仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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4.怪奇、変身、蜘蛛男

 晶斗は二輪を駆りながら、その場を後にする。

 そして考える。

 

 新たにもたらされた情報。それとレフの存在を組み合わせると、経緯の推察は容易だ。

 

 一年前、頭のおかしくなった父親が厄種のフェアリーを解き放った。

 それが巡り巡って他のフェアリーの流出を招き、それが刃藤法花を含め多くの人間を狂わせた。

 

 保護されたという千里の助手は、師の無念を晴らしその罪を雪ぐため、仮面ライダーなる怪物ハンターとなってフェアリーを狩っていく。

 その戦いの中でドライバーが破損。修復できると見込んでこの街にいる千里の息子を訪れた。

 そしてそれを口実に父の訃報を彼に伝えようとした。

 だがそれに前後してこの街でもフェアリーの事件が顕在化、その対応に追われて機を逸し、今に至る。

 

 なるほど、辻褄は合う。

 だが、なんだろうか。

 

(この、辻褄()()()()()が噛み合ってない感じは)

 

 何か、大きく見落としている気がする。

 例えるなら、パズルの外周が埋まり全体像は朧げながら見えてきても、中心の大きなピースが欠落しているかのような、具体的には名状し難い違和感。

 

 あのドライバーは、()()()()……

 

(あぁくそ、うまいこと頭の中がまとまらねぇ)

 ガードレールのない、河原沿いの一本道。運転に集中したいというのもあるが、わずかに、だが絶え間なく、彼の心は波打っている。

 

 まさか父の死に動揺しているというのか。あの男がすでにこの世にはないという事実に。

 ろくに顔さえ見ていない、家族を振り回した挙句去っていった。事情を知った今でさえ、いや霧街郁弥が語ったことを鵜呑みするならなおのこと、涙の一滴にさえ値しない。

 それに、レフの言動から薄々は勘づいていたはずではないか。

 

 無意識のうちに目を逸らしているのは、果たして父の事だけか……?

 

 意識の揺らぎは隙を生む。

 だがそれでも、色々と厄介ごとに巻き込まれ続けた晶斗の察知能力は、常人のそれよりも一段階明敏であったことだろう。

 

 背後を尾ける、一台のバイクがいる。

 まだ人口の密集地を走っていた時には気にも留めていなかったが、さすがに横道、悪路に逸れれば、あえてその道を好んで辿る不審車の存在はいやでも気がつく。

 

 タイミングから考えれば、誰の指示による追跡かは瞭然だ。

 問題は、相手の追跡があまりにお粗末であからさまだということだ。

 所詮対象は素人だという油断によるものか。あるいはこの追跡者自体がブラフで、本命は別にいるのか。

 

 だが、可能な範疇でそれとなく探ってみても、それらしき影は後ろの奴輩のみである。

 相手に気取られないよう運転を続けつつ、一つ一つ可能性を潰していく。

 本当に第三者の目があれば、あるいは仲良くツーリングしているようにも見えたかもしれない。

 

 だが真実、追ってきているのがこのマヌケ一人だと確信した晶斗は、有事に備えて、道を山へと向けたのだった。

 

 〜〜〜

 

 晶斗が向かったのは、郊外にある採掘場だった。

 良質の珪砂が算出されるこの燦都においては、こうした現場は数多い。反面、予想を下回る産出量しかなく、虚しく打ち捨てられたような場も。

 ここも、そうした場所の一画だった。

 安全も確保されておらず普段は忌避されるべき場所だが、こうした事態、好まざる人物を誘引するシチュエーションでは格好の地の利だ。

 

 果たして、三方を隆起する砂土に囲まれているが、荒事には十分なスペースが用意された山裾に、のこのことそいつは現れた。

 自らが誘い出されたことを察したのか、マシンドロンパーから色味と洒落っ気を抜いたようなバイクを停めて降りた男は、ヘルメットを外してあたりを見回した。

 

 そしてその正面で腕組みして待ち受けていた晶斗を認め、

「ここがお前の家ってワケ、ないよな……誘い込まれたってことかよ」

 と吐き捨てた。

 

 憶えの、あるだらしない顔だ。

 オークションハウスで遭った、撃破した後スプリガンを横取りした……確か八雲とレフには呼ばれていた若者。

 

「さぁ、どうかな。ここが本当に家かもな」

 と軽口を叩き、無人となった片隅のプレハブをアゴでしゃくる。

「え、そうなのか!?」

 八雲は本心から衝撃を受けたかのように、両目を開いた。

 そんな彼に、肩透かしを喰らいつつ閉口した後、晶斗は

「……話して数秒で『コイツ馬鹿だ』と思ったの、お前で二人目だよ」

 と吐き捨てた。言うまでもなく、あの居候だ。

 

「…………あッ、さてはお前騙しやがったな!? オヤジにもつまんねーウソつきやがって! あとでどうなってもしらないからなっ」

 という程度の低いリアクションとともに憤る八雲に呆れつつ、

「オヤジ?」

 と訝る。

 

