「あのヤロッ……余計なモン置いてきやがって……!」
怪人物を追い出してから、程なくして晶斗は歯噛みしながら自らのアトリエを出た。その手には、依頼人に相応しい用途不明の機械が握られている。
この計器類の如き何物かが、盗品の類であればどうするか。
件の『馴染みの刑事』が、身内ゆえに手を緩める人物ではないと知っている。
預かっているのを知られれば、痛くもない腹をこれでもかと抉られることは目に見えていた。
となれば奴に押し返すより他ないだろう。
街に躍り出て方々を捜し、仕事上で得たツテを頼りに回ったが、行方は知れず。
それこそまるで足で稼ぐ刑事や探偵のようではないか、と自己嫌悪。
ため息として漏れそうなのを、買ったボトルの水で一気に押し流す。
もうすでに夏とも言えない時期とはなっていたが、残暑がきつい。飲んだそばから肌から流れるような、嫌な汗が流れる。
が、次の瞬間聞こえてきた悲鳴に、彼は反射的に背を伸ばし、踵を返した。
それが、自分が追う存在とは違う類のものだとは、違っているとは半ば承知のうえで。
〜〜〜
「なんだ……ありゃ」
高架下の公園。オブジェに絡みつく
最初に感じたのは、熱だった。
それも、残暑ゆえのものではない。汗をも即時に干上がる熱風。
と同時に、正気をも消し飛ばしてしまったらしい。
有り得ないものが、正面に見える。
それは、巨大な紅蓮のトカゲ。
晶斗自身も抜きん出た高身長ではあるが、怪物の体長はそれをも上回る。
その巨体をさらに大きく広く見せているのは、一枚一枚が鉄板のごとき赤き鱗の隙間から噴き出す火炎だ。
身を焼かれているのではない。のではなく、それ自体が内側から発しているものだ。
黒く尖らせた右目とは左右非対称的に、レンズが顔の左半分を埋めている。
文明社会、いや自然界全体でさえまず見ない体格、姿形、質感、そして現象。
彼の技術者人生で見たものといずれも当てはまらず、その知識の埒外にある存在に、しばし目を疑い、そして奪われる。
だがそれを覚ましたのは、視野の片隅で固まっていた人影だった。
「
それは、彼に携帯の修理を依頼してきた小学生。山村楓だった。遊具の片隅で打ち震える彼を見て、思わず声を上げた瞬間、その不明を悔いた。
「ニイちゃん! た、助け……ッ!」
「バカ、返事すんな! 駆け出すな!!」
その忠告はいずれとも守られなかった。
この化け物の五感がどの程度のものかは知るべくもないが、とりあえず足音と声を立てて動いたモノを捕捉する程度には達者らしい。
ギョロリとレンズと右眼を傾けて、トカゲの怪物が少年の側を向く。
そして楓に向かってグワリと大口を開けて迫るそれを見上げつつ、晶斗は舌打ちとともに、身を乗り出して駆け出した。
〈シルフ!〉
……だがその背から、何かが彼を追い越した。
翠風をまとって怪物と少年たちの間に割って入った
「ワトさん、平気っ?」
思わず立ち止まった晶斗に追いついてきたのは、尋ね人たるレフだった。
「あ、あぁ? なんだってんだよ、こりゃあ」
「説明は後! 今はこれが精一杯だから、今のうちに彼をっ!」
その催促に心ならず突き動かされ、晶斗は腰を抜かしている少年の身柄を確保、自分たちの背に回した。
もはや手出しが出来ないと悟ってか。あるいは別の思惑あってのことか。
疾風を持て余していたトカゲは、にわかに体の向きを転じるや、地面を溶かし、頭から突っ込んでさらに掘削し、我が身を潜り込ませて消えていった。
……マグマ状になって大きく穿たれた穴を覗き込むような蛮勇を、晶斗は持ち合わせてはいない。
「……お前」
晶斗は胡乱げに魔探偵を顧みた。いったい、何に巻き込みやがったと。
対するレフ、とぼけたように両手を掲げ、
「いや、多分僕とは関係ないから、これ……アレが何なのかは、知ってるけど」
と
だから、対抗手段を持っていたのだと言う。
その掲げた右手には、バイクのタコメーターほどのサイズ感の、奇妙な薄い円形の容器が握られている。
かなり澄んだガラスを封じる若緑のフレームは、さながら
それを顔の横にまで下ろして近づけながら、
「あれは、人工精霊……いわゆる『フェアリー』てヤツだよ」
と、答えた。
それを冗談だと切り捨てるより早く、彼らの周囲を、緑衣をまとった小人的な存在が、飛行機を思わせるメタリックな羽根をもって飛び回る。
ちいさな白い顔の大半をゴーグルで覆っている以外はなるほど、