――犯人は、お前だ。
そう指弾するレフは、その浮世離れしたような外見も相まって、推理小説というよりかは、子供向け探偵アニメのキャラクターのようだった。
だがそれを嘲ることなく、手向けられたのは惜しみのない拍手。
それ以上ない、肯定と自供のジェスチャー。
「いや、さすがは探偵君だ……それとも、仮面ライダー君と言った方が良いのかな」
「この程度で貴方の意表を突いた、とは思ってませんよ」
いつでも変身が適うよう、裏手にドイルドライバーを忍ばせつつ、レフは苦笑を浮かべた。
「だって貴方は、いつか気づくであろう僕を始末するために、捜査協力と偽ってここに呼び寄せたのだから」
「……」
「でなければ、現職の刑事であるはずの貴方が、あそこまでボロを出すはずがない」
「参ったな、そこまでお見通しだとは。予想外の察しの速さにも驚きはしたがね」
そこでようやく、刃藤刑事の顔から余裕が剥がれた。
遊泳する鮫のように、どうにかしてレフの背後に回り込もうとする彼女に合わせ、レフも体の向きをずらしたり、目を配ったりして応じる。
「――何故です、刑事? あの和灯さんが心開くほど誠実で高潔な警察官が貴方だったはずだ。それがどうして、こんなマネを」
「その理由は、君も良く知っているはずだ。私と同じ力を使う、君も」
言葉に釣られるかたちで、レフは翠色のレンズをその手に握りしめた。
応じるかたちで、刃藤はくすんだ黄金色の、狼の顔がL字型にシャープに刻まれたレンズをコートより引き抜いた。
「いずれより多くの人々が、咎人たちがこの魔性の輝きに気づき、そして虜となる。この街は変わる。再興都市から煉獄へと。ならば、それを裁く側も変わらなければならない。ただ守って吼えるしか能のなかった番犬から、自ら動いて敵を狩る猟犬に」
〈ライカン!〉
その手に握られた逆毛を立てるがごときデザインのフレームをなぞり上げてずらすと、その隙間から同じ毛並みと毛色の、巨躯の狼が飛び出た。
それが刃藤の背に回ると、頭から彼女を呑むようにして覆い被さる。
妖光とともに狼が融ける。女刑事の肉体や衣服に吸い込まれ、怪異そのものへと換えてゆく。
憶えのある怪物。正確には人とフェアリーの融合体で、あえてその誤謬を承知で呼称するのなら、ライカンフェアリー。
歪み切った騎士の姿に、奥歯を噛んで
「その姿で同じことを……和灯晶斗にも言えるのかッ!?」
レフは、吼えた。
「黙れッ!」
やはりその名は化物と成り果てた彼女にとっても琴線であることに変わりはなかったらしい。
手の中に生まれた曲刀が、横に薙ぐとともに閃光を飛ばす。参拝者のための長椅子が、それと触れた瞬間、轟音とともに切断された。
自らがそれと同じ運命を辿らないよう、転がって回避しつつ、扉を開けようとする。
だが、彼女が閉じたその戸は、どれほど力を込めても動かない。
ステンドグラスの向こう側で、夜の帳が落ちている。不気味な月光がなみなみと湛えられている。
おそらく、工場の時と同じ。周囲からこの空間がまるごと隔絶されている。
そして、『チーム獄炎』のリーダーも、病室をこうして切り離され、そして喉を切り裂かれた。
二の太刀が、間を置かず飛んできた。
〈シルフ!〉
その刃自体と、閃光の合間をくぐり抜ける過程においてレフは、ドライバーを自らの腰に、そのドライバーにフレームを解放したレンズをセットしてスタンバイフェイスに入る。
(あぁ、ダメだった)
と、自らの無力を嘆きながら。
彼女は、
『サラマンダー』遣い、工藤がそうであったように。
非正規に精製されたフェアリーレンズを多用すれば、ユーザーは解放される精霊たちの粒子と多分に接触することになる。
それが神経系に侵入すると、大脳辺縁系に達して情緒面を刺激する。かんたんに言えば、その人物の負の面を増長させる。
こと、彼女のように融合タイプを使えばその可能性は格段に高くなる。
だがそれはライカン自身の意思でもない。ただそういう性質のもとに、生まれて来てしまっただけだ。
(なぜ、誰も彼も精霊を悪用し、乱用する? どうして、人とフェアリーは寄り添えない?)
レフの中に苛立ちが募る。
これではまるで、
――我々が生み出してしまったモノは、精霊などではない。人々に厄災をもたらす悪魔だ。
そんなはずはない。人を狼に変えるのではなく、本当の意味での融和はきっとある。
その決意のもと、散らばる木片の中でレフは飛び出した。
両の腕を舞わせるように切り返し、その動作の中でレンズをアクティブサイドへ。
「ごめん。和灯さん」
刃藤の正体に感づきつつも止められなかったこと。そしてこれから彼の母とも言える彼女を傷つけること。
それらを短く重く詫びてから、
「変身ッ!」
苦渋の表情を翠風の幕と、左右非対称のマスクとモノクルで覆いつつ、仮面ライダーシャルロックは人狼へと飛びかかった。