仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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13.跋扈する者たち

 さながら泪橋、と言ったところか。

 夜景をバックにパトカーのランプが列を成して明滅を繰り返し、オークションハウスを囲んでいる。

 

 やがて額に痣をつけたオーナー洞島が肩を落としながら連行されていくのを見届けてから、霧街八雲はそっと物影伝いにその場を離れた。

 

 その騒動に巻き込まれるのを忌避して遠のく人々の流れに、しれっと合流して紛れる。

 

 『職務中』ゆえに切っていた携帯を再起動すると、何件かのショートメッセージが入っていて、連絡を何度も督促していた。

 ため息とともに、その番号へとかけ直す。

 

「あー、もしもしオヤジ?」

 相手方が、ワンコールで出た。

「あぁ、うん……そう、洞島パクられた。今見たけど、SNSも爆発事故だとかすげ〜騒ぎになってんね。半月の潜入任務これでパーよ……はぇ? いやいやオレがトチったんじゃねーって。つか元を正しゃそもそもアイツが」

 

 時折穏やかならざる単語が混ざるのだが、道行く人々がそれを聴き逃すのは、喋り方があまりに自然かつ、慌てて着替えた私服の着こなしが、いかにもだらしなく軽薄な感じだったがために、他人の警戒心を刺激しなかったためだろう。

 

「うん……うん……フェアリーは捕まえた。それを売ったとか実験してたとか言う財団ナンチャラは逃げたけど……あ、そうそう、あとさぁ」

 

 ふと足を止めて、今更ながらに声を低める調子で、八雲は電話越しの相手に言った。

 

「いたよアイツ。来てた、この街に」

 

 ……そこから先、彼は詳細を彼なりに報告した。幾らかの叱責と怒号を電波に乗せて飛ばされた後、逃げるように通話を切った。

 ため息を吐いて脇道に逸れながら、彼は自身のズボンから傍目には用途不明な、大ぶりのレンズを取り出した。

 

「んな怒んなくて良いじゃん……まぁ、そうも言ってられねーのか」

 と独り言同然に語りかける視線の先、トルコブルーのフレームの奥で、オレンジの蜘蛛が蠢く。

 

 切り取られ、限られたスペースの中で多脚を伸ばす様は、さながらナスカの地上絵のようでさえあった。

 

 〜〜〜

 

 白いバンが、高速を使って、急ぎ燦都から離れていく。

 一見して何の変哲もないファミリーカーのようだが、その実防弾仕様、車内には多分に違法性のある通信機器、銃器を搭載した非合法組織の移動手段であった。

 

「つーかさ、ミチルちゃん。こいつら助ける必要ってあったわけ?」

 ただでさえ狭いスペースに二人の意識不明者を搭載したことでさらに手狭になったので、少女は腿を畳み背を丸めながら、それでも太々しく薄笑いを浮かべている。

 

「仕方ないでしょ、そのまま警察に捕まるようなことがあれば、畑違いとは言え財団の恥よ」

 そうつれなく言うのは色眼鏡をかけた運転手である。

 端正な顔立ちの青年だが、肩に掛かりそうな派手なピアスを右耳につけている。少女と同じく詰襟の制服からのぞくうなじには、Xの文字を中心にトライバル模様を刻んだタトゥーが彫られている。

 

「いやだって、きな臭いよ」

 やはり収まりは悪いらしく、少女はシートから身を乗り出して、ミチルの背もたれに腕を絡ませる。確保した一味から押収したデバイスを青年の視界前方に回す。

 

「だいたい、このプログライズキーだとかレイドライザーっての、どこ由来の技術なわけよ? ウチのじゃないよね、これ? なんかのどこからともなく唐突に技術だけが湧いてきた、って気がするんだけど」

 

 それを鬱陶しげに払いのけ

「さぁね」

 ミチルはつっけんどんに答えた。

「でも一昔前に居たでしょ、最上(もがみ)魁星(かいせい)

「あぁ、ファンキーさんね」

「あそこのチームの技術やメンバーが方々に散ったってハナシも聞くし、きな臭いって言えばその辺りじゃない?」

「ふーん……ま、ウチも似たようなモンか」

 

 そう嘆息する少女の背には、有翼の突入機や、ベルトとスイッチを掛け合わせた装置の設計図や、その残骸の写真が内壁に張り出されている。

 

「だからこそ、次の任務(シゴト)は仕損じる訳にはいかない。これはそのための下準備。こいつらや変な仮面ライダーどもと鉢合わせたのは、とんだアクシデントだけど、必要なブツは手に入ったわ」

「アクシデント、ねぇ」

「? なによ、それ以外に何かあるの?」

 

 思わせぶりな少女の呟きを拾い、運転手はバックミラー越しに訝る。

 機器類を手放した彼女はあざとげに頬に掌を押し当て

「何となくだけど、出会いに運命感じちゃうなぁー、青春ってカンジ」

 と微笑んだ。

 

 彼女が()()()()()()()か、それを知るミチルは一瞬だけ表情を苦しげに歪ませた。だがすぐにため息をこれ見よがしに吐き捨て、片手で助手席にあったものを少女へ向けて、放り投げる。

 

「おバカ言ってないで、衣装合わせぐらいなさい。時間無いんだから」

「んもー、ミチルちゃんひどーい……って、何これ?」

 

 透明なビニールに包まれたそれをつまんで広げてみれば、どこからな仕入れてきたらしいブレザーの学生服。それと並べた首を傾げて見せる少女に、彼は少し煩わしげに言った。

 

「次の現場はとある私立高校。そして敵は……宇宙よ」

 

 次いで投げ渡された数枚の写真。

 画質は決して鮮やかとは言えないまでも、そこには、ロケットやドリルを模し、甲冑と組み合わせたかのような鋼の怪人たちが、校舎の影や無人の体育館で、個々に学生たちを襲撃する姿が映り込んでいたのだった。

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