仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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8.断罪の指先

 仮面ライダーフォード。

 月射照真。

 そして……和灯千里の助手。

 

 あらゆる未知の集積体が、髑髏の怪人の姿を取って現れた。

 変身の際に一度止めた足を緩やかに稼働し始めたそのライダーは、一気に本格的な加速と攻勢に突入し、シャルロックたちに迫る。

 晶斗から離れたレフは素早く迎撃の構えを整えようとした。

 だがそれよりも速く、反撃を顧みない、体重と憎悪を乗せた拳がシャルロックの胸部を叩く。

 

 此方から、彼方へ。

 レフは、声さえ上げる間もなく端の砂山まで吹き飛ばされた。

 巻き上がる粉塵の中、遅れて苦悶のあげて転がるその姿が垣間見えた。

 

「おい! お前何を」

 急ぎドライバーを自らのベルトへと戻した晶斗は、シャルロックを殴ったライダーの手を捻り上げた。

「仮面ライダーワット……和灯晶斗か」

 と呟き、髑髏面を彼へと傾けつつ

「親不孝モンの、クズが」

 と吐き捨て、その拘束を外すと返す拳を晶斗の腹部へ叩き込む。

 

 この鋼の装甲を貫通して、今までに味わったことのない痛みが晶斗を襲う。初めて膝を突く。

 

「て、メェ!」

 その痛みで、仔細は知らずともこの新手が敵であり、脅威であると認定した。

 

〈シャフトモード〉

 ……へと転じたバーリツールを、起き上がりざま最大の加速で叩き込む。

 それを難なく自らの肘と膝とで挟み込み、弾き返すやミドルキックを連続して浴びせかける。

 

 なんという、反応速度か。

 それはこのスーツの性能なのか、あるいは彼自身の執念と才覚が成せる業なのかは知らないが。

 

「おやっさんの温情(なさけ)を、無下にしよって」

 冷たい毒の篭る呟きと共に、彼は自身のバックルの左サイドをスライドさせた。

 展開させた長細いソケット、そこへ逆サイドから一本のデバイスを抜き取った。

 すなわち、USBと骨が組み合わさったかのような異形の端末を。

 その中央で、東洋の竜が骨となって渦巻く図柄が発光する。

 

〈デシストミズチ!〉

 それがバックルの横にセットされると同時に、地の底から響くかのようなシャウトが放たれる。

〈アタックドライブ・デシストミズチ〉

 それを押し戻した瞬間、青いフラッシュがレンズより焚かれ、顔面の髑髏とその下の双眸が同じく青く変色した。その意匠も刻まれた彫りも、どことなく海蛇を想わせるものに変わっている。

 

 瞬間、バーリツールに電光が奔り、ワットの手を弾いて飛ばした。

 やがてそれは海色の骸骨の蛇……否、(ミズチ)の形状を取り、シャフトの全身を絡め取って我が物、主人たるフォードの所有物(もの)とする。

 

(コントロール権が、奪われただと!?)

 と驚嘆の間もなく、鈴鳴りの音を乗せ風を唸らせ、竜骨絡む鉄棒はワットの装甲に容赦なく叩き込まれ、火花を散らす。

 

「……の、野郎が!」

〈Request.Lycan Illusion Order〉

 武器の奪回を諦め、徒手空拳で挑むと決めた晶斗は、ドライバーのトリガーを爪引き、残りのエネルギーを自らの前方に絞り出し、集約させる。

 

 編み上げられた月光の鞠玉を乱暴に蹴りつける。いくつもの爪牙となって飛散し、各々の軌道を描きながら、フォードに迫る。

 自身に降り注ぐ閃光の斬撃を前にしても、退かない。どころか、揺らがない。代わり落ち着いた手つきで、骨の翼を畳む骸骨馬を描いた端末をベルトをスライドさせて入れ換える。

 

〈デシストペガサス!〉

 

 上から置き換わる形で、髑髏面が毒味を帯びた緑へ。

 手にしたままのバーリツールは、本来設計していないはずのボウガンの形に組み替えられ、覆い被さるように、馬の頭蓋と骨だけの翼が取り憑く。

 

〈アタックドライブ・デシストペガサス!〉

 

