仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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8.ダブルライダー、変身

 己の前へとせり出してきた分厚い肉の柱が、視界の大半を塞ぐ。

 直撃の寸前で躱しつつ、晶斗は我が身を壁際まで寄せた。

 弾き飛ばされたスーツケースから紙幣の玩具がひらひらと舞い上がり、それがまた敵の攻勢によって生じた風圧によって再び浮かび上がり、絶えずそれらは滞空している。人の欲望にまとわりつくが如く。

 

「う、うあああ」

 ()()の奮う猛威は、もはや晶斗単独を対象とするに留まらない。

 それの巨体がこの広いスペースの大半を占めるようになり、限られた空間で、多くの部下らが攻撃に巻き込まれて吹き飛ばされる。

 

「オ、オーナー、何を!?」

 挙句、それの伸ばした肉厚の舌が男の一人を巻き取り、その肉体を浮き上がらせる。さらに上へ、怪物の頭上で。左右に大きく伸びた口が、バタつく彼の下で大きく開く。

 

 だが件の悪徳オーナーは部下たちの悲鳴など耳に入らないようで、怪物の死角にて恍惚の笑みを浮かべている。

 

 同じだ。

 刃藤法花と。力と毒とに頭をやられ、本人の自覚もないうちに、その信念は歪ませられた。

 元の人格がどうあれ、彼とてある種被害者には違いない。

 

 苦る晶斗の横に、人ならざる影が飛び込んだ。

 向かい合う怪物のそれとは色味の異なる、高貴ささえある毛並みは、視界の端からでもよく見て取れる。

 

「やっと来たか、クソ犬」

 その呼び名に他意はない。ただ口が乱暴なだけだ。

 その精霊……ライカンの口よりハードボイルドライバー本体を外した。すでにレンズがセットされているのを確認し、間を置かず引き金を絞る。

 放射された火炎が下から怪物の舌を炙り、男が振り落とされた。

 あらぬ方向に飛ばされたせいで壁に強かに身を打ちつけたが、そこまで面倒は見切れない。敵と認識した怪物の攻めは、晶斗に集中する。

 それを炎でいなし、防ぎつつ、機能拡張がためのベルトを、あえて空けた片手で勢いをつけて腰に回す。

 

「ごめん、待った?」

 ライカンが巡らせた首の先、遅れてレフもやってきていた。

 

「遅ェ」

 忖度なく苦言を呈する晶斗に、

「ヤマさんが捕まりかけてたから助けてたんだよ」

 と肩を竦めながらレフは返す。

「あのおっさん、帰れつったのに……」

「君を心配してたんだよ。そこを読み切れないってのは、手落ちじゃあない?」

 

 などと歯を見せて憎まれ口を叩くも、自ら認めざるを得ないところでもあるので、晶斗は反論すること出来ず。

 代わり、銃口をレフの方角目掛けて、トリガーにかけた指をを短く刻むように前後させた。

 

 ドライバーから吐き出された数発分の火の弾は、レフの横顔をすり抜け、その裏手に迫っていた追手に叩きつけられた。

 ダメージらしいものは与えられなかったにしても、手にしていた小銃の先をずらすことには成功する。

 

 そして姿勢を定めたまま、晶斗は二人の鉄人を牽制した。

 

「手落ちはお前もだろ。妙なオマケ連れて来やがって……なんなんだこいつら、仮面ライダーか?」

 奇怪なアーマーに異様なベルト。バックルにはそれっぽいアイテム。

 晶斗の認知する限りの仮面ライダーの条件を十分に満たしている。

 

「彼らは財団X! いわゆる死の商人で僕とは因縁のある相手でバッタリ遭遇しちゃってね……まぁ、多分ライダーじゃないんじゃない、アレ」

「……また曖昧な線引きしやがって」

 

 毒づく晶斗とポジションを入れ替えながら、レフはヒャーと嘆を発して仰ぎ見た。

「こりゃまた、すくすくと育っちゃってまぁ」

 驚きあきれる眼差しの先、そこには巨大な精霊の姿がある。

 

 肥え太った、天井を突き破らんばかりの、巨躯の怪物。

 中世ヨーロッパの衛兵のごとき、縞模様の装束と羽飾りのついた頭巾をまとい、その面貌は鬼のように鼻と目を尖らせている。口は異様に左右に広がり、そこから伸びる朱の舌が、焼かれる毒蛇のように虚空をのたうち回る。

 全体的には醜悪そのものなのだが、高級感ある右目のモノクルが、ミスマッチであると同時に辛うじて見られる造形にはしている。

 

「オークだった?」

「スプリガン、だそうだ」

 

 ジョークのつもりだったであろう問いかけ。真っ当に返す晶斗に、レフは横顔に苦笑じみた笑みを浮かべつつ、レフは何処からともなく掴み取ったドイルドライバーを腰に、フレームを緩めてドライバーに、それぞれセットする。

 それに倣って、晶斗もドライバーをベルトのバックルにセットした。

 

〈シルフ!〉

〈サラマンダー!〉

 

 示し合わすことなく、自然向かい合う敵を入れ替えて背中合わせになった若者たちの間を、精霊が踊る。トカゲの鉄像が伸び上がって開かれる。

 

「変身!」

「変身」

 警戒と集中を兼ねて、それぞれに腕を回してポーズを切りながら、彼らは音声を発した。

 

〈Joker invited you "Shall we open the lock into a cyclone?" Kamen Rider Shalllock Cyclone logic〉

〈What is your stance as a Kamen Rider? Strike while the Metal in Heat〉

 

 

 纏うは翠風と烈火。綴るはフェアリーテイルと鋼のポリシー。そして変わる姿の名はシャルロックとワット。

 同じ動力源、異なるプロセスでもって変身した仮面ライダーたちは、地を蹴って、互いの敵へと駆け出した。

 

 〜〜〜

 

 その一部始終を、ひっそりと半開きにした出入り口より見守る人影が在る。

 霧街八雲、とレフが呼んだ青年だった。

 彼はその流れに驚き、茫然としつつ眺める。そしていまいち緊張感に欠ける平坦な声音で、

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()……?」

 

 そう、誰にともなく率直な疑問を呟いたのだった。

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