仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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11.脂肪燃焼

 うねる舌所狭しと駆け巡る。

 それに追い立てられる晶斗の背が、その後退が、防音性と防御性を併せ持つ、分厚い壁に遮られた。

 

「助力を得たところで、この巨体を前にしては劣勢が覆るべくもないのは自明の理……いよいよ、逃げ場は無くなったようですなぁ」

 

 と、勝ち誇ったようなオーナーの低い哄笑が、肥満体の向こう側で聴こえる。岩間より染みる虫の声のように。

 追い詰められた晶斗の表情は、如何なものであったのか。

 元より傲岸不遜な鉄面皮。さらにその上から目元の付け所さえ分からないような鋼のマスクが覆うのであれば、知るべくもない。

 こと、肉の壁に隠れて自身の安泰は確保するような男においては。

 

 向かい合うべき相手を入れ替えた間際、

「ユーザーではなく、スプリガン本体を狙ってくれ」

 という依願を、レフより受けた。

 仔細を聞いている余裕はない。が、無理難題であることに違いない。

 だが困難を理由に仕事を投げるのは和灯晶斗の流儀ではない。

 それにその道のスペシャリストの意見だ。腹立たしいが傾聴に値する。

 

 ……何より、あの探偵小僧が、請け負った仕事だ。その言うことには、従う。

 

 思索の間に、舌がワットの四肢を絡めとる。

 たとえ本体自体が鈍重であっても、部分的な速度は尋常の反応速度で捉えられるものではなかった。

 たちまちにその四肢が絡め取られ、足が床より離れる。

 

 相手方は嗤う。先の上品さなどかなぐり捨てた、猿叫がごとき声音で。

 晶斗にとっては、嗤えない。だが、恐れも怒りもない。ただ一つ、息を吐く。

 

 肥満の道化者は、ワットのあらゆる部位を蛇のごとく絡め取っている。

 四肢は言わずもがな、保護された頸部も、そして――唯一無二の得物さえも。

 

 その過信と油断が飽和に達した瞬間、その手にしたシャフトが火焔と熱を噴き上げる。

 フェアリーに、熱感知機能や痛覚があるかはさておくとしても。

 重要器官を模した自らの粒子が、焼かれて磨滅していくと言う状況は、受け入れるべきものではないはずだ。

 絶叫が響く。撓んだ舌よりすり抜けた晶斗は、そのまま破壊的な重量感を伴う足音とともに、地面に着地した。

 

「あの連中が来るまでにどんだけ逃げ回ってたと思ってんだ。対処法はとうに割り出し済みだ」

 

 ワットが機動性で機動性で他と競うタイプではないことはよく知っている。そも、そういう意図の下に設計はしていない。

 

 ただ剛強でもっていかなる攻勢謀略にも膝を屈さず、(かたき)の前途にそびえ続ける(くろがね)の城塞。そして時至れば逆撃をもって打ち砕く。それこそが仮面ライダーワットのスタンスだ。

 

 晶斗はドライバーを抜いた。そしてバーリツールの背にそれを外付けする。

〈オーバーオール〉

 結合とともに日本的な英語発音。駆動音がシークエンス代わりに壁に仕切られた空間の中、反響を繰り返す。

〈サラマンダー・メタルブランディング〉

 

 火炎放射器の口から火の風が吹き荒れる。その助勢を受けて、シャフトの炎がさらに猛る。

 紅蓮の柱は、さながら神に捧げる灯火(トーチ)のように焚き上がり、天井を舐める。飛び上がったワットの機体が、火勢によって、敵めがけて加速し、反攻の下をかいくぐる。悪あがきの剛腕を避けてその懐中へ飛び込む。

 一発入魂とばかりに、渾身の力を叩きつけた。スプリガンの贅肉が衝撃で波打つが、破壊には至らない。

 

「はっ! その程度の攻撃など、この肉の壁の前には……っ」

「あァ。だからな」

 

 当事者に代わって強がる洞島オーナーに対し、鷹揚に応えつつ

 

「その脂肪燃焼、手伝ってやるよ」

 

 そううそぶくと同時に、火力がさらに増す。

 やがて猛火が、道化の巨腹を貫通し、背肉の先へ。

 

 床を焦がして黒々と軌跡を残しながら、最奥にまで至ったのを見届けてから、晶斗はその身を蹴り上げて反動でもって飛び退く。

 

 血揮い代わりに鉄棒を大振りに回すその対向で、怪物は爆発、断末魔と共に四散したのだった。

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