 その両翼を弓弭に、ただ念じるだけで矢が飛ぶ。

 旋風を伴い、月の爪牙を上回る神速で虚空を駆け巡る一矢は、それらを悉く撃ち落とし、ワットへと逆襲する。

 

「無駄や」

 苦悶の声をあげて地を転がる晶斗を、照真の足底が縫い止めるかの如く踏みつける。

 

「ソレは本来、俺がなるはずだったライダー。当然、付属される武装のシステムも予想がつくし、互換性もある」

「……なん、なんだ!? お前!?」

 

 いや、知っている。すでにもたらされた情報に、今更偽りがあろうはずもない。だが、そう問わずにはいられなかった。

 

「俺は、和灯千里の忘れ形見……おやっさんの無念と憎悪を引き継ぐ、この世でただ一人の仮面ライダーや……親父が死んでも何もせん、何も知らんでなんとなしでライダーごっこなんぞやっとるお前とは、決意が違う」

 髑髏の奥底で闇影を深く刻みながら、的確に晶斗の水月への圧迫を強める。

「おい、もう充分だろっ、フォードの出力だとそいつ死んじまうぞ!?」

 と敵ながらに憐れんだ八雲の抗議を、フォードは威嚇射撃一発で黙らせた。

 

「や、めろ……ッ!」

 次いでそう喘ぎ喘ぎ声を絞り出したのは、晶斗本人ではない。体勢を立て直した、レフだった。

 

「狙いは、僕のはずだ! 彼には手を出すなっ」

 本来のサイクロンロジックになり、その跳躍力でもって晶斗を庇い割り込まんとするシャルロックに、

 

「んなモン、わざわざお前に言われるまでもないわ」

 冷ややかな声とともに、非人間的な挙動でフォードは頭をその方角へと巡らせる。

 そして手には、紫色のメモリ。スライドさせて空けたソケットに、その端子を押し込む。

 

〈デシストタイタン〉

「お前がシャルロックの姿でいること、人間らしく振る舞うこと、その二つだけでも虫唾が奔る……!」

 

 晶斗を蹴り転がし、バーリツールを擲ち、無手へ。だがその左腕には、紫焔が両刃の刃の鋭さを伴っている。手の甲を、巨人の頭骨が防護する。顔面には紫紺のマスク。その額から突き出た鬼の角が、帽子をかすかに浮き上がらせ、傾きを咥える。

 

 そして長い跳躍に在るシャルロックを殴りつけて撃墜する。

 直撃は、かろうじて両腕でのカバーでもって避けたものの、追撃の手が容赦なく伸びてくる。

 

 シャルロックのもたげかけた頭の突起を右手で掴み取り、炎拳で殴打を重ねていくとともに、腹部への膝蹴りも交ぜながら追い立てていく。

 

「この力……ガイアメモリでもない……フェアリーたちの力だけど、そこに指向性(意志)が感じられない……! 過去に破壊された精霊の焼き増し(デッドコピー)か!」

「あぁ」

 憎悪に沈む声で低く応じながら、

「せやけど、そんだけやとまだ足りんかった」

 照真は宣う。

 

「跡形もなくお前を消し飛ばすには、なぁッ!」

 体勢整わぬシャルロックの胸部に、今度こそ紫の放物線を描いたフォードのストレートが衝突する。

 

 だが、その一撃を見舞われたレフは、晶斗の見立てを上回る、劇的な反応を見せた。

 まるで毒酒でも盛られたかのように、防護スーツの上から肺の辺りを掻きむしり、息も絶え絶えになる。

 

「なん、だこれ――!? 力が、いや僕自身が、安定しない……!?」

 と自らの症状を端的に訴えるレフを、冷ややかに見下しながら、酷薄に反撃の芽を潰し、執拗に蹴たぐる。

 

「このフォトンファウンドライバーには、フェアリーを寄生した人体から剥離する特性がある。つまり、お前やライカンみたいなのにはブッ刺さる代物っちゅうワケや」

 

 そこから、かろうじて起き上がったレフだったが、明らかにその動作には精彩を欠く。

 一方的に嬲られ、そのたびにモノクロの電流のようなものが全身を流れ、シャルロックとしての像がブレていく。

 ついには手を下されずとも、自ら片膝を折るに至る。

 