「会っただろ、霧街郁弥。で、オレがその息子で色々な手伝いをしている霧街八雲だ」

「お前が?」

 晶斗は問いを重ねる。それは驚きというより、戸惑いの色の方が強いものだったが。

 この粗忽で軽薄な輩が、あの極めて理知的な男の血筋とは到底考え難い。

 とはいえ、そこは重要なポイントではあるまい。

 

「……で? その馬鹿息子が何の用だよ」

「とぼけんなって」

 さほど恐ろしくもない険しい表情で、声を低めて霧街ジュニアは脅しをかけてくる。

 

「『あいつ』、いるんだろう? お前のところに。どういうつもりか知らねーけど、悪いことは言わねー。素直に引き渡せって」

 ――つまりは、あの男、霧街父。最初から確信のうえで、自分に接近していたわけか。

 

 知りたかったのは、件の探偵助手の居所、心当たりではなかった。

 すなわち、和灯晶斗がどこまで事態を把握したうえで、関与をしているのか。

 そして――その多少に関わらず、自らの意に従う心積もりがあるのかということ。

 

 前者は言わずもがな、晶斗はまるで知りはしない。何故そこまで、家出したガキに執着するのかも。

 だが、経緯や理由はともかくとして、嘘を吐いた己は、確実に霧街郁弥には敵と認識された。だからこいつが遣わされた。

 

「……にしても、もうちょっと智恵の回るヤツ寄越せば良いのに。いや、遣いっぱしりにはこの程度で良いってことか。俺もナメられたもんだ」

「あン? なんのこったよ」

 

 得心のいかない様子を素直に表す愚息に、腕組みしながら晶斗は訳を説いた。

 

「追跡はお粗末。バレてると気が付かずバカ正直について回る。そもそも、俺を追って住所に行き着いたところで、あいつが同じ家にいる保障なんてどこにもないだろうが。それだったら、慣れもしてない尾行するよりか、先回りしてあいつの身柄を確保しようと動いた方が、まだ利口ってなもんだ」

「……なるほど。お前、頭良いんだなぁ」

 

 無邪気に素直に感心されるも、とうてい喜ぶ気にはなれなかった。

 

「……で、俺としちゃあそんなクソバカに頭下げて従う理由はないわけだ」

「つまり、あいつは渡さねーってことか?」

「そこを理解できる程度のオツムはあったようで何よりだな」

 

 思い切り愚弄しても、表情に険が滲もうとも、動揺は認められない。

 

「じゃ、仕方ねぇな。オレごのみのやり方で、従わせるしかねーや」

 と嘯きつつ、明るい青色のフレームを持つレンズをズボンから握り取り出した。

 映し出される異形は蜘蛛。身体の小ささに見合わない脚の長さが、特徴的だ。

 

(やはりフェアリーレンズか)

 相手はこちらが仮面ライダーの装備を持っていることは知っている。となれば、対抗するにはそれしかないと知っているし、何より腐っても、フェアリー技術の総本山の御曹司だ。当然使うのはそれだろう。

 

 そう思い定めた晶斗ではあったが、その目の前で、腰の裏から八雲はまた別の機材を取り出した。

 サイズとしては、片手で余る程度……よく見知ったものと似た尺度だ。

 ちょうど、映写機をプレスしたかのような形状の、鉛の色と質感を持つ、滑車のついた――ドライバー。

 

〈Mysterl Driver〉

 それを腹の前にセットすると、フィルムのような、黒く区切られたベルトが展開されて腰とデバイスを結合させる。

 

 フレームの一層目をズラして内包されるフェアリーを展開、という作業を必要とせず、彼はそのまま滑車の中心にレンズを嵌め込む。

 

〈Arachne Move in〉

  淡々とした女性音声とともに、背後にサイレント映画のごとく、モノクロのスクリーンが映し出され、その画面の中を巨大な蜘蛛が蠢く。

 そしてその前であやとりを手繰るがごとく、手首を回し両手の指を絡ませて蜘蛛を顔の横で象りつつ、

「変身」

 と小首を傾げて得意げに左の眉を吊り上げた。

 

 そして戻した掌で滑車を回す。歯車のように、レンズのフレームが噛み合って同調して回転を始める。

 

〈Trick or Trap. Case1:Strange of the Spider〉

 

 それに合わせて平面の蜘蛛は暴れ出し、画面を突き破った機械の蜘蛛が背後から八雲の痩躯を抱き込んで一体化する。

 融合の余波が画面を消し飛ばし、現れたのは異形の戦士。

 

 ハエトリグモを頭からかぶったような、正中に巨大なモノアイを据えたマスクは、コバルトブルーを下地に、オレンジの幾何学的なラインを刻む。丸みを帯びたデザインは、どことなく奇妙な愛嬌さえ感じさせた。

 血を一滴垂らしたかのようなスカーフを蒔いた首の下は、さながらパイロットスーツのようであるがゆえに、頭部の異形感をさらに強めている。

 

 高下駄にも似た厚手のブーツで大地を小突くと、その背から四本のアームが突き出して、シャープに円弧を描きながら晶斗を捕捉する。

 

「これが、ホールドコープの誇るライダーシステムの一角。仮面ライダー……モウラだ」

 

 突如として顕れた第三の仮面ライダーは、得意げに己をそう自称したのだった。

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