もう何度目の交錯か。
機動と迎撃の戦いである。
変動する斬撃に追われながら、シャルロックは一時も足を止めずライカンの側背を狙い続け、ライカンこと刃藤は、ただその場からは大きく動かず、転変する太刀筋のみで対応する。
戦いにおいて、相手の周囲を巡るのが格下だというのが定説だが、全てのケースがそれに当てはまるわけではないだろう。そう、思いたいところだ。
ただ実際に、状況は静と動とで拮抗している。互いに決め手に欠いたまま、着実に削ることに腐心する。
その過程で、目が彼女の斬撃に慣れてきた。
変則的なベクトルで動き回る斬光においても、相手に明確な思考や思惑があると知れれば、ある程度読むことはできる。
自らが引き起こした風に乗り、宙に我が身を翻す。
相応の被弾と、それに伴うダメージは承知のうえ。それに怯まず加速して、シャルロックは強引にライカン目掛けて特攻を仕掛けた。
確実に仕留められる切り口、タイミング。それを見定めて必殺の一撃を叩き込まんとしたレフだったが、地表の彼女に変化が起きる。
「温いわッ!」
咆哮とともにその像が、大きくブレた。残像。否。明確にライカンは分裂して左右に分かれたのだった。
一度は定めた目標が分離したことで、レフは軟着陸をせざるを得ない。
最上のポジションと一手は、分裂したライカンたちのちょうど中央という死地へと変わる。挟撃にむざむざ我が身を晒す悪手へと変わる。
二刀が直撃したレフは、苦悶の呼吸とともに地上に転がった。
(幻影……いや、両方ともに、実体!)
追い立てられながらレフは、その手応えで判断する。
形勢は、大きく彼方に傾いた。
その姿が割れたからと言って、個々の勢いはいささかも遜色がない。同程度の鋭さと切り込みと、老練にして変幻の剣技が、あるいは上下に、あるいは左右から、シャルロックを挟み込んで、今度は一跳びの余裕さえ与えない。
相性の良さもあるのだろうが、まさかここまでライカンのポテンシャルを引き出せるとは。
こうなってくると想定と違う。手数も火力も足りない。
やはり、ハードボイルドライバーの完成を待つべきだったのか。そう考える己の弱さを、振り払う。
本末転倒も甚だしい。和灯晶斗をこの残酷な真実から遠ざけるために、あえてそうしたのではないか。
よしんば後々知ることになったとしても、その時残っているのはレフのみ。
それ以上は問題ない。怨むのなら、存分に己にぶつける気でくれば良い。
……それぐらいの覚悟はして
(まぁ、それより先に彼女に勝てるかどうかさえ怪しくなったわけだけど)
そう、マスクの奥底で苦笑をこぼすレフであったが、強化された知覚が、その空間の外に在る気配を感じ取った。
そしてそれは刃藤とて同じだった。
ふと二振りの剣筋は停まる。
ガン!
……と。
けたたましく音が鳴る方向へ、三体……もとい二人は、顔を向ける。
隔絶された空間。そこに破壊的な音と共に加わる負荷、衝撃、そして熱波。
音の感覚が短くなっていく。より力任せで暴力的な質のものへとなっていく。
やがてそれがピークに至った瞬間、人智の及ばぬ力で封鎖されていたはずの修道院の扉は、内側に吹っ飛んで敵味方の間に落下した。
「……頼まれもしない世話、焼いてんじゃねぇよ」
もうもうと銃口を煙らせるハードボイルドライバーを手に握りしめた和灯晶斗は、本物の陽光を背に、吐き捨てるように言って姿を現した。