仮面ライダーシャルロック   作:大島海峡

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7.恐怖の鬼

おそらくそれは、互いにとって初戦闘だった。

 明らかにロールアップ間もないと言った感じの八雲のモウラは言わずもがな、シャルロックこと千里もまた、ことフェアリー系列の対ライダー戦は未体験だった。

 したがって、緒戦においては、互いの手の探り合うがごとき、当たり障りのない応酬から始まった。

 

 焦れたうえで本格的に攻めの気を見せたのは、八雲の方だった。

「こっちのが新式だっ、あと俺のが若いし、負けるはずない!」

 そう豪語しながら背の四本腕を回し、彼の見るところの『旧式』、シャルロックの機体へと叩き込む。

 

「おいおい、先輩は敬えよ、ルーキー君」

 などと挑発気味に返しつつ、連続した蹴りでそのうちの三打分をいなし続ける。だが残る一本がなお迫る。

 

〈ハードボイルドライバー!〉

 という勇ましい音声と共に、千里の胸元にバーナーともボイラーの筒ともつかぬ銃身を持った火器が、彼の意気に応じて転送されて来た。そのデバイスをすかさず抜き取った千里は、盾代わりに用いて弾く。

 

 そしてそのままくるりと身を翻し、完全に彼へと背を向けるや、壁に向かって駆け出した。

 

「逃がすかよッ」

 とモウラ。一度は引いた複腕が、追い討たんと伸びていく。

 だが壁に行き着いた千里は、そのまま足裏をその行き詰まりへ叩きつけた。数歩分、壁を駆け上がった。その足下を、勢いを持て余したモウラの蜘蛛腕が衝突してたわむ。

 身を浮き上がらせて、宙で半転。飛翔。モウラの頭上に至った千里は、ハードボイルドライバーの銃口を下ろし、光の雨を撃ち出した。

 

「どーだい、旧式も、拡張次第でどうとでもなるんだ」

「うぐっ、まだまだぁ!」

 

 着地とともにうそぶく千里に対し、なお戦意衰えず八雲は吶喊する。

 あらためて相手の有効範囲に慌てず騒がず、年長者の余裕でもって千里は、手元のドライバーにレンズをセットし、メーターのついたカバーを閉じた。

 

〈ミズチ〉

 芯の太い合成音声に合わせて、引き金を絞る。

 そこから射出された海蛇がごときものが、寄って来たその『勇み脚』を絡め取って後ろへと牽き、そして吊り上げ、天から宙へと放り投げる。

 

〈ペガサス〉

 さらにレンズを入れ替え、畳みかける。

 空中を自在に飛び回る翼の生えた弾丸が、交錯をくり返しながらことごとく、自由落下の最中のモウラを追い討つ。

 

 ガレキと粉塵を巻き上げ、彼は床へと落ちた。

 だが、その煙幕を突っ切って、光の糸がハードボイルドライバーの口を巻き取り塞ぐ。

 そして八雲自身は、複腕に支えられ、寝そべりながら無傷である。

 

 ほう、と無力化されたらしい自らの火器に目を向け、

「意外と抜け目なくやるな、後輩クン」

 と一応は褒める。

 

「抜かせっ」

 蜘蛛の力をバネにして一息に起き上がったモウラは、この隙見逃さじとさらに詰める。

 

 なるほど、意気は良し。

 だが惜しいかな、心得違い。

 ……口を封じれば、弾は出ないと思い込んでいる。

 

〈タイタン〉

 新たにレンズを銃器の中心にセットすると、あらためて狙い、引き金に指。

 拳の形状と大きさを持つ、紫の光線がモウラの腹部に激突した。

 

 床から数センチ両脚を漂わせつつ、今度こそ対ショックが間に合わず彼は強かに背を打ちつけ、「グエッ」と蜘蛛ならぬ蛙がごとき苦悶の声をあげた。

 

 その体勢の崩れた瞬間こそが、千里にとっては攻めの好機であり、八雲にとってはここ一番の凌ぎどころである。

 示し合わせるでなく自然、互いに必殺の態を取る。

 

〈The End roll! Credit:the Spider〉

 自身のバックルの滑車を回しに回し、その回転により得たエネルギーが増幅されて足下に集中する。背の『蜘蛛脚』がそれに同調する。迫り出したその爪先み窄まりつつ集結し、逆向きのピラミッドがごとき錐形を作る。

 

〈Wraith! Punisher Q.E.D!〉

 シャルロックは空のレンズをレイスレンズの対に据え、飛び蹴りをもって迎撃する。足の甲に集中する紫の煌めきは、やがて人の頭蓋のイメージを象った。

 

