火の粉のように散らされたエネルギーは、スタンバイサイドのレンズの中へと吸い上げられ、炎の色と形を成した。
工藤の方から悲鳴が上がる。
彼の手にしていたレンズは逆に、みるみるうちにその妖光が抜き取られ、そして手の中で
「な、なんで……!?」
目を白黒とさせる工藤は、自らの指先から零れ落ちるガラス片を、必死にかき集めようとしていた。
「無駄だ」
そう断じたレフは、二つのレンズをバックルから抜き取り、人間に戻った。
「サラマンダーを鎮静化させ、そのコントロール権限を君から奪った……『彼』はもう、自由だ」
そう嘯いて見せびらかすのは、先まで
そこにはサラマンダーが四本の手足をついて、『H』の形をとったシンボルマークがレンズに映し出され、工藤の所持していたもの鮮やかな色味と大人しめのデザインのフレームに収められている。
「な、なんなんだよ……お前ら!? 一体オレどうする気だ」
「さぁて、サツが来る前に一発ブチ込んでやっても良いが」
「いやいや、やめなさいよ。つか、その短絡的かつ暴力的行動が、今回の騒動の一因って自覚ある?」
「……冗談だよ」
と言いつつ、半ばは本気だった。
だが最大の功労者は、この自称探偵小僧なわけで、その目が呆れたように否定的である以上、その意向を優先させる。
……そもそも、さっきまでの優越が嘘のように、腰が抜けた格好で後退りするようなチンピラなど、殴る気も萎えるというものだ。
だが、
「まさか、テメェらがタケやミノルをヤったのか!?」
その工藤は、妙なことを口走った。
「……あ?」
晶斗は眉を歪めた。
思えばその怯えようは、単純に力を喪った、というだけでは説明がつかない。そこに、何かしらの誤解と齟齬が生じていた。
その訳を問おうと二人が近づくと、
「く、来るな! 来るなァ!!」
早合点とは言え。必死さの成せる技か。立ち直った工藤は、そのまま転身し、脱兎の如く出口へと駆け出した。
「おい!」
追尾する晶斗だったが、レフは、
「待て、外に出るな!」
と声を荒げた。
止まりきれず晶斗が出口に出ると、そこには異様な光景が広がっていた。
――空が、黒い。
早朝に出たはずだった。にも関わらず、すでに夜の帳が下りている。
それが自分の正気が失われたわけではないことは、同じく足を止めて唖然としている工藤を見れば瞭然だ。
夜とは言っても、一転の星もない。
そしてなまじ闇であればこそ、察知してしまう。
濃い血の匂いを、そこに倒れ伏した、チームのメンバーとおぼしき男たちの姿を。
「そう言えばあいつら……連絡つかなくなる前……月が、どうとかって」
言いさした工藤だったが、その隙だらけの彼に、遠くから何かの光が、弧を描いて飛んできた。
その光に触れた彼の喉輪が、血を噴いた。
言葉もなく、どうと倒れ伏した彼の傷口からは、ひゅうひゅうと鬼の哭き声かとさえ想われる、物悲しい呼吸が漏れていた。
何が我が身に降りかかったのか分からないままに目を剥き、四肢を痙攣させてこそいるが、それはあくまで肉体に遺された反応に過ぎない。すでに事切れている。あの遠くからの光……否、斬光によって、一撃で絶命させられていた。
そしてその出処を目で追えば、向かいの建物の屋上に、異形の人影があった。
この闇夜の中でも一目で尋常の存在でないと分かる、黄金の
仮面ライダー、という代物とは違うと本能が訴えてきている。
――だがそれでも、血振るいのごとく手にした片刃の曲刀を薙ぐ姿は、人間の、それだった。
その人狼の頭上に、あり得るはずのない三日月が、妖艶な光を湛えていた。
Next
突如現れたフェアリー、ライカン。
だがその剣術は熟達の技量であり、その変幻自在の太刀筋はシャルロックを追い詰めていく。
辛うじて撃退に成功したレフだったが、そこに刃藤法花率いる警官隊が駆けつけてきて、追跡は出来ず事は有耶無耶となる。
だがレフはどこか浮かない表情。訝る晶斗に、ライカンは人と融合する特異なフェアリーだ説明する。
つまり、あの怪人の中には紛れもなく人間がいて、殺人に手を染めていると。
戦力増強のため、シャルロックの武装の修復を追加依頼された晶斗だったが……
第2話「ヒートでハードでワットなライダー」