その自称探偵の子どもが取り出したのは、完膚なきまでに破壊された装置だった。
サイズ的には片手で持て余す程度の代物。
だが焼き切れて剥き出しになった無数の回線の束が、本来の機構の複雑さを初見からして想起させる。
まして、形状の異質さたるや。
大部分は焦げて塗装が剥げ落ちているが、残骸から察するに、何か検査器具のようでもある。両サイドに円形の何かを当てはめるためたバックル。中央にはメガネのツルにも似た留金。
(視力でも診るモンか)
などと一瞬想ったとしても、別に見当はずれと嗤われることはないだろう。
全体的に抱くイメージとしては、スチームパンク的な造形とカラーリング……もっとも、これは大破した時点から見たがためだろうが。
そして残された箇所の多いバックルは……アルファベットの『W』を想起させた。
「なんだこりゃ」
「ドライバー」
「……なんの?」
「変身するための」
だから、それとかけ離れたこの突拍子もない答えに、彼はしばし固まった。
「この『ドイルドライバー』は、今から一年前にある事故が原因で破壊されてね……それから修理できる人間を探して、どうにか君たどり着いたってワケだよ『
「はっ、そりゃ光栄なことで」
拒絶的な皮肉を返す晶斗に、微笑んだままの魔探偵は言った。
「そこで、君に依頼だ。これを、直してもらいたい」
一技師としては興味はない、と言えば嘘になる。詳しくは調べてみないと分からないが、それでも掴みとしてこれが、高いポテンシャルを秘めた道具であることは察することができる。
だがだからこそ本能的な危機感の方が勝る。ただの眼鏡屋の検査キットではないことは確かだ。面倒ごとに、巻き込まれることは、御免だ。
関心と、不審。その二者を天秤にかけて揺らぐ晶斗にやおらレフは身を寄せつつ、
「対価は、支払うよ」
と言って、さらに背を伸ばして耳元に近づけた。
「そう、例えば……君の父親のこととか」
晶斗は、反射的に目線を上げてレフを見返した。
「探偵だからね」
と飄々と両手を振りながら、
「先に見せた探偵への忌避感が、私立探偵だったお父さんとの確執から生じたものだということは理解している」
と妙に理屈ぶった言い回しとともに、猫のように目を細める。
「そのお父さんが今、どうしているか……知りたくはないかい?」
妖気を孕んだその誘い文句は、彼に決断させるのに十分だった。
〜〜〜
数分後、抵抗する間もなくレフは晶斗に傍に抱えられて戸口から放り出された。
「え、えぇ〜……そこは受けるのが
「何がセオリーだこのクソガキ!」
目をいからせ怒鳴りつけ、晶斗は地面に伏したレフの鼻先へ指を突きつけた。
「俺が嫌いなモンはな、テメェが何者かも決められない、答えられないような半可通の生煮え野郎だ! 突然研究所辞めたかと思えば、自分の店と家族さえほっぽり出して探偵やるとかワケわからんことを言い出すような野郎とかな!」
そう一方的にまくし立て、荒々しく扉を閉じて締め出す。
「やれやれ……難しいんだな、親子の情ってのは」
ぼやきつつ、土埃を払って、立ち上がる。
だがふと傍に目をやった時、晶斗に追いかけられていた少年と、その仲間たちの姿を認める。
そこには、直してもらったゲーム機で、楽しそうに友だちと遊ぶ男の子。それを見て、レフも顔を綻ばせる。
先のは、心を許しているからこその悪態であり、また親しいからこそ容赦ない応酬だったのだと。
「……まぁいいさ。こっちも、やるべきことはやった……半熟なりに、だけどね」
締め切られた扉に最後に一瞥を呉れてから、レフはそのまま踵を返した。