仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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6.はがねのムチ

 風を鳴かせて鞭がたわむ。鋼鉄の蛇腹が虚空を切り裂く。

 そうして自らに飛んで来たその先端を、

「で、それが何よ?」

 そう、事もなげに吐き捨てて、首の動きだけで避ける。

 先の失態を馬鹿なりに省みてか、アームを使うことはしなかった。

 

 明後日の方向へと飛んでいく鞭の先端。

 それを背に回し、再び晶斗を間合いへ入れるべく駆け出した。

 

 だがその鞭の先がくるりと反転した。その蜘蛛頭を追撃し、火花を散らす。

「あだぁっ!?」

 つんのめった彼が何事かと四方に目を配るも、漠然と追えているのは風音のみ。その間にも、物理法則に反した弦と弧を描いて、モウラを攻め立てる。

 

「いだっ、あいだだだ!? おいっ、やめろって!」

 無視を決め込み、文句をつけるような足取りで特攻を敢行するも伸び上がった鞭はそれを許さない。

 快音響かせる頭は言わずもがな、腕、脚、四本の装置もろともに背を、今度はワットの側が多方面的猛攻を仕掛けた。

 

 すぐに身をよじってジリジリと後退した八雲ではあったが、場数はそれなりというか、それとも苦し紛れだったのか。悪戦苦闘の中伸ばした手が、ハシと鞭を握り取った。

 

「へへへ、捕まえた……ってうおおッ!?」

 だが、安堵と喜びの声をあげたのも束の間。握りしめたその先からウィップはさらに伸びて枝分かれし、のけぞる顔面を痛打する。

 

 再び自由になったバーリツールは、自在に中空を踊り、さながらアメーバのように分裂を繰り返しながらなお、地面を穿つ。モウラを打擲する。

 

 だが、それにも限りがある。その挙動や形状が複雑になれば、それに比例して思考も高度なものが要求される。

 ゆえに、退き際をわきまえる。

 

 晶斗がスナップを利かせて腕を一振りすれば、初期値(デフォルト)の尺度へと巻き戻る。

 技術(ワザ)と切り札を垂れ流す輩とは違う。

 すべては、計算のうえ。

 

 そしてその読み通りに、逆上した八雲はこれを好機と見て直進する。

 四本の手足と四本の機械。合わせて『八本脚』をフル稼働して肉薄せんとする。

 

 ワットはあらためて、鞭を振って引き延ばす。

 それは大きく円を描きながら、モウラの背に、アームの外周を巡る。

 

「だぁっ、もう鬱陶しい!」

 立ち止まった八雲がアームで鞭そのものを無力化せんと鋭く突き出した。

 

 これを、待っていた。

 挑発的な小手先の技で翻弄し、挑発したのはそのための布石。

 焦れた相手の攻めが、大振りになりまとまりを欠く瞬間を。

 

 相手の拘束をかわした鞭に狙わせるのは、その背より突き出たアームの根本。それを一絡げにして、最大の武器と言っても良いアームの動きを封じる。

 目に見えて動揺する八雲を渾身の剛力でもって投げて浮かび上がらせた晶斗は、ベルトのトリガーを引くとともに、鞭を手放し、駆け出した。

 

〈Request〉

 そして支えるものなく自由落下していくモウラ目掛けて跳躍した彼の爪先に、月の神性が光厳の閃きとなって宿る。

 

〈Lycan Illusion Order〉

 

 月面宙返り(ムーンサルト)とともに繰り出した、飛び蹴り。

 それがモウラに直撃した瞬間、その身に狼の爪のごとき、エネルギーの奔流が流れる。

 

「ぎぇええやああああ!?」

 頓狂な声をあげて地面に叩き込まれるモウラこと八雲。

 土煙をもうもうと巻き上げて突っ伏したが、変身解除には至らない。

 

 空中にあって晶斗は舌打ちした。

 ハードボイルドライバーは、サラマンダーの火力あってこそ十分なパフォーマンスを発揮する。だが、それでもクリーンヒットが入ったはずだった。

 

「流石は、本家本元のライダーシステム、頑丈さが違うといったところか」

 などと独りごちて着地する。

 もっとも、そのまま気絶でもされようものならそれはそれで困る。

 

「さて、んじゃ逆に話してもらおうか……なんで、親父の助手を狙う? 狙いはドイルドライバーか」

 すっかりアームの萎えたモウラのスカーフを絞り上げて、晶斗は顔を近づけた。

「助手? ……お前、ホンットなんにも知らねーんだな」

 ダメージと咽喉への圧迫で喘ぎ喘ぎ、八雲は言う。

 だがそこには、あからさまな侮蔑の色が滲んでいる。

 父親と同じ類の所感。だが、その間抜けな息子に言われると、少し腹立たしかった。

 

「おぉ、だから不勉強者に教えてくれよ『先輩』……まだその無駄に多い手足がついている間にな」

 握力を強めて脅しをかけるも、

「じゃあ、後ろにいる本人に訊いてみたらどうだ?」

 八雲はそう言って、これ見よがしに視線を外し、晶斗の背後に振り向けて見せる。

 

「……くだらねぇハッタリかますんじゃねぇよ」

「いや、マジだって」

 

 ……調子は軽いが、ムキになったように八雲は食い下がる。

 そもそも即興で策を考えつく頭ではあるまいと思い直す。

 現に晶斗は、背後に近づく気配を感じ取った。忙しない足音と弾む息遣いを聴いた。

 そして顧みれば、そこにはレフが息を乱してその場に馳せ参じている。

 

「お前、なんでここに」

 軽い当惑を見せる晶斗の真下で、

「あ、でも確かにチャンスだわ」

 ……緊張感なく、八雲は宣った。

 

〈スプリガン〉

 

 晶斗の拘束を逃れた複碗が、いつの間にか忍び持っていたレンズのフレームを解放し、そこから細長いシルエットが飛び出て来た。

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