 互いに総身を使って斬り込む両者の決着は、一瞬だった。

 高さとしても、そしてともすれば経験と技量としても、千里が上回った。

 

 背の装置を、足の錐として突っ込んで来たモウラの下顎に、紫髑髏が食らいつく。

 脳を揺さぶられた八雲は、一瞬意識を手放したに違いない。

 そしてユーザーの思考の刹那的な消失は、そのまま変身解除というかたちで表された。

 

 地に伏した時には、八雲はうっすらと意識をもたげていたが、すでに形勢勝敗は決していた。

 だが、見計らったかのように、あるいは見兼ねたかのように。

 戦闘で半壊した柱の陰より、一人の友であり、父が姿を見せた。

 

 霧街郁弥。

 喪服のように、黒いスーツ姿の彼は、息子の身体を離れて転がる映写機型のドライバーを造作なく拾い上げた。

 

「ご、ごめんよオヤジ……」

「最初からお前に期待などしていない」

 

 案じる様子は微塵もなく、にべもなく、父は息子に答えた。

 

「求めていたのは対処例と戦闘のデータだ……もう二度と、こんな愚か者を出さないためにな」

 そして、郁弥は千里を正面から対峙した。

 

「……お前な。もうちょっと、息子に手心加えても良いんじゃない?」

 切なげに後頭部を床に落として黄昏る八雲に、千里は敵手ながらいささかの憐憫を抱いた。

「親子のことで、お前に口出しできる資格があるのか?」

「……ま、そうだよな」

 郁弥の目と表情には、ありありと冷たい侮蔑が浮かんでいる。

 

「こうなっちまった以上、お互い収まりがつかない。けどそれでも訊く。本当に、どこかに落としどころはないのか?」

「あるわけがないだろう」

 いつになく真摯に傾けた問いにも、彼は非情な即答で切り返した。

「仮に相手が俺ではなく会社や財団であったとしても、お前はきっと今と同じ行動をとっている。俺としても、人類に害を為すフェアリーは、それを生かそうとする者は、排除する。これのどこに妥協点がある?」

「がぁんこ者」

 千里は仮面の奥底で苦笑を浮かべた。笑うよりほか、なかった。

 

「『譲るべきではないことは、自身の内でしっかり保て』……そう俺の背を押したのは、お前だ」

「あぁ、だから俺も、その言葉に恥じない行いをすることにした」

 

 郁弥の眼光には、絶えず冷たさと蔑みがある。

 だが憐憫と否定や不理解はない。そこだけは、救いのように感じられた。

 

 上着のポケットから、郁弥は疑似レンズを取り出した。

 深海の奥底を想わせる、ダークブルーのフレーム。そこに、マントで身と横顔の下半を隠す鬼の姿が映り込む。

 

「――俺は、いや私は、この件に関わりを持った人間として、責務を貫く覚悟を決めてここに来た。そのためなら、半端な地位も捨てる。会社の腐った連中も排斥する。立ち塞がるのがお前であろうとも、戦い続ける。今がその、覚醒(めざめ)の時だ」

 

 そして我が子がしたのと同じように、ミステールドライバーを自身に巻く。

〈Vampire Move in〉

 レンズを納めて背後にスクリーンを展開させる。

 ぐいと襟首を緩めてうなじを外気に晒しつつ、

 

「変身」

 決意とともに滑車が回る。

 画面を裂いて現れた金の凶悪な面相と血の色のマントのみで形成された怪物が、そう見えるナノマシンの集合体が、捧げられた首筋に喰らいついた。

 

 そしてインプットされているスーツのデータがそこより転送され、物質化する。鎖が絡むかのような鉄の擦れ合う音とともに、黒いスーツの生地となり、胴と手脚を保護する具足となる。

 

〈Blood and Break. Case2:Terror of the Bat〉

 

 面とマントが、噛みついたままに右肩のプロテクターとマントになり、顔は赤黒い霧に覆われた後、異国の民族工芸を瀟洒に改造したかのような、青銅色の蝙蝠の面となった。下顎を、(キバ)つきの白いクラッシャーが保護し、引き締まった口許はそのまま彼の頑なな内面を意味する。

 全体的なイメージ的には王や皇帝のごとき、荘厳さや尊大さは感じられず、むしろ土地を守護する冷徹な武断的領主といった感じなのは、如何にも彼らしい。

 

「仮面ライダーモーリア……まさか独力で完成させてたとはな」

 呟く千里の声はもはや届かず、郁弥は

 

「おおよそ人は未知や謎に迫られれば恐怖を抱く。故に、意志を持った精霊が人類に受け入れられることなど、決してない」

 と、己の考えを吐き捨て、己が観るところの『現実』を押し付けるのだった。

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