「そろそろ、終わらせたる」

 死の宣告とともに、シャッターを親指で押し込む。

〈シャット・アウト〉

 かろうじて聞き取れるような太く濁った声とともに、フラッシュが焚かれ、その眩さの中よりガシャドクロがごとき、巨大の頭骨と両手がでろりとフォードの前へと這い出てくる。

 

〈レイス・ブレイキングメモリ〉

 

 端的な音の調べ。髑髏は両手を浮き上がらせて、まるでフォーカスするように、細い指で枠組みを作る。

「ライダーキック……!」

 低く飛び上がった照真は、その枠の中をくぐる。その一声一動に込められた、必殺の怨念。フォードの爪先で膨張していく、冷たい死の気配。

 

 それらを感じ取ったワットは、それでもなおレフを護ろうと己を叱咤して立ち上がり、もはや理屈ではなかった。そんな非合理な己に腹が立つ。だが舌打ちしつつも、両者の間に割って入る。

 

 レフを庇うことに成功したのか、それは、爆発の直後には判然としなかった。

 だが、フォードの蹴撃は激痛とともにワットの装甲を紛れもなく破壊した。和灯晶斗に戻った青年は、同じく変身の解かれたレフともつれ合いながら地を転がる。

 

「おい……おい!」

 その回転が止まった辺りで、レフを助け起こして

 だが、何度揺すっても、声をかけようとも、その小さい肉体は身じろぎしない。それどころか、晶斗の腕の中で体温は急速に抜け落ちていく。それを肌で感じ取る。

 

「――まさか……死ん、で」

()()()。余計なマネしよって」

 

 晶斗の隣に立ちながら、フォードは峻厳に言い放った。

 だが奇異なことに、そのダークグリーンの瞳は、執拗に狙った相手にも、自ら殺したかもしれないその探偵に向けられてもいない。あらぬ方向の中空へ定められている」

 

「ただまぁ……化物は化物らしく、葬り去るのが良ぇっちゅうことか」

 と、低く嗤うようにそう言った彼に倣い、晶斗も天を仰ぐ。

 

 そして気づく。気づいてしまう。目撃する。確信が、そこには浮かんでいる。レフから抜け出たものが。

 月射照真の憎悪の理由も。レフにつきまとっていた()()()()()不自然さも。

 

 ――繋がる。

「ジャバウォックの恐るべき点は」

 先に霧街郁弥によって語られた、かの『災厄』の、最大の特性を。

 

 

 

「奴は、人間の身体を、持っている」

 

 

 

 そして何か月もの間ともに過ごした(モノ)を、その抜け殻を、腕の中になお納めつつ晶斗は、異物を見るかのごとき目付きで見下ろした。

 

「ようやっと化けの皮が剥がれおったな……ジャバウォックフェアリー!」

 呆然とする晶斗の隣で、仰け反りながら照真は声を張る。

 

 その頭上で、シャープな翼が羽ばたいて風を起こす。

 なまじ物理法則に従ったのでは決して浮かび上がるはずもない、白と黒の折り重なった甲虫にも似た分厚い鱗。

 伝承に顕される邪竜がごとき貌は、右眼をモノクルで覆い隠して、逆の紅眼を心なしか伏せて逸らしながら。

 

「おやっさんの死を、償わせてやる……っ、この悪魔野郎がァッ!」

 そしてフォードはソレへと向けて、右手を吊り上げる。

 スナップを利かせた手を裏返す。己に手の甲を、外に掌を向けるように。

 そして突き出した指先を突きつけつつ、もうひとりにして真なる探偵は断罪を告げる。

 

 

 

「お前の罪を、数えろ」




Next
ついに正体を現した『悪魔』――ジャバウォック。
そしてそれを追跡して来た過去に捉われた復讐鬼、月射照真。

物語は一年前へ。始まりの夜へ。

食い違ってしまった歯車は、軋みをあげて関わる全ての人間を狂わせる。
運命は互いの前に現れず、奇跡の出会いは起こらず。

ふたりの仮面ライダーはすれ違い、憎み、憎まれるのみ。

第5話「アナザー・ビギンズ・ナイト」
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