断をくり返す。
あの人が、くれたものだ。
記憶も、言葉も、知識も、技術も。
そして命も。
そしてそれが、自らの腕の中で失われていく冷たさも。痛みも。
「おやっさん!?」
意識の浮上とともに起き上がったレフの額が、晶斗の額と激突する。
「この痛みは、なんか違うヤツ……っ!」
互いに悶絶しながら、半覚醒のレフは我ながら不明瞭な嘆きを漏らした。
「なんなんだよ、クソッ……」
若干情けなく声を裏返らせつつ、晶斗は毒づいた。
「なんなんだはこっちのセリフッ、あんな妙に接近してる方が悪いっての」
「人の苦労をよそに、お前が寝こけてやがるから、ケリの一発でも入れてやろうとしたんだよ」
「寝こけて――眠っていたのか。僕が」
「他に何があるんだよ」
だが邪険に思っているだろう依頼人をあえて起こすとなれば、理由は一つしかない。
「できたのっ?」
「あぁ、一応な」
晶斗が死角より取り出したのは、半身を取り戻したドイルドライバーだった。
「さっすが」
飛びついたレフは、あらためてまじまじと凝視する。
だが、その姿形は、自分の知るそれとはわずかに異なっている。
錆びた、というよりかは寂びた色味となっているし、左サイドにはL字状の導管が取り付けられていたはずだが、代替パーツは直角ではなく歪曲していて、Jの形のようだった。
「なんか、ちょっと違うね」
「贅沢言うな。無から設計図書き起こしたんだぞ。それ以上に動力部には不安が残るが、試運転の余裕さえない」
そうは愚痴をこぼすものの、懐中より時計を取り出して確認してみれば、想定されていた時刻より早くには仕上がっていた。
「もう少しギリギリかと思ってた」
「あぁ、薄気味悪いぐらい、原料の在庫が揃ってたからな。パーツもうちのもので大体が流用可能なものだった……まさかお前、それがハナから目当てで俺に当てをつけたのか?」
「……それこそ、まさかだよ」
肩をすくめて立ち上がろうとすると、自らの上体からはらりと毛布はこぼれ滑り落ちた。
自覚はなかったが、纏われていたらしい。
「あれ、これって」
「さっさと行くぞ。早く仕上がったつっても、遊んでるヒマはねぇ」
早口でそう言うや、晶斗もまた膝を伸ばして立ち上がり、背を向けた。
ちいさな探偵は簡単な推理のもとに、目を細めた。ようやく、どうして彼があそこまで接近をしていたのか、把握した。
「――やっぱり、似ているよ。君たちは」
だからこそ、あぁいう
思わずこぼれた独語。そのうちに帯びた繊細な感情の響きをそっと自らに留め、毛布の縁を指先でなぞり上げた後、レフは彼の後を追従したのだった。