仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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第2話:ヒートでハードでワットなライダー
1.荒ぶる剣光


 その夜は、唐突として降りてきた。

 その月は、突如として登った。

 そして月下に怪物は前触れもなく姿を見せ、躊躇いもなく、人を殺害した。

 

「ニイちゃん、いったい何」

「来るな! 見るな!」

 

 顔を覗かせようとする楓を制止して、後ろへ追いやる。

 初めて間近で見た、聞いた、嗅いだ人の死。

 晶斗自身、こみ上げる吐き気を堪えるのに必死だった。

 

 さらなる動揺を強いるように、向かいの建物の上に居たその獣の剣士が、超人的な跳躍力でもって、一拍子のうちに彼の前へと降り立った。

 

「……お前は、裏口から逃げろ」

 辛うじてそう伝えた彼は、素人なりの構えを取ってそれと対峙する。

 

 だが先に容易く工藤の喉を裂いたにも関わらず、その黄金の剣士は晶斗にはその刃を振るうことなく、ただ威圧感だけを発し続ける。

 何かの思惑があってのことか。いや、そもそもコレの目的とは、なんだ……?

 

「和灯さん!」

 そこでレフが飛び出した。

「変身ッ」

 レンズを再装填。光と風は再び探偵を守護する力となり衣となり、再び異形の姿(シャルロック)となるや、晶斗たちの間に割って入る。

 

 転瞬、その狼が動いた。半身を捻り刃を翻し、飛びかかかったシャルロックを迎撃する。

 

「っぶね!」

 慌てて空中で方向を転換して避けんとするも、曲刀の切先がレフの身をわずかになぞり上げた。鉄音とともに火花が散った。

 晶斗には脇目も振らず、不時着したシャルロックにさらなる追い討ちを浴びせかけんと刃が躍動する。

 

 だがレフは、身を地に伏せたまま、右脚を突き出してその太刀筋を弾きつつ、次いで左脚でもって、敵の狼面を狙った。

 紙一重、それをかわす人狼。返す刀は速い、鋭い。逆に足首ごと切断せんと狙う。

 

 レフはその手首を脚で挟んで抑え込みつつどうにか敵の身体と得物を切り離さんと苦闘していた。

 と同時に、相手ともつれ込みつつ逆立ち状態で戦っていた自身の体勢をやや強引に持ち直した。

 

 敵の目方は、成人男性よりは細く、だが頭一つは抜けている高身長である。

 それでも、トカゲ(サラマンダー)の体躯には遠く及ばず、また火力や威圧感は感じられない。

 

 だが、思考がある。技術がある。明らかに荒事に場慣れしている熟達がある。

 まだフェアリーを三体程度しか目撃していない晶斗ではあったが、誰が一番脅威に思えるかと問われれば、明確な殺意を込みで、この目の前の剣術遣いを挙げるだろう。

 

 その応酬を傍目から見ていた晶斗は、違和感に気づいた。

 一目すればその異常さは容易に気づけたはずだが、狂気に狂気を重ねたこの状況が、いつの間にか正常な観察力を奪っていた。

 

 ――剣筋が、残っている。

 振り抜いた一閃。外した一太刀。あるいは衝突して散った斬光。

 

 それらが、なおもその場に居残っている。

 残像が網膜に刻まれるほどの速攻ということか。

 

 ……違う。

 工藤は、どうやって『斬られた』?

 

 見れば、気がつけば、その斬撃群のの中心点に、シャルロックは誘い込まれている。

 

「バカッ、罠だ!」

 気がつき、声を張ると同時に晶斗は駆け出した。

 チンピラが凶器として持ち込んでいただろう鉄パイプを手に掴んで。

 

 その接近を気取った怪人は、逆に自身の方から彼へと駆け寄り、そして蹴り飛ばした。

 

 と同時に、四方の剣閃は突如として向きを転じ、交錯する。

 吹き飛ばされた晶斗の鼻先を、その刃風が掠めた。

 

「和灯さん!? ……くっ!」

 だが晶斗の特攻の甲斐はそれなりにあった。

 怪人の注意は引けたし、シャルロックへの『被弾』も軽微なもので済んだ。

 それでも、一斬でさえ超人をして地に臥すだけの威力はあったが。

 

『大人しくしていれば良いものを……余計な真似を』

 そしてあろうことか……怪人は、正体のわからないほどハウリングがひどくかかっているものの、明瞭な日本語で吐き捨てた。

 その声を聞いた晶斗の脳裏が、理由も分からないままにひりつく。

 

「たく、ムチャしてくれちゃって」

 と、怪人に同調するかのようにぼやいたレフだったが、今すぐに体勢を立て直せたのは誰のおかげかと問いたい。

 

「これ以上、和灯さんには苦労はさせられないかなっ」

 と嘯くや、探偵はレンズを抜き取った。

 諦めた。変身解除。否……その右手には、すでに工藤から吸い上げた、あのフェアリーレンズが収められている。

 

〈サラマンダー!〉

 

 それのフレームをずらして取り換えると、そのレンズから這い出るように現れたのは、焔まとう鉄のトカゲ。

 工藤の使役していた時とはそのサイズは二回り以上スケールダウンしているものの、それでも大柄と言って良い体格のそれは、高く跳躍してシャルロックの頭上に、そして火を噴いて後霧散する。

 だがその熱はその矮躯を焼くものではなく、鎧う装甲の半身を変形させ、紅く色づかせるもの。

 

〈Joker invited you "Shall we open the lock in the heat?"〉

 翠の風とページのイメージから一変。その右側のみ、渦巻く焔と、その中で焼ける紙片(ページ)の意匠に変わる。

〈Kamen Rider Shalllock Heat logic〉

 

「この熱さで、一気に乗り切らせてもらう!」

 仮面ライダーシャルロック ヒートロジック。

 断片的にその節を替えた祝詞と共に、換装(フォームチェンジ)――

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