仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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12.二兎を追う者

「うわぁっ!?」

 怪物破れて消滅し、その籠たるレンズも、悪党の手の内で砕けて消えた。

 権勢の象徴、そして自らの精神を毒していた要因。

 その虚飾を剥がされて残ったものは、哀れなる小悪党が、一匹。

 

「た、助けてくれ……悪かった……! もうこんなことはしないから、な、な!?」

 などと宣い、震える。まるでこれではこちらが熊か悪魔のようではないか、と晶斗は思った。

 一分の憐憫ぐらいは、胸をかすめていった。

 

 だが晶斗は双方の所感などお構いなしに、詰め寄る。

 なお一層大仰に震え上がる中年男に

「おい、それ」

 とぞんざいに呼ばわり、身を屈ませて目線を合わせる。その指に掛かったものを、示す。

 銀色のフレームに当てはめられた、紅玉の指輪を。

 

偽物(イミテーション)だぞ」

 え、と視線の外れた彼の額を、ワットはつま弾いた。

 それ以上の声をあげることなく仰向けに、罪人は倒れて白目を剥いた。

 

 ……果たして、この言葉こそ、真偽いずれであったのか。

 総てはこの鉄人の胸の内である。

 

 さて、と大儀そうに息を吐いて、晶斗は立ち上がった。

 彼の周囲には、居場所を失ったスプリガンフェアリーが、まるでその身柄をそのまま色素へ転換したかのように粒子となって滞留している。

 

「ほら、こっちさっさと片づけちまえ」

 同じように、すでに追手を無力化して床に寝かせていたレフは、軽く頷いて晶斗らへと歩み寄った。

 

 ――その、時だった。

 粒子の様子が変じた。にわかに入口の方角を目指し、流動していく。

 その先には扉の隙間から突き出された半身があった。その手に握られた、空の容器(レンズ)に、粒子は吸い込まれて行って、あらたにそこを拠り所を認めたかのように、黄金と宝石にフレームを変化させた。

 

 握っている人物は、この館の従業員に扮した、髪にオレンジのメッシュを差し入れた、チンピラ風の男だった。

「よーっし、スプリガン、ゲットだぜ」

 垂れ目がちの双眸と下がり眉とに満悦を滲ませ、いまいち抑揚と緊張感に乏しい、歓喜の声をあげた。

 

「八雲ッ!」

 レフが鋭く声を飛ばす。それが、この若造の名らしい。彼はひらひらと変色変形したレンズを振って見せて、

「今日のとこはこれで失礼しとくぜ……お前の相手は、オレだけじゃ荷が重いし」

 

 そう嘯いて身を翻し、これまた緊張感に欠ける足取りで駆け去って行ったようだった。

 

「――いけないんだぁ、ダメじゃないの、捕虜から目を外しちゃ」

 そして、そのレフの背後からも、ぼんやりと白い輪郭が浮かび上がる。

 どこからともなく姿を見せたのは、白服詰襟の女子。

 インチキオークションの最中、晶斗に一声かけてきた、ウェーブヘアの小娘だった。

 

「悪いね、部署違いのロクデナシどもだけど、一応は味方なんで」

 少女の手には、不気味な朱色をたたえた奇形のスイッチが握られている。幾何学的な刻印と形状も相まって、小型の縄文土器や神器のようでさえあるその天頂を親指で押すと、そのスイッチから噴出した星雲にも似たダストが小柄な総身を包み、その中で少女の肉体を変化させる。

 

 星光が赤いラインで結ばれた、異形の怪人が顕れる。

 白と灰を基調とする、昆虫じみたフォルム。サソリに寄生されたような頭部の後方から尾のようなものが伸びて、同じ構成員の女の方の身柄を絡めとる。そして片腕で軽々と男のほうを抱きかかえると、

 

「じゃ、またどこかでね?」

 と、外見のおぞましさとは正反対の、愛嬌たっぷりの仕草で(ツメ)を振り、そのまま天井まで跳躍して突き破っていった。

 

 

 ――まったく、二兎を追う者はなんとやらとはこういうことを言うのだろう。

 感触から考えるに、前後から去っていった奇襲者たちは仲間というわけではないのだろう。

 だが、同じように戦闘が済み、こちらの気が緩む一瞬のタイミングを息をひそめて見計らっていた。

 

「あの三下、名前知ってたが知り合いか?」

「……いや」

 晶斗に合わせるように、レフは変身を解いた。

 素顔となった探偵の表情には、あからさまに焦慮の念が浮かびあがっていた。

 それは、仕事の成果を横取りにされたがためか、それとも別の……

 

「……」

 ため息ひとつ。晶斗はつかつかと靴音を鳴らしてレフに近づくと、顧みた拍子に、その頬を両側から挟み込む。

 

「お前の請け負った仕事は?」

「……ヤマさんの付き添い」

「で、その人は?」

「無事を確保して逃した」

「じゃ、依頼は成功だろ……たとえ他に、何が起ころうともな」

 

 これ以上うだうだと思い悩むつもりだったら、そのままヘッドバットのひとつでもかましていただろうが、その心積りに反して、レフの瞳の動揺は収まった。

「和灯さん……」

 その目を細めたレフは、柔らかい口調で呟いた。

 

「ひょっとしてだけど、自分のポカもうやむやにしようとしてない?」

「うるせぇよっ」

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