仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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7.覚悟の疾駆

「……」

 和灯晶斗は、『鋼の本棚』にてパイプ椅子に腰かけて、せり出した作業机の上を眺めた。

 

 修繕のための器具が散乱し、まるでそれら鉄器の王として君臨するかのように、件のデバイス『ハードボイルドライバー』が鎮座している。

 

 実のところ、最終調整まで済ませている。

 ――しかも、余計な機能(もの)まで付け足して。

 

 あくまでシャルロックの補助機として運用することを考えれば、それ自体は過ぎた力、屠龍の技というものである。

 だが、サラマンダーの、シンプルであるがゆえの火力に適合するように、というリクエストであれば、その猛威を受け止めるだけの拡張をせざるを得なかった。

 

 ――ほんとうに?

 

 そもそも、確実に実入りなど期待できないような仕事に、そこまで打ち込む必要があったのだろうか。

 職人としてのプライドがそうさせた。いや、何かに取りつかれたように、寝食を忘れてのめり込んだのだ。

 

 それは使命感からか。あるいは……逃避願望か。

 何に対してのか。

 

 ふと嫌な予感が過ぎ、益体もない憶測が浮かぶ。

 

「……署内のデータベースへアクセスして検索。工藤陽介の死亡事件以降の、市内と斬殺事件の被害者リスト。……そして、それらとうちの名簿を照会しろ」

 

 と、その部屋の補助AIに肉声で命じる。

 頭がかすかに痛む。思い出せと自分の内部から刺してくるものは、今日にいたるまでの記憶の断片。

 

 狂剣士の太刀筋。

 自身の功撃を台無しにしてでも庇うかのような、晶斗にくり出されたあの後ろ蹴り。

 警察官、何より本来の彼女らしからぬ、人質、山村楓への無関心。

 人に戦力強化を依頼しておいて、急がないというレフの言動の矛盾。

 そしてその際に、あの探偵は何と口走ったか?

 

『もし()()と戦うってなったら今の装備だけじゃ不安だし、一人だけじゃ心もとないし』

 

 ――すべてが繋がると同時に、反射的に彼の手は机の上を大きく横に殴りつけた。

 自らが引き起こしたけたたましい音が、さらに彼の脳を締め付ける。

 俯いて額を押さえつける。息苦しさにあえぐ。

 

 その彼の推測にウラを取るかのように、虚空に検索結果が浮かび上がる。

 殺されたのは、刃藤法花が挙げた病院内のリーダーだけではなかった。

 彼女に貸し出した名簿に押さえてあった『チーム獄炎』メンバーが、それに先んじて殺害されていた。

 

「まさか……まさかっ!?」

 

 そんな自らの嘆きを、晶斗は欺瞞と嫌悪した。

 知っていたはずだ。気づいていたはずだった。おそらく、最初にあの敵と邂逅した段階から。

 

 にも関わらず、その事実から目を逸らし、口を噤んだ。

 その結果、たとえ町の悪漢だとしても、死なずに済んだ命が奪われた。

 

「どいつも、こいつも!」

 

 そしてレフは先んじてその事実のために動いた。

 会ったばかりの晶斗を憐れみ、気遣い、不利を承知で万端ならざる状況で、あの刃藤に挑みかかっているはずだった。

 

「……」

 晶斗の腕が暴れ、乱雑に工具などを床に散らした机の上には、例のドライバーと、そして紅のレンズが奇跡的に残っていた。

 何か道を示すように、あるいは何か非道な決断を示唆するように。

 

 いずれにせよ、晶斗の選択は変わらない。逡巡の余地はない。

 それらを引っ掴んで、修理屋の青年は飛び出した。

 

 そして通りに出ると、レフの、シャルロックのバイク『マシンドロンパー』が停まっていた。

 スタンドも倒さず自立し、駆動音を轟かせて準備を整えて、晶斗を待っていたかのように。

 

「――ご主人様のピンチ、ってか?」

 

 刃藤の正体を秘すために晶斗を遠ざけたレフの意思とは思えない。

 おそらくはこれを作った人間の設計思想にもとづいて搭載された、補助人工知能の危機判断能力によるものだろう。

 

 だが同時に、最後通牒にも思えた。

 

 ――これが、最後の一線だ。

 ――乗れば君は、後戻りはできなくなる。

 

『……変わる必要が出てくるものだ。晶斗、今は分からないだろうが、お前もいずれは』

 

「くだらねぇこと、訊くんじゃねぇ」

 

 幻聴に、過去の刃藤からの脅しに、そして何より自分自身に喝破を入れて、晶斗はマシンにまたがって、アクセルを回して急進させた。

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