――仮面ライダー。
素顔を仮面で覆い、人知れず暗闘を繰り広げる戦士たちに通称。
口伝てに、あるいは公にして。
種を変え品を変え、その道に通じた人々の間では広く知られた存在。
「……で、集積したそうした都市伝説のアーカイブを参考に、ドイルドライバーはシャルロックをデザインした……とそこまでは分かる」
「……分かんねーのは、お前だよ」
「え?」
「つか何でいる!? 何でフツーに
すっかり陽の落ちたアトリエの中、カウンターで隣同士。
キョトンと目を瞬かせるレフへの、晶斗の苦情が谺する。
「しょーがないじゃん。『後日あらためて事情聴取するから、しばらくこの街に逗留するように』って、刃藤刑事からのお達しだし。君だって監視を任せられた身だろう?」
「だからって、ホテルぐらい用意しろよ」
「いや、泊まるお金ないし」
「本当に修理代払うアテあるんだろうなぁ!?」
ずいぶん可愛らしいデザインのキャップ付きの寝巻きを身につけ、異形の人物たちにまつわるスクラップや写真などを貼りつけたコルクボードに寄りかかる華奢な若者が、到底その都市伝説と同じ存在だったとは、目の前で目撃しても信じがたい。
「で、要するにお前はその正義の味方のお仲間、て訳か」
「正義……とても曖昧で繊細な定義だ。でも野心を持ち、犯罪を繰り返すライダーいるからなぁ」
「……何か特殊な体質とか」
「そういう人が大半だけど、ただの人間でもなれるライダーシステムもある」
「…………『ライダー』ってからには、バイク乗るとか」
「いや、乗ってる方が稀な気がする」
「じゃあ何なんだよ仮面ライダーって!?」
形も違えば装備もまばら。挙げ句の果てにどう見ても奇怪なバイク以外なんでもない物体さえ映っている。
「曖昧な線引きしやがって、そういうのが一番腹が立つ……っ」
「まぁまぁ、そこはさ、和灯さん感覚派っていうのなら、ざっくり呑み込んでもらって」
と、本人もそういう認識はあるのだろう。口をもごつかせながらそうフォローを入れつつ、
「でも、そういう不確かなものだからこそ、同じく曖昧な存在である妖精と相性が良いんだろうね」
「いや、そうでもねぇだろ……」
「良いんじゃないかな。自分が誰かを、そして自分をライダーだと思えばライダーなんだよ」
えらく強引な総括をされたと思うものの、そこを追及したとしても無為だろう。
それよりも目下の不穏分子に、意識を傾けるべきだろう。
「そのライダーとやらはどうでも良いが……工藤を殺したヤツ、ありゃ一体なんだ?」
「おそらくは、『ライカン』だ」
「らいかん?」
元となった
ギリシャあたりが発祥だと、父親からの受け売りだが記憶している。
「その名の通り、奴は人と狼の融合体。エネルギー化したフェアリーが、人体の神経と結合。反射速度、肉体性能の向上だけじゃなく、体内のエントロピーを増大させ、本来ならありえない現象を引き起こす。そういうタイプ」
その説明で、やけに理性的だったその攻め口にも納得がいく。
所謂『中の人』がいたとすれば、攻撃の精度は格段に上昇するだろう。
――本当にそうか?
その説明だけでは、わずかにしこりが残る自分に、晶斗は戸惑った。
そのしこりが、痛みとなって彼の前頭葉を襲い、思わず額を抑えた。
「和灯さん?」
「……そもそもなんだって、怪物を生み出すような代物が、この田舎に流れて来ている?」
心配そうに顔を除くレフに対し、衝いて出たのは別の問いかけ。
唇を薄く結んで身を退いた探偵は、
「一年前、この西側の海域、そこに浮かぶ孤島には、『人工精霊』の技術開発を専門とする実験施設があった」
と語り始めた。
「そこで、大規模な爆発事故が起こった」
「そのせいで流出した、と?」
「いや、事はそう単純じゃなくてね」
ボードを伏せて立ち上がって、背を向けつつ、レフは続けた。
「人的被害は一人の死者と複数の軽傷者を出しただけで済んだんだけど、施設の破壊は甚大だった。だから当時のCEOは悪名高いさる『財団』に技術提供を条件に多額の資金援助を取り付けたわけなんだが……それを良しとしない技術顧問、
「本末転倒だな」
端的で辛辣な評価を下した晶斗に、複雑そうに横顔を歪めて何も言わなかった。
「で? 『シルフ』使ってライダーになってるお前も、それの関係者ってか?」
「……そうだよ」
短くも重い沈黙を間に置いて、レフは頷いた。
「だから、他に『レンズ』の悪用が行われていると知った以上、その事件を解決しない限りはこの街を離れるわけにはいかなくなった」
そう言うと、探偵はテーブルの上に円筒のようなものを、鉄音とともに置いた。
「だから追加注文でこれの調整お願いします」
「……すまん。早口で言われて聞こえなかった。なんだって」
「この『ハードボイルドライバー』を、うまい具合に調整してください……」
「目ぇ見て声大きくして言ってくんねぇかなぁ!?」
「分かってる! そりゃあもう、図々しい
ほぼ逆切れのような調子で、レフは返した。
「でもさでもさぁ、もし彼女と戦うってなったら今の装備だけじゃ不安だし、一人だけじゃ心もとないし。でもそのためには、今のコイツじゃ出力が不安定すぎる。少なくとも、『サラマンダー』とマッチするように安定させてほしいんだ」
「オメーの都合なんざ知ったことか! ドイルドライバーの修理代も払ってねぇだろうがッ!」
「そこはホラ、正義への奉仕活動と、あぁ、あとご飯も作ってあげただろ? それで上手いこと帳尻ついた感じでさぁ」
「正義でメシが食えるかっ、つか冷凍タコ焼きチンした程度で帳消しになるかボケ!」
「とーもーかーく! どっちもお金は後々どうにかするからさ、一つ頼まれてくれよ」
と一方的にドライバーと紅蓮のレンズを押しつけて、自身は割り当てられたというより勝手に借り住まいしている部屋へと踵を返した。
「あぁ、でも」
その手前で足を止めたレフは、ふと思い至ったかのようなニュアンスで、だがトーンを落として、
「……別に、急ぎじゃなくて全然良いから」
そう、言い残したのだった。