仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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5.蜘蛛と鋼

「……仮面ライダーってのは、ホント良くわかんねぇな」

 目の前で蜘蛛のパワードスーツを装着した青年。それを見据えながら、自身もバイクの荷台に置いていたドライバーを持ち出した。

 

「お前みてぇなろくでなしでも、変身さえすりゃ自称できるんだからな」

「おいおい、ナメた口叩くなって。オレの方が先輩なんだぜ?」

「だったら、相応しい振る舞い身につけろってんだ」

 とはいえ、ここで相手が応戦する時になったのは幸いと言える。この粗忽者からは、引き出せる情報もあるだろう。

 

「変身」

 相手がこちらの言葉を気にしている内に、晶斗はドライバーとベルトとレンズとを組み合わせて自身を鎧う。

 展開される鉄トカゲ。放射される炎熱。変身の余波に後押しされる形で、仮面ライダーワットは加速とともにモウラへとタックル気味の攻めを仕掛ける。

 

 だが、モウラの背後より伸び上がった四本のアームが結集してワットのテレホンパンチの真芯を捉えて威力を殺した。

 そのうえで、鋭く繰り出されたカウンターパンチが、晶斗の脇腹に連続して叩き込まれる。

 それに対する形でワットの足下から迫り出した建材もしくはジャッキのごとき鋼の集合体が、その拳を弾く。

 

〈バーリツール・シャフトモード〉

 それを一気に長棒まで引き伸ばしたワットは十分な威力を伴った刺突を繰り出す。

 ところがそれも、まるでその一本一本自体が意識を持つかのように器用に応戦し、かつ空いた腕がワットの装甲にツメを突き立て、火花を散らす。

 

 点ではダメだ。数が違う、ジリ貧だ。

 そう判断した晶斗はシャフトを支えに跳び上がり、モウラの頭上を飛び越えた。まず真上からの一打。完全に回り込んでのニ打目。

 

 そのいずれも防がれた。

 それも、尋常ならざる複腕の挙動と技能にて。

 一打目を翻った脚の首が防ぐ。そして四本脚は一斉に体勢を背面で整えると、窄められたその先端から光線が発射され、脚同士の合間に光の糸を紡ぎ、繋ぎ合わせて網を張る。『面』として、二打目以降の流線的な攻めの数々を真正面から殺し、あまつさえ反撃とばかりに、その張った網は晶斗目掛けて、形を保ったままに覆いかぶさる。

 

 晶斗は糸を十指を使って剥ぎ取る。正しくは、糸状に編まれたエネルギー体を。

 待ち受けていたのは、モウラのローリングソバットだった。

 

「ぐっ!」

 心臓の上の胸板を叩かれて、つんのめって声をあげる。

 こんな粗忽者相手に膝などついてたまるものか。だが、戦いに身を投じてより初めて、不覚らしい不覚を取った。

 

 晶斗の眼前でゆったりと、八雲は含み笑いと共に、完全に向き直る。

 

「どーよ。このコーボーイッタイの技の数々! そんな素人の工作とはまるで違うんだよっ、装備のイニシアチブはこっちにある!」

「それを言うならアドバンテージだろうが。本気で頭の悪いヤツの間違え方しやがって」

 

 しかしアドバンテージであろうとイニシアチブであろうと、どうでも良い。そもそも誤っているのはヤツの思い上がった認識だ。

 

 それを教えてやるべく、次いで押し寄せてきた、八方からの連撃に耐え忍ぶ。

 背の腕自体は、おそらく半自動。装着者の脳波と感応して第三以下の腕として動いている。

 だが一方で、自前の腕はあくまで自前。いくら補強されていると言え、己の力で突き出しているもの。自然、慢心と無自覚の疲労は、そのまま攻撃の出足の微妙な時間差となって表れる。

 

 その間隙を突いた。

 横に倒したシャフトを、力任せに、蜘蛛へと向けて叩きつける。

 

 だが難なく八雲は四本腕を使ってそれを捉えて、無力化し、鹵獲する。

「はっ、投げ槍じゃなくて投げ棒ってか」

 この男にしては少しは洒落の効いたセリフとともに余裕を見せる。

 

 その顔面に、晶斗は両脚揃えたドロップキックを叩き込んだ。

 

「ギャバッ!?」

 奇声をあげてモウラは滑る、後頭部で地を削る。

 その衝撃で零れ落ちた己が得物を、先んじて起き上がった晶斗は奪還した。

 

 相手の手が多いのなら、一手で数手を封じるまで。

 このバカが律儀に一本のシャフトに全てのアームを割り当ててくれたことは、嬉しい誤算ではあったが。

 

 無論、こんな不意打ちで倒せる相手だとは考えていない。同じ手が通用するとも。

 欲しかったのはダウンそのものではない、数秒足らずの、自由だ。

 

「念には念を入れて、持って来て正解だった」

 その黄金色のレンズを、取り出すまでの。

 呼吸を整えながら独りごちた晶斗は、それを腰のサラマンダーレンズと換装する。

 

「出番だ、クソ犬」

〈ライカン!〉

 

 一旦無骨な素体に戻ったワットの背から飛び出した鋼鉄の毛質を持つ狼が、モウラに飛びかかる。起き上がりかけのところを襲われ、軽い悲鳴をあげながらも、それを彼は跳ね除けた。

 が、晶斗の後ろまで飛び戻った狼が、さながら古の神々の捧げ物がごとく、毛皮となって開かれる。

 ワットは、ハードボイルドライバーの引き金に指をかけた。

 

〈What is your stance as a Kamen Rider? Everyone is a Lunatic, and has a hard side which he never shows to anybody〉

 

 背の毛皮より放射されるは月光。

 それを浴びた頭部のパーツは火トカゲのそれから狼の耳へと意匠変え、バイザーの輝きは紅蓮の滾りから妖力を蓄えたがごとき蜜色へ。

 それに合わせて鋼の地肌は再コーティングされ、銀の艶気を帯びたものとなる。

 

 ――それすなわち、灼熱の(ヒート)スタンスから妖月の(ルナ)スタンスへ。

 

〈ウィップモード〉

 鞭へと組み替えたバーリツールを大きくしならせながら、晶斗は

 

「見せてやるよ、正しい道具(チカラ)の使い方ってやつをな」

 そう、誰にともなく豪語したのだった。

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